119話:エルフの入管
「駄目だよ君。こういうことはちゃんと申告してくれなきゃ」
僕は今、エルフの入管でそんな注意をされていた。
王都の大きな門の中にある別室に連れて来られて、エルフのおじさんから怒られてます。
エルフの国って国境で調べるんじゃなくて街ごとで調べるみたい。
グライフが言うには幻象種で国というか土地の範囲なんて気にするひとのほうが少ないんだって。
「魔法で隠すのは別に違法ではないんだよ。それでこの角、どの種族?」
「ユニコーンです」
「そんなわかりやすい嘘ついてどうするの? 別に西ほどうちは混血に厳しくないから」
正直に答えろとペンを振られるんだけど、まさかユニコーンっぽくないことでこんな問題があるなんて。
どうしよう、適当に嘘でも吐いとく? けどそれもどうなんだろう?
あと精神の繋がりからアルフがすごい笑ってるのが伝わってきて地味に集中できない。
「待て…………! いや、待ってください!」
外から慌てた声と足音が近づいて来た。
と思ったら、ノックも遠慮もなく部屋の扉が開く。
「ここか」
「なんだ? 一体誰だね? 勝手に入ってきてもらっちゃ困るよ」
突然のことに、入管のおじさんも驚いて腰を浮かす。
グライフが乱入すると、後ろからエルフの兵士が追いかけて来た。
「れ、例のグリフォンだ。すぐ人を集めるからことを構えるな!」
「あ、あの…………?」
兵士の言葉に驚く入管のおじさん。うん、完全に怖がってる。
「グライフ、前来た時に何したの? 門の所でもいきなり連れていかれてさ」
「ふん。一緒にいたエルフを攫っただなんだと冤罪を吹っ掛けて来たから対処したまでよ。貴様こそここで何をしている?」
「えーと、この頭の飾り高い物らしいから、絵に残して所有を明確にしたほうがいいって言われたんだけど。外したら角見えるでしょ?」
僕と話しながら、グライフずかずか入って来る。無視された兵士は敵わないとわかってるのか止めもしなかった。
グライフは我が物顔で入管のおじさんの前にある描きかけの絵と、書類を見下ろす。
「くく…………、貴様またエルフとインプの相の子と書かれているぞ」
「もう信じてくれないならそれでもいいよ」
こっちから嘘吐くより相手の勘違いに乗ろう。
僕の消極的な姿勢を見て、グライフは人化しても猛禽のような目で僕を睨んだ。
「貴様、己が種に誇りを持たぬか。妖精との相の子など受け入れるな」
「碌な目に遭った覚えがないから無理だよ」
「俺に口答えするとは偉くなったな!」
「痛、ちょっと、こういうことするから誘拐だって言われるんじゃないの、グライフ」
僕が抗議すると、グライフは思い出したようにエルフたちを見る。
兵士は柄の短い槍を構えてるし、入管のおじさんも魔法を備えてた。
うん、完全にグライフ犯罪者扱いだ。
「貴様が大人しく誘拐されるような者か! そんな可愛げがあれば俺の胃の腑に収まっているわ!」
「怒るところそこなの!? 今絶対この二人程度なら対処できるからいいやって思ったでしょ? 暴れないでよ。僕はエルフの国の観光がしたいんだから」
「ふん、ならばさっさと行くぞ」
「待って。まだ絵ができてないんだ」
僕が立たないのを見て、グライフは長椅子の隣に腰を下ろした。
正直、グライフの翼が邪魔だ。
グライフが大人しくなったのを見て、入管のおじさんは恐々仕事に戻る。
その間に兵士は二人に増えて室内で扉を開けたまま待機。外にはさらに四人が武装して備えていた。
「角隠してさっと入るつもりだったのに。着けて来たの間違いだったかな」
「あー、お嬢ちゃん。念のためにこれを手に入れた経緯、教えてくれるかい? その、証明のために一応必要なことだから」
「…………男です」
僕の訂正に空耳を疑わないで、入管のおじさん。
「これは男だぞ。そしてそれは悪魔が与えた物だ。面倒を招くに決まっているだろう」
「え、そうなの?」
アルフに調べてもらっても囲った物を隠す以外の能力はなかったはずなんだけど。
「こんな一級品、貴様のような者がつけて歩けば、欲に負けた阿呆が痛い目を見る。それこそ悪魔の望むとおりにな」
「あ…………」
人間を試す悪魔であるペオルらしい仕掛けだ。
ってことは、僕餌にされたようなものか。
「褒賞って言ったのに」
「悪魔の甘言に騙されたな」
「けどこれディルヴェティカでは問題なかったし、やっぱりつけとこう」
「温い。襲ってくる者は全員殺せ」
「やだよ。っていうかグライフのその乱暴さが問題なんだよ」
僕は暇でグライフと話してるんだけど、会話の度に入管のおじさんの手がどんどん早くなる。
そして顔色も悪くなってる気がするなぁ。
「そのような軟弱なことを言うからあのドラゴンにも舐められているのだ」
「クローテリアのこと? ここまでついてこなかったのって、グライフが脅かすからじゃないの?」
「調子づかせるほうが問題であろう」
「まだ子供だよ」
「貴様も子供であろうが」
「ちょっと…………! いいですか?」
入管のおじさんが意を決した様子で僕たちの会話に割って入った。
兵士たちは良く言ったとばかりに拳を握ってる。
「これは、悪魔に与えられた装飾品なんだね?」
「はい」
「悪魔に名前は、あったりするのかな?」
「あるな。ペオルだ」
「魔王の…………ごほん、そ、それでドラゴンとは何処で?」
「暗踞の森だよ。いつもは僕から離れないんだけど、エルフの国には来たくないっていうから置いて来たんだ」
「あー、つまり君が世話をしている子供のドラゴンが、いるのかい?」
「うん、まぁ。安全だからって離れないだけで、世話ってほどのことはしてないけど」
「貴様同様、軟弱なことだ」
「僕の側で一番危険なのグライフだからね」
また僕たちが勝手にお喋りしようとするのを、入管のおじさんが今度は手を上げて止める。
「その、グリフォンの方とは、どんな知り合いなのかな?」
「襲われて、逃げたら…………なんかついてくるようになった?」
「なるほど、わからん」
そのまま事実を伝えたら、入管のおじさんは頭を抱えてしまった。
「そう言えば越えて来た山には飛竜が住む。また襲われでもすれば面白かったものを」
「やだよ!? どうしてそう問題起こそうとするの」
「暇だからな」
「じゃ、先に行っててよ」
「何? 俺を邪険にするか」
「するよ。一緒にいるならスヴァルトのほうがずっと安心できる」
って言ったら、外からまたエルフが乱入して来た。
「聞き捨てならん! ダークエルフをなんと心得る!?」
偉そうなエルフに、出入り口を固めていた兵士が敬礼をした。たぶん偉い人だ。
その後ろにはスヴァルトが見えた。
「あ、スヴァルト」
あれ? 無視された。目も合わせてくれない。
「なんだこの子供は! 理非を知らんのか!」
「うるさいぞ、下郎」
「はぁ!? 今なんと言った!」
グライフって一方的に騒がれるの嫌いだよね。
下郎と呼ばれた偉いエルフを、慌てた兵士たちが止める。
「隊長! 例のグリフォンです! 近づいては危険です!」
「ぐぅ…………!?」
偉そうな隊長まで、恐れるグライフって。
本当に何してこんなに警戒されてるの?
「拘禁するのではなかったのか!」
「それが、案内しようとしたところこちらに。連れがいると言って押し通りまして」
「拘束具もつけない内にか!?」
口早に喋ってるのは、どうもこの国の言葉ではない。
けど僕はアルフの知識で西のエルフの古語だとわかる。やり取りも聞き取れた。
グライフはわからないみたいだ。
ただスヴァルトは聞き取れたようで、口を挟む。
「その者はそのグリフォンの連れだ。共にいる限り、グリフォンを抑える。そうでなければ無傷でいられないことくらい見てわかったらどうかな?」
「なんだと?」
なんだかスヴァルトが嫌みな言い方をする。
って、よく見ると手元は拘束されてた。
「スヴァルト、助けたほうがいい?」
僕の質問にグライフやる気になって立つ。
スヴァルトは戦く隊長の後ろ姿に笑いそうになる口を一度ぎゅっと引き締めた。
「結構だ。こちらとしては君たちに同行されたせいで散々だった。いっそ清々する」
「ほう?」
「グライフ、この国の人を僕に紹介してくれるんでしょ。ここで暴れてどうするの」
僕が裾を引くと、グライフはつまらなさそうに座り直す。
あんまりいい状況じゃなさそうだし、一つ予防線は張っておこう。
「スヴァルトと話しつけるなら、この国を離れてからにしてね」
「…………ふん、いいだろう。おい、エルフどもよ。そのダークエルフがここを離れる時には必ず俺に報せよ。でなければ俺もこの国を去らぬ」
「ぐ…………面倒な!」
隊長は吐き捨てるけど、いつ暴れ出すかわからないグライフには強く出られないみたいだった。
「出頭はこのダークエルフの義務だ。そのグリフォンと連れからよく話を聞いておけ!」
命令された入管のおじさんはげんなりした顔で溜め息を吐く。
「えーと、じゃ、ダークエルフと同行した理由は? 暗踞の森から来たんだね? いっそ、暗踞の森に至った経緯を、できるだけ簡潔に」
早く仕事を終わらせたい雰囲気がだだ漏れだ。
「…………妖精に連れられて? スヴァルトがエルフの国に行くっていうから、友達のお遣いのついでにグライフもついて来た、でいいかな?」
「あー、うん。それでお友達の種族は?」
「妖精」
「君…………不思議な子だね」
変だって言ってもいいよ?
もう言われ慣れてるから。
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