114話:ダークエルフとエルフ王
ダークエルフにエルフの使者が来ていたらしい。
事情を知ってるらしいアーディが口を開いた。
「呼び出しか、スヴァルト?」
「あぁ、森の異変について報告せよと召喚されている」
どうやらスヴァルトはエルフの国に行く予定があるらしい。
「グライフ、エルフってダークエルフと交流あるの?」
「俺も一時いただけだから知らん。が、基本的な認識は敵対関係のはずだ」
なのに使者を送っているという状況に、グライフも人化姿で肩を竦めた。
そこで事情を知るアーディが教えてくれる。
「森に異変があると、エルフ王の名でダークエルフの代表者が呼び出されるのだ」
「ダイヤが奪われた時も一度スヴァルトがエルフの国に呼び出されたのよ」
「ロミー、エルフって山の向こうに住んでるんでしょ? いつダイヤのこと知ったの?」
向こうから使者が来るなら、エルフ王が何かを察知して動いたんだと思うけど。
するとロミーは自分を指した。
「水の妖精はエルフの国まで水脈で移動できるから。私たちが森の噂話を運ぶのよ」
「ふむ、エルフは妖精とも友好的だ。以前行った時にエルフ王は力ある妖精と専属の契約も結んでいると聞いたな」
ダイヤの時には妖精王が森からいなくなったと、妖精がエルフの国で騒いだから使者がやって来たそうだ。
「エルフの国へ行って捕まったりしないのですか?」
「エルフはダークエルフを怖がってるって聞いたよ」
ガウナとラスバブの疑問に、マーリエも首を傾げる。
「たまにエルフが来るって聞きますよ? でもすぐ帰るって里に来るダークエルフが言ってました」
それぞれが喋る中、認識統一のためにスヴァルトが手を上げて説明をしてくれた。
「まず、今のエルフ王は千年ほど生きている比較的若い王だ」
「若い…………」
「そう言えばフォーレンまだ生まれて一年経ってないもんな」
アルフが僕の呟きを拾って笑うと、年齢を知らなかったひとたちが驚いた。
「うん、僕の歳の話はいいから続けてスヴァルト」
「あぁ。エルフにしては若く、魔王との争いで父王が亡くなったことで即位した」
戦時に即位した王さまで、即位してすぐは若さが不安材料扱いだったんだって。
「当時拙らが魔王についたことで、今なお未熟さゆえにエルフの分裂を招いたと批判されている方だ」
これ、説明に自虐入ってるよね?
「アルフ、客観的にお願い」
「フォーレン、スヴァルトの性格掴むの早いって」
アルフが言うには、今となっては魔王亡き後の混乱に平静を保ったと評価されているんだって。
堅実な王さまで、目立ったことはしないけど大きな失敗もなく今までやって来たそうだ。
「ただ国を守るために、魔王軍として恨みを買ったダークエルフを拒否した。だから、エルフ王とダークエルフは不仲だってのが定説だな」
「けど本人はそうでもないわけか」
密かに魔王石を託すくらいには信頼してるみたいだし。
「エルフからすると、ダークエルフの首領はスヴァルトだな」
「首領? そういうとなんか悪そうだね」
「対外交渉の類はこいつがやっている。森でもダークエルフと言えばスヴァルトだ」
言いながら、アーディは意地悪そうに笑う。
「五百年、悪のダークエルフを演じているからな。らしく振る舞えばなかなかの皮肉屋だ」
そんなアーディにスヴァルトは気まずい様子で目を逸らした。
「あ、もしかして悪を演じる時アーディを参考にしてたり?」
「ぶふぅ…………!」
僕の推測にアルフが唾を飛ばして噴き出す。
汚いなぁ。
あ、でもスヴァルト否定しないや。
不機嫌なアーディに睨まれて、アルフも唇を噛んで笑いを堪えるために黙る。
代わりにロミーがエルフのことを教えてくれた。
「エルフの中には、ダークエルフ討伐を掲げて森を侵攻しようってひとがいるの」
「え、乱暴だなぁ。エルフって知的なイメージがあったのに」
僕の勝手な印象を聞いて、メディサが捕捉してくれた。
「エルフは長命ですから。人間と魔王によって南に追われたことを覚えている者もいるのです」
どうやら千年以上昔には、この森にエルフが住んでいたらしい。
けれど西で争いが起きて魔王が東へ来たことで、魔王の下で人間たちが東に国を開いた。
土地争いやなんやかやで、エルフは争いを避けて南に国を移したのだとか。
「妖精王さまがいるんですから、今さらそんなこと言われても…………」
短命な人間のマーリエは、千年以上昔から引き摺る遺恨に呆れたようだった。
「ま、だから森が落ち着いたなら、俺は西に帰って森の統治権を返せって話らしいぜ」
「あー、魔王の残党が入り込んだ危険地帯はいらないけど、残党も大人しくなってるなら本当は自分たちの土地だったから返せ。なんて言っても受け入れられないことわかってるから侵攻しようって?」
僕が思わず嫌そうに言うと、スヴァルトはとりなすように口を挟む。
「そういう声はあるが、エルフ王はなさらない。我々を討ち世界にエルフの潔白を示そうという声を抑えてくださった。慈愛と聡明さを持つお方だ」
「エルフ王のほうは、スヴァルトたちを見捨てたって意識があるらしいんだよ」
アルフの認識では、エルフ王に侵攻する気はないから大丈夫ってことらしい。
そこにロミーがまた何処で聞きかじったのかエルフの負の面を話す。
「でもね、そのエルフ王にダークエルフを気にし過ぎとか、魔王軍で名を馳せたスヴァルトが怖いんだっていうエルフもいるの」
エルフ王が大義名分のある森への侵攻を止めるのは、スヴァルトを恐れるからだという批判があるそうだ。
うーん、エルフもやっぱり乱暴な幻象種ってこと?
「なんだか面倒そうだね」
「いや、今回は説明すればそれで終わるからな。前回はダイヤの管理はどうなっていたのかと拙が糾弾される羽目になった」
「それアルフに言うべきだよね。今回は、あぁ、人間たちが攻めてきてるからって説明するの?」
なんでスヴァルト、そこで僕とグライフを見るの?
そしてなんでアーディはわかった風に頷くの?
僕が首を捻るとガウナとラスバブが手を打った。
「妖精王さまの加護を受け、グリフォンとドラゴンを従えるとなれば侵攻など立ち消えるでしょう」
「妖精王さまを森から追い出した時点でユニコーンの旦那さん敵に回すだけだもんね」
あ、僕?
「誰がいつ貴様に従った、仔馬?」
「痛、羽根で打たないでよ。僕が言ったんじゃないのに」
「あたしがこのユニコーンを利用してあげてるのよ! 従ってなんかないなのよ!」
「単にグライフへの盾にしてるだけでしょ、クローテリアは」
うーん、騒がしい。
話が進んでない気がしてきた。
「アルベリヒさま。魔王石を狙う流浪の民がいることは、拙から伝えましょう」
「危ない骨董品持ち出してることは伝えてほしいけど、もう発つのか?」
「すでに流浪の民が動いているなら早いほうがいいので」
立ち上がるスヴァルトは、今からエルフの国へ向かうつもりらしい。
エルフの国かぁ、あんまり穏やかそうじゃないけどやっぱり興味は湧くよね。
「…………フォーレンもスヴァルトと一緒に行くか?」
「え、いいの?」
「アルベリヒさま!? 何をおっしゃる!」
「三代も前から流浪の民は動いてる。魔王石を狙ってるならすでに仕掛けはされているはずだ。そうなると、フォーレンの目敏さが役に立つかもしれない。何より、フォーレンはビーンセイズで魔法兵器やら悪魔召喚やら実際見たし。説明役にはちょうどいいだろ」
珍しくアルフが真面目に考えてものを言ってる。
「正直、エルフのほうの魔王石が盗られたとなれば、別の問題が起きる」
そう指摘するアルフは、たぶんスヴァルトの持つ魔王石のことを言ってる。
魔王石のジェイドが森にあることを知られれば、狙われる標的が森に増えることになる。
こっちからすれば、エルフ王が二つとも封じてると思わせておいたほうが安全と言えば安全だ。
下手にエルフ国の魔王石を狙われて、ジェイドの持ち主を知られるのは面倒だ。
「となると、僕はまたアルフの代理?」
「そうそう。俺がここから動けなくても、精神繋いでるからフォーレン越しに様子知れるし」
「しかし…………」
「別にフォーレンの身の安全とかは気にする必要ないぜ?」
アルフ、僕も無敵じゃないんだよ?
身の安全には気を使って欲しいなぁ。
「ねぇ、エルフの国に怪物はいない?」
「超える山の下にドラゴン埋まってるくらいだが。君が懸念すべき身の危険は怪物だけなのか?」
そりゃ、今まで会った怪物どっちも出会っただけで命の危機感じたからね。
山の下だったら、最悪走って帰ればいいかな?
「ふむ、ならば俺も行こう」
「グライフ?」
何がならばなの?
「存外流浪の民も面白いことをするからな」
「面白くないよ。けど僕一人より一度行ったことのあるグライフいたほうがいいのかな?」
ダークエルフと憤怒の化身って明らかに…………いや、傲慢の化身加えても駄目な気がする。
「仔馬よ。エルフの国では俺の下僕を紹介してやろう」
「下僕?」
えーと?
アルフもグライフの発言に呆れてる気配がする。
「そう言えば、お前どうしてエルフの国に行ったんだよ? しかもこっちに戻って来てるって、向こうで何かやらかしたのか?」
アルフの嫌味交じりの質問に、グライフは鼻で笑う。
「ふん、西でエルフを拾っただけよ」
うん、答えになってない。
けどグライフにとってはエルフって拾えるものだったようだ。
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