ハートウォッチ少女は願います。
壊れかけた腕時計を手に、私は走ります。
夕暮れ時。下校中の学生や、サラリーマンなどをかき分け、必死に、我武者羅に走る私の姿は、ほかの人から見れば、異様に映っていることでしょう。
だけど私には、そんなのを気にする余裕すらありません。
「痛っ……!」
少しの段差につまずいた私は、勢い余って思いっきり転んでしまいました。
ついていない……。本当にこういう時はとことんついていません。
私は悔し気に、膝からあふれ出る血を睨みながらこんなことを考えます。
もしかしたら、私はここで死ねと神様から暗示されてるのではないでしょうか。
私は幸せをもらいすぎたのです。
今思えば、このくらいの天罰があってもなんらおかしなことはありません。
そう考える方が、いっそ清々しいです。
こんなに苦しい思いをしなくても済むのですから。
だけどわかってます。そんなのは結局自己完結にすぎません。
自分に都合のいいように、神様がそう言ってるから仕方ないだとか、そのように神様のせいにして、自分はもう死んでもいいと正当化しているだけなのです。
彼が教えてくれました。
それでは、天国に行っても永遠付き纏う未練が残ってしまうと。
私は再び立ち上がり、走り出します。
時計を見ると、秒針が不規則な間隔で、チク………タク…………………チク…タク、と。
走るたびに、私の心臓に襲い掛かる激痛。
片手で胸を押さえて、ただただ時計が止まらないのを願いながら、ひたすらと。
「なんでこんな急に……?まだ二週間は大丈夫なはずなのに……」
ですが原因は大体把握しています。
おじいちゃんが死んじゃってから初めての点検。
おじいちゃんは、死ぬ前に知り合いがいる時計屋さんに、私の時計の点検を任せました。
その人は、私の腕時計を「珍しい構造だなぁ」と言っていました。
多少の違和感を抱えながら点検してもらって、かかった時間は二時間ほど。
おじいちゃんにやってもらっていた時は、一時間かからないかくらいで終わっていたのにもかかわらず、その二倍はかかりました。
恐らく、点検ミスがあったのでしょう。
「なんで……。なんでおじいちゃん死んじゃったの……」
そんな、誰にも届かない、もう過ぎ去ってしまったことを悔やみ、本音を吐きます。
そして、不安と焦燥が入り混じった気持ちで、私は目的地に到着します。
「だけど……。もう…………、だめ………」
全身に力が入らず、私はその場に倒れ込んでしまいます。
呼吸がうまくできない……。
命からがら腕時計を持ち上げ、目の前まで持っていくと、秒針はさっきよりも不規則な間隔で、ゆっくりと、動きます。
同時に、私の死もじわりじわりと、近づいていくのがわかります。
苦しいよ……。お願い垂水君……。
「助けて……」
☆☆☆☆☆
私、琴平 音音は、今日から高校二年生です。
クラス替えもないので、一年のころに仲の良かった人とかもいて、特に友達作りとかに困る必要はありません。やったー!
とまあ、見慣れた教室、見慣れたクラスメイト、見慣れた外の景色。
___見慣れた腕時計。
特に何の変哲もない少し古めの腕時計。
この腕時計のブランドもわからなければ、価値もわからない。
いつからか忘れたけれど、物心ついてた時には付けていました。
だけどたった一つ、ほかの腕時計と違うのが、この腕時計は私の心臓とリンクしているのです。
つまり、この時計が壊れてしまえば、私の心臓も止まる。
つまり死にます。
おじいちゃん以外理由はわからないし、信じ難い話ですが、事実です。本当です。
だけど、そこまで深刻に考えることはありません。
月に一度、おじいちゃんが点検してくれているので、今まで一度も壊れかけたり、死にそうになったりしたことはありません。
いつか、おじいちゃんにこの腕時計を点検してもらっているときに、「なんで私はこの腕時計と心臓がつながっているの?」と聞いても、「神様の贈り物かもな」と言ってはぐらかされ、教えてくれません。
だけど、教えてくれないからといって特に困るようなこともないので、別にそこまで言及はしません。
そんなこんなでちょっとほかの人とは違う部分もありますが、学校生活も支障なく楽しく過ごせています。
あ、あと、このことは私の家族しか知りません。
「はーい。じゃあお前ら席に着け~。SHRはじめるぞ~」
担任のハゲが教室に入ってきます。
名前は忘れました。ハゲで大丈夫ですハゲで。
ハゲの一声によって、席を離れ談笑などをしていた生徒たちはぞろぞろと己の席に着きます。
「はーい。早速なんだが、転校生がいま~す」
すると、教室内はがやがやと騒がしくなります。
しかし、それは私たちも同じです。
「ねえおと、転校生だって。イケメンかな?イケメンだよね?イケメンですよね?」
背中を小突かれ、後ろから話してきたのは、友達の相川 優香。ゆかちーと呼んでます。
ちなみに、『おと』とは私のことです。
「ゆかちーはなんでそんなにイケメンにこだわるの?」
「う〜ん。じゃあ逆に聞くけど、おとはイケメンとブサイクだったらどっちがいいわけ~?」
「私は普通でいいよ。普通で」
「つまんないの~」
私は本心を言ったのに、ゆかちーは頬ををプクーっと膨らませ、私の返答にいまいち満足いっていないご様子。
ですが、正直なところ、転校生が男子だろうが女子だろうが、イケメンだろうがブサイクだろうが、転校生が来る!っていイベントだけで私は大満足です。
「おっ、きたっ!」
後ろでゆかちーのささやき声を聞き流しつつ、ドアが開きます。
入ってきたのは、身長が低めで、とても弱々しそうな第一印象。
「じゃあ、自己紹介よろしく」
笑顔のハゲに促され教壇にのぼり、どこか落ち着きがなく、そわそわした感じで口を開きました。
「親の仕事の事情で来ました。垂水 優斗です。よろしくお願いします」
「はいはくしゅー」
垂水君は軽く数秒お辞儀をして、先生に指定された席に着きました。
とまあ、そんな感じで転校生イベントはこうして幕を閉じたのですが、ゆかちーは、満足いっていない様子。
「まあどちらかというとかわいい感じだけどぉ、イケメンがよかったかなぁ」
「そんなこと言わないの」
私が軽くチョップしながら言うと、わざとらしく痛そうに頭を押さえます。
「痛いんだけど」
「痛くないでしょ」
とまあそんな感じでいつも通り六時間授業が終わり、放課後。
私はいつも通り、パンの自動販売機に赴き、好物の『チョコガナッシュ』というやつを買います。
すると後ろから、今日転校してきたクラスメイトの垂水君が歩いてきました。
「あ、垂水君。どう?私のクラス慣れそう?」
「えーと……」
「同じクラスの琴平音音。よろしくね!」
「う、うん……。よろしく。クラスの方は、まあ、うん……」
いまいち曖昧な感じで言う垂水君は、どこか陰鬱な表情を浮かべていました。
「もしかして、友達とか作るの苦手な感じかな?」
「うん……。僕、引っ込み思案だからさ、基本は黙って本とか読んでたり、前の学校もそうだったんだけど、一人でいることが多いんだ」
「そうか……」
いまいちクラスになじめない性格なのは仕方ないことなのですが、ずっと一人っているっていうのも可哀想です。
「なら、私と友達にならない?」
「友達?異性と?」
確かに、異性と友達になるのに抵抗するのは当たり前ですよね。
んー。困ったなぁ。
やはり、まずお互い探るところから始めるのが最善な気がします。
「じゃあ、垂水君趣味とかってある?」
「趣味か、腕時計をいじったり、することかな」
「おっ!腕時計!」
おお!これはかなりチャンスではないでしょうか。
同時に、私に一つ垂水君と仲良くなるいい方法を思いついてしまいました。
題して、『私の秘密を言えば、仲良くならずにはいられない作戦』
秘密というのは、私の心臓と、この私が今はめている腕時計はリンクしている。ということを言えば、俄然興味がわいてくると思うのですよ。
確かに、他人にこれを暴露するのには抵抗があります。
ですが、垂水君はいいひとそうで口が堅そうなのもありますが、男女間での秘密は、むしろその二人だけの秘密という特別な意味をもたらします。
故に、男女間での二人だけの秘密を他人に暴露するようものなら、それを人間と呼んでいいのだろうかと私は思うのです。
「実はね、私のこの腕時計あるじゃん。これ、私の心臓とリンクしていて、壊れたりして止まったら、私の心臓も止まって死んじゃうんだ」
「おもしろいジョークだね」
「ジョークじゃないよぅ!本当だよぅ!」
「じゃあ証拠見せてよ」
ぐぬぬぅ……。信じてくれないのも無理もありません。
でも実際、おじいちゃんに点検をしてもらうときに、中の部品などをいじってるときだけ、少し心臓に違和感程度の痛みがくるのです。
とはいっても結局は証拠でも何でもないのですがね……。たははぁ……。
ですが、ここで引き下がる私じゃありません。
「んー。それは無理かなぁ。でも、私と一緒にいればもしかしたらいずれ見れるかもしれないよ?あと、実際この腕時計をきっかけに私も少し興味を持ち始めたんだよね」
「というと?」
「いろいろ腕時計について教えてくれない……かな?」
そんな感じで私と垂水君は仲良くなり、休日とかはいろいろな時計屋さんをに行って腕時計を見に行ったり、私の腕時計についての関心が一層高まった気がします。
そんなある日です。
授業中、家から学校側に連絡がきて、私は聞かされました。
私のおじいちゃんが死んでしまったと……。
原因は寿命でしょう。
すでに八十を過ぎていて、最近も活力がなかったというか、どこか様子が変でした。
その夜、私は泣きじゃくりました。
泣いて泣いてひたすら泣いていたら、家のインターホンが鳴りました。
垂水君でした。
お母さんが勝手に私の部屋まで連れてきて、その日はひたすら垂水君に励まされました。
気づいたら寝ていて、垂水君は、私が眠るまでずっと励ましてくれたり、背中をさすってくれたりしていたそうです。
それからは、おじいちゃんのお葬式やなんやらで、二日ほど学校を休ませてもらいました。
腕時計の件についても、おじいちゃんが仲良かった時計屋さんの人に毎月点検してもらうことになりました。
というのも、以前からおじいちゃんはもしもの場合に備えて、伝えてあったそうです。
そんなこんなで、おじいちゃんが亡くなってから一週間。
今日は月に一度の腕時計の点検の日です。
今日は、天気も良く晴れているので歩いて向かうことにしました。
歩きだと、大体二十分くらいでしょうか。
時刻は、午前八時半。
今日点検してもらう時計屋さんの開店が、午前十時なので、それまでには終わらせたいのこと。
今は五月の中旬で、昼になれば結構暑いのですが、朝となるとやはり少し肌寒さを感じます。
鳥の囀る音を楽しみながらのんびり歩くのも案外いいものですね。
それから約三十分弱。
ゆっくり歩いてきたので少し時間がかかってしまったのですが、少し早めに家を出たので、結果としてはちょうどいいくらいです。
目的地は、商店街の一角。
建物は、アンティーク調のおしゃれな装飾やドアなどを使っており、ガラスからは中の様子が伺えて、中も店主の相当なこだわりを感じさせます。
「おじゃまします」
ドアを開けると、鈴みたいな音がシャランシャランとなり、店主の方は出迎えてくれました。
「おー、待っておったぞ。先週の件は非常に残念じゃったの」
「私も最初はショックでした。でも、ようやく心の整理ができたので。あっ……、今日はよろしくお願いします!」
そのまま修理部屋に行き、そこで私は腕時計をはずしてそのおじさんに渡します。
「聞いていた通り珍しい構造じゃのう……」
やはり、そうなのでしょうか。
私には腕時計の構造とか詳しくはないのですが、おじいちゃんはもちろん、垂水君にも見せたときにも同じことを言っていました。
そこからは、無言でただひたすらと私の腕時計の修理に励みます。
店主のおじさんの額には見て取れるほどの汗の量。
それもそのはずです。
少しでもミスったりして、壊れたりでもしたら私はその瞬間に死にます。
なので私は邪魔をしないように、そこら辺にある修理途中の時計や、実際に売っている時計などを見て回りました。
一時間すると、いったん店主のおじさんは席を外します。
「ちょっとばあさん呼んでくる。待っておれ」
そのまま、二階に行き店主の奥さんを呼びに行ってすぐ戻ってきます。
「割と手間がかかってのぉ。もうじき開店時間じゃけど間に合いそうにないわい。店番はばあさんに頼んどいたわい」
私の腕時計の修理に嫌な顔一つせず、こうして笑顔で話してくれる店主のおじさんはいい人です。
「その……。すみません。無償でやってもらっちゃって」
「いいんじゃいいんじゃ。わしも時計をいじってから偉い経つが、こんな珍しい腕時計いじっちょると、時計屋の手が疼くんじゃ」
そう言って再び作業を再開する店主のおじさん。
そこからさらに一時間して、
「うん。おっけいじゃ。待たせてしまってすまんの」
「いいえ!全然!ありがとうございます!来月もお願いします!」
そう言って、店を後にした私は、少し違和感に襲われます。
心臓が少しだけ重く感じるというか、ですが違和感程度なのでいつも通りで大丈夫でしょう。
そんなこんなで二週間が経過して、その違和感は痛みに変わりました。
「あれ……。心臓が痛い……」
朝起きると、心臓に痛みがあることに気づきます。
私は胸のあたりを押さえて、腕時計を確認します。
「うそ……でしょ……」
腕時計の秒針が、少しだけ不規則に動いてるのがわかります。
実際スマホを開いて、腕時計の時間と照らし合わせると、腕時計の方が五分遅れているのがわかります。
スマホの時間の方が正しいのは明白なので、スマホの時間が壊れてるとかではなさそうです。
というか、心臓が少し痛いってだけでも腕時計の方に問題があると判断できるのですが。
「今はまだ大丈夫。でもどうすれば……」
ここから時計屋に行くのに走って十分といったところでしょうか、ですが……、初回で修理をするのに二時間弱もかかったと考えれば、それで間に合うかどうか……。
実際、あと何分で完全にこの時計が止まってしまうかなんて私にはわかりません。
数分で止まってしまうかもしれなければ、まだ数時間数日はもつかもしれない。
私は、無我夢中で家を出て走ります。
ひたすら、時計を片手に走ります。
もう片方の手は、心臓にあてて。
「ぐっ…………!」
走ると余計痛みが増しますが、私の命がかかっているのです。
まだ死にたくないです。
そして、全速力で走ったおかげもあってか、十分少しで到着することに成功しました。
「はぁ……はぁ……はぁ……。え………。うそでしょ……………」
眼前には、絶望としかいいようがない光景に私は絶句します。
時計屋の前にある張り紙を確認すると、
『本日は、知人の葬式のため隣県まで赴かなくてはならないので休業とさせていただきます。店主』
私はその場に崩れ落ちます。
終わりました。
もうダメなのでしょうか…………。あっ……!
垂水君!
もしかしたら彼なら、この状況をどうにかできるかもしれません。
そうとわかれば私はすぐスマホを取り出し、垂水君に電話をかけます。
一コール。
出ません。
ニコール。
出ません。
三コール。
出ません。
お願いします!垂水君出て!
すると、四コール目が鳴った直後、眠たそうな声が電話越しから聞こえてきます。
『んん……。おはよう琴平さん……。こんな早朝から___』
「垂水君大変なの……。時計が、腕時計が少しおかしくて、秒針が不規則っていうか、心臓が痛い……」
『それは本当か!!!』
垂水君の心配する声が、必死な声が私に届きます。
「うん……。だから、もし、可能なら修理___」
『待ってろ今すぐ行くから!いまどこ?』
「前言った時計屋さん……。だから、中間とって、学校の校門前に、私も全力で走っていくから……」
中間といったのは嘘です。
私の方が断然距離が短いのですが、垂水君もわかって、あえて指摘したりしません。
優しい人です。
なので私も垂水君のやさしさに応えるべく、ここから学校までの道のりを、死に物狂いで走ります。
☆☆☆☆☆
私は死んでしまったのでしょうか。
もう間に合わなかったのでしょうか。
垂水君との待ち合わせた場所について、倒れてしまって、私はどうなってしまったのでしょうか。
泡沫の記憶の中、不確かな私の生死を、垂水君の声によって確かにしてくれました。
「琴平さん!琴平さん!起きて!琴平さん!」
私はゆっくりと目を開けます。
木陰に横たわっている私を激しく揺さぶってくれる垂水君。
必死な顔で私に起きてほしいと涙をも浮かべる垂水君。
そして、私が起きたことによって、溜まっていた涙をボロボロと流す垂水君。
もはや、優しさのすべてがつまった一面に、私も、もらい泣きしてしまいます。
ようやく涙が収まり、視界が鮮明になって垂水君を見ると___
「あれ……」
私は自分の目を疑い、目をこすります。
「垂水君……からだ」
垂水君の身体全体から光の粒子のようなものが浮かんでいき、同時に、だんだん体が薄く透明になっていきます。
「ん?ああ。これね、琴平さんもう死ぬ間際だったんだよ。修理しても絶対に間に合わない。だからね、僕のこの腕時計の自己犠牲救済措置を取らせてもらった」
私は、目の前の光景も相まって、その言葉をいまいち理解できません。
「どういうこと……?」
「まあ、ぶっちゃけちゃうと、琴平さんと同じ状況で、この腕時計、僕の心臓とリンクしてるんだ」
「私と同じ……」
初めて聞く事実に、私は呆気にとられただただ垂水君の次の言葉を待ちます。
「だから、僕の腕時計の心臓部分と、琴平さんの腕時計の心臓部分を交換したってわけ」
「それじゃあ……」
「実質、琴平さんの体の中には、僕の心臓が入ってるってことになるね」
少し笑い交じりに言うその姿に、彼は恐れてないのでしょうか。
死を。
「おかしいよ……」
垂水君は、自分の命を落としてでも私を助けてくれたのです。
つまり、私の命と垂水君自分自身の命を天秤にかけたとき、彼は、自分自身の命より、私の命に重みを感じたということです。
だから……、おかしいのです。
普通人間は自分の命が第一優先です。
なのに……。
「なんで私なんか助けるの!そんなの……そんなの聞いてないよ……!」
「ごめん……。でも、見殺しになんかできないよ。あと、」
彼は、ニヤリと笑い、
「僕だって一応男だしさ、好きな人の前で恰好ぐらいつけたいものさ」
私は何も言い返せませんでした。
その言葉が、とても私の心に響いてしまったのですから。
「だけど、勘違いしてもらっちゃあ困るよ、僕は死ぬんじゃなくて今こうして消えている。なぜ死なないで物体として残らないかわかる?」
「……………」
私は、無言で首を横に振ります。
「さっきも言ったけど、琴平さんの中には、僕の心臓があるのも同然なんだよ。だから、このまま僕が消えても、琴平さんの中には僕がいる。ってね」
最後は少し恥ずかしながらも、ウィンクをして説明してくれる垂水君。
こんなに悲しいことがあろうと、終始笑顔で接してくれる垂水君。
彼がくれた命を、心臓を。
いわば、それは死ぬまでの付き人です。
なので私は、垂水君に近づき、
「聞いて垂水君。自分の心臓の音を、聞いて」
私はそっと優しく垂水君の頭を抱え、自分の胸に持っていき、その音を聞かせます。
垂水君のほの温かい体温を感じつつ、私は、垂水君がくれた心臓の音を、何分間も垂水君本人に聞かせてあげます。
「僕の心臓君も喜んでるね」
またしても垂水君の笑い交じりの冗談に、私もつられて笑ってしまいます。
垂水君が消えてしまうまでずっとその状態で、互いに笑い合いうながら過ごしました。
私は、空を仰いで言います。
「さっきの垂水君の言葉だけど、私も好きだよ。垂水君のこと」
そして、垂水君の方を見ると、すでに姿はありませんでした。
さっきの言葉、伝わりましたかね?
心地よいそよ風にあてられながら、私は胸に手を当てて、「今の言葉、伝わってますように」と、願います。
ハートウォッチ少女は、いつまでも永遠に、願います。
ネ友と、「女主人公で短編書こうぜこの野郎」という経緯から書き始めた作品。
短編なのでいろいろなイベントとか端折りましたが、最後の展開は割とお気に入りです。
感想お待ちしておりまする。
あとがき執筆中BGM ノーゲーム・ノーライフより「オラシオン」。