スパルタ生活へようこそ8
補講終了。開始前と同じように集合。
バラキエルはルークがぶん殴って檻の中。誰もバラキエルを退魔出来なかった。
私はバラキエルの雷の呪いの1つ、痺れて動けなくなる呪いを2回解呪。蝶扇が凄いのか、私が凄いのか、両方なのか、ザワザワ探しをしてひょいひょい扇ぐだけだった。超簡単。
しかし他の解呪士の何人か——黒白結社所属ではないっぽい——は苦戦していた。
私の方法は正規解呪ではなかったので、クレイヤに指示された方法で解呪挑戦。それは出来なかった。技術不足である。
「生徒の皆さんは無事に課題を終えることが出来て良かったです。指導者として勉強中なので緊張しましたが、皆さんのおかげで成長出来たと思います。ありがとうございます」
リオが拍手をすると全員拍手喝采。生徒達はほぼ感激して泣いている。泣いてない生徒は放心してるっぽい。
疲れ切って死んだ目をしている祓士達も大拍手。
「夜遅いので気をつけて帰って下さい。私はまだ他の方とお話がありますので速やかに帰りましょう」
リオが生徒達に手を振る。生徒達は早い動きで祈ったり、膝を立てたり、会釈をして全員猛ダッシュで校舎の方へ向かっていった。
「まあ、速やかにってそういう意味では。難しいわね」
困り笑いの後、リオは聖騎士達に顔を向けて微笑みかけた。
「聖騎士の3名。細かいことはゴリアテから話があると思いますが、しっかりとキヨイを護衛して暴露練習の支援をした上で期待以上の戦闘。これからも私の護衛としてよろしくお願いします」
再度リオが拍手。それで全員拍手喝采。聖騎士3名は開始前と同じようにリオの前で片膝をついて両手を握りしめた。ゴリアテも開始前と同じ行動。
「ゴリアテ。残業して付き合ってくれてありがとう。明日の出勤は遅くて良いです」
「いえ、自ら望みましたのでお気遣いなく。聖騎士は各自通常業務。リオ様。私は失礼致します」
「気をつけて帰ってね」
スペンサーとゼンが消えて、リオの隣にシュナイダーが現れた。ブレイドがその隣に移動してくる。
ゴリアテはもう居ない。転送術? 転送術系も私は苦手。
「私達の弟子キヨイは今夜バラキエルの核を暴露しました、完全解析までは至りませんでしたが、黒白結社正職員でも非常に困難なことです」
次に褒められるのは私! と思ったのにリオは拍手しなかった。えっ? そこそこの褒めなの⁈ 私頑張ったと思うよ!
「そしてキヨイはバラキエルの痺れ呪いも初見で解呪。特等祓士候補なので黒白結社総出で教育中です。頑張り屋で真面目で優秀で素晴らしい上に可愛い、私達の自慢の弟子です」
めちゃくちゃ褒められた! でも拍手してくれないみたい。リオはニコニコ笑っている。
「保護も訓練でしたけど、聖騎士以外で彼女を気にかけた祓士はいませんでしたね? 一般人放置は大問題。それから稀有な黒祓士の護衛は他の全祓士の責務かと」
リオは笑顔のまま片手を頬に当てて首を傾げた。場の空気が一気に冷えた気がする。
クレイヤは会釈して「雑務があるので失礼します」と飛び去っていった。雑務じゃなくて自分の呪いの調査、読書だろう。祓士達に一言とかないらしい。クレイヤ主催の補講なのにリオ主催みたいになってる。
「キヨイは毎晩0時まで励んでいます。ですから黒白結社の祓士にはこのまま訓練を命じます」
「だろうな。俺達の後輩がこの結果。火炎系が苦手なクレイヤが作った火鳥すら倒せねえとは、聖騎士と違って情けねえ」
ルークがぐるぐる腕を回してニヤニヤ笑う。このニヤニヤは後輩をメタメタに指導してやろう、というのとクレイヤは火炎系が得意だけどな、のどちらだろう。両方だな。
そしてきっとクレイヤは火炎系が得意なことは私やルーク、リオなど数少ない人しか知らないだろう。情報しか知らない私もピンと来ない。
「退魔士の方はルーク祓士の言う通りです。正直ガッカリしました。クレイヤ祓士の指導で伸びたようなので、今夜はもう少し頑張りましょう。解呪士の方ももう少し身を守ったり、戦闘に参加出来るようにならないと。私の後輩ですから励んで欲しいです」
リオ、自分の立場——聖人——を理解してこれを言ってるんだよね?
祓士達の大半は死んだ目から闘志に満ちた目になった。やる気出すんだ。これがリオ効果か。羨ましそうな目をしている祓士は黒白結社所属じゃないのだろう。
「他の機関の祓士の方はご帰宅下さい。後輩達と同レベルのようなので来年同僚になれる事を願っています」
「大活躍すれば引き抜きもあるから今年かもな! 待ってるぜ!」
「すぐ訓練しますので……歩いて良いですから速やかにご帰宅下さい。受付窓口に特別入構許可証の返却を忘れないようにお願いします」
半分程度の祓士が生徒達のように去っていった。ただし、ちゃんと歩いている。
いつの間にかバラキエルを捕獲している檻が消えていた。
「さて、これで足手まといは消えたので、もう少し高度な訓練よ」
リオの口調が砕けた。それで腰に手を当てて仁王立ち。ぷくっと頬を膨らませた怒り顔は怖くないけど、寒々しい場の空気が恐ろしい。足手まといって酷い言い草。
そろそろ21時だからいつもならリオと魔弓の練習。まだ作れたことはない。ミニマムサイズの小魔弓のみ。
弓矢作成は得意。でも小魔弓とのバランスが取れなくて苦労する。バランスが取れたと思ってもコントロール不能。
今夜はここにいる祓士達と別の訓練に参加?
「他の機関の祓士と同レベルなんて、黒白結社の祓士として情けねえ。退職勧告されたくなきゃ食らいついてこい! リオが職員に直接指導するのはこれが初か?」
「鎮魂士以外はそうね」
祓士達は叫び出しそうな勢いの輝いた目になった。場の空気も熱気に満ちたものに変化。リオ効果すごい。
「で、楽しそうだから残ってるけど何すんの?」
「似た事よ。ただし、最近活動が増えている指名手配中のフレイヤ・デーヴァ容疑者対策訓練。まずは炎大蛇……5頭ね」
リオの後ろに炎大蛇登場。しかも5頭。
「それから炎鳥も5羽」
火鳥の次は火大鳥で炎鳥はその上。私はクレイヤと復習したぞ。魔女はパストゥムで炎鳥を作れる。しかも極炎の炎鳥。
確かに今現れた炎鳥と、カラザの森で見たものは違う。
「火大鳥も少し」
炎鳥より小さい火大鳥は何羽? 少しって10羽以上いるけど。
これ、リオじゃない。リオの周りの裂魂は穏やか。ってことはこれはクレイヤ? ちなみに私は何をするの?
「彼女はかつて聖炎と呼ばれた祓士。術の精度はこれ以上。パストゥムでさえこれ以上の術を使うわ。このくらいからは身を守れないと危険。彼女は他の術も1級品なので反対属性訓練も兼ねて 水大蛇3頭と水蛇も……20くらい?」
これは……リオみたい。私、魔女に遭遇してよく生きてるな。
「私は弟子の指導をするので皆さん自力で頑張って。死亡や大怪我からはルークが守るわ。もう無理と思ったら結界の外、客席へ飛び出して。ルークは皆さんと同じ、かつ全員の護衛よ」
「俺のメインは守護訓練ってこと。そこそこ本気……へえ、逃亡どうぞって逃亡させる気ねえな」
「逃亡も訓練よ」
私とリオの体を氷の鎧が包む。大演習場は炎に取り囲まれた。炎で出来たドームの発生。
「さあ開始。キヨイはいつもと同じで魔弓と小魔弓の練習よ」
リオに肩を抱かれ、微笑まれた。もう目の前は恐ろしい光景になっている。
「私はあなたの護衛訓練。私とあなたに何かありそうならシュナイダーが転送術で回避するわ」
「リオも訓練とかするんだ。火は全部クレイヤ? クレイヤも訓練?」
「まあ。よく分かったわね。さすがだわ。私達だって訓練するわよ。クレイヤは読書しながら高難易度魔術の維持。 私は魔弓を使いながら水大蛇と水蛇の維持をしてあなたに指導。ルークを狙い撃ちしないと次々撃破されてしまうわ」
キリリと凛々しい顔をするとリオは魔弓を作って構えた。炎の矢を3本作成して次々発射。全部ルーク狙い。
「ちょっ! リオ! お前敵役なのかよ!」
「ルークだけよ! 役不足だけど私がフレイヤさん役! あとあなたのカバーでいざという時に後輩を守る役! ルークには私の作った魔術生物を破壊させない!」
一気に近くに来たルークにリオはすかさず小魔弓を構えて火の矢を次々連射していく。
「それなら俺だって!」
ルークが猛吹雪の玉を勢いよく吐き出した。魔法同士が弾けて裂魂の海。
氷の鎧なのに氷系から守られた? と思ったら分厚い防護壁に守られていた。
「この防護壁は誰?」
「ブレイドよ」
「いたの忘れてた!」
リオと私の真後ろにブレイドがいた。
「俺も訓練。シュナイダーさんとクレイヤさんがキヨイの両隣に姿くらまししてる。シュナイダーさんも俺の指導と失敗カバーとクレイヤさんに姿くらましで簡易訓練」
「クレイヤここにいるの⁈ それで氷の鎧? 私、その姿くらましを全然見破れないんだよ! 暴露の大魔道士になるのに!」
「あら、そうなの? それなら今夜はそっちの訓練をしましょうか。ブレイド、クレイヤだけじゃなくてキヨイもまた快適な状態にしてあげて」
「はい」
ブレイドお得意の枝豆型ソファ登場。1人掛け用ver.ありがたく座る。
「ブレイド、うるさいと集中出来ないから防音も」
「はい」
いつもなら22時からブレイドと訓練、だけど今夜はどうなるんだ?
クレイヤは時折うっすら現れて、リオに本を見せて「またなかったところに増えた。何の術だ?」と尋ねた。
他の術を維持したまま解呪出来るくらいの、中程度の危険な術だったみたい。2回目の時はリオが分からなくて私にバトンタッチ。
何の術か分からないけど、弱そうなゾゾゾッて気配だったので、リオとクレイヤに相談。
シュナイダーに特殊防護壁をかけてもらって、蝶扇でひょいひょい扇いだら術はスッと消えた。
「本当、デタラメ解呪だな。集まった裂魂が混ざるのが早くて何の魔力がどの割合で使われたのかサッパリ」
「私も分からない。蝶扇は凄いね。さすが56万ガリル」
ぶほっと吹き出したような声はきっとシュナイダーだろう。と思ったら「すみません。あまりにも高価で驚きまして」とシュナイダーの声がした。
姿くらましは相変わらず見破れない。クレイヤはうっすら見えるらしい。
「蝶扇もだけどキヨイが凄いんだ。ルークと同じ本能人間だな」
「そうかも。解呪が無理なものは無理ってちゃんと分かるし。私ってこんなに凄いのになんで姿くらましは見えないんだろう」
「異界が関係する術だからだろうな。俺も集中してうっすらしか分からない。姿くらましは王宮魔術師にさえ門外不出のリザ家聖騎士だけの術っていうのはリオに聞いたか? 見るならともかく暴露したら大事になる」
「クレイヤさん。聖騎士の中でも会得出来る者は一部だけです。俺も練習中です」
「うおっ。俺の炎大蛇じゃ魔女みたいにはいかねえか。リオ、撃破されたら可能な限り追加して良いんだよな?」
「もちろんよ。あとお母様を魔女と呼ぶのはやめて」
「それは無理」
いつも22時からは魔縄と通信術の練習。少ない魔力で遠くに逃げる、敵を縛ってその隙に逃げる、助けを呼ぶなど避難訓練。
なんかここでしそう。全員特訓継続だろう。そう思ったらその通りだった。今日は魔縄を動き回るルークにくっつける練習。
全然無理だけど無理で当然。ブレイドにコツを教わる。通信術の練習はいつもと同じ。
全祓士が逃亡——ルークとリオによる強制退場や逃亡指示——して、途中でクレイヤは力尽きて炎の壁が消失。火しか見えないのに見学客はまだいた。
魔術生物は全て撃破され、最後はルークとリオの一騎打ち。祓士はリオの近くに集められて見学。全員真っ青な顔をして服はボロボロで座り込んでいる。リオに「休息も訓練。楽にしなさい」と命じられて横になっている祓士もいる。
リオが「さすがにもう無理だわ」と座り込もうとしてブレイドに抱き上げられた。そのブレイドの顔色は真っ青。
ほぼ同時に「さすがにキツイ!」とルークは落下。何メルテもの高さから地面に激突。誰も助けなかった。誰も余力がないのだろう。私もない。
でも頑丈だからか、すぐ起きて「頑張ったわ俺!」と大笑いしてこっちに来た。
訓練終了。全員死んだような目だったのにリオの「さすが私の後輩です。期待以上です」の褒め言葉でルーク以外は全員目を輝かせた。あと半分以上が泣き出す。ルークは苦笑い。クレイヤはずっと姿を消したまま。
そこにフィオナが登場。
「ご帰宅前にアピの実をどうぞ」とフィオナが細かく切ったアピの実を配り歩く。
私の通信術はちゃんとフィオナに届いていてホッとした。
フィオナが配ったアピの実はシナモンに似た味付けがされていて、なぜか聞いたら「効果が微増するようにした」とのこと。
なお祓士から「週刊誌は本当なのか」と会話していたのを耳にした。週刊誌? 気になる気になる。
それで解散。私はまだ訓練。
23時からは転送術の訓練。先生はその日によって違う。今夜はシュナイダー。
私とリオの護衛騎士で転送術を使える聖騎士が教えてくれる。これにはブレイドも生徒として参加だけど今日はさすがにお休み。
クレイヤは「才能無さすぎて諦めた」らしい。リオもそうらしい。天才リオにも苦手分野が存在した。リザ一族は基本的に転送術はからきしだとか。
ブレイドは「努力が無駄かもしれないけど無才能ではない」らしい。
転送術は異界——の端だか幻界と異界の境など諸説あり——を通って指定場所へ移動する術。小屋の他施設への扉は転送術魔道具。開発は大変でとても貴重だとか。
リザ一族は異界に入ると精霊やら何やらに捕まるのか、より異界に近いところへ行ってしまうのか、何週間も「転送術空間」から出られなくなったり大変にことになるみたい。
クレイヤは単に通るべき空間に入れない。私もちっとも入れない。何の感知も出来ない。
ブレイドは昨夜右手だけ成功していたけど、その右手はどこにあって、体から離れて怪我しないってどういう仕組み?
0時で1日終了。お風呂前に必ずアピの実を1つ丸ごと食べる。ヘロヘロながら頑張ってお風呂に入りその後は爆睡。




