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「芥川繭子という理由」  作者: 時枝 可奈
37/77

連載第37回。「ひとつの世界」

マユーズの新曲制作と、ミュージックビデオの撮影が終了した。

本来ならば許されない程の近い距離で、彼らの笑い声を聞き、涙を見た。

あの時間に私が目撃したものは、苦悩を乗り越えた先に力業で幸福を持ってきた、男達の優しい眼差しだったと思う。そして目の前にどんと置かれた素敵な宝物を見た芥川繭子の笑顔と、彼女を思うバイラル4の面々が流した涙は、音楽人としてよりももっと深く、そして大きな音を響かせていたように思えてならない。

だが一つだけ私の中から拭い去れない疑問が残った。

何故、今回の企画に「彼女」が呼ばれなかったのか。

はたまた、依頼はしたが断られたのか。

あるいは、参加したかったがどうしても調整がきかなかったか。

もしくは、それ以外の理由があるのか。



いつだったか、繭子が私に打ち明けた言葉がある。

『女性としての理想は関誠。人間としての理想が伊藤織江。だけど、もし今すぐ誰かに成り代われるなら、URGAさんになってみたい』



芥川繭子をしてそう言わしめた彼女の魅力というものをいつか私なりに探ってみたい。

そういう思いも私の中で漠然と広がっていた所へ、伊澄翔太郎の口から新曲を書いたと報告を受けた。ニューアルバムに収録する曲ではなく、URGAの為に書き下ろした曲だと言う。自分達がアメリカに行ってしまう前に、彼女との約束を果たさぬわけにはいかないという思いがあったようだ。忙しい時間の合間を縫って連絡を取り合い、URGAが書いた詩に、伊澄が曲を付ける事でその曲は完成した。



2016年、12月2日。

場所はURGAのプライベートスタジオ。

本来ヘヴィメタル専門誌の記者である私が訪れる機会など永遠に来ない筈のない場所に、その日私は足を踏み入れた。そこは意外な程、良い意味でニュートラルな空間だった。イメージだけで言えば、オーガニックでフレッシュなアロマの香りに満ちた空間を想像していたが、温度、湿度、全てが丁度良く、鼻の奥をクスグルいかなる匂いも漂ってはいなかった。

だが玄関に入って彼女が姿を現した瞬間、URGA自身が身にまとう優しい匂いに包まれて、なぜだか泣いてしまいそうになったのを、昨日のように思い出す。

ドーンハンマーに負けず劣らずお忙しい身でありながら、今回の取材を二つ返事で受けていただけたことを心から感謝いたします。




URGA、単独インタビュー。


-- なんだかお久しぶりな気がします。

「そうだね。どうぞ」

-- お邪魔します。ご自宅兼スタジオなんですね。

「そ。結構頑張っちゃいました」

-- (笑)。素敵なお家ですねえ。これぞまさしく、住む世界が違うというやつです。

「まあまあまあ、それ以上お褒め頂いても嬉しいですけど、お宅拝見みたいになるから、とりあえずはそのへんで」

-- はい(笑)。

「そこ座っててくれる。お茶入れますね」

-- すみません、お気遣いなく。

「そんなわけいきますか。お酒もあるけど、まだ早い時間だし、ワインぐらいにしておく?」

-- どういう計算式ですか(笑)。水かお茶でお願いします。

「私飲むけど?」

-- 釣られて飲みたくなったりしないので大丈夫ですよ。

しばらくして湯気の立ち上るお茶とホットワインをトレイに乗せたURGAが戻ってきた。

「何か食べる?」

-- 本当にありがとうございます。何気にとても緊張してますので、おそらく全く食べれません(笑)。

「緊張してるの?」

-- やばいぐらい、してますよ。

シンプルでモダンな白い木製テーブルを挟んで向かい合って座ると、私の言葉にURGAは微笑みを浮かべ、私の顔を見つめたまたホットワインとお茶の場所をスっと入れ変えた。思わず声に出して笑う。何故だろうか。相手の緊張のほぐし方や優しい素振りが、どことなく伊藤織江を想起させる。私が彼女をすぐに好きになったのは、そこも関係しているかもしれない。(※ 伊藤から、その例えは失礼にあたると掲載不可のダメ出しが入った。しかしURGA本人がそれを突っぱねた)

-- あのスタジオにいる時にこれを言うのは、なんだか憚られる気がしたので言いませんでしたが、実は私も大ファンです。結果的に全く違うジャンルの音楽ライターをしてますが、アルバムも全部持っています。

「ワオ、ありがとう。…あのね、世の中にはDVDっていう素敵なアイテムがあってね」

-- あははは!

「知ってた? 10枚ぐらい出てるの」

-- はい、存じげています。もちろん所有しています。

「そ? 大変結構です」

-- あー、おかしい。今回こうしてご自宅にまでお伺いしたのは他でもない、ドーンハンマーのギタリスト・伊澄翔太郎さんとのコラボレーションについてお話をお聞かせいただく為です。これまで二度、お二人揃ってのインタビューを弊社で収録させていただきましたが、今回はスケジュールの関係上URGAさんお一人となります。

「逃げやがってさー」

-- (笑)。とんでもないですよ。もちろんご存知だとは思いますが。

「事前に断りの電話はあったけどね。逃げやがってーって言いました」

-- 直接仰ったんですね。翔太郎さんはなんと?

「ん、なんか言ってた気もするけど、普通の返しだったから面白くないよ」

-- そんな無敵のURGAさんに早速聞いていきたいと思います。まず、曲のタイトルは『ひとつの世界』です。これは歌詞を書かれる前から決まっていたとお伺いしていますが?

「うん。言葉としてどういったものを選ぶかは決めてなかったけど、こういう物を形にしようという思いは最初からありました。実際歌詞に出てくる主なフレーズは英語だけれど、思い描いた世界観にぴったりとはまる言葉は『ひとつの世界』というものでした」

-- 初めてURGAさんの口から、翔太郎さんと曲を作ってみたいという提案を聞いた時、2パターンあるなと思ったんです。URGAさんの世界に、翔太郎さんの色を混ぜて形作るか、もしくはまだこの世にない世界を2人で作るのか。主にアーティスト同士のコラボだと、今ゆるフィーチャリングという形の前者が圧倒的に多いわけですが。

「そうですね。一番初めにパっとインスピレーションが浮かんだのは、もともとある私の曲を彼にアレンジしてもらったら面白いんじゃないかっていう思い付きがあって。そういった所から今回の話は始まっている気がします」

-- 翔太郎さんのギタリストとしての技量と、表現力を高く評価しておられましたね。

「うん。…だけど知り合って少し経つから言っても良いと思うんだけど、大きいのは、人間性かなあ」

-- ミュージシャンとしての側面と、彼本来の人間力と。

「そうだね。良い言葉だね、人間力。一緒にやってみたいと思うからには、何かしらの魅力がないとね。別にそこは男性としてどうこうという事ではなくて、音楽家としての生き方だったり、人としての在り方だったりというのを私なりに見て、この人は私とならどういう音を出すんだろうなあ、どういうアレンジで世界を作り上げるんだろうなあ、という部分に強く興味が湧きました。そこがスタート地点ですね。まあ、技量だけ見てもピカイチですが」

-- 今こうして一曲仕上げてみて、作り手側から見た率直な感想をお聞かせください。

「はーじーめーのーだい、いっぽ!だね」

-- 可愛い(笑)!

「そうだろう?」

-- (笑)。曲の完成度ではなく、これから先を見据えた展望に気持ちが傾いていると。

「もちろん素晴らしい曲が出来たと自負しています。これまで私が歌ってきたどの歌とも違う、意義のある存在になったという自信もあります。だけど一番強い思いは、今回の曲は生まれたばかりの赤ん坊のような歌だなということ」

-- これから歌い続ける事で成長していく楽曲であると?

「そういう意味でもあるし、また違う意味も込められています」

-- なんだかURGAさんのお話を聞いていると、とてもわくわくしてきます。

「ありがとう(笑)。…今回作詞がある程度終わって、こういう方向性の曲なんだけどっていうお話を持ち掛ける時に、私の歌詞を読む前に、翔太郎くんが言った言葉があって」

-- 歌詞を読む前ですか。

「そう。『前もって言っておくけど、いわゆる作曲能力で言ったら、うちの大成の方が優れてるよ』って」

-- ははあ。なるほど。

「これまで私が歌ってきた歌を思い浮かべてそう言ったんだと思うんだけどね。曲調とか、世界観とか。それから、それでも俺に歌詞を読ませるっていうなら、後になってやっぱり大成が良いって言ったって譲れなくなるよって。それでもいいの?って」

-- うふふ、はい。

「カチンと来たの」

-- ええ?そうなんですか(笑)。私なら照れるぐらい嬉しいですけど。

「あはは。うーん。なんだろうな。…誤解を恐れずに言うと、選ばせてあげるよ、っていうスタンスに腹が立ったの。上手に曲を書く人がいいでしょ。でも一旦関わったら俺にも意地があるよ。…そんな事さ、言われなくても分かってるよ。だってそもそも私から言い寄ってるわけだからね、このお話は」

-- そうですね。

「私が翔太郎くんにお願いしてるのに、その翔太郎くんが自分よりいいやつ紹介しようかっていうのは、優しさではないよねえ」

-- 確かにそうですね。弱気な発言とも取れますよね。

「だから言ってやったの。私を疑うな、って」

-- 凄い。力強い言葉ですね。

「そしたら、そうだね、ごめん。って謝ったから許したんだけど」

-- あはは。

「でもそこからは早かったなあ。歌詞を読んでもらう前に、私の方からも説明した事があって、そこを理解してもらえるかどうかが全てだったから、そこをクリアできた事で、完成までの道のりはただただ楽しい時間でした」

-- コンセプトのようなものですか?

「コンセプト。そうだなあ、そう呼んで差し支えないかもしれないなあ」

-- どこかしっくり来ていない感じですね。

「曲に対するって言う事では、ない気がします。今回に限って言えば、そのコンセプトすらも、お任せしたかったので」

-- ですが歌詞をお書きになられたのはURGAさんですし、形にしたい思いというものがもともとおありだったんですよね?

「そこが難しいので、歌詞を読んでもらう前に説明したという事なんですけど。私が翔太郎くんに話したのは、『世界』についてなんですね」

-- 『ひとつの世界』の、『世界』ですか?

「いろいろな世界です。これは言葉で説明する事にとても勇気がいりました。抽象的すぎて、哲学的だったり、宗教的な観念が入り込んで来そうになるからです。だけど私が想像している『世界』はもっと日常的です。過去、現在、未来。私のいる世界。翔太郎くんのいる世界。今を生きているすべての人に、それぞれの世界がある。そしてそれらが、この地球上の同じフィールドにおいて、時間や空間や文化を共有している事の不思議。これもまた言い換えれば大きな世界の在り方の一つです。私には私だけの世界があるのに、別の視点から見れば私の世界は、翔太郎くんの世界でもあったりする。どこまで交じり合っているのか、交わっていくことが出来るのか。あるいはまったく交わることのないまま一生を終えていく世界もある中で、こうして出会えた奇跡。世界って、とても便利な言葉だなあと思っていて。今、私の頭の中にあるのも世界だし、心の中に広がるものも世界だと言い換える事が出来ますよね。そうして多角的に見る世界というワードを、人の一生になぞらえて表現し続けていきたいなあとういう思いが、私の抱いたテーマです」

-- 実に壮大ですね!

「そうでしょう。だから、この話をした後に、翔太郎くんに頭を下げてお願いしました。どうか、名曲にはしないでください」

-- え、おあ…え?

「いいリアクションだ! 100ポインツ!」

-- えへへーっと(笑)、翔太郎さんはそのお言葉を聞いて、すぐに理解されたんですか?

「私はそう思います。ちょっと卑怯なやり口だったし、言い方は悪いけど、試した部分もあるんですよね。そしたらさ、彼はこう言ったの。120点の曲を作るんじゃないくて、80点の曲をたくさん作るの?って」

-- なるほど!一曲で終わらせないために、ですか。それで、はじめのだいいっぽ、なんですね。

「そうです。彼はやっぱり見込んだだけの事はあったね。頭の良い人だった。この曲は第一歩なんだよ。…例えば、このたった一曲を生み出すために私は生まれたんだ、私は歌っているんだ、とか。そういう大切な歌はさ、私が私自身の力で死ぬまでに辿り着くのが正解だと思うし、例えそんな曲が書けなくたって、思いを込めながら人に寄りそう歌を歌っていく事が使命だと感じているから、そこは私だけの物。そことは別に、いつまでも変わらない確かな気持ちを感じていたいっていう話をしたの」

-- URGAさんにしか成しえない事だと思います。

「ありがとう。私来年で20周年なんです、実は」

-- はい、存じ上げています。

「これまでにも色々なミュージシャンの方たちとお仕事をご一緒させていただいて、ありがたい事にとても波長の合う方や素敵な音色を持ってらっしゃる方とお近づきになれた事で、今自分の中にある言葉やメッセージなんかは、簡単ではないけれど、ほぼ思った通りの形にすることが出来る環境にいます。これは本当に幸せな事で、感謝の言葉が足りないくらいなんですけど、そういうこれまでのキャリアとはまた違う道の先にある歌を、残して行きたいなと、思い至ったんです」

-- 違う道の先にある、歌。

「んー。簡単に言ってしまえば、遊び心です」

-- ええ!? 壮大なテーマから一転、実は遊びの感覚でもあると。

「ライフワークってよく言うじゃないですか。一生をかけて行う事業とでもいいますか。そういうものにしたいんです。だけど、それって自分一人で行う分にはいいですけど、他人を巻き込む事には勇気がいるじゃないですか。普段私が行っている楽曲制作も言わばライフワークなんですけど、そこには責任感や重圧や、孤独なんかもぴったりとくっついて来ます。それはお仕事である以上当然の事だし、それがあるおかげで実現出来る事だってあります。それが20年続けてきた私のキャリアです。今回想像したものは、そんな私がなんのプレッシャーもない状態で自由に遊べたら、どんな歌を歌えるのかな?という好奇心からです。そこを理解してもらえるかが私にとっては全てでした。その第一回目の曲を、翔太郎くんにお願いしたいです、と。そういったお話です」

-- 翔太郎さんは、なんと御返事されたんですか。

「素敵だよ。『一回で終わり?』だって」

-- うーわあ、凄い。

「凄いよね。私どこかで、色んな否定の言葉が返ってくる事を予想して身構えてたの。忙しいから無理だよーとか、抽象的過ぎでついてけないよーとか、何で一発目が俺なんだーとか。何かしらグサっとやられるだろうなーって」

-- そういう言葉もなく。

「少し、考えてはいたけどね。だけど、余計な事は何も言わずに、分かったって。分かった、いくらでも曲書くけど、一回で終わり?って」

-- 嬉しいですね!

「そうだねえ。リップサービスだっていうのは顔を見れば分かるんだけど、良い人だなあって感心した。そんな事言って調子にのった私が、じゃあ目指せ100曲って言ったらどんな顔するんだろうとか思ったもん」

-- あはは。おそらくですけど、それでも「分かった」と仰る気がします。

「そうなんだよね。だから怖くて言えなかったです」

-- (笑)。ですが、一つ疑問に思ったのが、今URGAさんが仰ったような壮大で素敵なコンセプトを、いわゆるご自身の本筋と呼んで良いか分かりませんが、今後のアルバム制作の基盤とされる事は、お考えにはならなかったんですか?

「もちろん考えました! だけど、縛られるのは嫌だなあという思いも同時に考えたんです。これは私だけではないですけど、歌の中に、自然が出てくる歌詞って結構あるんですね。雨とか、風とか、空、夜、海、星。これも言い換えれば、自然をコンセプトにした楽曲と言えなくもないですよね。だけど、私は自然をテーマに歌を歌います!なんて言おうものなら、永遠に尽きる事のないテーマに縛られて制作の喜びを見失う事になるかもしれない。世界と言う大きなテーマもそうだと思うから、そこはお仕事ではなく、もっと気楽に、自由に捉えて行く事が大事なんじゃないかなあと、思っています」

-- なるほど。遊び心を持って臨むぐらいが丁度良いと。

「そういう事です。だけどおかしなもので、自分がメロディを付けるわけじゃないって思って書く歌詞って、なんでだろうって思うぐらい色々詰め込んじゃうんですね」

-- あはは、そうなんですね。

「自分でも、これは一曲目だしあんまり肩に力を入れすぎない方がいいな、簡単な歌詞の方がメロディも色々アレンジしやすいだろうなって分かってるんです。入りきらない思いはまた次の曲で書けばいいんだって分かってるんですけどね、なんだか書いてるうちに泣けてきちゃって」

-- そこにはやはり、曲を頼む相手が翔太郎さんだという思い入れもあるのではないでしょうか。

「うん、正直に言います。そうだと思う(笑)。なんか勿体ないよなーとか思っちゃいました。4分とか5分の曲に全部こめらんないよーとか勝手に『うわー』ってなって。『違う違うこの一曲で終わりじゃない、あー、でもせっかくだし色々言いたいー!』って」

-- あははは!URGAさんでもそういうジレンマあるんですね。

「あるよー?なんでー?」

-- 天才肌だと思っていたので。そういう努力の痕を見せないというか。

「まあ、聞かれないと自分からは言わないけどね」

-- それで、今回7分という超大作に仕上がったわけですね。

「ギターとピアノだけっていう軽いアレンジの割りに長くなったのはやっぱり歌詞が多いせいと、翔太郎くんの見せ場というか、聞かせ所を挟んでもらっておかげだよね。もう聞いた?」

-- はい。すみません、毎日聞いてます。

「どうかなあ」

-- 一番初めに聞いた時、曲の完成度や世界観よりまず先に「うわ、二人だ」っていう喜びを感じて、気持ちが温かくなりました。

「グーレイトー!」

-- それはこちらのセリフですよ(笑)。

「ありがとう。もう、すっごいすっごい嬉しい。そういう感想が聞けるとは正直思ってなかったよ」

-- 私はこれまで主にメタルバンド専門で記者をしてきたせいもあって、割と音先行で聞いてしまうんです。4人と5人でも全く違いますし、3ピースでもびっくりするぐらいクッキリガッチリした音を出すバンドもいます。だけどそれがバンドである以上、やはり音の塊って大事じゃないですか。どれだけクリアな音を出していても、それぞれが分離しているバンドなんて魅力的には聞こえないです。そう言った意味で、バンドではなく、ソロでもない、URGAさんと翔太郎さんという天才二人の出す音がこれ以上足しても引いても駄目なくらい、嫉妬するくらい2人じゃないと駄目だっていう音になっているのを聞いてまず、「これだ!」って思いました。

「よし!このインタビューはここまでだ!飲もう!」

-- あははは、またですか(笑)。

「気分が良い!朝まで飲もう!」

-- もう飲んでるじゃないですか。

「そうでした。取り乱しました。続けて」

-- ですが、びっくりしたのが、思ってた以上にドーンハンマー感強いですよね。

「そうなの!あはは!あ、笑っちゃった。でも、あの人結局そうなんだよね。まあ、結果的にそれが功を奏したと自分では思ってるので、良しとしようかな」

-- 最初から最後までこちらで制作されたんですか?

「きちんとしたレコーディングは別のスタジオで行いました。お互い忙しいので、各々持ち帰ってアレンジを考えたりというのはあったけれど、打ち合わせとか実際の音合わせなどはここで全部やりました」

-- バンドサウンド以外で聞く翔太郎さんの泣きのギターやアコギ、URGAさんのピアノ演奏やバイオリンの音も少しありますよね。音に関しては、どのような制約を設けていたのでしょうか。やろうと思えば、色々な可能性があったと思うのですが。

「今回アレンジを全て翔太郎くんに任せるつもりでいたんだけれど、それだと自分がここへ来て顔を見ながら作る意味がないから、一緒にやった方が楽しいと言われて、そうかもしれないなと思いなおしました。その中で気づいたのですが、意外と彼も触れる楽器が多いんですね」

-- そうですね(笑)。ベースならまだしも、ドラムさえ叩けますからね。

「ね。私もそれこそピアノだったり、バイオリンだったり、フルートだったりっていう音は出せるし。じゃあ、それらの楽器を全部使って二人で出せる限界の音を出してみようかっていうアレンジも一応試してはみました。だけどそうなってくると、とても楽しい音にはなるんだけれど、不思議とこれは全く違うなという感想が一致して」

-- お二人が音を出して、うまくはまらない事なんてあるんですか。

「はまるかはまらないかで言えば、きっとはまるよ。はまらない状態でOKしない2人だしね。一応保存はしてあるから後で聞いてみる?実際完成した曲とは180度違う物に聞こえると思うよ」

-- 是非。では、もともと抱いていたイメージとかけ離れてしまったという事でしょうか。

「そうです。もっと言えば、この先もし2人で舞台に立つことがあった場合、とてもじゃないけど二人で鳴らすには忙しすぎると(笑)。バイオリンだけ最後に少し余韻を残すために使いましたが、基本的にはギターとピアノだけで行こう、と」

-- ステージでメンバーが出せない音はいらないというドーンハンマーのポリシーに近いものがありますね。

「あ、それも言ってたかもしれない。だけど、出せる出せないにかかわらず、そもそも…なんていうか、大きな音は必要じゃなかったんですよね」

-- 二人である事に意味があるんですよね。

「そうだ!今日も冴えてるな!」

-- ありがとうございます(笑)。

「曲の持つ顔というのが、テンポに表れてるなーと思っていて。全く速い曲ではないけれど、展開が多かったり、歌メロが割と特徴的なので、そこで大きな音や印象的な使い方をしてしまうと、ハードロックに近いイメージになっちゃうんですよ」

-- なるほど。確かに音ではなくてURGAさんの歌声で曲が進んでいくような印象ですもんね。

「どちらかと言えばそうですね。だけど、だからと言って音を軽んじるわけにはいかないので、そこは何度も色んなアレンジを試しました」

-- 先ほどもドーンハンマー感が強いと言いましたが、やはり、翔太郎さんは独特なギターリフを持ち込んできましたね。

「それはやっぱり、嬉しかったね」

-- あ、そうなんですね。

「そりゃそうだよー。自分らしさって言ってもいいのか分からないけどさ。彼は激しい音を出す事を生業とするバンドのギタリストでしょう? 人が聞いてさ、あ!伊澄翔太郎の音だ!って分からせることの大切さは、私も共感出来るからね。そこを曲げない人じゃないと、一緒にやる意味がないとさえ思うかな。彼は私のサポート役ではないから」

-- 確かにその通りですね。それでは実際に、翔太郎さんのギターリフを体感して、彼のギターに乗せて歌ってみた感想をお聞かせ下さい。

「それはねえ。そもそも印象的なフレーズをギターで作んなきゃいけないっていう発想が私にはないから、ギターリフというものの強みや効果的な使い方っていう意味では、多分彼がバンドで出している時の方が何倍も強烈なんだと思うな。今回はアコギだしね。でも私が好きだったのは、彼がイントロや伴奏で効果的に使うフレーズが、きっとボーカルである私の気持ちを引っ張り上げるためにここへ持って来てるんだろうなっていう、心意気? そういうのが見えて。分かりやすく言うと、超気分がイイ!ってなったね。あと何度も何度も一緒に合わせて歌ったから分かるし、今更、改めましてなんだけど、本当に巧いんだよね、翔太郎くんはね」

-- そこはもう、そうですねとしか言えません(笑)。プロのミュージシャンが口を揃えてベタ褒めなさるので。

「ねえ。めちゃくちゃ歌いやすいですよ。主張するとことしないとこの線引きが分かる人だし、ただ間違えないだけでじゃなくて彼自身に心の余裕があるからさ、私の声を聴きながら並走する演奏レベルが抜群に高い。これは一緒にやってるバンドメンバーも楽だろうなーって、あ、楽とか言っちゃうと失礼か。でもそう思う」

-- それでは実際、翔太郎さんと曲作りをされて、驚いた事や印象に残った事などをお伺いできますか。

「全部だよねえ」

-- (笑)。先程、コンセプトを理解してもらってからは早かったと仰ってましたが、作業自体がサクサク進んだという意味ですか? それとも意思の疎通がとり易かったという意味ですか?

「どちらの意味もあるかもしれないなあ。前に、あっちのスタジオで対談した時に、なんでそんなおかしな曲の作り方するんだ?って疑問に思ったの覚えてる?」

-- もちろん。仮音源を作らないでその場で創作し続ける手法ですよね。

「そう。それを今回初めて体験したんだけど。思ってた以上に心地良かったかな」

-- そうですか!

「最初はちょっと恥ずかしかったけどね」

-- 恥ずかしいと仰いますと。

「もう出来上がってる歌ならいくらでも、どこでだって歌えるんだけどね。まだ歌メロも確定していない鼻歌レベルをマイク通して他人に聞かせるのって、意外と勇気がいるんだよ(笑)。なんだそれは、って言われる可能性もあるわけだし、本来そこは他人に聞かせないからね」

-- そうかもしれませんね(笑)。

「そこもちょっと凄いなと思ったのは、前にもチラっと言ったかもだけど、そういう部分で気恥ずかしさとか躊躇とか全くない人なんだよね。なんなら私が歌うより先に歌って『こういうのは?』って言ったりするの。はー、凄いなーと改めて思った。真面目で、誠実で、集中力を切らす事のない体力を持ってる。初めてみるタイプの人だね」

-- 非の打ち所のない…。

「そんな事はない。非は一杯ある」

-- あははは!しまった、また馬鹿笑いしちゃった。

「あるよ。あるある。まあ、そこは彼の名誉を守ってあげよう。…でまあ、歌に関してはそういう具合に2人で交互に歌いながら作り上げていく過程が新鮮で、彼が明るい笑顔で良いねって言えば嬉しいし、逆もまたしかりで。ドーンハンマーはいっつもこうやって作ってるんだなーって思うと少し羨ましくなったよ」

-- なるほど。目に浮かぶようです。今回、歌詞が長いせいか、あるいは意図的なのかは分かりませんが、所謂AメロやBメロがとても複雑ですよね。あえて言うならサビまでの間にDメロまでありませんか。

「あります(笑)。抑揚をはっきりと付けながら歌う場面も多いね」

-- たゆたうようなメロディで壮大なアレンジをなさるイメージのあるURGAさんとしては、珍しい曲調だと言えなくもないですよね。

「実際音源化している曲を並べてみた場合、確かにそんなに多くはないよね。だけど色んな歌を歌いたい人間でもあるから、こういうのは避けたいなっていうメロディは実はないんだよ」

-- ご自身がそうだとして、作曲されたのは翔太郎さんですし、驚きはなかったですか?

「そう来たか!っていうのはあったよ。単純にサビに辿り着くまでが長いのも面白いと思ったし。もちろんサビの盛り上がりも頑張ったけど、でも最終的にはサビよりもずーっと聞いていたいAメロが書けて嬉しいって言ってたのが印象的だなあ」

-- それは私も感じました。名曲ってサビだけじゃなくてその他の部分がとても印象深い物ですよね。

「そうだね、そう思う。今回は歌詞とメロディとあと歌い方。長い曲だし展開も多いからだけど、歌い方も色々変えて、ダブルボーカルにしようかと迷ったくらい抑揚のメリハリが大変だった」

-- 低音が凄いですよね。普段URGAさんは伸びのある高音や声量たっぷりに聞かせる音階が素敵ですが、実は低音も凄いぞ、と。

「ワンダフォー!」

-- それはこちらのセリフです(笑)。

「じゃあそう言って!」

-- 言えませんよ、馬鹿にしてんのかって返されちゃいますよ(笑)。

「言わないよー、別にいいのにー。そう、でも今回ね、曲調がドーンハンマーっぽいっていうのは正解でさ。メロディのテンポはそんなに速くないけど、言葉数が多いせいでずーっと歌ってるイメージある所が似てるんだよね。実際歌ってるんだけど。音はバンドサウンドじゃないから、ヒップホップみたくならないように気を付けた」

-- なるほど。しかし大成さんが曲を書いていれば、多分こういう作りにはならなかっただろうなとは思います。

「そうなんだ。やっぱり全然違うの?」

-- 完成した曲を聞いて聞き分けられるのはファンだけだと思いますけど、やっぱり違いますね。翔太郎さんの場合、印象的なフレーズが浮かんだとしてもそこをサビに持ってこずに、ご自分のギターリフとして使う人なので。

「あ、そうかも。サビに関しては2人で作ったようなもんだし。だけど今回も一応、竜二くんの時と同じように、頭から最後まで歌詞と睨めっこしながら書いてくれたみたいだよ」

-- まさか、また1日で書いたなんて言わないでしょうね(笑)。

「さあ、それは分からないなあ。ここに来てからも、ここ座って書き書きしてたし」

-- そうなんですか!見たかったなー。私今まで一度も、曲を書いている姿を見た事はないんですよ。

「なんだか、いつでも曲を書いてるイメージがあるけど?」

-- あはは。確かに常時、かなりの曲数、ストックをお持ちです。私フレーズを思いつく瞬間には立ち会った事あるんですけど、それを曲として採用して譜面を書いている場面は見た事がないですねえ。

「話しかけ辛い雰囲気だよ。頼もしくはあるけどね。でも、もしも次の曲を作るとなったら、大成くんにお願いするのもありだね」

-- ドーンハンマー推しが凄いって他のミュージシャンから嫉妬されますよ(笑)。

「あははは、確かにそうだ。だけど翔太郎くん本人は点数付けなかったけど、私は70点取るつもりが100点取った気でいるからね。次が誰であろうと、比べられるのは嫌だろうね」

-- そう思います。ここ最近ドーンハンマーの曲よりも、竜二さんの曲や繭子の曲、URGAさんの曲と言ったソロに近い感覚の歌を聞く事が多いので思うんですけど、とんでもない名曲が次々と生まれる事に心底驚いています。

「『still singing this!』でしょ。アレも凄いねぇ」

-- あ、お聞きになられましたか。

「聞いたよー。大成くんなんでしょ? 名曲だよね。なんなら翔太郎くんに、歌えよーって無茶ぶりしたぐらいだし」

-- あははは。

「ちょびっとお酒の力を借りてね。一緒に歌ってあげるからさあって」

-- おおお、URGAさんバージョンも凄そうだなあ。

「いやー、私にはああいう繭ちゃんみたいな歌い方は出来ないなあ。結構喉の筋肉を酷使する歌い方だよね」

-- そうだと思います。以前竜二さんが仰ってたのは、敢えて潰しにいって強くするんだと。

「ね。あ、でもそうだ。撤回しなきゃ」

-- 何をです?

「翔太郎くん、歌下手じゃなかった」

-- あはは。それ実は繭子も首を捻ってましたよ、そんなはずないけどなーって。

「やっぱりそう? 電話あってさ、この曲とこの曲をリクエストしてみてください!って言われて。面白い子だよねえ」

-- (笑)。えっと、それは『still singing this!』を歌う翔太郎さんの歌が上手かったと?

「ううん。UP-BEATの曲」

-- 『夏の雨』ですか?

「あ、知ってる?私気づいたんだけど、彼歌は上手いけど、英語が苦手だね」

-- もー、リアクションしづらいなあ(笑)。だけど、これを言ってもいいのかずっと悩んでいたのですが、今回繭子をボーカルにして製作された例の楽曲に、この1年バンドと深く関わってこられたURGAさんが参加されなかった事は、少し残念な気持ちもありました。

「ああ、…あはは、うーん。それはねえ。…もう制作自体は終わってるんだよね?」

-- はい。

「んー、ならいいかな。どの段階かははっきり知らないんだけど、翔太郎くんから話は聞いてたよ。あとオリーからもね」

-- そうでしたか。

「私は繭ちゃんがそれをどう思うか分からないんだけど、彼女自身にとってとても大切な歌だと聞いていたから、その大切な部分に触れて良い人達だけで作るのがいいんじゃないかなあっていう返事はした。複雑なのはさ、翔太郎くんやオリーは声を掛けてくれるじゃない。でもそれはきっと繭ちゃんにとって必要だからじゃなくて、後になって知る事になる私に気を使ってくれてのことだろうなって思ったの。なんか、それは嫌だなって思って」

-- なるほど、そうでしたか。

「んー。本当はこんな話もしちゃいけないんだろうけどね」

-- いえ、繭子自身が気にしていたので。

「そうなの?」

-- はい。ただ、今回コーラス参加やPVに参加した顔触れとURGAさんでは大切のカテゴリーが違い過ぎて、誘い方が分からなかったんだと、そういう言い方をしていました。寂しい顔をしていたのが印象的でした。

「どういう意味だろう」

-- 要は、繭子もURGAさんの歌にパワーも貰って生きて来た一方的なファンですから。その部分と、自分を若い頃から見て来たバイラル4の面子とでは同列に扱えないと。誤解されたくないので前もって言っておきますが、私もPVに一瞬だけ出させていただきました。でもそれは私が馬鹿みたいにバンドを追いかけ続けた事へのご褒美なんだと解釈しています。必要とされたという認識ではありません。

「うーん。難しい話になってきたね」

-- 本当は繭子が自分で声を掛けたかったんだと思います。今回プロデューサーを務めたのは翔太郎さんで、繭子自身は一切口出ししていません。しかし自分で誘おうにも、敬愛して止まないURGAさん相手に、一ファンである彼女が、お遊びバンドでPV撮るんで手伝ってください、出演して下さいとは言えないと。ただ、今でも後悔はしているようです。

「そっかあ。色々気を使わせちゃったねえ」

-- 翔太郎さんが考えなしにバンバン声を掛けてるからおかしな事になってますけど、繭子も私も、本当はこうしてURGAさんとお近づきになれた事を未だに信じられない思いでいますから。

「あはは。まあ、そうかもしれないね。そもそもお互いが、普通に生活してて仲良くなる種類の音楽をやってないもんね」

-- もちろんそれだけが理由ではありませんが、それもありますね(笑)。

「だけど、あ、私全然怒ってるとかじゃないからね。逆に、こう、乗っかって行ってあげられなかった自分にちょっとイラっとした思いがあって」

-- ええ!? もう、泣きそうなくらい優しい人だなあ。

「いやもう、泣いてるのと一緒、その目は。はい、これ使いなさい」

-- すみません。

手渡しで戴いたティッシュはとても柔らかく、何故だかとても温かかく、とてもいい匂いがした。

「翔太郎くんにはね、直接会った時に話を聞いたんだよ。こういう事を考えていて、こういう事をやろうと思うんだけど、また助けてくれないかなっていう風にね。あはは、またゲスト参加かよっていうオチは置いといて。なんにせよどんな形であれ関われる事は私にとっては嬉しい事だから、本音はどうでもいいと思ってるんだけどね。だけどよくよく聞いて、ちゃんと話を聞くうちに、ああ、これは、翔太郎くんや周りの皆の優しさや愛情から来る物語なんだなあって思ったの。仮に繭ちゃん本人から話を聞いていたとしても、私は気持ちの面でぐっと前のめりにはなれないなって思ってしまって。後になって、考えすぎなんじゃないか、私にもやれる事があったんじゃないかなって。真面目ぶって、偉そうに値打ちこいてる場合か!そんな人間だったか!って後で自問自答して。滝に打たれろ!って(笑)。私は私でちょっと落ち込んだんだけどね。だから実を言うとさ、今回私の曲を翔太郎くんと一緒に作ってる間中ずっと、その事で愚痴ばっかり言ってたんだよ」

-- そうだったんですか。でも繭子、喜ぶと思います。

「そう? だと良いな。だからそこも申し訳なかったな思ってるんだよね。私の方からしつこいくらい曲書いてってお願いしておいて、いざ書いてくれたら今度は違う話の愚痴ばっかりこぼしてさ、なんだよこいつって思われただろうなと思う」

-- 翔太郎さんですか?いやいや、大丈夫ですよ。

「顔に出さないでずっと笑ってくれてたから救われたけどね。後になって自分に腹が立ったよ。きっとね、自分の中にあったテーマが他人にはとても理解力を必要とする難易度だろうなって自覚してたからだろうね。拍子抜けするくらい簡単に『分かった』って言ってもらえた事で、心の重しが取れてダー!って全部流れ出ちゃった、みたいな」

-- URGAさんにとっては、簡単な話ではなかったわけですね。

「もちろん不安はあったよー。全然理解してもらえなかったらどうしよう。ちゃんと説明できるだろうか、とか。逆に、全然理解してもらえなかったとしたら、それでも私は翔太郎くんに曲を書いて欲しいとお願い出来るんだろうかって。思い続けられるんだろうかって」

-- ああ、なるほど、そうお伺いすれば確かにそうですよね。

「今更狭間で揺れ動くのは嫌だな、しんどいなあって、不安だったけどね。全部綺麗にフタが取れたみたいになって、ちょっと聞いてー!って愚痴ばっかり」

-- (笑)。具体的な返事はあったんですか?

「愚痴に対する?あったかなー。全部相槌だった気もするな。そういう所も人の扱いがうまいというか、やっぱり優しい人なんだろうね」

-- そうですね。そう思います。でも意外です。

「私?どうして?」

-- あまりそういった、不安定さと言いますか、揺らいだり不安がったりするお姿を想像出来ないです。いつも自信に満ち溢れた方だとばかり。

「自信の種類にもよりますね。もの凄くある部分と、全然ない部分と」

-- 歌い手としては、私はあなた以上の人を見た事がありません。

「ありがとう(笑)」

-- もちろん、ミュージシャンとしての自信はおありですよね?

「どうかな」

-- ええ!?

「誰かに必要とされる、思い出してもらえる存在であり続けないと、私は歌っている理由を自分に言い聞かせる事が出来ない。…うん」

-- 好きだから、ではダメですか。

「私は、ダメだと思います。いつかURGAでいることを諦めて、家のキッチンで思い出したように鼻歌を歌う理由ならそれでも良いと思うけど、私がURGAでいるうちはダメだと思う」

-- それはプロフェッショナルとしてという意味ですか。

「生き方だね。存在意義かな」

-- なるほど。ビジネスの話ではなく。

「関係ないことはないけどね、もちろん。だけど根本に、そういう誰かにとっての特別でいることが出来ないなら、私の歌は誰にも届かないのと同じことだし、そうなればこの世界にいる意味もないでしょ。だから繭ちゃんの件に関して私は、もしかしたら必要だと言ってくれた誰かの手を、あえて掴まなかったのかなぁって」

-- URGAさんにとっても、悔いの残る一件だったわけですね。

「あちら側の企画にとっての善し悪しは分からないけどね。自分の中では、ちょっと情けない結果になったなって思ってます」

-- そこを踏まえて考えると、今回翔太郎さんとの共作が満足のいく楽曲に仕上がって本当に良かったと心から思えます。

「そうだね。本当にそう。さっき言ったみたいなね、愚痴をポロポロこぼしながら作ってるとね、めっちゃいい笑顔で笑ったりするの。口では、馬鹿にしてんのかーなんて言ってたけど、大分救われたよ。あ、これ伝えておいてね」

-- ご自分でどうぞ(笑)。

「おおー!言うようになったなー!」

-- またひとつ夢が叶いましたね。

「1年以上かかったけどねえ。でも最高にい嬉しいし、幸せな事だよ。生きてれば良い事って起こるもんだよね。辛い事も一杯起きるけどさ、その次にやってくる幸福の切なさとかさ、儚さなんかもひっくるめてさ、今回の経験はちょっと特別なご褒美だと思いたいね」

-- それはきっと、翔太郎さんにとっても同じ事が言えると思います。

「ありがとう。時枝さんて凄い人だねえ。実は私事前に聞いてたの。時枝さんって人はいきなりど真ん中の核心をバシーンと突いてくる鋭さを持ってるよって」

-- 誰にですか? 翔太郎さんですか?

「全員だよ」

-- ふえええ。

「愛されてるねえ、可奈ちゃーん」

-- 滅相もないです(笑)。でも光栄です。繭子の話で言えばもう一つ。以前彼女が言ってたことがあって。



『私誰かに憧れてばっかりで、影響受けまくりで、自分っていうものがいまだによくわからない事があるんだよね。環境は最悪だった時もあるけど、人に恵まれてどうにかこうにか生きてるトコあるから、そういう人達の気持ちに報いる為にも今の自分を好きだと言い続けたいし、生まれ変わっても私になりたいと思ってるよ。だけど今すぐ、もしも他の誰かになれるよって言われたら、私はURGAさんになりたいかな』



と。私がそう言った瞬間URGAの両眼から驚くほどのスピードで涙が溢れた。ぎりぎりで堰き止めていたのだと思う。図らずして心の防波堤を決壊させてしまった私は狼狽え、テーブルの上にあった彼女のティッシュを箱ごと手渡した。




「孤独。うん、孤独感はずっとあります。悲しい意味だけではないですけどね。

一人で戦う事も時には必要だって思ってるタイプの人間だからかなあ。

例えばピアノの前に座って、深呼吸して、思うまま鍵盤に指を走らせて、

震えるくらい感動的なメロディが書けたとするじゃない。

きっとその時私は涙ながらに、どうだ、これはすごいぞ!って思ってるの。

だけど、周りを見渡してふと気づくんだよ。私は一人だって。

そうだよ?一人だよ。

誰かに届けることを常に想定しながら生きてる私みたいな人間は、

特に強くそれを意識しますね。

色んな人の顔を思い浮かべるだけに、余計とね。

責任感とかプレッシャーとか、そういう事も関係してるかもしれないけど、

精神的な部分が一番大きな割合を占めている気がします。

この曲を良いと言ってくれる人はいる。一緒に演奏してくれる人もいる。

好きだと言ってくれるファンもいる。

だけど、最後の最後に、自分を信じ続ける事が出来るのは自分だけなんだっていう思い。

…覚悟。

誰に何を言われようと、自分の背中を押してゴーサインを出せるのも自分。

当たり前の事のように思うかもしれないけど、ヨロヨロとよろけながら、

壁にぶつかりながらも前に進んでいくことの大変さは、

結局孤独に耐えた自分にしか分からない事だと思うんですよね。

もちろん、周りの人たちへの感謝を思わない日はないよ。

そのことと、私の、内なる孤独感は別もの。

今日も私は歌っているけれど、私は今日も、誰かにとって必要な人間だろうか?

私にとって、この世界はたった一つ。

この世界にとって、私の歌は必要だろうか? 特別だろうか?

信じていたい。私だけは、私自身を。…そんな感じです。

そうやって毎日、孤独と共に生きている私が、

ああ、一人じゃないって良いなーと思えた今回のコラボは、

本当に心から幸せな時間でした。

さっき言ってもらえた、『二人だと思った』っていう感想が、

実は私が強く実感していた事でもあるので。

だから、二人で作った意味や感触がそのまま伝わる音や、歌や、

世界に仕上げることが出来た喜びは、私の新たな自信につながりました。

そこに対する感謝の気持ちの全てを、言葉で伝えきる事は出来ないけれど」




後日、この日のインタビューを振り返って伊澄と話をする機会を得た時、私は思い切って聞いてみた。愚痴ばかり零していたというURGAに、正直どういった気持ちで接していたのかと。その時浮かべた笑顔の意味は、なんだったのだろうかと。伊澄翔太郎はこう答えた。



「何言ってんだ?って(笑)。…そりゃそうだろうよ。どこまで本気で言ってるか分からない人だろ。でも仮に、100%本気で、そんな心配をしていると仮定してもだよ。少なくとも俺は、俺達はあの人の歌を必要としてきたしこれからもそうだって言い切れるから、なんの問題もない。あの人がどこにいたって、俺たちがどこにいようと、死ぬまで歌い続けてくれる事を願ってるよ。あの人が今日も、明日も明後日も歌い続けている限り、ひとつの世界がそこにあるっていう、安心感を抱いて俺たちは生きていける。そう思わないか? だから意味ないんだよな。愚痴も、不安も、心配も、あの人には必要ないし意味なんてない。よく言うだろ。他人の悩みなんて聞いてるだけでいいって。言ってる本人はその時すでに自分なりの答えを見つけてるもんだからって。あん時もそんな感じだったんじゃないかな。繭子のために、自分にもできることがあったんじゃないかって。そんな事さ、考えてもらえるだけで十分だよな。気持ちはわかるけどね。俺や他の奴らだって、そう思って生きてきたわけだし。だけどさらにそこを飛び越えて、自分の歌が誰かに必要とされてるか不安になるとまで言うんだよ。笑えるよな、そこまで行くと。自分を誰だと思ってんだ。URGAだぞ?って。あはは、そうだろ?俺さ。正直言うとさ。もしかしたら彼女は人間じゃないんじゃないかって。そう思った事が何度もあったよ。俺みたいにさ、周りに色々適当な言葉並べたてられて、よく分かりもしないくせに天才とかギフトとか。あんたの事言ってんじゃないよ。…でも。俺達の立ってるフィールドとは全然違ったよ。こう、…スタンドマイクに右手で触れながら、集中力を高めるためにあの大きい目を閉じて、顔を上に向けるわけ。ファって目が開いて、何かを探すように天井を見つめて、もう一度目を閉じる。そっから息を吸って、ブワって吐き出される歌声がさ。あれ、これ本当に人間が出せる声かって思うぐらい立体的なんだよ。音って振動だろ?目の前だけじゃなくて、見えない空気全部にあの人の声が入ってく瞬間はもう、…凄い。うん、…ほんっとうに凄いね。竜二の声のでかさとはちょっと意味が違う。それでいてあのユーモアのセンスだろ。ちゃんと人を笑顔にするもんな。…特別だよあの人は。前にも言ったろ?今の世代ではあの人がナンバーワンだって」





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