115話:悪名三人旅
「あれ? よく考えたら、この三人で固まってるとひたすら凶悪じゃない?」
「今さら気づいたのか、仔馬」
ただいま、エルフの国を目指して森を南下してる。
僕とグライフに旅の準備はいらない。森に来る前もそんなものだったし。コボルトに貰ったマントを着るくらいだ。
で、思ったことを口にしたらグライフに呆れられた。
「憤怒の化身、傲慢の化身、凶傑のダークエルフ…………ふむ」
スヴァルトがなんかかっこいいこと言ってる。
中二ですか?
「拙としてはダークエルフの危険性を喧伝できるいい機会と思っておこう」
スヴァルト的にはそれでいいんだ?
まぁ、怖がられることが生存戦略らしいから、スヴァルトからすれば凶悪なメンツの一人ってプラスなのかな?
「あれ? 森が途切れた」
突然森が途切れて道が現われた。
左右に走る道には轍が刻まれてる。
「森の東西を繋ぐ道だ。大道と呼ぶ。ここから東のアイベルクス共和国へ通じている」
「西は何処に通じてるの?」
「ふむ、シィグダム王国と言ったか? エイアーナの南だな」
「良くご存じで」
「そう言えばグライフ、エルフの国行ったんだよね? なんとかって名前の国通って」
「ディルヴェティカだ、仔馬。森から南下した山脈の中腹にある国だ」
あれ? グライフ、暗踞の森見るの初めてって言ってなかった?
「ここ通らなかったの? 西から東に移動したんだよね?」
「地理に詳しくなくてな。森の西の国々を南下し、マ・オシェに行った」
確か南の山脈の地下にあるドワーフの国、だよね。
つまりディルヴェティカに行くまで、山脈の地下を突っ切ったの?
「ドワーフの国からディルヴェティカへ? よくグリフォンの通過をドワーフが許したものだ」
「許しなどいらん」
僕はわからない顔のスヴァルトに教える。
「たぶん、力尽くで押し通ったんだよ。ドワーフもさっさと抜けて欲しかったから邪魔しなかったとかじゃない?」
「なるほど」
「奴らが邪魔しなかったのは、俺から財宝を隠すことに忙しかったからだ」
そう言えば、グリフォンは宝を集める習性があるんだっけ。
ドワーフからすればドラゴン並みに迷惑な存在が突然やって来たってわけか。
「今回は大人しくしててね、グライフ」
「ふん、周りの心がけ次第よ」
「先に言っておくが、拙はエルフの国に呼ばれはするが歓迎はされないからな」
自嘲ぎみなスヴァルトが西に向けて大道を歩きながら言った。
これも自虐かな。
肩を竦める仕草がちょっと気障な皮肉屋っぽいぞ。
そんなことを話しながら、僕たちはさっさと森を抜けてアイベルクスという人間の国へ抜けた。
「ここがアイベルクス? 村とか見あたらないね」
「この辺りは人狼が出るからな。昔はここから見える範囲に住む者もいたが、今ではここから四半日かかる宿場町が一番森に近い人の住む場所になっている」
「あぁ、人狼ってあの…………」
「あれに会ったか、仔馬。この森は道から南には悪魔がいるぞ」
「南も広い森だね」
遮蔽物もない森沿いを、僕とグライフの速度に合わせてスヴァルトは走る。
会話できる余裕あるみたいだけど、人間っぽい姿のスヴァルト一人走らせてるのは気が引けた。
「スヴァルト、乗る?」
「裸馬が妙な気づかいをするな。いっそただの拷問だぞ」
「グライフには聞いてないよ」
僕に乗って痛い思いしたの根に持ってるなぁ。
あと裸じゃないから。裸馬とか言わないで。
「気づかいはありがたいが、拙が乗っても滑稽だ。白馬のユニコーンにダークエルフなど、はん」
自分で貶して自分で嘲笑ってる。
何か仕事みたいなことしてるほうが淡々としててかっこいいと思うよ。
「けどスヴァルト、グリフォンが妖精たちと僕と乗ってるより見た目的にはましじゃないかな」
「ぶふ!?」
「仔馬! 貴様俺を乗せた時、そのように思っていたのか!? いい度胸だ!」
怒ったグライフに上から襲われた。
僕はスヴァルトに当たらないよう、森側に避けて走る。
「ひえ…………!?」
「誰?」
僕が近づいたことで、誰かが逃げて行く。
思わず足を止めると、グライフの爪が背中を掠めた。
「あぁ、獣人だろう。少し、離れてるが、獣人の、生活圏だ」
加速した僕たちを追い駆けて来たスヴァルトは、さすがに息が上がってる。
僕は不機嫌に頭上を飛ぶグライフを警戒しながら足を緩めた。
「ちょっと遊んでただけなのに。悲鳴上げて逃げなくても…………」
「では本気でやってやろうか」
「やらないよ」
降りて来て隣を歩くグライフに羽根で叩かれる。
遊びならつき合うけど、本気はやらないって。
「そう言えばこの国の隣って、獣人と戦争中なんでしょ? 森に通じるあんな大きな道そのままでいいの?」
「大道は封鎖しない決まりなんだ。人間も獣人も生活に必要としている」
「何より主戦場はここではない隣国だからな。向こうは森の近くであっても人間の目がある」
「…………グライフ知ってるってことは、もしかして冷やかしに行った?」
僕が聞くと答えないくせに、鳥の顔でニヤニヤする。
行ったんだね。
これ、森に戻ったらグライフが何かやらかしてないか調べたほうが良さそうだ。
「人間も獣人も間抜け面を晒して俺を見上げていたぞ」
「そう言えば、グリフォンが飛び回ってると獣人も森の中の巡回を強化したと聞いたな」
「あれ? 前にノームの所行く前にこっちを監視してた獣人って…………」
「あぁ、たぶんそうだ。ノームの鍛冶屋には獣人たちも行くからな」
「俺を警戒して仔馬に出会うとは、なんとも運のない獣人たちだ」
いや、面白がらないでよグライフ。僕が迷惑被ってるんだけど?
グライフって自覚ある癖に自重しないんだよね。
これが傲慢の化身たる所以ってやつなのかな?
そんな話をしつつ、野宿もしつつ、一日かけて南下した僕らは、ようやく山際に辿り着いた。
本当、暗踞の森って広い。
「うわ、高い」
南に山脈があるって聞いてたけど、実際見るとすごい。
山脈だから左右に切れ目がないし、高さも今まで見た山の中で一番高いと思う。
「山頂の白いのは雪?」
「仔馬は雪も初めてか?」
「うん。ねぇ、この山は噴火したりしないの?」
「また知ったようなことを」
日本的に山って噴火するものなイメージだったけど。
これ噴火したらすごいことになるなぁって、ちょっと怖くて聞いたら呆れられた。
「ドワーフが熱源として常に使用しているため、山が火を噴くことはないと聞いたことがあるな」
「そうなの? あ、スヴァルトの村ドワーフいたね」
「ドワーフ以外もこの山にはサラマンダーが住んでいるからな。話だけなら聞くことはある」
「あ、ダークエルフの村にいたサラマンダーってここのひとなんだ」
僕はスヴァルトに話しを聞きながら、観光気分で山登りを始めた。
いきなり山! じゃなくて丘が連なって上がったり下がったりをしながら、少しずつ岩が増えて行く。
で、常に斜面じゃないから、広く拓けた土地には人も住んでるっぽい。
「もしかしてあの家畜飼ってるのって羊飼いって奴?」
「フォーレンくん、あれらは山羊だ。羊はもっと西のほうで飼っている」
遠目に見える山羊を追う人がいる。
僕たちはメンバーがメンバーだから人里は避けて進んでいった。
「拙は一人旅でもそうだが。今回は特に遠回りをしている。それでも普段と変わらない旅程になりそうだ」
うん、僕たちいるからね。
混乱を避けても獣の速度で進むから、スヴァルト一人より進みは早くなってるみたいだ。
「しかし本当に何にも襲われないな」
「一人旅だと襲われるの?」
「ダークエルフを襲うならば獣か?」
野宿で火を囲みながら話していると、スヴァルトは肩を竦める。
「いや、人間の盗賊もいた。幻象種でも一人ならとな」
「無事ってことは撃退したの?」
「撃退というほどではないが、最低でも目は潰すようにしてる」
「え?」
「殺さんのか?」
「さすがに一人で追うのは骨が折れるからな」
えーとつまり? 襲われたら殺すし、最低限目は潰して報復するって?
自己評価低いわりに、いや相手は盗賊だし抵抗しなきゃ殺されるのはスヴァルトか。
目をやられれば当分報復にも現われないだろうし。
うん。何も言うまい。
僕は疑問を飲み込んで翌日もまた山登りをした。
「山らしくなったね」
「山登り初めてであろうが、仔馬」
「山越えはしたじゃん。あ、グライフ僕に乗っててそれどころじゃなかったか。って突かないで!」
「じゃれるのはいいがはぐれないでくれ。ここから街道へ方向を変える」
「人いるのに大丈夫なの?」
「この辺りはもう幻象種の住処だ。人間のほうが少なくなる」
「街道から逸れているほうが阿呆な幻象種に襲われるぞ」
え、グライフでも?
と思ったらなんか来たよ。
「ヒィーハァー!」
「ウェイウェイウェーイ!」
砂煙を巻き起こして、明らかに人間ではない者が奇声を発しながら走って来る。
「…………馬?」
「ケンタウロスだな」
「面倒なことになった」
そうして僕たちは、ケンタウロスの群れに囲まれた。
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