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「芥川繭子という理由」  作者: 時枝 可奈
30/77

連載第30回。「スイーツと酒」

2016年、10月22日。

雑談、芥川繭子。

会議室にて、「スイーツを食べながら」。



-- まだメンバーの誰にも言ってない秘密とかある? 例えばサシ飲みした時に酔ってこんな話を聞いたけど、誰にもバラしてないネタがあるとか。

「それあっても言えないじゃん」

-- あ、本当だ。

「終ーー了ーー」

-- 待って待って、ごめん待って(笑)。じゃあ簡単な話から行くね。前に、うちの編集部から質問カードを預かってたの。そんなのいちいち相手してられないから自分の仕事優先してきたけど、丁度いいから消化してくね。

「また食べながらでいい?」

-- 全然かまわないよ、というか食べてる所ビデオに撮られてて平気なの?

「全然大丈夫。エロい?」

-- まいったな(笑)。繭子ってそういうトコちゃんと分かってるんだよね。分かってて、どうでも良いよって切り捨ててる部分があるのが凄いよね。そういう質問もいくつか来てたよ。

「そういうってどういうんだよ(笑)」

-- <本誌読者投票で何度も1位に選出されたことのある芥川さんにお伺いします。ご自身で点数をつけるとするなら、バンドマンとして何点、女性として何点ですか>とか。

「点数の話、前にしなかった?」

-- したね。120点だったよね。じゃあ、女性としては?

「女性としてはゼロ点じゃない?所謂女性らしい生活とか動きをしないもんね」

-- 笑ってるけどさ、本当にそう思ってる?

「なになに、なんで。本当は~?みたいな話?」

-- だってゼロなわけないし。

「自分でつけろって言ったんでしょーが。じゃあトッキーが何点か付けてよ」

-- スイーツ食べてる繭子は500点だね。

「ぶっはあ!すげー点数出ました。そんな質問つまんないってー」

-- そうだね、私もそう思う。前にね、大成さんと話をした時に、メンバーとどこかへ出かけたりしないんですかって聞いてみたの。

「うん」

-- 飲みに行ったりはするけど休みの日に遊びに行ったりはしないって。

「遊びって何?どういうのを想像してたの?」

-- なんだろ、…動物園とか。

「あはは!…はあ?みたいな顔されない?」

-- うん、ちょっと嫌な顔されたもん。

「真面目なくせしてたまに変な事言うよね」

-- 面目ない。私が想像してたのはさ、スタジオ以外でも普通に友人としての交友が今でもあるかないかっていう話なんだけどね。

「交友? ちょっと今更な気がするね。知ってると思うけど、3人共小さい頃からの付き合いだし、交友を深める必要はもうないんだよ。だから用がない限りスタジオ以外で会う事ないんじゃないかな」

-- そうみたいだね。練習終わりで飲みに行く事は多いの?

「あるにはあるけど、多くはないね。全員でとなると年一回二回くらいじゃないかな。皆車だったりバイクだったりだし、大成さんと私は街中に出る前に部屋着いちゃうもんね」

-- そっか。

「あるとすれば翔太郎さんの車で竜二さん家まで行って、そこから歩いて飲みに行くパターンだけど、だからそれもあんまりしないしね。面倒臭いからって。そもそも、練習ある日に飲みに行く余力を残さないけどね」

-- あはは。そうだね。翔太郎さんと竜二さんはお酒強いらしいね。

「あの2人は別格だね。昔から対バンとかで結構な数のバンドと打ち上げしてきたけど、あの2人以上の飲兵衛にはいまだに出会った事ないよ」

-- あ、そんなレベルで凄いんだ。庄内も強いんだけど、よく2人の話はしてるよ。『人ではない』って言ってる。

「ああ(笑)、一緒に飲んだ事あるよ。あの方も相当だね」

-- そう。会社で懇親会とか飲み会とかあっても、最後の最後まで普通にしてるもんね。

「それは凄いね(笑)」

-- 逆に助かるよね。あそこまで強いと、中途半端に酔って面倒な事態起こさないし。

「それはちゃんとしてる人だからだよ。お酒に関して言えば竜二さんも翔太郎さんもちゃんとしてないもん」

-- そうか(笑)、そうなんだね。お酒に関する話は長くなりそうだね。

「そうだね。庄内さんと違って、ずっと変わらないわけじゃないんだよ。普通に酔っぱらってるんだけど、いつまでも飲み続けられるみたい。でもやっぱり心配にはなるよ、どっかでいつか体が爆発するんじゃないかって」

-- 爆発!?

「ああんと、ガタが来るみたいなね」

-- ああ、そうだよねえ。スタジオで飲む姿をほとんど見ないから私は笑って聞いてられるけど、昔からそういう姿を見てると心配だよね。酔って絡まれたりはしないの?

「絡まれるとかはないよ。ただ酔ってる時はめちゃめちゃ怖いから、あんまり近づかないかな、特に竜二さんはね」

-- 怖いったって別に何かされるわけじゃないんでしょ?

「うん、されたことないしね。何かされるから嫌なんじゃなくて、単純に怖いの、オーラが痛いというか。そこは翔太郎さんの方がまだいいかな。あの人も怖いんだけど普段とそこまで変化がないから、話してる分には全然いつも通り。でもオーラは凄いけど」

-- オーラってさっきから何なのよ(笑)。

「あははは、えー、何だろう。雰囲気、で良いのかな? なんか、体の周りにある体温みたいな膜というか。それがこう、ぶつかって来るような感じ」

-- あああ、でもライブ中とか練習中は、繭子もそういう雰囲気あるよ。

「あ、そうそう!そんな感じかも。こっちはスイッチ切ってるのにさ、いきなりライブ中みたいな圧を感じる事あって、痛いというか怖いというか」

-- なるほどね。繭子自身も、普段誰とも会わないの?

「メンバーと? 私は結構会ってるんじゃないかな。私友達いないから」

-- またまた。

「ほんとほんと。女同士ってなると誠さんと織江さんくらいじゃない、普段から連絡取ってるの。誠さんあんな感じでどっか行っちゃったし、全部織江さんに負担が行ってるよね。でも織江さんて本当に忙しいからさあ、最近ようやく気を遣う事を覚えた」

-- あはは、確かにそうだね。他のメンバーとは練習日以外にスタジオの外で会う事あるの?

「私はあるよ、全員の部屋行ったことあるし」

-- そうなんだ。それは一人で?

「一人でって?誰かと待ち合わせして、みたいなのはないよ。子供じゃないんだし。あー、でも竜二さん家だけないかな、部屋で二人きりになったことはないね」

-- そこらへんは一応ちゃんと気を付けてるんだ。

「気を付けるっていうか。…ううん。それ自体はどうでもいいけど、二人だとお酒飲んじゃうからね。間違いがあった時に気を遣わせるのが嫌なんだよ、お互いに」

-- …え、待って待って、これ大丈夫な話なの?

「エロい?」

-- エロいエロい。やばいやばい。え、ごめん、繭子ってそんな感じなんだ?

「そうだよ」

-- 間違いがあったらいけないじゃなくて、あった時に気を遣わせるのが嫌だから気を付けるんだ。

「早口言葉みたいだね」

-- いやいやいや、びっくりしたー。ドキドキしたよなんか。えー、だって、えー。

「何に驚いてるの?そこらへんの微妙な問題はとっくに話し合ってるよ。織江さんがそういう所ちゃんとしてる人だし、付き合うなら構わないけど、そうじゃないなら合意の上であっても間違いを犯さないでくれって、皆に話してくれたからね。結構年が離れてるから保護者の立場じゃないといけないのもあるしって。織江さんは社長だし、人格者だしね。よそ様のお嬢さんを預かる以上そこは絶対に守ってくれって」

-- うわー、もう泣きそうだよ今。うんうん、やっぱりそうだよね。

「ただでも、そうは言ってもさ。男と女なんて分からないでしょ」

-- んー、まあ、そうなのかなあ。

「そりゃそうだよ。間違う事だってあるでしょ。そこにおっぱいがあったら揉みたいだろうし、そこに〇〇〇が〇〇〇、〇〇〇たい気持ちになるかもしれないじゃない?」

-- アアアアアアア!! 今のはもうアウト!もう!使えないから!

「あははは、ごめんごめん。でもまあ、真面目な話、私もうすぐ30だしね。そんな子供みたいな扱いされても困るんだけどな」

-- それも分かるけどね。え、でも竜二さんだけなの、部屋で2人になってないのは。

「そう、だね。別に私が避けてるわけじゃないよ。向こうがあえてそうしてくれてるんだよ」

-- 翔太郎さん家に行って2人で何するのよ。

「こないだは、歌をうたった」

-- こないだ? 歌?

「翔太郎さん家って、防音設備のある部屋があるの。スタジオ程じゃないけど、ギター弾いても大丈夫だからさ、そこで一緒に『end』歌って。録音して。そうそう、言ってない話と言えばその録音テープは皆知らないかもしれない。結構あるんだよ、私が歌ってる歌」

-- 2人で休みの日に歌うたってんの?そんな昭和初期の高校生デートみたいな事してるの?すごいドキドキする。

「あははは、しないしない」

-- それはなんのためのテープ?

「趣味かな。私達の曲だけじゃなくて、翔太郎さん家にあるCDとかレコード漁って、選曲してもらったりして、カバーして録音して、みたいな遊び」

-- 例えば誰の歌?

「え、そんなの色々だよ。『ガスライトアンセム』っていうバンド分かる?」

-- 分からない。

「ほら、もうダメじゃん。私翔太郎さんの部屋のCD棚漁ってるだけで幸せ。宝の山なの」

-- あはは、今ちょっと思い出したんだけど、こないだ翔太郎さんとURGAさんのお話を聞いた時、はっきりと『歌手にはなれないね』って言ってたのが笑っちゃったんだけど。

「誰が? 翔太郎さんが? えー、そうかなあ、なろうと思えばなれる人だと思うけど」

-- それは身内から見た贔屓目じゃなくて?

「翔太郎さんが耳コピ凄いの知ってるでしょ。まあ、URGAさんや竜二さん程じゃないにしても、そこらへんの歌手よりは全然好きだけどなあ。あの2人いつもふざけてるし、冗談なんじゃないかなあ。翔太郎さんの歌うUP-BEATの『夏の雨』なんて絶品だよ」

-- そうなんだ。ちょっと下手なのかな、くらいに思ってたよ。

「下手じゃないよ。その時翔太郎さんは何を歌ったの?」

-- 私はその場にいないから聞いた話だけど、『END』の仮歌を適当な英語で…。

「ああああ、そんなの誰だってそうじゃん!だってまだ世の中にない歌だもん」

-- そうかもしれないね。てことは繭子だけじゃなくて、翔太郎さんも歌ったりするんだね。そこの空間だけめちゃくちゃレア度高い。カメラ置きたい。

「あはは、絶対ダメ」

-- なんでよー!そういう遊びをずっとやってるの?それ誠さんは何も言わないの?

「一緒にやってたし。最初に翔太郎さんの部屋に入れてくれたの誠さんだもん」

-- あ、そうなんだね。そうかそうか。…大成さん家には何しに行くの?

「ごはん食べに」

-- そうか、そこは、そうか。近いんだもんね。

「うん、入り浸ってる率で言えば圧倒的にここが多いよ。下手すると一日中リビングから動かない日もあるし。2人ともそんなにお酒強くなくて、あんまり飲まないから健全な休日過ごせるんだよ。ごはん食べて、織江さんと喋ってる、ずーっと。大成さんは部屋にこもるタイプかな。でもお風呂上りは上半身いつも裸だからさ、男の人の裸はあの人で免疫ついたよ」

-- そんな豪華な免疫の付け方あり?

「あはは」

-- 大成さんだよ?え、…大成さんだよ?

「(笑)、まあ、考えたらそうなんだけど。でも昔からだし。あの人の包容力って凄いんだよ、特に家にいる時の大成さんっていつもの5倍穏やかなの、めっちゃ癒されるし、織江さんも終始ニコニコだし」

-- あはは、そうなんだ。あー…だめだ、竜二さんと翔太郎さんの話のインパクトが強すぎて、全然ほっこりしない。

「(爆笑)!」

-- その、2人になるのは致し方ないとして、外へ出かけるっていう発想はないわけ?

「飲みに行く以外にはないね」

-- なんで?

「逆に何するのよ。例えば竜二さんと2人で街へ出て何するの。翔太郎さんと何するの?」

-- …動物園…。

「子供か!トッキーどんだけ動物好きなんだよ、動物園デートをしたい人なんだね。私ちょっと動物苦手だからなあ」

-- あはは。いやでも普通にありそうだけどな。映画とかショッピングとか、ドライブとか。

「んー、興味ないねえ。だってさあ、相手翔太郎さんだよ?言ってしまえば世界トップレベルのギタリストが目の前にいるわけだよ。そりゃ色々お願いするよ」

-- お願いって?

「よく言うのが、翔太郎さんの知ってる限りで今一番難しいギターフレーズなんですかって聞くと目の前で悶絶するようなプレイが見れるよ。私涎出たもん」

-- あはは!それは確かに凄い、涎出るわ。

「そう、本当に涎出て指ですくい取られたもん。その時舐めた指先がほのかに煙草の味がしてさ、うん」

-- もう、エロいって!ワザと言ってる? やめてよ、何が『うん』よ。

「面白いねえ、トッキー顔赤いよー。それもちゃんと書きなよ?」

-- なんで翔太郎さんとは2人になって平気なの? 誠さんがいるから? 今いないじゃん。

「うーん。正直今更もう関係ないかな。って前もさー、こういう話して私嫌がったのもう忘れたのー!?」

-- 忘れてはないよ。でもちょっと意外過ぎる話だからさ。

「恋愛感情なんてもうとっくの昔からないもん。それにお酒飲んで酔っ払って万が一そういう事になったとしても、後になって照れる程度で、私はそんな事で何かが変わるとは思わないよ。そんなんで傷ついたり嫌いになったり出来ないよもう」

-- 抵抗すらしないって事?

「抵抗? しないねえ、しないと思う。そりゃ『まじですか?』くらいは聞くかもしれないけど、なんか、溜まってるんだろーなーって、そのぐらい」

-- 衝撃的すぎる。なんでそんな風になっちゃったんだろうね、繭子。

「なんで?」

-- 自分を一人の女性としてもっと大切にした方がいいんじゃないかな。

「ああ、なるほど(笑)。そういう感じに受け取られるわけか」

-- 別に同情はしないよ。繭子の生き方なんだし。でもどっかでやけっぱちさも感じるんだよ。こんな事敬愛するバンドマンに本当は言っちゃいけないんだけど、女同士敢えて言わせてもらうと、そんな気がするな。

「うんうん、いいよ別に、ありがと。でもね、これこそ人気商売な側面があるから言ってはいけない気もするけど、私は、あの3人の事を周りが考えてる以上にすごく大事に思ってるよ。それと同じように、私は大事にされていると感じるから、だから結局同じ事なんだよね。自分を自分で抱きしめるんじゃなくて、常にこうやって、両手で器とか受け皿みたいなのを作って相手の下に構えてるような状態。私の事はきっとこの人達がなんとかしてくれる。だから私は何があってもこの人達をなんとかする。助ける。受け止める。支える。そういう考え方に、もうずっと前からなっちゃってるから。今更どうしようもないよね」

-- ああ、なるほど。そうかあ。別に自分を大切に思ってないわけじゃないんだね。

「うん。私以上に3人の方が大切っていうだけ」

-- そっかあ。聞いてみないと分からないもんだね。でも、うん、腑に落ちた。ちょっとまだドキドキしてるけど。

「あはは、そりゃよかったよ。ただの〇〇〇みたいに思われるとバンドにとってマイナスだしね」

-- だから!

「とんでもねえ女だな!」

-- こっちのセリフだよ!





2016年10月23日。

雑談、伊澄翔太郎。

スタジオにて、「バーボンを飲みながら」。



-- メーカーズマークです。取り寄せましたよ、ちゃんと。

「向こう(本場)の奴?わざわざ。高かったんじゃないの。ありがとう、悪いね」

-- ほどほどにしてくださいね。

「出しといて言うセリフじゃないな」

-- そうなんですけど。お酒強いとは聞いていますが、人の体には限界がありますから。

「これ一本で限界なんか来ない(笑)」

-- そうですか?

「一気飲みしても来ないよ」

-- またまたご冗談を(笑)。昨日、繭子と話をしたんです、プライベートな内容を聞いて行こうと思いまして。でも私、昨日程身に染みて翔太郎さんの言った『ヤバイ』の意味を理解した瞬間なかったですよ。

「そうだそうだ。昨日夜中に繭子から電話あってさ。珍しいなと思ったらその話だったよ。なんかちょっと喋り過ぎたから、聞いてダメだと感じた所は全部切って(消して)もらってくださいって。何の話したのあいつ」

-- うーんと。…その、彼女の奔放な性の捉え方というか。

「セイって?」

-- 男女の話です。

「…あー。そういう事だったんか。俺全然意味分かってなくて。眠いしさ、おう、おう、っつって何も聞かずに電話切ったんだよ。あー、そっち系の話はしちゃ駄目なんだよ、ヤバイって言っただろだからっ」

-- ごめんなさい。いやだって、『音圧ジャンキー』の話で十分キワドイ発言してたもんですからね。もうないだろうって思ってたら爆弾抱えて放り投げられましたよ。参ったーって。

「あははは!な、ヤバイんだってあいつは」

-- ヤバかったですねえ。でも結局ちゃんと話をして、ヤバイ以上の理解は深められたんで良かった面もありますけどね。

「まあ、ある意味歪んでるよな」

-- ある程度、想像はついていらっしゃいますか?

「ある程度はね」

-- 私はとても、健気で献身的だと感じました。それと同時にそういう関係を理解した上でちょっと楽しんでいる節も見受けられて、思ってた以上に彼女は大人でした。

「まあ、もう子供ではないよな。何を楽しんでるって?」

-- 翔太郎さんの部屋でいつも2人で遊んでるよ、と。

「言い方気を付けろ」

-- こういう感じで私を嵌めようとしてくるんです。

「っは! そりゃ踏み込んだアンタが悪いよ(笑)」

-- そうなんですけど。翔太郎さんの超絶ギタープレイに涎を垂らした話が、一番やばかったです。

「誰。繭子が涎? 何かな」

-- 難しいギターフレーズを要求した話です。

「んんーんー、はいはい。あー、美味い。いや、そんなさー、アダルトな話じゃないぞ。あいつ話盛るからな、言っとくけど」

-- え、そうなんですか。

「ああ。まだまだあいつのヤバさの神髄を見れてないよ。まあいいや、あいつ人の部屋来てさ、よくアイス食ってんの、自分だけ。それは別にいいんだけど、こう、右手に持ってさ、俺のギターをじーっと見てるわけ。食えよと。俺はそればっか気になってさ。溶けるだろそんなの普通に。早く食えよと。あははは、やっと食ったと思ったらずっとこっち見てるから垂れたりすんだよ。もおー!っつって」

-- あははは!ちょっと待って待って、あははは!

「そんなもんだよ、繭子なんて」

-- 繭子なんて(笑)。全然想像してた絵面と違いました。あ、聞きましたよ。翔太郎さん実は歌上手いそうじゃないですか。URGAさんがあんな事言うから下手なんだとばっかり。

「上手いとは言えないと思うぞ」

-- ご謙遜をー。

「いやいや、世界の歌姫が言ってんだから」

-- あはは。でも繭子の言う事も理解できるんですよね。

「そうかい?」

-- 15年も竜二さんの横で叫び続けてきた人の歌が下手なわけないでしょうが、って笑って言うんですよ。その笑顔に凄い説得力ありましたし、もちろん翔太郎さんの才能も知ってるわけですから、なるほどなーって。

「ふーん。ボーカルじゃないしどうでもいいかな」

-- 歌う事自体はお好きなんですか?

「好きじゃない」

-- ええええ。

「好きそう?」

-- そうじゃなくって。繭子と2人で歌をうたって休日を過ごすと伺ったもので。

「ええ…。女ってさ、なんで言うなって言った事簡単に言うの?」

-- 口止めされてたんですか(笑)。それは知りませんでした。

「まあ別にいいけど」

-- 優しいなあ。

「あ?」

-- なんでもないです。それはやはり繭子にせがまれて、歌ってあげる感じですか。

「繭子っていうか、誠だけどな。あいつって、まあ俺もそうなんだけど、基本的に構いたがりなんだよ。相手が誰であれ」

-- あ、分かります。人懐っこいですよねえ。

「え、今馬鹿にされた?」

-- してません、断じて。

「あいつら2人は年も近いし、何かと目を掛けてたというか。繭子友達いないし、俺も誠もいないし。構ってたというか、遊んでもらってたのが正解なんだけど(笑)。だから別に今になって一緒に歌うたったりしてるんですかー!って言われても、それはもう10年前からそうだからね」

-- なんだ、そうだったんですね。じゃあ、結構な量になってませんか、テープ。

「テープ?」

-- 色んな歌をカバーして録音してるって。

「ああ、それは割と最近かな。ここ5年くらい。パソコンに入ってるから別に嵩張りはしないよ。溜まってきたら焼いて保管してってるし。テープって(笑)」

-- 繭子こそボーカルになってたっておかしくない逸材ですよね。

「だからマユーズやってんだろ」

-- あ!そういう事なんですね。彼女をボーカルに置いたのは翔太郎さんなんですね。

「そうだよ。でもあいつの良さって本当はメタルじゃない曲で発揮される気がしてきた、最近」

-- そうですか?

「うん。一応、クロウバーの曲は全部歌録り終わったんだよ。別に作品出すとかじゃないよ。パターンとしてな、どういう曲があいつに合うんかなーって模索してて。こないだあれ、えーっと、ジュリー・ロンドンって知ってる?」

-- ごめんなさい、勉強不足です。

「結構有名だぞ。昔のジャズボーカリストなんだけど、ハスキーな声で歌う女の人なんだよ。うちにあったレコードかけて、繭子も気に言ったからそれコピーさせたら異常に嵌ってな」

-- へー!ジャズですか!

「意外だよな。あいつ喉の使い方が上手いんだよ。歌いこなしが上手で。繭子の低い声って結構艶っぽくていいなーって、そういうの発見して遊んでんの」

-- なるほど、いいですね。素敵な休日だと思います。

「うん。言っとくけどそんなしょっちゅうじゃないぞ。俺も暇じゃないからな」

-- 分かってますよ。なんか、師弟関係みたいですよね。

「あはは。そんな事言ってると竜二と大成が怒るぞ」

-- ヤキモチ妬いちゃいますね。

「面白い性格だし、頑張り屋の良い子だし、直向きで、ドラマーとしての実力もある。でもそれを取っ払っても存在自体が大事だからね。そこはもうはっきり言っていいかな。物凄い大切な子。けどそれはきっと、皆がそれぞれ真剣にそう思ってる事だから」

-- はい。

「美味い。あ、だって俺こないだも言ったけどさ、あいつの両親に会ったのは俺が一番最初なんだよ」

-- 高校の卒業式の朝ですよね。

「そうそう。繭子もそんなにちゃんと親に説明してなくて。お世話になってる人とか、そんな程度の認識だったと思うよ。あいつを迎えに行って挨拶したんだけどさ、あ、多分これ誤解されてるなーと」

-- どういう誤解ですか?

「年の離れた彼氏なんだろうか、と」

-- ああ、翔太郎さんて童顔ですものね。

「ウソ言うなお前(笑)。そいでお互いにお辞儀して、よろしくお願いしますかなんか言われて。こちらこそとか俺も言って。でさ、しばらく経って再会するんだけど、それって繭子が俺らのバンド入って、デカいイベントでデビューする時だったんだよ」

-- 見に来られたんですね。

「そう。そん時に俺を見て、あー!あなたはあの時の!って大泣きされて。娘をドン底から助けてくださった大恩人だと聞いております、その説は大変失礼いたしました、今まで本当にありがとうございました、これらかもー!っつってひたすら頭下げられて。さすがにそん時は俺も泣きそうになったわ」

-- ううわあ。素敵なお話ですねぇ。

「なあ。あれから10年経ってんだもん、そんなの、今更何をって話じゃない」

-- そりゃあ、幾ら繭子が酔って甘えてきたって、ねえ。

「そりゃあ、普通にいただきますけど」

-- もう! 台無しですよ!

「別に一回や二回やった所で何も変わらないよ、やらないけど」

-- うーわ。

「やらないけど!」

-- 違います違います。繭子も同じ事言ってたんです。絆ってこういう所でも見え隠れするもんなんですね、心底びっくりですよ。

「そうなんだ。…でもちょっとヒヤっとするのがさ、俺らみたいなバンドにありがちな、メンバー同士で出来てんじゃねえかとか、そういう噂皆好きだろ」

-- そうですね。耳が痛いないあ。

「そういうの見聞きする度さ、だったら何なんですかね、って繭子がわざわざ俺達のいる前でそれを言うわけだ。でもそれって、俺達も同じように思ってたって、絶対言ったらダメな事だろ? でもそこを敢えて突いてくるんだよあいつって。そういう所は正直敵わないし、あいつなりの優しさとか気の遣い方だったりすんだろうなって思ってて」

-- 全然良いですよ、傷つかないんでって事ですもんね。

「そうそう。けど軽く引くよな、何言ってんのって。オッサンが若い子捕まえてクソ寒い下ネタかましてるんならまだ救いようあるけどさ、若い女の方から言う事じゃないよな。それにそう、あいつ『傷つかない』っていう言い方するんだよ。分かってないのかもしれないけど、自分でそういう言葉をチョイスしてる時点で、例えば俺があいつに手を出す行為がホントはタブーなんだって理解してるって事だろ? それなのに、『それでも私は平気です』って言えるのって何だろうな。一人の男として、人間として受け入れられる、あなた達なら大丈夫ですって宣言する事で、あいつは何か心の中でバランスを取ってるのかもしれないなっていう風にも思うんだよ。言い聞かせてるようでもあるし、何か事故みたいなそういう間違いがあった時に備えて、覚悟を見せてるというかな。それは見る人が見れば歪みとも取れるし、実際歪んでるんだけど、でもやっぱり究極に優しい覚悟だとも思えるし…え、なんで泣くの?」

-- すみません。

「…なあ、あんた最近ちょっと変だよ」

-- ごめんなさい。なんだか話の内容は別として、繭子の気持ち分かるなって、不覚にも思ってしまった自分にびっくりして。

「どういう意味?」

-- いえ、ごめんなさい、なんでもないです。でもなんでそんなに優しいんですかね、皆さん3人ともですけど。

「俺が? んー、そりゃあいい酒持って来てもらったらサービスくらいするよ」

-- あははは。

「たださあ、時枝さんさ。そんな事では身がもたないぞ、この先」

-- はい。すみません、心配していただいて。

「プライベートな話掘ってくのは別にかまわないけど、今のままだと正直掘るだけ損するかもよ。そんだけ感情移入しやすいって事考えると、これ以上掘らない方がいいんじゃないか?」

-- もっととんでもない話が出るって事ですか? 聞かない方が良いような話が飛び出す可能性があるっていう事ですか。

「まだまだ言ってない事だらけだよ」

-- (一瞬、言葉が出て来ない)。…ここ最近よく思い出すのが、最初に竜二さんとお話した時、思わぬ方向へ行っちまうかもしれないから気をつけなよ、って注意してもらった事なんです。ここ最近のこういう流れがそうなのかなって、泣きながら考える事もあります。

「それは俺には分からないけど、この程度の話で泣くくらいなら、俺らのプライベートな話なんか掘るべきじゃない。そんな事してたらあっという間にタイムリミットが来るぞ。それならただ、バンドを見たまま記事に書いた方がマシだと思う。俺達のボンクラな人間性なんかに目を向けてないで、それこそ庄内みたいにさ、織江に熱上げて俺らなんてどうでも良いっすみたいな顔してる奴の方が、よっぽど良い記事書くんじゃないかな。言い方はきついけど、アンタには良い仕事してほしいからね」

-- 全然きつくないです。仰る通りですから。ただ私ははやはり、人間が好きなんです。庄内の仕事に対するアプローチはプロフェッショナルだと思います。だけど私にしか書けない記事を書きたいんです。

「なら、はっきり言おうか」

-- はい。

「もう泣くな」

-- はい。

「最後まで泣いちゃダメだ。少なくとも泣いた後、自分でそれを良しとするな」

-- はい。

「竜二も大成も優しいから言わないけど、俺はこういう人間だから言う。本当の事言えば、俺は自分が泣くのも腹が立つんだよ。URGAさんや竜二の歌を聞いて、わけも分からず涙腺緩んでる自分にすら、腹が立つ」

-- どうしてですか? 感動で流す涙だってあると思います。

「感動ってどっから来るの?」

-- 心です。

「そういう話じゃない。まあ、URGAさん置いとこうか、ちょっと別格だし」

-- 心じゃないんですか?

「思い出し笑いってあるだろう。俺が竜二の歌聞いて泣くのって結局それだと思うんだ。自分や、あいつの過去を思い出して泣いてるわけだろ。だけどそれは純粋って言えるのかって話だ。俺はそれは、違うって思っちゃうんだよ」

-- …はい。

「泣く事や涙が出る事自体は悪くないと思う。けどそこに至るまでの感情って、きっと他のアーティストや、今の場合、俺達が意図した思いとは必ずしも同じだとは限らないし。極端な事を言えば、俺の気持ちや経験は誰にも勝手に理解なんてされたくない」

-- はい。

「まあ、歌に関しては異論あると思うよ、ただ俺が嫌なだけで、感動して泣くのも良いかもしれない。だけど俺の過去やあいつらの過去は、誰かを感動させるための思い出話じゃないんだよ」

-- はい。

「色々あったよ、そりゃ。けど俺達は今、好き勝手にメタルやってるしね」

-- はい。

「ただ、まあ。そうは言っても一回だけ物凄く嬉しかったのはさ。あん(ファーマーズの)舞台袖で俺達を見ながら、行け、行け、って背中押してくれただろ。あれなんだよ、俺の理想は。すーっごい嬉しかったよ!」

-- …。

「あー、もう。分かった分かった。泣いていいよもう、今だけだぞ。…だからさ、来年アルバム出して、その後のツアー同行してくれるんだろ? そん時はきっちり世界獲るとこ見せてやるかさ。もうその日まで泣くな」

-- はお。

「何?」

-- はい。

「よし、もう帰っていいか?」

-- 駄目です。

「嘘だろ!?」












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