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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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呪いに少し近づく

 アンナに夕食をごちそうになり小屋に帰ると誰もリビングにいなかった。先週の土曜日もこうだった。

 部屋で借りた週刊誌を読みながらゴロゴロするかマール達と遊ぶか悩む。マール達に会いに行ったら実技練習に付き合わされそうなのでやめた。

 1週間ぶっ続けで訓練すると体がもたないから自主練はしないように言われている。

 勉強しても良いけど新種悪魔と格闘して目がチカチカ疲れている。


「ただいま」


 黒白結社と続く扉からフィオナ登場。朝から仕事って出掛けたけど残業が終わったみたい。会いたかった!


「フィオナ! 会見見た?」

「会見? 何のこと?」

 

 ローテーブルのところにフィオナを促す。一緒に並んでソファだと顔が見えないのでフィオナをソファに座らせてローテーブルを挟んで向かい側の床に座る。クッションの上だ。


「途中から観たんだけどリオが色々会見した」

「リオ様が? 黒白結社や協会からのお知らせ?」

「うん。それでクレイヤも会見してた」

「クレイヤが? ああ。最近フレイアさんの噂を聞くからか。会見なんて聞いてないけどわざとかしら。クレイヤ、また頭を下げたのね……」

「うん。フィオナさ、週刊誌の話は知らないの?」

「週刊誌?」


 私はローテーブルの上に借りた週刊誌を出した。クレイヤの熱愛記事は巻頭。任務中のクレイヤの隠し撮りポートに続けて熱愛記事。

 その熱愛記事のページを開く。私も今初めて見る。フィオナは目を大きく丸めた。


【ついに発見、クレイヤ・デーヴァの噂のプロ彼女。お相手は淑やか美人。手繋ぎレストランデートを激ポート。左手薬指に輝くマールム・ピュミラは婚約指輪? 脇の甘さは公表意思? 結婚秒読みか?】


 アンナの暗記力すごい。ポートは地味な格好で帽子にメガネ姿のクレイヤとフィオナ——顔にモザイクあり——が手を繋いで笑い合っているところ。裏口っぽい場所だ。

 口許に左手を当てているからフィオナの指輪がよく見えるというか、拡大ポートまで載っている。


「私達って忙しいから気がつかなかったね」

「な、な、な……何これ」

「淑やか美人だって。いつのデート? 誕生日? 普通のデート?」


 フィオナはみるみる真っ赤になった。それで週刊誌を閉じた。


「か、かい、会見ってまさか……」

「お母さんのことを謝って質問を受けるって言ったけどこの熱愛について聞かれてた」


 夜のニュースでも取り上げそうだけど、この小屋に映像結晶はない。


「何て……?」


 フィオナは両手で顔を覆って俯いた。


「婚約指輪ですか? はい、だって。そうなの? 聞いてないけど! 2人の立場からしたらまず私に報告じゃないの?」


 顔を覆ったまま、フィオナはぶんぶんと首を横に振った。


「聞いてないのは私よ!」

「男性も婚約指輪をするのって流行りなの? 自分の赤い宝石は運命の赤い糸なんて言っていたけど」

「ただい……ま」


 黒白結社と続く扉からクレイヤが帰宅。会見の後の仕事は黒白結社内で何かだったみたい。クレイヤは顔をしかめた。


「何でフィオナが泣いてるんだ?」

「泣いてないよ。照れてるだけ。どこかの誰かさんが勝手に婚約してることにしたから」

「……まあ、つい。浮かれて。こう、ほら。まあ、噂の肯定というか長年交際の方が見栄えが良い。気持ちはそうだし。勝手にって意味もなく大事な指に揃いで買うか。両親に挨拶もしたし」


 動揺クレイヤを久々に見た。そそくさとダイニングテーブルの上の本を何冊か抱えて2階へ上がっていく。吹き抜けだから階段を無視して飛んで。それでクレイヤは自分の部屋に入っていった。


「フィオナ、浮かれてるって。親に会わせたんだ。告白自体がプロポーズだったんじゃない? 勇気を出したって言っていたよ」

「挨拶って元々顔見知りでサラッと……久々にご飯というか……。何か……他に会見で何か言ってた?」


 フィオナはそろそろと顔から手を離した。真っ赤っか。りんごみたい。

 眉毛はハの字だけど微笑んでいる。めっちゃ可愛い顔!


「あー、自分で聞いてきたら? あとどこかでニュースを見る。とりあえず自分で聞いてきなよ」


 揶揄いたい気持ちより、この可愛さをクレイヤに見せてあげたくなった。

 辛いことの多い人生だっただろうから少しでも幸せになるべき。


「えっ? ちょっと」

「行ってらっしゃい」


 蝶扇(リピス)を使って風でフィオナの体を2階へ、クレイヤの部屋の前へ運ぶ。

 フィオナは怒ったような顔をして2階から私を見下ろしたけど、笑顔で首を振ったら意を決したようにクレイヤの部屋をノックした。クレイヤは出てこない。


「クレイヤ?」


 フィオナが何度かノックをする。それで名前を呼ぶ。でも反応がない。どうしたんだろう?


「キヨイを呼んでる」


 オロオロするフィオナがこちらを見下ろす。トンッと跳ねてフィオナの隣に立った。


「クレイヤ、どうしたの? 本に何か見つけた?」

「ああ。頼む。爆発系かもしれないからフィオナは離れてくれ」


 扉が少し開いて、手が少し出てきて手招きされた。フィオナが私から離れる。私はクレイヤの部屋に入室した。クレイヤは後ろ姿。部屋の中央へ進んで行く。

 木製のシンプルなベッドと勉強用みたいな小さな机と椅子、サイドチェスト、それからそれだけ不自然に細やかな彫刻のされた木箱。服はクローゼットの中だろう。机の近くの床には本が山積み。

 お洒落——かどうかは知らない——好きなクレイヤの部屋にしては質素というか飾り気がない。


「キヨイ。久々の発作だ。何か分かるかも」


 振り返ったクレイヤの顔は真っ青。崩れるように座り込んで右腕を左手で押さえた。顔の近くに氷のツボが現れる。


「痛いの? 吐く? 曲? リオが必要? 歌を聴いたよ。見るけど我慢は良くないよ」

「音響機のことも知ってるのか。いや少し我慢する。それで呼んだ。発作時に何か分かるかと思って」


 クレイヤは右手の手袋を乱暴に外した。袖を上にまくる。膝のところまでしかシャツはまくれなかった。

 見た瞬間、全身に鳥肌が立った。


「極炎……。魔女の炎鳥(ヴェスタ)みたいな強さだよ! こんなのすぐ止めよう! 燃える炭みたいに手が真っ赤!」


 太陽を天体望遠鏡で撮影したような炎がクレイヤの腕を取り巻いていて、その中に真っ赤なクレイヤの腕がある。


「それで熱いのか。ありったけの裂魂集めて冷却してるんだけどな」

「その氷の魔力を全く感じないよ! 負けてるんだよ! 足もでしょう? 音響機ってどうやって……」


 クレイヤの左手が私の肩を掴んだ。指が食い込むような強さで痛い。クレイヤは苦悶の表情。耐え難いと言わんばかり。


「他は? 何か分かるか?」


 次の瞬間、クレイヤは吐いた。自分で作った氷のツボの中に吐く。吐くものがないようでえづいている、が正しい。

 背中をさすろうとして止める。介抱なら呼ばれたのはフィオナだ。


「……うっすら炎と燃える腕以外に何か見える。今日見た裂魂……。怒、哀、憎……。集まってる! ほんの少しずつ集まってる! だからきっとリオの歌が効くんだ!」


 返事はない。クレイヤは呻いている。


「これ……」


 高速で動く小さな核を見つけた。蝿くらいの大きさと速さ。心臓の核と似てる気もするけど動き回っていて追えない。

 少しでも間違えた解呪をしたら呪い返しをされると感じる。バラキエルのようにゴリ押しで偶然退魔、みたいなのは絶対無理。


「心臓を3つ食べて右腕、両足……。核がそれぞれにある? クレイヤ! もう目が痛くて無理! あと小さくて早く動き回る核だからそういう訓練が必要!」


 音響機! 私の肩を掴むクレイヤの手が緩む。立ち上がって音響機に近寄った。


「どうやって使うの⁈」

「ゔえっ……。右上のボルタ……」


 ボルタはボタン。急いで四角い出っ張りを押す。


—— 戸惑うなかれ魂よ


 リオの美声が音響機から流れる。ドサリと音がして振り返るとクレイヤが床に倒れていた。右足を抱えている。

 氷のツボがクレイヤから少し離れたところで割れた。クレイヤは肩のシャツを噛んだ。くぐごもった呻めき声が徐々に大きくなる。

 音……音の魔力を少し感じた。防音術をかけていたけど、もうその余裕が無いんだ。クレイヤの右腕の炎の勢いが増す。氷の裂魂を集める余裕ももうないんだ。


—— 彷徨うなかれ魂よ。


 蝶扇(リピス)だ。慌てて氷の裂魂を集める。集まってこい。この部屋だけじゃ全然足りない。


—— 輝く世界


 クレイヤの声が少し小さくなる。まだだ。もっと、もっと、もっ……あっ……。

 部屋中氷漬け。氷柱が私の隣に落下してきた。集めたのはいいけどコントロール出来ないくらい集めたみたい。


—— 彷徨うなかれ魂よ


 よろめきながら立ったクレイヤが音響機にもたれかかった。


「聞きすぎるとあの世行きだ。いつもより痛みが引くのが早かった。しかも次々と暴露。ありがとう……」


 息は上がっているし、涙でぐしゃぐしゃな顔。私も多分同じ顔をしているだろう。見ているだけで辛かった。


「クレイヤ? キヨイ? 大丈夫?」

「少ししくじった!」


 クレイヤは右腕のシャツを下ろして手袋をした。それから吐瀉物で汚れた床らへんをさらに氷漬け。両手で目を擦ると扉へ近寄っていった。クレイヤが扉を開く。


「炎が飛び出してきた。やり過ぎた。キヨイがビビり過ぎたから慰め……」

「キヨイ、大丈夫? 真っ青な顔して震えて! 怖かったのね」


 フィオナが私に駆け寄って来た。振り返ってこちらを見たクレイヤは明らかにホッとした様子。


「平気……。私は平気。燃えるの!」


 喋れるということはリオとの誓いの範囲外。


「時々燃えるように熱くなるって。クレイヤの呪い。だから私が裂魂を集めて、すごく集められるから集めて、それで発作がおさまるって。コントロールが下手でやり過ぎたけど……練習しとく」

「クレイヤ?」


 フィオナが私から顔を背ける。


「大丈夫。今日分かった限りではゆっくり進む病気みたいな感じだから……だから……」

「それで氷使い? 大量の延焼術用の冷却薬もそういうこと?」


 クレイヤに睨まれたけど私は首を横に振った。


「リオの歌で裂魂集めや増強の手助けになるって。私がいない時はフィオナが手伝ってあげて。あれ、音響機だって」

「おいキヨイ」

「皆で頑張るんだよ! フィオナだって除け者の方が心配するよ! 知らなくて変に調べて何か危ないことをするとかお約束だから!」

「お約束って何だよ」

「私、そういうのお断りだから。その呪いは地道にコツコツ調べて知識や技術をつけないと解けない。私の才能は大作映画の主役級。でもこれは現実だから奇跡なんて起こらない。私、今日はまだ疲れてないから出掛けてくる! クレイヤは休むんだよ! 体力魔力がないと呪いに侵食される!」


 最後のは口から出まかせ。私は部屋から飛び出した。休むのは大切だけど早くしないと。

 クレイヤは辛いことばかりの中18年も励んできた。

 秘密の図書館でクレイヤの(アマニス)暴露(ペル)してしまう私はまだ彼の幸せな様子を全然見ていない。

 悪魔に家族を奪われ、母親に襲われて呪われて、大好きなフィオナと引き離されて、魔女の子と誹謗中傷されて呪いに苦しむ体で選んだ道はうんと人を助ける道。

 励むのはクレイヤの努力の結果命を助けてもらった私。クレイヤが守って来た人達。

 とりあえず新種悪魔だ。あの悪魔を暴露出来ないんじゃ話にならない。


「超有名人になってあの記者会見の記者を叩き潰ししてやるんだから! あの記者も所属先も大天才の取材禁止で出禁!」


 自分を殺そうとした母親の罪を謝罪し続けて代わりに償い続けるように生きているクレイヤを悪く言う人を私は許さない。

 ……まあ、クレイヤも惚れ薬やらフィオナに酷いことをしたとか聖人君子ではないけどね。

 

「誰か私の護衛の方! リオの大事な弟子の私に高速で飛び回るものを目で追ったり魔術をぶつける訓練をして下さい!」


 叫んだらすぐに護衛が現れてくれた。

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