表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/474

124話:悪魔の料理人

 妖精に集られるブラウウェルとそのさまを見たエルフたちは大騒ぎになった。


「やめろ! こっちに来るな!」


 妖精も大騒ぎで悪戯を行い、見る間にブラウウェルの髪の毛がアフロへと変貌した。


 え、どうやったの?


「またふざけた解決法を思いつくな。一思いに殺さぬ分、拷問にも等しい行いよ」


 なんで僕グライフに呆れられてるんだろ。


「もっと締まる方法はなかったのか」

「だって、僕たちが本気出すと、たぶん死ぬでしょ?」


 グライフは強い。そしてこれだけ厄介ごとに巻き込まれればわかるけど、僕も多分弱くはない。

 まぁ、種族的に強者みたいだし。

 その分、攻撃すると一撃必殺になりがちで、しかも僕には鉤爪や牙はないから半殺しもできないと来る。

 蹴れば内臓が破裂するし、刺せば骨さえも貫き通すと言う具合に加減が効かない。

 あえて手加減して角で叩く骨折、かな? うん重傷。


「もっと威厳のある顔だったら、少しは違ったのかもしれないけど」

「それはあの羽虫を思い浮かべて言っているのだろうな?」

「アルフ…………? あ、やっぱりなしで」


 顔に威厳があっても中身がアルフだとねー。

 僕もいきなりグライフみたいにはなれないし。うん、ない物ねだりだ。


「待て貴様ら! 妖精を止めろ!」


 話しながら去ろうとする僕たちに、ブラウウェルの必死さが滲む声がかけられる。

 振り返るといつの間にかアフロに花が咲いてる。

 しかも歌って踊るダンシングフラワーになった。


「妖精を止める方法は教えたはずだよ」


 僕を代理と認めること。それだけだ。

 頭に花を増やされてる間に認めると言えばいいんだよ。


「そんな脅しで屈すると思うな!」

「じゃ、そのままね」

「いっそ妖精王に直接訴えてみるといい」


 グライフがそんな意地悪なことを親切ぶって言う。

 絶対アルフが余計なことするの期待してる顔だよ、それ。


「早くしないと周りにも影響出るからね」


 と言ってる間に、妖精が虫を引きつける匂いをブラウウェルにつけた。


「うわー!」


 何処からともなく集まって来た蜂に、取り巻きも逃げる。

 ブラウウェルは蜂に追われて何処かへと走って行った。


 僕たちは観光のため歩みを再開、と思ったらまた声をかけられる。


「君、本当にユニコーン?」


 目の前に一人の少年。とは言え、僕よりは年上っぽい。


 やる気なさそうな目をしているけど、線の細い美形だった。


「君は誰?」

「この気配、悪魔か」


 グライフが目の前の少年に顔を顰める。

 気配? あー、臭いとか音とか存在が薄い気がする? 人化してるから感覚が鈍いなぁ。


「悪魔って森以外にもいるんだ?」

「アシュトルやペオルに聞いてないの? 自分はコーニッシュ」

「森にいる三柱の内の一柱の名だな」


 どうやらこのコーニッシュは森の悪魔らしい。

 そう言えばやる気のない悪魔が残ったって言ってたね。

 コーニッシュはアシュトルやペオルよりわかりやすくやる気のない顔をしてた。


「ここで何してるの?」

「何って、料理作ってる」

「料理? 悪魔が?」


 僕の疑問に、コーニッシュは無言で横を指す。

 コーニッシュがいるのは店の前。

 看板の絵柄からして料理屋。そして店名は悪魔の料理店だった。


「まんまだね」

「わかりやすくていいでしょ」

「店が出せるってことは、エルフは人間たちほど悪魔を怖がらないの?」

「幻象種からすれば、悪魔と妖精って何が違うのかな?」

「え、さぁ?」


 アルフが聞いたら怒りそうだけど、悪魔本人が言ってるしなぁ。


「エルフもそんなものだと思ってるのさ」

「ずいぶん覇気のない悪魔だな」

「グライフ、ここで腕試しはやめてね」

「自分もやだ」


 暴れたがりのグライフにコーニッシュもすぐ拒否を明確にする。

 どうやらこの悪魔は戦闘系じゃないらしい。


「襲って来ないのは嬉しいけど、コーニッシュはどういう悪魔なの?」

「君、妖精王の知識を持っていたはずだよね?」


 そんなことも知ってるんだ。

 と思ってる内に、アルフの知識が開く。


「…………美食の悪魔?」

「あぁ、聞いたことがあるぞ。暴食へ堕落させる悪魔だ。一度食べたらまた次も食べたくなり、際限がなくなるらしい」


 グライフは物知りだなぁ。

 そしてそれってなんか危ないお薬料理に仕込んでない?


「自分は自分の好きなことを極めてるだけさ。その結果堕落がついてくるにすぎない」

「そうなの?」

「でも料理は作ったら食べる物。自分は食への渇望がないから、何者かに与える」


 どうやらコーニッシュはお腹がすかないらしい。

 でも作るのは好きだから、人間に食べさせる。

 そうすると結果的に堕落して、人生を破滅させちゃうそうだ。


「アシュトルやペオルみたいに悪さしようとしてじゃないんだね?」

「悪魔だから、相手が求める限りは対価を貰うつもりはある」

「求める限りってことは、食べたいって言われたらってことか。何を貰うの?」

「寿命」

「うわ…………」


 誘惑で落とすとか、欲を掻き立てるとかなく直球で命削らせるんだ。

 いっそ面倒くさがりらしいね。


「それで、君はこのエルフの国に何しに来たのかな?」

「あれ、森の悪魔なのに知らないの?」

「オイセン軍を追い返したのは知ってる。その後ここに来たから、君がどうして妖精王の元を離れたのかは知らないね」

「お遣いなんだけど。ちなみにこの店、いつからやってるの?」

「二百年くらい?」


 長いね。


「たまに来てたまに開く。他の国にもこういう店を持ってる」

「知る人ぞ知るって感じの店なのかな?」

「この国を選んだ理由はなんだ、暴食の悪魔? 貴様その怠惰さで山を越えたのか?」


 確かに面倒臭がりそうだから山登りなんてしなさそうだ。

 コーニッシュは初めてやる気のある目をしてグライフに答えた。


「二十年に一度の食材がそろそろ収穫時期だから」


 うん、自分の欲求に忠実な理由だった。

 どうやら、こういう料理に対してのみ情熱を持つ悪魔らしい。


「せっかく来たのに店は開かないの?」

「まだ収穫できてないのさ。旬までに数日はかかる」

「…………もしかして暇だから僕たちに声かけた?」


 頷くコーニッシュは僕を指した。


「どうやら君は希少種を引き当てる」

「どういうこと?」

「妖精王、グリフォン、姫騎士、百年ぶりに召喚された悪魔。これだけでも引きの強さがわかる」


 確かに一風変わった出会いばかりだけど。


「君について行けば面白そうな食材に出会えるかもしれない」

「えー? それはないんじゃない?」

「君が何をするかは興味がない。何に出会うかを見るだけだ」

「えーと、つまり僕が拒否してもついてくる気?」

「気にしなくてもいい。いない者と思ってくれ」


 いや、気にするよ。

 曲がりなりにも悪魔なんでしょ?


「僕たちこれからスヴァルトと合流するんだけど」

「だったら城だ」


 言って、コーニッシュは勝手に歩き出す。

 ここは大通りだから真っ直ぐ行けばお城だけど。

 …………大通りに面した場所にたまにしか開かない店を維持し続けてるって、実はすごいことじゃない?


「えーと、コーニッシュ。お城って勝手に行っていいものなの?」

「駄目なのかな?」


 僕に聞かないでよ。

 グライフは確かにって頷かないで。


 アルフの知識に王さまとの会い方とかないし。

 前世でなんか上司のお宅訪問って出て来たな。

 アポ取りから手土産、話題の選択とか出てくる。


「誰でも見れば君が尋常じゃないのはわかるさ」


 さっき、わからないエルフがいたんだけど?

 位置からしてコーニッシュも見ていたはずなのに、気にせずずんずん歩いて行く。


 こうして僕は、よくわからない悪魔と三人で城へ向かうことになった。


毎日更新

次回:エルフの王

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ