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「芥川繭子という理由」  作者: 時枝 可奈
50/77

連載第50回。「ベストアルバム」

2017年、1月26日。



その日のお昼休憩に、ニューアルバムリリースと同時発売を予定している、ベストアルバムにまつわるお話を聞く事が出来た。楽屋で仮眠してくると言ってスタジオを出た伊澄と、それに習って同じく楽屋へ戻った繭子を除く池脇竜二、神波大成、そして伊藤織江を交えて。




池脇竜二(R)、神波大成(T)、伊藤織江(O)。


-- 全22曲、2枚組というのは決定ですか?

O「3枚組っていう話だったんだけどね。ベストなんだし、ちゃんと絞ろうよと」

-- ビクターとしては3枚組が良かったんですね。

O「大きい企画打つ時は3枚組っていうのがなんとなくあるみたい。もちろん単価も上がるし、マーケットを見た時に算出出来る確実な規模っていうのがあって、その流れで行くと勝算があったみたいだけどね」

-- 大人の事情ってやつですね。確かにドーンハンマーファンは間違いなく買いますからね。ご新規さんも手に取りやすいですし、確かに分母を拡大するのは『今』のタイミングがベターですよね。

O「ベストアルバムだけにね?」

-- あ、ベターって言っちゃった。

O「翔太郎がいたらアウト(笑)」

そこへPA室から神波が出て来た。

切れた弦を直し終わったベースを立てかけて、伊藤の横に腰を下ろす。

-- お疲れ様でした。

T「お疲れ。竜二も(楽屋)戻った?」

-- お手洗いです。

T「そ。ベストの話?」

-- はい。ほぼほぼ完成ですよね。

T「俺らはほとんど何もしてないけどね。収録曲とか順番とか聞いた?」

-- 資料頂きました。曲選びには苦労されてたじゃないですか。もう確定なんですよね?

T「今からはいじれないね、ギリギリだよ。あとは写真選考して終わりかな」

-- ジャケットはもうビクターのサイトと大手通販サイトの予約画面で見る事が可能になってますね。

O「仮だけどね、あれ」

-- そうなんですか。見た事ない写真だし本決まりなのかと。

T「『NAMELESS RED』の没写真だよアレ。ジャケットにメンバー写真なんか死んでも使わない(笑)」

-- そうでしたか。『P.O.N.R』までの9枚から22曲ということは、1枚あたり2曲、多くて3曲です。どうなんでしょうね、バランス的に。

T「どう思う?」

-- タイトルを見る限りツボを押さえてるとは思いますが、私のようなガチ勢からすれば物足りませんよ。全曲名曲ですけど、ドーンハンマーの傑出した名曲がこれで全てかって言われると、全然ノーですから。

O「それはそうかもしれないけど、内容的にはどう? この曲入れるなら、こっちの方が良かったっていう違和感はない?」

-- そういう目線で言うと、ありません。むしろ素晴らしいです。特に1曲目と22曲目は新曲ですよね。盤面的には分かれてしまいますが、大きな一枚のアルバムとして仕上げる為の仕掛けとしてはこの上ない構成だと思います。

T「良かった。もう聞いた?」

-- 聞きました。1曲目のイントロは大成さんですか?

T「そう」

-- 『Shot』、いいですね。潔い響きのタイトルなのに、予想を裏切るどこか哀愁を帯びた音に仕上がっています。割とこれまでのオープニングと近い、ゆったりとした重みのある曲なんですね。

T「うん。あんまり今感を出すより、オールタイムベストを楽しんで貰いやすいかなと思って」

-- 本当に才能豊かな方ですね。

T「あはは、ありがとう。そういう誉め方されると思わなかったよ」

そこへ池脇が戻って来る。

R「あー、ケツ痛い」

O「毎度ごめんね、リアクションしちゃ駄目だからね」

-- はい(笑)。お疲れさまでした。

R「あいよ」

机にあったミネラルウォーターのボトルを池脇に手渡すと、言葉ではなくニッコリと笑顔で返し、一人分開けて私の横に腰を下ろした。テーブルに置いてある資料を手に取る。ベストアルバムの収録曲と曲順のリストである。

R「タイトルどーすっか。やっぱり、普通に『オールタイム~』が良いのかな、普遍的だし、分かりやすい方が」

O「そこで色気出し過ぎると、却ってベストアルバムのイメージ消しちゃうものね。ニューアルバムと喧嘩しても駄目だし」

-- こういう時って皆さんがそれぞれ案を出し合って決定されるんですか? それともどなたか一人が決定権をお持ちなんですか?

T「持ってるとしたら織江かな。でもちゃんと話し合って案は出すよ。どうにも決められない時に全員が言う事聞くのは彼女だけだからね」

-- そうでしたか。『オールタイムベスト』、私も良いと思います。

O「良かった」

-- どのような案が出てるんですか?

O「『BEST OF DAWNHANMMER』『ALL TIME BEST』『DAWNHAMMER'S BEST』かな? 私と大成は『ALL TIME BEST』で竜二が『BEST OF』?」

R「『BEST OF』。繭子が『DAWNHAMMER'S BEST』」

-- これまた微妙な違いなんですね(笑)。もっとこう、それこそベスト感の全くないタイトルを考えてるのかなと思ってました。

R「ネムレに引っ掛けて、『BIG NAME BLUE』とかな(笑)」

-- そうですそうです!

O「それはまず最初に避けた(笑)」

-- そうなんですか?

O「うん、完全に別個の作品として別けたかったの。新作と関連性があるようなバーターネームは嫌だよねって言って」

-- なるほど。それほど、今回の新作には強い思い入れと自信があるわけですね。

O「その通り」

-- ちなみに、翔太郎さんは『なんでもいい』ですか?

R「よくお分かりで」

O「あはは! 凄いね、感心する」

-- いや、まさかまさか、当たっちゃうなんて。…本当ですか?

T「あいつに聞いたら全部の候補に、『お、それで行こう』って言ったからな」

-- うふふ。翔太郎さんらしくて良いですね。

O「そうだね。だからもう真剣に考えてる事が馬鹿らしくなってきたよ。もう『ALL TIME』で良いかな?『BEST OF』にする?」

T「結局誰も決められないっていうね」

-- 拘りがないのであれば、全部混ぜちゃうのはどうですか?

R「ん?」

-- 『BEST - ALL OF THE HAMMER'S TIME -』、なんて。

O「おお(笑)」

T「それで行こう」

R「やっと決まったー」

-- ちょちょちょちょ。

伊藤がテーブルに転がっていたマジックペンを手に取り、資料の候補タイトルに消込線を入れていく。候補に挙がっていた3つのタイトルを全部消すと、その下に『BEST - ALL OF THE HAMMER'S TIME -』と書き入れた。

O「一丁上がり」

-- 本音言っていいですか。

O「うん」

-- じゃあ、もうちょっとちゃんと考えて良いですか?

(一同、笑)




収録される曲目と曲順、オリジナルアルバムは以下の通りは以下の通りだ。


DISC.1


1.Shot(新曲)

2.IMMORTAL WORK(『FIRST』)

3.RHIZOME(『FIRST』)

4.ALL HUMANS WILL DIE(『HOWLING LEO』)

5.DEVIL'S ENGINE(『HOWLING LEO』)

6.Hanging my own(『KIND OF SORROW』)

7.In Coma(『KIND OF SORROW』)

8.Strike on holy pray(『ASTRAL OGRE』)

9.Versus Bacchus(『ASTRAL OGRE』)

10.One By One Break(『GONE』)

11.NO!YES!FUCK!(『GONE』)



DISC.2


1.Verve on hate.…thunder?(『NOCTURNAL DROP』)

2.Nasty kings road(『NOCTURNAL DROP』)

3.AEON(『7.2』)

4.Deadmans crowl(『7.2』)

5.Luny's of thoruns(『7.2』)

6.DOMINO(『&ALL』)

7.RESIDES GOD ME WHAT?(『&ALL』)

8.CRUEL DRIVEN(『&ALL』)

9.ULTRA(『P.O.N.R』)

10.GORUZORU(『P.O.N.R』)

11.I WILL.I DIE(新曲)




新曲で挟み込まれた、リリース順の見事なラインナップである。

各オリジナルアルバムの中でもハイライトを飾る名曲揃いである事は間違いないが、選抜されたそれらはオリジナルアルバム内でも同様の曲順なのが興味深い。

例えば『7.2』から選ばれた3曲は、本来間にいくつかの曲を挟むとは言え、オリジナルアルバムと同じ流れでベスト盤に収録されている。

全体を通して、本当の意味での時系列と言えるだろう。

あの曲がない、この曲が入っていない、などファンにとっては文句があるかもしれない。

私としても、『FIRST』から『レモネードバルカン』が選ばれない事は不満だ。

しかしかと言って、選ばれた曲に問題があるかと言えば全くそんな事はない。

どの曲もドーンハンマーならではの目くるめく熱いリフと絶叫ボーカルが堪能できる、素晴らしい選曲だと断言しよう。

このアルバムを聞いて満足しないようであれば、ヘヴィメタルファンを辞めた方がいい。

そして何より特筆すべきは、オープニングナンバー『Shot』と、ラストナンバー『I WILL.I DIE』の秀逸さだ。何故ニューアルバムに入れないんだと腹が立つくらい、鳥肌ものの2曲である。

この2曲を聞くためだけに購入したとしてもお釣りがくるぐらいだ。




-- ちなみにこの2曲って、『NAMELESS RED』の選考に漏れた曲ですか?それとも敢えてベスト盤用に書き下ろしたんですか?

T「選考漏れ(笑)。もともと前から存在する曲ではあるね」

-- すみません、言い方悪いですね。

R「ってか、あえて選考漏れって言うんなら毎回選考漏れ出るからな。そもそもアルバムを企画する段階で、ざっと40曲ぐらいは用意するから、どうしたって出てくるんだよ」

-- ワオ、40!? それはどういう曲達なんですか?

R「未完成の曲もあるし、翔太郎が使いたいフレーズだけ仮タイトル付けて持って来るのもあるし」

T「あとは結構前に作った曲でも全体のバランスとかカラーを考えて使わなかったと奴とか、これを機会にブラッシュアップしたい曲とか。それらを一通り並べた上で、そこからまた新曲書くからね。毎回そのぐらいは候補に挙がるよ。だから絶対外れる曲が存在するんだけど、それだって別に上から順位をつけて9曲なり10曲をすくい上げてるわけでもないんだよね。良い悪いってのはないから、難しいよな」

-- 『Shot』のように割とゆったり目の重みのある曲は、確かに『NAMELESS RED』のオープニングとは趣が違いますものね。

T「そういう事。まあ『Shot』に関しても、もともとはもう少し速かったのを敢えて落としたんだけどね」

R「タイトルもずっと『Shot』って呼んできたからそのまま使ってるけど、今一つショットっぽいイメージじゃなくなったもんな。でもそこが面白いって言うかな」

-- ふつふつと煮えたぎるマグマのようなメロディに、敢えて「激流」とか「濁流」っていうマインドを込めるような物ですかね。

T「あはは、そうそう、面白い」

-- ありがとうございます。『I WILL.I DIE』は、これはどちらの作曲か分からないです。

T「一応翔太郎だけど、サビの部分は俺も一緒に作ったよ」

-- そうでしたか!レコーディングを拝見させて頂いた時、衝撃的でした。ちょっと、感想を口に出来ないぐらいでしかたから。

R「どういう意味?」

-- ドーンハンマーでこういう曲やるんだ!っていう(笑)。

T「ちょっと裏切りに近いもんね」

-- いい裏切りだと私は思いますけどね。徹頭徹尾音圧とスピード重視のデスラッシュで攻めて来られた10年でしたから、そのベストアルバムのラストがミドルテンポのヘヴィロックなの!?っていう。言っていいのかどうなのか、その時は迷って何も言わなかったんですよ。いやでも、…うーん、凄い!あはは。

R「良い曲だと思う?」

-- 思いますよ!当たり前じゃないですか!コーラス録りの時、皆さんの温度の高さに感涙しまくりでしたよ。これはファンも大喜びで大合唱するでしょうね。

R「温度の高さか。うん、それは保証する」

-- もうここまで来るとコーラスが課題なんて言えませんよ。相当格好良いです。翔太郎さん、大成さん、繭子というバック3人のレコーディング風景を拝見しましたけど、自然と拳握って体が揺さぶられました。

R「あはは、そりゃ良かった。具体的に何が変わったと思う?」

-- 待ってました。繭子がバックでデスボイスコーラス当ててるおかげで『芯』がありますよね。

T「ああ、なるほど(笑)」

-- 竜二さんが今回割と歌う事に関して余裕があるように感じるんです。手を抜いてるとかではなくて、スピードがゆったりしている分グルーヴィーですし、いつもより歌心が光って聞こえます。そこへ被さる男性二人のさすがの声量と、繭子の芯のある声がぴったりマッチしていますよね。狙ってやってるんでしょうか?

R「結果論に近いんだけどな」

-- そうなんですか?

R「そのまま地声で叫ぶとどうしても女声だから、あえて低めの声でシャウトさせるわけだ。そうすっとどうしても声量だけで言えば他二人には負けちまうから、コーラスの中でも繭子の声を少し前に出すように調整して」

T「そのおかげで、そこのパートに関しては竜二よりバックの方が印象として残りやすいアレンジになったんだ」

-- 確かに物凄く耳に残りますよね。ずーっと聞いていたくなるんです。

R「おお、いいねえ」

T「翔太郎が言ってたんだけど、別に遅い曲を作ろうと思ったわけじゃならしいよ。でもサビらしいサビが思い浮かばないまま、AメロBメロで気に入ったフレーズがもう書けちゃったんだって」

-- サビへ行くまでの段階でコーラスが多様されていたので、最初は『ここがサビなのかな?』って思いました。初めてのタイプですよね。

T「そうそうそう。竜二にちゃんと歌わせようと思ってたらすげえテンポ遅くなっちゃったんだけど、これどう思う?って言われて。もう鳥肌立つような曲書いてるから慌てて俺も参加して、絶対ボツらせないように工夫したんだけど、結果一回ボツってるんだよね(笑)」

R「あはは。まあ『ネムレ』にはちょっと違うもんな。けど今回俺が短いフレーズを気持ちよく叫んでる裏で、コーラスが熱いリズムを取ってくれてんだよ。ノリノリだったもん歌入れん時。確かに俺もあーいうのをこのバンドでやると思ってなかったから、久しぶりに若返った」

-- 若返った!?

R「あはは!なんつーか、うん。クロウバーとはまた違うんだけど、気負いもない楽しいだけの歌っていうか。特に世界観みたいなのもなくて、…本来あいつが曲書くと急き立てられるような展開が多いからな。今回のはアンセムみたいな感じがしてさ。皆で大合唱して、ウオオみたいな。歌詞はまあ、昔の『ALL HUMANS WILL DIE(やがて死ぬ)』の流れをくんでるから、アレなんだけど」

T「どっちなんだよってな(笑)」

-- 音はしっかりがっちりのヘヴィロックで、この曲に関しては完全にデスラッシュ要素はありませんね。抵抗はありませんでした?

R「それはないかな」

T「ニューアルバムじゃなくてベスト盤のボーナス的な位置づけがぴったり嵌る曲になったよな」

R「そうそうそう」

T「何度か言ってると思うけど、ああいう曲自体は好きだしね。ライブてやろうとあんまり思わないから収録しないけど、普通に曲書いてりゃそら遅いのも出来るよ」

R「結局『END』を入れるのやめたり、新譜の方におまけでマユーズが付いたりっていうのがあるからな。こっちのバランスとして、ドーンハンマー名義であの曲をやれたのは自分としては嬉しかったな。良い曲だと思うよ、あれはほんとに」




-- 『FIRST』からは2曲ですね。ここを3曲にしてくるんじゃないかと個人的には思ってましたが、外れました。

R「それはやっぱ、アキラ時代って意味で?」

-- そうです。この一枚しかありませんから、もう少しスポットを当てるのかなーと。

R「うーん(笑)。何が正解で何が不正解は分からねえけど、正直ベスト盤自体には特別な思い入れはねえからな。前も言ったけど、レコード会社が企画して俺らがそれに乗っかるみたいな、置き土産みたいな意味の作品だし、アキラのドラムに焦点当てたいとか考えた事ねえよ、俺はね。だからそれを言うなら、そのまま『FIRST』聞いてくれよって」

-- あはは、なるほど。あえて2曲に絞る事すら本来は…。

R「俺はね(笑)」

T「最初のアルバムだし、そういう意味ではもちろん思い入れはあるよ。そりゃあ竜二だって絶対それはそのはずだし、実際選曲する時一番揉めたのもここだしね」

-- そうなんですか!

T「揉めたって言っても喧嘩じゃないよ。割と他のアルバムの曲ってのはすんなり決められたんだよね。これだろっていう曲が一致する事が多くて。でも『FIRST』に関しては選ぶ基準がそれぞれ違ってたね」

-- なぜ『FIRST』だけズレたんでしょうね。

T「繭子だよな」

R「うん。…あいつはやっぱりアキラへの思いが俺達の感覚と違うっつーかさ。どちらかと言うと時枝さんみたいな考え方をするんだよ。特別視というか、別枠というかね。今回選んだ『IMMORTAL WORK』って曲は、知ってると思うけどアルバム一発目ではないわけ。でもおそらく定番としてはファーストアルバムの一発目を持って来る事多いだろ、こういうオールタイムベストって」

-- 確かにそういう傾向はありますね。バンドの歴史を振り返る上で重要なスタートラインですからね。『IMMORTAL WORK』は3曲目です。

R「絶対これがいいですって繭子が選んだのがこれでさ。まあ、やっぱりドラムが特徴的な曲じゃんか、言ってしまえば」

-- はい、確かにその通りですね。

R「良い曲だと思うよ、もちろん。これが駄目ってんじゃねえけど、アルバム全体から2曲って枠を作った時に、これか?ってのはあったけどな。まあまあでも、繭子がそこまで言うんなら、いいかと(笑)」

-- 繭子が言うなら?

R「単純に嬉しいからね。あいつが自分の意志を貫こうとする姿勢を見たり聞いたりするのは。普通に、ガっと意見してくる事すら稀だからな」

T「曲数を増やすっていう案はなかったけど、でもそれぞれ言いたい事がちょっとずつ違って面白かったよな」

-- なるほど。私が、2曲で良いの?と思ったのもその辺りと関連性があるように思います。この曲を選ぶなら、枠は3曲必要だったんじゃないかと。

T「やっぱりこれに関しては、『アキラ枠』だと感じたわけだ?」

-- まあ、正直に言うと、そうですね。そうかもしれないな、程度ですけど。

T「なるほどねえ。さすが時枝さんだ」

-- いやいや。

O「ほんっとに良く見てるね。よく考えてくれてるし」

-- ただ単に好きなんですよ、こういう事考えるのが(笑)。

R「そこに関して思ったのがさ。穿った考え方かもしんねえけど、だから敢えて2曲のまま押し切ったっていう事でもあるんだよな。大成が今言ったけど、結局じゃあ3曲にするかとは誰も言わなかったけど、思ってはいたと思うんだよ」

T「うん。面倒臭がり屋の翔太郎なんかは特にね。身も蓋もない事になるの分かるから言わなかったみたいだけど」

O「まだやってんの?とは言ってたよね(笑)」

-- ああ(笑)。でも、やっぱり深いですね。竜二さんの仰りたい事はすごく分かります。

R「うん。一周回って、繭子の選んだ曲が正解かもなって、ちょっと思ったし」

-- そうですね。『アキラさん枠』を設けた事でもう一つ曲を増やしてしまうと、そこに別の意味合いが生まれてしまう気もしますね。オールタイムベストという考え方で行けば『アキラさん枠』という発想イコール『FIRST』時代そのもの、と考えるべきですよね。

O「スゴイ! 何この子(笑)」

-- あはは!

R「繭子もきっとそういう事が言いたいんだろうなって思ったんだよ」

T「今日も冴えてるなあ。まあもう一曲の『RHIZOME』に関してはアルバムで一番テンション高い曲だし、さすがに全員一致だったけどね」

-- 珍しいタイトルですよね。地下茎の事ですよね、植物の根。

T「良く知ってんね!」

-- もちろん調べましたよ。私以前までは皆さんのルックスや音からしてこういうちょっとビジュアル系っぽいタイトルのイメージがなかったので、面白いなーなんて思ってたんですけどね。今はしっくりきます。

R「え?俺らビジュアル系?」

-- いや、言葉の意味です(笑)。

O「あはは、これもだから、アキラ時代の4人だった頃を象徴するナンバーだよね」

-- グッときますよねえ。翔太郎さん戻って来られる前にひとしきり泣いておこうかな(笑)。

O「ハンカチ用意しないとね」

R「ちゃんとカメラの電源落としてからじゃねえと」

T「証拠残すとややこしいからな」

-- や、優しい。

(一同、笑)




-- 年明け一発目に、繭子と話をしたんです。その時アキラさんについてもお伺いしました。

T「うん。織江から聞いた」

-- ああ、ええ。

O「なんかね、今だから言うけど年末にさ、繭子と大成と3人で話してたでしょ? 大雪の日、隣(会議室)で」

-- はい。

O「あの後ね、大成が私に言うのよ。もうすっごい嬉しくなるんだよーって」

T「あはは」

-- 何でしたっけ?

O「時枝さんはあまり自覚していないのかもしれないけどね。繭子って、私達と話をする時と、あなたと話をしている時では表情から口調から丸っきり違うんだよって、この人が教えてくれたの。知り合って10年以上、毎日顔を合わせて、寝食を共にする勢いで一緒に生きて来たけど、それでもあの子は私達に礼儀を忘れないし、本当にちゃんとしてる子なのね。だけどあなたと話をする時は、それこそ同世代の友達と笑い合いながら話してる感じなのが、見てて新鮮だった、それだけで凄く嬉しくなっちゃってさーって言うわけ。何それ私も見たい!ってなって」

-- ええー…。えへへ、うーん、あはは、…どうしましょう。

R「電源切るかい?」

-- いいです、もうありのまま行きます。

T「あははは!」

O「それがあったからね、年明けの単独インタビューの時に居座っちゃったの」

-- そうだったんですか!全然気が付きませんでしたよ。

O「やっぱり見れて良かったよ。うん、すっごく楽しそうに喋ってたもん繭子」

R「へえ。俺も見てえな」

-- 私はそんなに変化があるように感じないんですけどねえ。

O「だって繭子が誰かを弄ってるトコ見た事ないもん。これまで何度もインタビュー映像チェックしてきたけどさ、やっぱり現場で顔を見ながら話を聞くと全然違うなあと思って。あの子私達以外の人と話す機会ほとんどないし、これまでだって社外の人相手だと割と平坦な話し方をする子だったの。だからもうビックリした。ボケるし、突っ込むし。本来そのポジションは誠なんだけどね、なんか、繭子楽しそう!って感動した(笑)」

-- 女版・伊澄翔太郎ですね(笑)。

R「あははは!それきっと繭子は喜ぶんだろうな」

O「ねえ、妬いちゃうでしょ」

R「メラメラだよくっそー」

T「なはは」

-- うふふーん、私からはもう何とも言葉が(笑)。

O「それでさ、アキラの事を楽しそうに話してるあの子見ててね。あー、これは本当に繭子にとって必要な時間だったなあ、時枝さんに感謝しなきゃいけないなあって思ってたんだよ。あ、ごめんね、口挟んじゃって。どうぞ」

-- 織江さんずるいですよ。そんな風に言われて『えへへ、感謝してくださいね』なんて絶対言えるわけないじゃないですか!

T「言った方がきっと面白いけどね」

-- 無理です(笑)。

R「アキラの話って、どんな話だったんだ?」

O「繭子との思い出話」

R「あー、もうバンドやってる頃の話か」

-- そうですね。やはりこないだのお話もそうですけど、私その人単独のエピソードを知る事よりも、誰か別の人の目を通して見た人物像を知る事に意味があると感じていて。

R「繭子の目から見たアキラって事?」

-- そうです。それは繭子だけに限ったことではなくて皆さんにとってのアキラさんとは、というお話にもなるんですけど。

O「バイオグラフィを作りたいわけじゃないって言ってたもんね」

-- はい、その通りです。彼が何をしてきたかではなくて、皆さんににとってどういう人であったのか。そこを辿る事の方が大切だと思っています。なので先程ベスト盤収録の選曲で一番揉めたという話を聞いただけで、実はぐっと来てました(笑)。

R「早い早い!」

T「まあでも、最近俺らも人の事言えないよな」

R「確かになあ。それで言うとさ、俺最近誠の話ダメなんだよ。ツボ」

T「ツボ!?」

O「面白い感じになってるよ?」

R「ツボじゃない。なんていうの。すぐ泣いちゃう奴」

-- 弱点ですか?ウィークポイント。でもツボとも言いますよね。それは誠さんの話をするだけで、という事ですか?

R「そう。これまで全然そんな事なかったんだけど、一旦出てって帰って来てからのあいつの顔見るだけでちょっともう、変なふわふわした感じになるしな」

O「それって、好きになっちゃったんじゃないの?」

R「今更か!?」

T「あはは!あー、だったら面白いなあ。全力で翔太郎と揉めて欲しい」

R「なはは!」

O「駄目だよ何言ってんの(笑)」

-- めちゃくちゃ言いますね。竜二さんとしては、やっぱりちゃんと帰って来れて良かったなあっていう思いが強いわけですよね。

R「うーん。…まあ病気の事は大きいよな、もちろん。知らなかったわけだからビックリもしたし。ただそこが一番問題なんじゃなくてよ。なんつーかな。…これまで特別意識してなかったんだよ、あいつの生き方や生き様や、その…努力とかそういう物全部」

-- はい。

R「言い方悪いけど、側に翔太郎がいるんだから俺が心配するような事もねえしって。もちろんもしなんかあった時はなんでも相談に乗るし、それは大成とも前々から話してた事ではあるけど、別に普段は、何もそんな、…うん。そもそも出来は断然あっちの方が良いわけで、頭の良さとか要領の良さで言ったら織江並だと思うし、安心して見てた部分もあったからさ。だから余計となんだろうな。去年の夏にあいつが消えちまった時、俺はこれまで一体あいつの何を見てたんだよって愕然としたし、誠がこれまで生きて来た時間や通って来た道の険しさってものを、改めて考えるきっかけにもなったんだよな」

-- はい。

R「…大丈夫?」

-- はい。

R「安心して見てたって言ったけど、それはあいつが頑張って来た結果そう見える人間になれたって事であって。あいつの人生は順風満帆とは真逆だったって知ってたはずなのに、何を勝手に安心してたんだ俺はって自分に腹が立った。夏の後に翔太郎と一回だけ話したことがあって。…特に誠の名前は出さなかったけど、『行けるか?』って聞いたら『正直、きつい』って言ってて。そらそうだろうなって思って適当な相槌しか打てなかったよ。だって考えてみりゃあ、ノイがいなくなった時の事やアキラが死んだ時のあいつ思い出してみりゃあよ、どう考えたって平然としてられる男じゃねえんだよ、翔太郎って奴は。なあ」

T「(頷く)まあね」

R「そこはでもあいつは男だから。…死んだわけじゃねえしって、そう割り切る事で男として格好つけようと踏ん張って立ってたんだよ。けど絶対、何も感じねえわけねえんだよ。逆に本気でそうなら俺友達やめるわ」

O「言い過ぎ」

R「いやいや」

T「まあ、…うん」

R「でもなあ。…そもそもあいつが弱音吐くなんて絶対ないから。だからそれを聞いちまって俺の方がちょっと折れた部分あるもんな。これは、とんでもねえ事になっちまったなあって。でもなんだかんだ、繭子も織江も、色々気を使って見守ってくれてたし」

O「当たり前でしょ、そんな事」

T「うん。時枝さんも助けてくれたしね」

-- 私ですか!?

O「そりゃそうだよー。翔太郎が冷静でいられたのはやっぱり時枝さんが側にいたからっていうのもあるよ?」

-- いやいや、何を仰るんですか。ただただ本当に強く優しい方なんですよ。なんだかんだ言って、凄い御人なんです、翔太郎さんはとても。…とてもとても、タフで、ああー、駄目だ。

O「そんなの分かってるよ。でも強くなくたっていい場面でも強がれたのは、彼にとっても助けになってたと思う」

-- いやいや。

R「ま、そんなこんなでよ。翔太郎に関して言えば心配は心配だったけど、忙しさもあって時間は止まらず過ぎ去ってくれたわけだよ。ガキの頃から知ってる分、最後の最後は絶対に折れない奴だっていう信頼もあるしな。…問題は誠だよ、だから」

-- はい。

R「帰って来てあいつの変わらない笑顔を真正面から見た時に、…なんて言うんだろこれも、分かんねえけど。出会ってからこれまであいつがしてきた頑張りの結果がこれかよ!って。どこに怒りをぶつけていいのか分からねえけど、それまで意識してなかったくせに勝手な言い草だってのもテメエで分かってっけどよ。…ああ、こいつ本当すげえなあって、改めて思える人間だって事に気づかされたというかね」

-- はい。

R「あいつが帰った来た日にさ、俺になんて言ったか知ってる?」

-- いえ、聞いてないです。

R「知ってる?」

T「誠が?」

O「知らない。何て?」

R「『結構ドラマチックな人生ですけど、まだ誠っていう曲書いちゃダメですよ。まだまだやりますから。続き、ありますから』って」

-- うわ!…うわ!

O「あいつめー」

T「あー、それはちょっと、俺もダメだ…」

R「うっすら涙浮かべた目で、笑ってそうやって言うわけ。だから最近誠の顔見るとやばいし、誠の話をするだけでもやばい」

T「今もちょっとぎりぎりだからね、これ」

-- はい(笑)。

O「ああー、私アウト。時枝さん一緒にメイク治しに行こっか」

(一同、笑)




-- 敢えて今、アキラさんの記憶で一番強く残ってる思い出にタイトルを付けるとしたら、何になります? 繭子は『スイッチ』だそうです。

O「あはは」

R「スイッチ?何それ」

-- 今話すと私脱水症状起こすかもしれないんで直接繭子に聞いてください。

R「なんだそれ(笑)。ふーん、タイトルねえ。何が良いかな」

T「歌詞書いてるボーカリストとしては、やっぱり一味違うねっていうタイトルが欲しいね」

R「お前は?」

T「アキラかあ」

少しの沈黙を経て、伊藤の挙手。

-- じゃあ、織江さんから。

O「『カオリ』」

-- なるほど、そう来ますか。

T「あ、それいいなあ。話しやすそう。じゃあ俺はあれかな。『約束』」

-- ああ、聞きたいですねー。これは素敵なタイトルですよ、竜二さん。

R「ああ、じゃあ俺『約束2』で」

(一同、笑)

T「クリエイターが一番やっちゃ駄目な二番煎じを堂々と持ってきたな」

R「じゃあ『約束2 ~青空の彼方に~』」

(一同、爆笑)









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