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109話:飛び回るグリフォン

「元よりお主には見どころがあると思っていた。ロミーをずいぶん面白い存在に変えたようだな?」

「面白いっていうか、本人が望むとおりにしただけだよ」


 アシュトルのことがあるから警戒ぎみに答える僕を気にせず、ペオルは太い腕を組んで大きく頷く。


「良い判断だ。己を貫きながら正道を外さん。うむ、お主はわしの試練を耐えた褒賞として、一つ願いを聞き届けよう」


 契約に誠実って自分で言ってたし、こういうからには裏はないんだろうけど。ロミーって正道なの? それは悪魔的な意味で?

 それに色々誘惑された末に望むものなんてないんだけどなぁ。


「…………あ、スヴァルトが魔王石を守るためにかかる負担を軽くすることってできる?」

「そう来たか」


 ペオルは何か言おうとするスヴァルトの頭を大きな手で掴んでしまった。


「そ、それ大丈夫? 死んでほしくないから言ってるんであって、死んだら負担はないなんて言わないでよ?」

「安心せよ。わしは道を外れさせはしても、直接殺す悪魔ではない」


 つまり結果的に死ぬこともあるんだね。

 やっぱり悪魔って怖いな。


「人間が不和を生み、嘘を誓い、他を裏切るのは、人間という存在の根本的欠陥であって、わしの権能如何でどうなるものでもないのだ」


 何処か疲れたようにペオルは言った。

 …………スヴァルトの頭を鷲掴んだまま。

 スヴァルト抵抗してるけど、元の大きさ違うから無駄な足掻きになってる。


「それで、スヴァルトをどうするの?」

「わしの権能の一つに便利さゆえの怠惰がある。ので、この頭の固い性根のひん曲がった自己卑下ダークエルフに怠けることを擦り込んでいる」


 なんか酷いこと言ってるけど大丈夫?

 なんかスヴァルト痙攣し始めたけど、本当に大丈夫?


「そうそう、お主の連れ合いのグリフォン」

「連れ合いじゃないから」

「まぁ、あ奴は森を飛び回って色んな種に絡んでいるが、そこの巨人を動かすことのないよう言い含めておけ」

「どうして?」

「あれが動くと大地が鳴動し、割れる。争いを吹っ掛けた日には、雷で森林火災が起きるぞ」


 地震雷火事親父って頭に浮かんだ。

 巨人の老師一人で全部揃ってるよ。

 うん、グライフには手を出さないよう言っておこう。


「いつまで話してるのよ…………変な奴が増えてる上にダークエルフが殺されかけてるのよ?」


 僕たちの戻りが遅いことで様子を見に来たクローテリアが不穏なことを言う。


「む、少々やりすぎたか」

「え、ちょっと! スヴァルト大丈夫!?」

「ぐ…………うぅ、悪魔よ去れ」


 ペオルの鷲掴みから解放されたスヴァルトは、何か魔法らしきものを使った。

 するとペオルの手から焼けるような煙が上がる。


「秘術を使ってまで嫌がるとは」

「これは精神汚染だ。断固抗議する」


 言ってることは強気だけど、声と体はダルそう。


「これであと百年は持つだろう」

「え、そんなに? ありがとう」

「悪魔に礼を言うユニコーンは、やっぱり変なのよ」

「クローテリア、お礼とか言わないもんね。あとごめんなさいも」

「言う必要がないのよ!」


 それ胸張って偉ぶることじゃないからね。


「これが本当にドラゴンなら、まぁ、可愛らしい部類だな」

「そうなの、ペオル?」

「フォーレンくんの側にいる者は、幻象種からして理性的だからな」

「え!? 嘘だぁ」


 僕の頭に乗っていたクローテリアは、スヴァルトとペオルのほうに飛んで移動する。


「本当なのよ。話して通じる奴が多いのよ」

「人魚は森の中で比較的理知的な幻象種だ」

「あのグリフォンも、四足の幻象種とは思えぬほどに知者だぞ」


 僕以外が意見を一致させてる。

 えー? いきなり襲って来たんだよ?


「ぐるあー!」

「信じられないよ。あのグライフが?」


 僕は突然襲って来た狼らしき獣を避ける。


「いきなり大人しく食われろなんて乱暴なこと言うグライフが、知者?」

「大人しく食われろー!」


 爪と牙を剥き出しにしてもう一度跳びかかって来る喋る狼に、僕は魔法を用意しながらまた避ける。


「あのグライフが理性的だっていうなら、四足の幻象種ってどれだけ獰猛なの?」

「この、ユニコーンのくせにうろちょろと!」

「あ、知ってて襲ってきてたんだ。じゃ、手加減しないね」


 僕は突進してこようとする狼に風の魔法で舞い上げた草を顔目がけて殺到させる。

 走りながら上手く横に避けた狼の動きに合わせて、目に水を発射して怯ませた。


「くそ! こんなことで止まるかよ!」


 どうやら目が見えなくても鼻で僕の居場所を特定できるようだ。


「そして、こんな小細工通じる…………か!?」


 木の魔法で足元に根っこを伸ばしたら避けたけど、根っこを跨いだ先の地面を魔法で空洞化させてたら、足首まで埋まった。


「ただの穴! あ…………? なんだこの臭い?」

「尻尾が燃えてる臭いだよ」

「ぎゃー!?」


 後ろを振り向いて慌てて消火しているところ、僕は距離を詰めた。


「はい、これが最後」


 接近に気づいて僕のほうを向いた狼の濡れた鼻先に静電気をお見舞いした。


「ぎゃひん!? きゅ、きゅーん」


 鼻を押さえて倒れ込んだ狼は、尻尾を丸め込んで震える。


「で、君は誰? 狼の獣人?」

「フォーレンくん、それは獣人ではなく人狼。れっきとした幻象種だ」


 それってノームのフレーゲルが言ってた、アルフの失敗談に出て来た、あの?


「獣人と間違えて森に入れちゃった、幻象種っていう?」

「凶暴さで言えばユニコーンやグリフォンからは一段劣るのよ」

「えー? グライフのほうが有利な状況を作るくらいの知恵があるだけで、あんまり変わらないと思うけど?」


 僕がそう話している間に、ペオルがその巨体で獣人の首根っこを掴み上げる。

 それでようやくまともに顔が見えたけど、よく見ると片目に真新しい鉤爪の傷が三本走っていた。


「それでお主は何故最近噂のユニコーンと知って襲ったというのだ?」

「あのくそ腹立つグリフォンに傷をつけたこのユニコーンを倒せば、俺のほうが強いからだ!」

「あ、本当だ。グライフのほうがまだ頭いいこと言うよ」

「それは俺を馬鹿にしてるんだな!? やっぱり食い殺してや…………」


 喚く人狼に、僕は残ったもう片方の目の前に角を突きつけた。


「散々グライフにも食べるって言われててね、あんまり僕を前にそういうこと言わないでほしいんだ。さすがに腹が立つから」

「ほう? 怒りを見せたことのないユニコーンと聞いていたが?」

「腹を立てることくらいあるよ。でも、目が赤くならないからって、あんまり本気にしてくれないんだよね」


 僕の答えを聞くと、ペオルは人狼から手を離した。


「で、その目の傷はグライフにやられたの? もう一度グライフとやり合いたいなら伝えておいてあげるけど?」

「うぐぐ」


 歯を剥き出しにしてるけど、正直あんまり怖くない。

 ケルベロスのほうが牙も大きいし頭も多い。


「フォーレンくんはなんと言うか、敵を前にしても泰然自若としているから動じないように見えるな。強者の余裕というものを感じる」

「強者? 違うよ。単にケルベロス見た後だと、どうしても比べちゃうっていうか」

「あんな怪物と比べるな!」


 人狼が吠えるように抗議すると、何故かクローテリアが自信満々に口を挟んで来た。


「その怪物の尻尾を切り飛ばすと豪語するユニコーンなのよ」

「あれは追い駆けられたからちょっと脅しただけだよ」

「君はできないことを脅しに使う性格ではないと見るが?」

「まぁ、そうだけど」


 ケルベロスの尻尾を本気で切り飛ばす気だと知って、人狼は唖然とする。

 黙ってしまった人狼を見下ろして、ペオルは骨が棘のように突き出した肩を竦めた。


「この森に入るのは群れから外れた変わり者ばかりだ」


 それって僕やグライフも入るんじゃない?

 いや、ユニコーンは元から群れ作らないけど。


「うん、まぁ…………。さっきまで元気に喋ってたアルフの声が聞こえなくなった理由はわかった」


 フレーゲルに聞いてるから黙るだけ無駄なんだけどね。


(け、喧嘩っ早いけど、素直なんだぜ?)

(素直っていうか、あんまり深く考えないタイプなんだと思うなぁ)

(まぁ、あのグリフォンに負けたのに、そのグリフォンに大怪我負わせたフォーレンに挑んで勝つつもりだったとかな)


 そう言えば、なんでグライフはこの人狼の片目奪うくらいの攻撃をしたんだろう?

 彷徨える騎士みたいに、いたから爪を引っ掛けたとかだったら、後でグライフにも謝らせよう。


毎日更新

次回:森の侵入者

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