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121話:グライフの生まれ

「あばばば、本当にユニコーン!?」

「アルフ…………、えーと、妖精王の加護あるから本能に流されることはないよ。だから落ち着いて」


 僕はユニコーン姿から人化し直す。

 うん、仔馬とは言えユニコーンに人家は狭いね。


「入管だと信じてもらえなかったけどね」

「そ、それはそうでしょう」


 人化したら落ち着くユウェルが眼鏡を直しながら頷いた。

 ようやく茶を啜るグライフは悪い笑みを浮かべる。


「ユニコーンの姿で外を闊歩してみるか? エルフどもの痴態を見ることができよう」

「そんなの見たくないし、やだよ。グライフはここで騒動起こさないでね」

「フォーレンさん、本当に、完全に、本能を抑えているんですか?」

「仔馬は妖精王と精神を繋いでいるだけだ。抑えているというなら妖精王であろうな」

「それはまた…………。王とは言え、妖精と精神を…………?」


 うん、エルフでもそんな反応なんだね。

 妖精ってどれだけイメージ悪いんだろう?


「と、ともかく、ユニコーンだと言うことはあまり吹聴しないほうがいいかもしれません」

「エルフもやっぱりユニコーンを怖がるの?」

「恐慌状態に陥るでしょうね。王都にユニコーンがいるとわかれば」

「…………グリフォンはいいの?」


 僕がグライフを指すと、ユウェルはまた遠い目をした。


「言って入国をやめてくれるような方じゃないですし。それは前回の入国の際、嫌というほどこの国の皆さん身に染みたでしょう」

「そう言えば、拘束具するって言われてたね」

「ふん! 誰がされるか」

「次に来た時には魔法契約で縛るとか聞いたことありますよ、私」

「でも、されてないよ」

「ダークエルフと来たからな。手が回らなかったのだろう」

「ダークエルフと大グリフォンの後継者と、どっちかなんて選べませんね」


 うん? なんか初耳の単語が聞こえたよ。


「大グリフォンって何?」


 ユウェルはグライフに手を差し向けた。


「ご主人さまのお父上です」

「へぇ、大なんてつけられるってことは偉いんだ? あれ? 後継者って…………?」

「俺は後継にはなれないぞ、下僕よ」


 あれ? グライフが否定した。


「どういうことか、大グリフォンから説明してもらえる?」

「なに、幻象種を従えて貢がせるだけのつまらぬ者よ」

「そんな言い方、父親なんでしょ?」


 って言ったら、グライフは考え込むように僕と暫し見つめ合う。


「ユニコーンにとって父親とはどういった存在だ?」

「いない存在。母馬しか知らないよ。生まれた時からいないし」

「だいぶ違うな。グリフォンは男女で卵を返す」


 新情報、グライフは卵生だった。


「のちに男女で育てる。飛べるようになれば独り立ちだ」

「へぇ…………」

「独り立ちした後は親など縄張りや黄金を取り合う敵対者でしかない」

「へ、へぇ…………」


 グリフォンってシビアだなぁ。


「でも後継者って言われる存在はいるんでしょ?」

「大グリフォンが他の幻象種の街を乗っ取ったからそう言われるだけのこと。街の者は黄金を貢いで大グリフォンを守護者とした。守護者を失うことを嫌って後継者を求めるためにそう呼ばれる存在がいるにすぎん」

「それがグライフなの?」

「違う。だいたい、後継者と言っても大グリフォンに代わって戦わされるだけの存在よ。上手く大グリフォンを凌ぐ力を手に入れなければ使われるだけで終わる」


 そう説明したグライフは、ユウェルを見る。


「だからこそわからぬ。何故俺が後継者なのだ? 俺が受けた予言は知っているだろう」

「あの、ご主人さまが去ったあとに来たグリフォンがそう言ってたので」

「予言って黄金より尊いものを得るってやつ?」

「はい。ご主人さまはその予言で、黄金を受け継げないので後継者にはなれないと言われたんです」


 西の出身のユウェルはまた聞きながらに説明してくれた。


「けれどご主人さま、世界一周をする前に、兄弟全てを負かして旅立ったそうで」

「そんなこともあったな」


 うわー、やりそう。


「あやつらこの俺を黄金も得られぬでき損ないと愚かにも囃すのでな」

「うわー」

「実はご主人さまが出て行ったあと、後継者が決まってないそうなんです」


 ユウェル曰く、グライフは当時の後継者やそれに次ぐ実力者たちを打ち負かしたらしい。

 馬鹿にした相手にやられた実力者たちは、守護者に相応しくないと軒並み後継者候補から脱落。

 けれどその後、後継者候補だった者たち以上の逸材も現れず、今も後継者は決まっていないそうだ。


「大グリフォンの街ではご主人さまの帰還を待っているそうです」

「はぁ? どういう思考をしておるのだ奴ら」


 グライフが心底呆れて眉を上げる。


「えーとですね。確か黄金よりも尊い宝、黄金を越える珍品を冒険の末に持ち帰るなら、大グリフォンをもしのぐ守護者だと…………」

「何故俺があんな所に持ち帰らねばならん?」

「私に聞かれても」


 ユウェルはお茶のお代わり入れながら困ってしまった。


「ただ、力を示すとご主人さまのように世界一周を目指した若いグリフォンたちがいたそうです。けれど誰も戻っては来ず。現在生存を確認できるのがご主人さまだけだとか」

「軟弱者め」

「グライフみたいに途中でスフィンクスに襲われたりしたのかな?」


 僕が笑うとグライフは思いついたような顔をする。


「下僕よ、俺の血縁がうるさいようなら、ユニコーンの仔馬に敗れたと言っておけ」

「やっぱり負けたんですね」

「グライフが油断してただけだって」

「まだ言うか。ならば仔馬よ、今から大グリフォンでも倒しに行け」

「何言ってるの。自分の父親でしょ」

「貴様ならあの程度容易かろう」


 そんなわけないって。


「でかいだけで俺よりも小技は少ない。素早さも劣る」

「それだったら…………、じゃないよ! やらないからね」


 ユウェルが出してくれた茶菓子を手に取り、僕はグライフに拒否する。

 出されたのは紫色のタルト…………。生地も含めてどす黒い紫なんだけど、え?


「何これ?」

「この近くで採れる木の実のタルトです」

「…………酸っぱい! けど美味しい。いい匂いだね」

「酸味が気になるならミルクティ淹れますね」


 僕が食べたのを確認して、グライフも食べる。


「ふむ、甘味はこのような味か。以前来た時には特に口にしなかったな」

「そう言えばグライフって人化してもあんまり味覚変わらないって言ってなかった?」

「貴様が変わりすぎなのだ、仔馬」


 うん、まぁ。ユニコーンだと味覚ないに等しいしね。


「味を舌だけで感じるという感覚にこのところ慣れて来た」

「じゃあ、グライフもこれ美味しいって感じる?」

「ふ、俺が下僕にしてやったのだ。不味いわけがなかろう」


 謎の上からで笑われた。

 そう言えばお昼ごはん盗まれたんだっけ、ユウェル。


「あの時は、料理人だったお祖父ちゃんと、その味を私に教えてくれたお母さんに感謝しました」


 ユウェルがミルクティくれながら、また遠い目をした。


「…………あれ? エルフに料理人っているの?」

「いますよ。たぶん長生きなので人間よりも娯楽関係の職種多いんじゃないかと思います」

「娯楽関係ってどういうこと?」

「料理人など人間は貴族しか雇わん。だがエルフの国には庶民に対しての料理人が店を開いている。美食を求めるのだ。娯楽と言わずしてなんと言う?」


 あ、料理屋ってこの世界では普通じゃないんだ?


「改めて考えると、料理屋って珍しいですよね。旅の間見たのは酒場か市場の量り売りでしたし」


 旅した経験からユウェルがそんなことを言った。


「グライフ連れてそんなところ行けたの、ユウェル?」


 僕の質問に、ユウェルは自分用にも入れたミルクティーを気まずそうに啜る。


「たまに俺から逃げ出して食べていたぞ」

「うぅ…………。その度に街中にやってきて、私は上空へ攫われ…………」

「下僕が俺の許可もなく逃げようとはいい度胸よな」


 あ、グライフちょっと面白かったんだな。

 逃げる相手追い駆けるの実は好きだよね。逃げ切ったら怒るけど。


「なんかグライフもアルフのこと言えないくらいやらかしてるね」

「俺は王ではないからな!」


 だから好きにするって?

 やめてよ。周りが迷惑だ。


「グライフがここで好き勝手やって迷惑かけたことだけは想像できた」

「襲ってきたのは向こうだぞ」

「私が食料にされると思ってこの国の人たち奮闘してくれたんです」


 ユウェルは申し訳なさそうに実情を告げた。

 けれどグライフは全く悪びれない。


「魔法の種類が多く面白かったぞ」

「ご主人さま、ひゅんひゅん避けて。私その度に落ちそうになって…………」

「どういう状況!?」


 ユウェル乗せて飛んでたのに魔法撃たれてたの!?

 って突っ込もうと思ったら、外から激しい足音が近づいて来た。


「先生!」


 力任せに扉を開いて、一人のエルフが押し入る。


「貴様らか! 先生を借金の形に売り飛ばしに来た悪漢は!」


 えーと、なんのこと?


毎日更新

次回:色々と信じてもらえない

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