126話:混血のエルフ
「皆、鎮まれ」
強いわけじゃないけど耳にしっかり残る声でエルフ王が命じた。
静かな表情のエルフ王に怒ってる雰囲気はない。
もしかして、ただひたすら困ってる?
表情には出てないけど、正面から見る目がなんか…………。
うん、もう何も言わないでおこう。
「ツェツィーリア、この者が妖精王の代理で間違いないか」
「えぇ、こんなに妖精王さまの加護厚い者を私は見たことがないわ」
頷くエルフ王に臣下は異議を言えなくなったみたい。
その代わり何か別のことを訴える。
「とは言え、身の証を立ててもらわなくてはなりません」
もっともな意見らしくエルフ王も頷きを返した。
で、僕を見られても困る。
だから僕は正しい対処の答えを求めてグライフを見る。
「あの羽虫がそんな気の利いたことをするか」
僕より偉そうに、エルフ王へ答えてしまった。
「待って、なんの話? アルフがどうしたの?」
「貴様が妖精王の代理である証を示せと言っているのだ。できるか?」
「…………無理だね」
自己紹介しろとしか言われてないし。僕は困って今度はスヴァルトを見た。
すると胸を指して何かを必死に訴えている。
「…………あ、これ?」
僕は首から下げたアルフとの通信機を外す。
寄って来た偉い人に渡してみたら、今度は木彫りの通信機を文官たちが囲んだ。
「こんな小さな木彫りに、恐ろしい精度の魔法がかかっています」
「確かにこれを成せるのは妖精王だけかと思われます」
「しかし、この形はなんの形象をであるか、判断がつかず」
「元より妖精王に徽章はないので、なんとも言い難い次第です」
うん、駄目っぽい。
スヴァルトも疑り深いと文句言いたげな顔してた。
たぶん僕の第一印象が悪すぎてこじれてるんだとは思うんだけど。
「暫定で良い。我がツェツィーリアが認め、妖精王でなければ成せない魔法の物品を持っている。このことを持って妖精王の代理と暫定的に認めよう」
「でしたら、ユニコーンと名乗った身の証を立てていただきましょう」
エルフ王が切り上げてくれたけど今度はそんなことを言い出した。
そんなに僕の荒を探したいの?
「これでいい?」
僕はサークレットを外して角を見えるようにした。
「さっさと正体を現せ、仔馬」
「逆にグライフが身元確認されないことが不思議なんだけど」
「ふん、俺のことなどとうに入管から連絡が入っていよう。羽根の模様で個体識別しているだろうからな」
たぶん偉ぶることじゃないよ。エルフたちの渋い顔見て見なよ。どれだけ面倒ごと起こして相手にしたくないと思われてるの?
けどそっか。グリフォンは羽根で特徴がわかるんだ。
じゃあ、ユニコーンは角で誰かわかったり…………しないか。
「わかったよ。人化を解くよ。えーと、これ邪魔だな」
僕は手に持っていたサークレットを帯に押し込んだ。
「あぁ!?」
仕舞おうとしたら、何故かエルフに非難交じりの声で叫ばれた。
「そんな雑に扱うな、傷がつく!」
「その芸術の価値を知らんのか!」
「金貨五十枚は下らんのだぞ!」
「そんなこと言われても…………。僕、お金見たことないし」
街には行ったけど、お金は使ってないから実はまだちゃんとお金を見たことがない。
「くぅ…………木に宝石か。なんたる無駄なことを…………」
何それ? 猫に小判的な諺?
あ、アルフの知識にあった。「木に宝石を飾る」って言葉が元か。確かに無駄なことだね。
「美しさもわからぬとは…………獣めが…………」
なんかすごく苦々しく吐き捨てる声も聞こえた。
サークレット一つですごい評価下がったね、僕。
これもペオルの策?
「なんだか、エルフって人間と変わらないんだね」
呟いてからグライフにサークレットを預けた。
僕がユニコーンの姿に戻ると、文句を言っていたエルフたちは戦く。
同時に角に視線が集まった。
うん、見えそうなほどの欲を感じる。
嫌な視線に晒される趣味はないから、僕はすぐ人化してサークレットをつけた。
「エルフが人間とどう変わらんと言うのだ?」
「欲深いなってこと」
サークレットの位置を直す僕の答えに、エルフは気色ばんだ。
まぁ、全然怖くないけど。
「こやつらは人間との間に生まれた混血だからな。存外間違ってはおらぬだろう」
「あぁ、そう言えばそんなこと言ってたね」
確かダイヤを追ってる時だ。
ハーフエルフかデミかって。
五千年前に地上を神に焼かれた時、人間と交わるという生き残り戦略をエルフは取ったらしい。
けど混血って言われるの嫌そうだなぁ。
完全に何人か怒ってるというか、睨んでるね。
「自分たちは亜種族って呼ぶのに…………。あ、悪口って自分が言われて嫌なこと言うんだっけ」
「面白い考えだな」
「ねぇ、エルフ王無視してていいの?」
グライフと会話してたら、悪魔に突っ込まれる。
静かだから忘れてたよ。
高い位置にいるから、エルフ王って微妙に視界から外れるんだよね。
「…………悪魔コーニッシュが、妖精王の代理として身を保証するなら良しとする」
「自分が知る限りはこのユニコーンだけだね」
コーニッシュの肯定にエルフ王は頷く。
悪魔に文句を言うつもりはないらしく、不服そうにしていてもエルフから異議は出ない。
「では用件を」
なんか臣下の対応早くない? これはさっさと帰れってことかな。
まぁ、いいけどね。
ツェツィーリアの言動を考えると、エルフ王は状況をちゃんと把握してるみたいだしここは乗ろう。
「僕の用件は、妖精王からエルフの国へ忠告を伝えることだよ」
流浪の民がオイセンで暗躍していたこと、捕虜を始末してまで情報を守ろうとしたこと、そしてすでに動いている計画であることを伝えた。
「次に狙われるサファイアを守るようにって」
「何故サファイアだと?」
エルフ王が遮るようにして聞いて来た。
そうか、ジェイドの在り処を知らないとサファイアって断言できない。
しまったなぁ。ここで僕が知ってること言っていいのかな?
いいや、ここは物知らずで通そう。
「他にも魔王石があるの?」
「このニーオストには二つの魔王石がある」
エルフ王は知ってか知らずか、わざわざ僕の嘘のために説明してくれる。
えーとこれは、エルフの城の中でもジェイドの在り処は吹聴しちゃいけないってことだよね。
「サファイアを妖精王が指定したなら、狙われやすいと思ったのだろう」
聞けば、サファイアはエルフ王が公式行事の時に着ける魔王石らしい。
実は今、非公式な謁見なんだって。
知らなかった。ここって玉座の間とかじゃないんだ。
「次に公式の謁見式を行うのは、ダークエルフの代表、スヴァルトを相手にする時となる」
今この場に本人いるのに?
なんだか回りくどいなぁ。
「ついては、妖精王の代理であるそなたはいつまで我が国に滞在する予定か?」
決めてないから入管でグライフが言った台詞を使わせてもらおう。
「スヴァルトが帰る時には帰るよ」
「何故?」
「一緒に来たし、帰る場所も同じだから一緒に帰るのは当たり前でしょ?」
一人残す理由ってなくない?
そう思って当たり前に答えたんだけど、エルフ王はちょっと笑う。
初めて顔が動いた。
けれどすぐエルフ王は口元を隠して元の無表情に戻った。
「なるほど、妖精のようなユニコーンだ」
「おい馬鹿にされているぞ、仔馬」
「グライフちょっと黙ってて」
グライフにとって妖精みたいって悪口なの?
悪口なんだろうなぁ。
けど今のグライフの言葉でエルフ全員絶句してるから、本当ちょっと黙っててね。
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