記者会見2
「また謝ってる。可哀想。フレイヤ先生が堕士かもって噂が広がってるもんね。誰にどう操られているのかしら」
「操られてる? 魔女ってアンナさんの先生なの?」
アンナは険しい顔になった。返事はない。クレイヤの言葉の続きを待っている?
堕士は悪魔関係犯罪者の総称。優れた魔術師は低級悪魔を作ったり牽引出来る。中級悪魔を、となると数十年に1度レベルらしい。
堕士や人を呪う呪士などの犯罪者は警務省の管轄。黒白結社の祓士も協力依頼があれば任務にあたる。
魔女フレイヤは単独であちこちで人を呪い、その度に一般人、警務省や黒白結社祓士に被害を出してきたので指名手配。
境界線を越えて、現界に上級悪魔を連れていって私を獲物に選んで襲った魔女はもはや「極悪級堕士」である。
組織的犯罪の匂いがする。操られてるとか、スカウトされて心境の変化が起こっちゃった系かもな、とはルーク談。
《母の噂に関しては警務省からの正式発表をお待ち下さい。息子だからこそ耳に出来ない話があり、知らないことも多いですが、ご質問があれば遠慮なくご質問下さい。多忙の身で短くて申し訳ありませんが30分程度時間を用意しました》
凛々しい表情で淡々と告げるクレイヤはまるで知らない人みたい。
「毎年毎年こういう会見。クレイヤが何をしたって言うのよね〜。弟子なら知ってるでしょう? 家のことやフレイヤ先生のこと」
「はい」
定期的に魂を暴露してしまうから、他の人よりも深いところまで知ってます、とは言えない。
魂を暴露しない方法をメッソルと共に模索中。
私は繰り返し繰り返しクレイヤの辛い過去を見ている。この間は3つ目の心臓を食べた後に病室で拘束されて苦しむ姿。
「まあ、今日は熱愛発覚についてね。絶対そう。年々質問の雰囲気が変わってるからね。去年の年末なんて、子どもが憧れる若手祓士No.1の感想は? とか子どもたちにメッセージをとかだったし。嫌な記者もいたけど」
「そうなんですね」
「全く自慢しないから知らないかな。母校、病院、孤児院、薬草園などに定期的に寄付をしてる。難病の子を励ます活動もしてる。出世しても家庭講習会に熱心。悪魔災時も即寄付。任務に出れば活躍。それで魔女の子叩きって、クレイヤはこれ以上何をすれば良いわけ?」
そういうのも含めて「英雄」と呼ばれているのかもしれない。
「知りませんでした」
「週刊誌がかぎ回っても出てくるのはそういう話ばっかり。ルークは爪の垢を煎じて飲むべき。新人の頃はふらふら遊んでいたらしいけどピタッと止んだから、その頃からだろうって書いてあった。有名になってから初めての熱愛報道。絶対にその質問ばかりになる」
それなら見続けたい。何も悪くないクレイヤが謝るところなんて見たくない。
アンナの言う通り。クレイヤが何したっていうんだ!
「パパラッチって、週刊誌ってどんな内容でした?」
「私が読んだやつはこう。ついに発見、クレイヤ・デーヴァの噂のプロ彼女。お相手は淑やか美人。手繋ぎレストランデートを激ポート。左手薬指に輝くマールム・ピュミラは婚約指輪? 脇の甘さは公表意思? 結婚秒読みか?」
「読みた……」
《そちらの指輪は噂を肯定ということでしょうか? お相手の方とはどちらでお知り合いになりましたか?》
「やっぱりこういう質問。どんな回答をするのかしら?」
アンナがニヤニヤし始める。私も多分同じ顔。
《複雑な立場ですので相手の身の安全に気を配っていましたが、報道されたので隠すよりある程度公表する方が良いと考えました。恋人は昔からの知人です》
「恋人だって! アンナさん聞いた? 恋人って言った!」
「何でその恋人を知っているあなたが興奮してるのよ」
「だって、だって、楽しくないですか?」
アンナはまた豪快にお酒を飲んだ。
「どこの誰? キヨイ、教えなさいよ」
「いつか知らないけど結婚したら結婚式で会えるんじゃないですか? あと恋人も一緒に飲もうとか。私も参加したいです!」
「やっぱり結婚する気だからガードが緩んだのか。そうね。キヨイの初飲みに呼べば良いわね」
プロ彼女ってアイドルの恋人で影を全く出さない人のことだったはず。
ついに発見とか、結婚するからガードが緩んだとか全然違うけど。
2人は恋人になりたてホヤホヤ。先月だもん。
《そちらの指輪はお揃いでしょうか? 可能でしたらポートを撮らせて下さい》
《はい》
クレイヤは左手を心臓の上に置いた。結晶映像だと指輪をしてる、くらいしか見えない。
「高そうな指輪だったわね。男でマールム・ピュミラ好きって変わっていると思っていたけど彼女の好みだったのか。週刊誌じゃサファイアって書いてあったけど、クレイヤはルビーよね。色味が少し違う気もしたけど。何で青と赤?」
「宝石は両方アルクライって言ってたよ」
「うわあ、希少宝石じゃない。絶対高い。いいなあ」
《報道ではお相手の方の指輪は青い宝石でしたが色が別々ですね。どのような意味を込められているのでしょうか?》
「良い質問!」
アンナがまた酒を飲む。
私は特にこの質問はそんなに面白くない。クレイヤは嘘をつくだろう。
あの赤の思い出と長年の想いを知っているのは本人達と私だけ。
青は「呪いから解放されて元の目に戻る」とかかなあっと推測してる。
《運命の赤い糸と言いますので。相手には単純に自分の好きな色を。一部では氷槍祓士と呼んでいただいていますのでそれも。宝石自体は同じ物です》
凛とした顔のままでいくのかと思ったら、クレイヤは照れ笑いした。
運命の赤い糸とは、どストレート。
やっぱり楽しい! 面白くない、なんてことはなかった!
「熱いね熱いね。ど定番品に直球の意味。今日からマールム・ピュミラは更に売れるな。ああ、それで今日の格好。スポンサーから見返りがっぽがっぽだわ」
「祓士ってスポンサーがつくんです?」
「そりゃあそうよ。有名な祓士の経済効果はそこらの芸能人より凄いからねえ。私もこのあいだ新作香水の広告を撮ったわよ」
「後で見たいです」
《マールム・ピュミラを2人で左手薬指にということは、やはり婚約指輪でしょうか? 男性も婚約指輪をするのは最近の流行りですね。入籍のご予定は?》
《はい。相手が望んだ時にと考えています。お互い励みたい仕事がありますので》
私は吹き出しそうになった。
もう婚約したの⁈ 弟子なのに聞いてない!
「へえ。そのフィオナって働きたいんだ。クレイヤの妻なら贅沢三昧なのに。励みたいか。いいねいいね。仕事人間には仕事人間か。っていうかクレイヤのこんな顔初めて見た」
私はここのところ毎日見てる。痒い痒い痒い! ってなる。
《身の安全の為に配慮して隠していましたが、今後相手を特定されることがあるかもしれません。その際はどうかそっとしておいて欲しいです。自分はこのように取材に応じますので。よろしくお願いします》
クレイヤが深々と頭を下げたので、私もつい頭を下げた。
「見た目も言動もちゃちついてそうなのに中身は誠実なのよね。熱愛報道を全肯定。こりゃあ明日休みの職員が何人も出るな。何人で済むかな」
「ちゃち?」
「遊んでそうとか、不真面目そうとか、自信に溺れてそうとかそう言う感じ」
「ありがとうございます。クレイヤのファンってやっぱり多いんです?」
「黒白結社の祓士。しかもエリート。多額の寄付をする金持ち。好みはあるとしても顔良し。背が高い。慈善活動もしている。母親の事もあるけど老若男女にファンがいるわよ。女は群がる群がる。でもサラッと好意を避けてた」
「クレイヤは一途です。どこかの魔人と違って」
「そうみたいね。密かに狙っていた頃もあるけど、全然口説かれないから諦めた。今日さらに諦めた。プロ彼女は何をどうやって仕事人間のクレイヤを捕まえたんだろ」
へえ、アンナもクレイヤを。
でも彼氏がいて、ブレイドが本命で……アンナってルークの仲間じゃん。
そりゃあ一途人間のクレイヤの心に響く事はない。
《交際はいつからですか?》
《以前からとだけ》
先月でーす。昔からってことにするつもりなのかな?
幼馴染とずっと愛を育んできた。それは確かにとても見栄えが良い。帰ったら聞こう。
《どのような感じでお付き合いは始まりました?》
《勇気を出しました》
《具体的に告白の言葉を教えてください》
「結構突っ込むわね。勇気を出しましたって、クレイヤからなんだ」
「そうなんですね」
「知らないの?」
「教えてもらえなくて」
「それは飲ませがいがあるわね」
ニヤニヤ笑うと、アンナはまたラッパ飲みした。
《それはさすがに勘弁して下さい。ありふれた言葉です》
答えを少し知っているから楽しくてならない。
クレイヤははにかみ笑いを浮かべている。
そうだよね。20年近い初恋を叶えたんだもんね。私のおかげで。
ありふれた言葉って「好き」かな。
いっそ「愛してる」かも。
いいなあ。私も誰かに告白されたい!
《その時から結婚を意識されていましたか?》
《ずっと隣で笑顔を見ていられたらと思いました。その気持ちは何年経っても変わりません》
《婚約の決め手は?》
《祓士になりようやく10年経ったので、半人前を卒業したと考えました》
何だかんだ嘘は言ってない。婚約のことは別として。
「これまでのクレイヤが半人前なら祓士の半分は半人前以下。幼児じゃない」
「クレイヤの凄さが最近分かってきました。最初は何で彼が私のお世話係なのか分からなかったけど。ルークも。リオはすぐ分かりました」
「私はあなたの才能にびっくりよ。リオ様の補助ありだけど魔弓を使ったとか、フェルターエルザ呪疫の件とか。来年になったらキヨイも向こう側ね」
「えっ、私も記者会見するんです?」
「有名人は任務後にインタビューとかあるわよ。コツは笑顔と日頃の行い」
素敵な笑顔にパチンッとウインクでまたハート型の魔力が浮遊。
魔殺しの酒瓶を鷲掴みして、足を広げて、上半身下着姿。残念な人。
《お相手の方はクレイヤ祓士の母親についてどうお考えでしょうか?》
「うわあ。ここでこれを聞く」
「クレイヤ何て言うんだろう」
むしろフィオナはどう思っているんだろう?
《自分を尊敬出来るか出来ないかだけを考えるとそう言ってくれています》
「ひゅう、やるじゃん。しばらく記者はクレイヤの埃叩きかな? 埃が出てこなくて悔しがりそう」
「これ、フィオナに尊敬され続けるような人でいますって意味でもありますよね?」
「チャンスは沢山あったのに。フィオナに腹が立ってきたな」
「無理ですよ。昔々から……」
あっ。また口が滑った。
「昔々? その話、してもらおうじゃないの」
「ちょっ、くすぐったいです!」
脇腹をくすぐられて身を捩っていたら次の質問になっていた。
《お相手のご家族も同じですか?》
クレイヤはしばらく無言。困り笑いを浮かべている。
《反対されなかったのでおそらく。18年前、家と家族のほとんどを失いました。手元にある思い出の品は知人から集めた家族のポートだけです。たまに息がつまりそうになります。どう生きていれば許していただけますか? 不十分なようなので教えて下さい》
「クレイヤが初めて噛みついた。いいぞやれ!」
「やれやれ! 言い返せないだろう!」
《ご自身で完全に縁を切るつもりはないのですか? 警務省ではなく祓士になったのは逃げではなく? それだけの実力や才能を持っているというのに》
「埃がでないから失言をとるか回答を面白おかしく切り取ろうってこと。悪趣味」
「警務省に入って母親を逮捕をしろってこと?」
「クレイヤレベルが警務省に行ったら国家損失なのに難癖つけてムカつくわね。万が一クレイヤがフレイヤ先生に関与したら母親逮捕、母親殺害で煽り記事でも書くつもりね」
《上司の指示があれば警務省に協力して全力で止めたいです。今は後進指導を頼まれています。血の縁は切れませんが、襲撃した悪魔と間違えられて殺されかけたので、母は18年前に亡くなったと思うようにしています。尊敬し憧れていた母はあの日自分の中で死にました》
「えっ……」
アンナが酒瓶を落とした。お酒が絨毯にこぼれるので慌てて酒瓶を拾う。
《支えてくれる方々がいるのでこれからも邁進します》
結晶映像越しだけど、現地の空気はかなり冷たいだろう。
《そういうことを全て知ってくれています。ではそろそろ時間ですので失礼します。追加の取材依頼があれば黒白結社へお願いします》
一礼するとクレイヤは姿を消した。クレイヤは転送術を使えないから聖騎士?
「嘘……。そんな話、聞いたことない。キヨイ、あなたは今の話を聞いたことある? あるわけないか。付き合い短いもんね」
「はい。今知りました」
嘘です。母親に「また産む」「1番要らなかった」と言われて他の家族を蘇らせる為に呪いをかけられたってことまで知っている。
その映像を見ている。
あれは地獄の経験だと思う。
なぜクレイヤは全国民にこの話をしたんだろう。




