14話:友達の作り方
ユニコーン、妖精、グリフォンで連れ立って歩いてれば、そりゃ運悪く見ちゃった人は恐怖のあまり失神するよね。
「ひゃーーーー!」
絹を裂くような叫びをあげて泡を吹いたのは、前世のマタギっぽい格好のおじさん。
狩人ってロビン・フッドみたいなの想像してたけど、ちょっと違うみたいだ。
「いつまで見ている? さっさと目的とやらへ向かえ、仔馬」
「いや、この人ここで寝かせてても大丈夫?」
思ったことをそのまま聞いたら、グライフに笑われた。
けど狩人がいるってことは、獣がいるんだろうし、危なくない?
軽く突いても起きないし、グライフが僕を急かすために狩人を踏むけど、やっぱり反応がない。
「いっそ言っている意味が分からなくて愉快だ!」
「僕、馬鹿にされてる?」
「あのな、フォーレン。獣もさすがにユニコーンとグリフォンの臭いがする人間には近づかないと思うぜ?」
アルフが心配いらないというので、おじさん狩人を置いて先に進むことにした。
グライフは大きな羽根を体の横に折りたたんで、僕の隣を歩く。本当は飛びたいらしいけど、僕の上空を旋回し続けるのも飽きたそうだ。
「この先に用があるのか? それとも本当に海を見に行くのか?」
「俺とフォーレンは今、エイアーナの王都に向かって進んでんだよ」
「然したる距離でもなし、急がぬ旅か…………うん? この国の王都と言えば…………」
僕の背中に乗ったアルフが教えると、グライフは記憶を手繰るように嘴を上に向けた。
「そう言えば、最近戦争で負けたな」
「「え!?」」
王都を目指すと言っていたアルフまで驚くって、ちょっと。
「革命じゃなくて、戦争? 本当に?」
「待って、革命って何? 僕何も聞いてないよ?」
「国同士の戦いならば、戦争であろう?」
アルフの確認にも、グライフははっきり戦争だという。
「フォーレンに言ってなかったっけ? もう革命収まって、新しい王が立ったって聞いたから、王都に向かうことにしたんだよ、俺」
「そんな軽く忘れる話じゃなくない!? けど負けたってことは、このエイアーナのほうが敗戦国ってことだよね?」
「何処の国と戦争になって負けたかはわかるか?」
「あまり人間の国は知らん。北の隣国とは人の噂に聞いたな」
「うわー、マジかー。ビーンセイズ王国だな」
「貴様ら、本当に知らんのか?」
国内歩いてて戦争してたの気づかなかったかって?
気づかないんだな、これが。僕たちは基本的に人の通わない道を選んで進んでる。
簡単に言うとユニコーンだから。もう一つ上げるなら、妖精は強すぎる感情に流されてしまうらしい。幸せな感情ならいいんだけど、悪い感情だとひどく消耗してしまうそうだ。
最初に会った時に弱っていたのもそのせいだったから、アルフがあまり人間に関わらない方向でここまで来た。
「俺の聞いた話では、王が立て続けに交代することがあったらしいな」
「革命後に、また王さまが立ったの? 革命した人が王さまになったのかな?」
前世の知識に、市民革命から王政復古に至った国があったと浮かんでくる。けど、アルフの考えは別みたいだ。
「考えられるのは、革命を起こした奴が王家の生き残りに国を奪還されたってとこだけど」
「であるなら、情勢不安を隣国につけ込まれたのであろうな」
グライフは淡々と言う。人間の国がどうなろうと、全く気にならないみたい。
ただの幻象種ならそうなのかもしれないけど、僕はちょっと可哀想だなって思う。
前世で、戦争によって生活に困る人々のニュースは見たのを思い出したから。
「じゃ、革命の後新しく立った王も国を掌握し切れず、ってところか」
「聞いた話では、簡単に王都目前まで攻め込まれた上に、王都の防衛線を突破された途端に降伏したそうだぞ」
うーん、そこまで知ってるって、グライフは人間避けずに移動してたんだろうなぁ。
…………できたんだろうなぁ。姫騎士団見ても、銃火器はなさそうだったし。空飛んでるグリフォン相手に地上の人間はどうにもできないんだろうな。
空飛べるっていいなぁ。
「なんだ、仔馬?」
「僕も空飛んでみたいなって。そしたら、人目気にせず海も見れそうだし」
グライフみたいな羽根はないし、飛ぶならやっぱり魔法かなぁ?
発声のために風の魔法練習してるけど、上手くなったら空飛べるようにならないかな。
「うん、今さら悩んだってしょうがないな。王都に行ってみないとちゃんとした状況わからないし。王都の手前で戦争やっただけで、王都自体が荒らされたわけじゃないんだろ?」
「そう聞いてはいるが、さて、人間のことだ。略奪を行い荒らしている可能性は否定できんぞ?」
そう言えば、こっちの戦争って前世と同じなわけないよね?
「ねぇ、戦争ってどう決着つけるものなの?」
「また知ったような質問をしてきたな。戦争というもの自体は理解しているのだな、仔馬?」
グライフが聞いてるのは、たぶんただの喧嘩じゃないぞってことでしょ?
一対一ならとことんどちらかが負けを認めるまでやり合えるけど、国同士になると最後の一人を倒すまでなんて現実的じゃないのはわかる。
「人数が多すぎて、滅ぼすことが目的にならない。だったら、戦争を終わらせる落としどころが必要ってことでしょう?」
「俺、そんな知識までフォーレンに渡したっけ?」
「何を教えたのかも覚えていないとは、無責任な奴め。仔馬、少なくともこの国は現状維持を続けている。この意味が分かるか?」
現状維持ってことは、大きく体制が変わってない?
前世の出身地、日本で考えてみようか。
世界大戦で負けた後、日本は日本人の国のまま続いてる。けど、負けているから戦勝国の介入がある訳で、日本にはあのグラサンのいかつい総司令がやって来た。
「負けた国の人たちを、そのまま使ってる?」
「そうだ。晒された死体も見当たらないことを考えると、王族も体制維持のために生かされているだろう」
あ、死体って晒すものなのね。
えーと、処刑って案外公開が当たり前だったって聞いた気がする。
市民革命とかでも公開で処刑してたんだっけ? 確か万博にその時のギロチン飾って盛況を博したとかなんとか。何、この前世の知識?
「はーい、はい! ちょっと待った!」
グライフと真面目に話してたら、アルフが蝶の羽をバタバタさせて割って入って来た。
「フォーレンに物教えるのは俺の役割なの! お前、ホイホイ答えるな!」
「はん、悋気か」
すっごい馬鹿にした様子でグライフはアルフを笑った。
「フォーレンは俺の友達なの! ただの同行者は引っ込んでろ!」
「いや、別に答えてくれるならアルフでもグライフでもどっちでもいいよ」
「と、仔馬は言っているが?」
「フォーレン! お前だってグライフに声かけられる度にちょっと嫌だって思ってんじゃん! 俺のほうがいいだろ?」
「ほう? どういうことだ?」
圧が酷い。僕グライフを痛い目みせたはずなのに、すごく上からー。
「普通に、仔馬って呼ばれるのが嫌なだけだよ。ユニコーンだって、最初から言ってるでしょ?」
「ふん、それはユニコーンらしい気高さを備えてから言うんだな」
「ほらー、どうせ取り合わないと思ったから言わなかったんだよ」
一生残る傷を受けても呼び方変えないなら、言っても無駄でしょ。
「フォーレン、諦め良すぎだぜ。そこは仔馬呼びやめなきゃ口きかない! くらい言ってやれ!」
「別にそこまでじゃないんだけど…………。っていうか、アルフなんでそんなに興奮してるの? なんだろこれ? ざわざわしてるけど、意味ないのわかって言ってる?」
アルフの感情って、たまにぶれっぶれになってわかりにくい。
あ、アルフのほうから感情の流れが僕にわからないようにした。そういうことできるんだ?
アルフは僕から顔を背けて、死角の真後ろに回ってしまった。
「仔馬、貴様はこの妖精とどんな契約をした? 感情が読める、いや、意識せずに流れ込んでくるのか?」
「知識を渡す代わりに精力あげる契約してるよ。そのために、精神繋いだって」
言った途端にグライフの目つきが険しくなった。
「貴様…………。いや、この場合はわかってやっているそこの妖精が度し難いな」
「ちゃんと、フォーレンの同意がなきゃ継続できないようにしてるよ!」
アルフのノリ軽いからあんまり気にしなかったけど、思ったよりも大変な契約してる?
考えてみれば、アルフがだいぶ契約前に気にしてたよね。
「仔馬、貴様は意志を他人に譲り渡す一歩手前だぞ」
「そうなの?」
「だーかーらー、フォーレンが嫌がるならしないって!」
「理解していない相手に契約を持ちかけ、今も継続している時点で、貴様の言い分は何一つ信用ならん」
どうもグライフが責めることに理があるらしく、アルフは不満そうにうなるだけ。
いまいち危機感ないけど、特に問題もないと思う。
「アルフ、僕と契約してないと消えちゃうかもしれないんでしょ? だったら気にしないから、グライフもアルフ責めないでよ」
「…………貴様も阿呆か、仔馬」
「いや、アホとかじゃなくて友達の助けになりたいって、そんなに変わったこと?」
うーん、グリフォン的な何か拘りがあるのかな?
なんて思ったら、もっと根本的な認識の違いだった。
「さてな。俺には友と呼ぶ者がいたことはない。そんなもの、底辺同士が対等だなんだと馴れ合っているだけではないか」
「わー、グライフって寂しいひとなんだぁ」
「ごふっ! あは、あはははははは!」
「なんだ妖精!?」
いきなり指を差して笑われ、グライフが威嚇音を上げる。
僕もちょっと、突然の爆笑にビビった。何がツボったの、アルフ?
「孤高のユニコーンに、寂しんぼ呼ばわりされる、グリフォンって、だはははは!」
「えーい、不愉快だ! 即刻笑うのをやめよ!」
グライフは笑われる謂れがわからず、ただただ不愉快だと怒る。
笑うアルフの顔に、ちょっとした優越感があるのも、不愉快の原因かな?
「なんなのだ、貴様!」
「グライフも友達作ってみたらわかるかもよ?」
「世迷言を。いいから、この妖精を黙らせろ、仔馬!」
一考の余地もないみたい。
そこは本人の主義主張もあるし、無理に勧めてどうにかなるものでもないか。
「少なくとも、僕はアルフと友達になれて楽しいから、馴れ合いでもいいよ」
グライフは答えず、羽根を広げて飛び立って行った。
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