スパルタ生活へようこそ7
クレイヤによる訓練の説明が始まった。
「黒白結社で開発された悪魔の捕獲檻です。ご存知の通りバラキエルです。大演習場内にはリオ様が結界を張りますので結界内で使った魔術は外へ出ません。安心して最大限努力して下さい」
祓士達が首を傾げたり「バラキエル1体なのに最大限?」とヒソヒソ話す。
違うよ君達。これから豪雨が降って水蛇と風鷲が放たれるんだよ。それも新入生は4体だったけどきっとうじゃうじゃ。
「想定は悪魔災です。解呪士は敵からの攻撃を避けながら自己課題の克服です。余裕があれば退魔訓練に参加して下さい。他の祓士は解呪士と俺の弟子の保護、バラキエルの退魔をしてもらいます。俺の弟子は暴露練習をします。保護だけではなく集中させてやって下さい」
悪魔災? とまたヒソヒソ話。
「俺は基本的に指導します。バラキエルの護衛は協力してくれる黒白結社のルーク祓士です」
まじか。ルークは敵役なの。
やあ、とルークがにこやかな笑顔で片手をあげた。祓士達が「あれが魔人ルークか」とか「ルーク先輩が敵役って難しくないか?」とか「ルーク祓士だ。終わったらサインくれるかな」などなど騒めく。
「バラキエルに呪われれた者が出たら弟子のキヨイが解呪訓練をします。自分の手が空いてない場合は解呪士に頼みますので後輩指導をよろしくお願いします」
ふむふむ。生徒がバラキエルに呪われるのはダメだけど、現役祓士なら良いだろうってこと。いいの? でもきっと偉い人に許可を取ってある。
周りを見てもやる気満々って感じで不満は無さそう。
「天候は豪雨です」
振り返ったらリオが魔弓を構えていた。水の矢が空に向かって放たれる。前回は分からなかったけど、ゴリアテは風で分裂だけではなく増幅したと分かった。
どしゃ降りになったのに拍手喝采。私の体は火の鎧で覆われている。リオと目が合ってウインク——また両目をつむっている——されたので彼女かゴリアテのおかげ。ブレイドには出来ないのは知っている。
私は暴露と解呪の訓練。火の鎧とかの他の訓練は要らないってことね。
「敵はバラキエル。ルーク祓士。それからオピルオン3体と水蛇10体。強さはそこそこです」
ん? オピルオン? 水大蛇? 私は勉強したぞ。
術者の能力で強さは違うけど、魔女がパストゥムで作った炎大蛇と同じ高難易度の強力な攻撃守護魔術。
指示した攻撃対象を自動追跡したり、指示した守護対象をひたすら守る。もちろん他の命令も可能。擬似生命魔術に分類される。
水大蛇は私の横幅の2倍、長さは3メルテ程。水蛇はその半分サイズ。水以外にも他の魔力が混ざってる。
「自分はリオ様の護衛隊長様のようにはいきませんので火鳥20体です」
ルークが「これでそこそこっていうか弱め。熊オヤジはすげえな。聖人の護衛隊長かあ。決闘してみてえ」とゴリアテを尊敬の眼差しで見た。
夕食中もずっと決闘しよう、決闘しよう、年末の決闘大会に一緒に出ようと騒いでいた。
祓士達の顔色は明らかに悪くなった。誰かが「俺達レベルが担当する悪魔災より明らかに高難易度だよな?」と口にする。
「いよっしゃあ! 要は俺対クレイヤだな! バラキエルを守れって時点でそういう予感がしてた! キヨイの暴露練習の為に捕獲してもらったんだから退魔されたら困るよな! 久々の手合わせで燃えるぜ!」
「作戦会議時間はありません。実戦想定です。チームワークを大切に。水氷系魔術中心にするように。その余裕があれば。解呪士は開始直後に9時方向へ集合」
クレイヤが捕獲檻を開き、私の方へ勢い良く飛んできた。私はお姫様抱っこ。一気に端っこ。9時方向だ。リオ達の近く。ブレイドが私の隣に立った。
「並の解呪士は遅えなあ。下手するとキヨイの方が早いかもな」
私を地面に下ろすとクレイヤは頭を掻いた。パラパラと人が集まる。解呪士達だろう。
「ブレイド、キヨイに……」
「キヨイ、なるべく動かずに楽に暴露出来るようにする。クレイヤさん、俺達はキヨイをリオと想定して護衛及び敵殲滅が訓練のはずです。当然、暴露補佐もします」
あっと思ったら薄いのにふかふかの魔法紙製の椅子に座っていた。次は膝掛け。半円状の屋根。火の鎧が消える。
「全員余裕ゼロ。キヨイの保護を忘れてるな。解呪士も放置。こりゃあ最後に説教だな。保護も訓練だと覚えている聖騎士3人、近くにリオとゴリアテさん。キヨイを狙うのはバラキエルだけ。だからキヨイ、暴露頑張れ。そのうち誰か呪われるからそうしたら解呪練習も出来る」
「頑張りたいけどバラキエルが見えない」
戦闘が開始していて、ルークは火を吹いてるし、水大蛇と水蛇は暴れまくっていて、火鳥は飛び回り、色々な魔法が飛び回っている。
「そういう時はいっそ目を閉じてバラキエルの気配探し。今日読んだ本に似たようなことが書いてあった。いやあ、今夜は少し楽だな。生徒はリオ、キヨイは聖騎士が担当してくれる」
クレイヤは解呪士達に課題の指導を始めた。そこに容赦なくルークが吐いた炎が襲ってくる。
退魔士達は護衛班と戦闘班に分かれたっぽくて、氷系の壁——防護壁に似てる——が解呪士達を守る。でも隙間から漏れた炎は容赦なく解呪士達を襲撃。
解呪士達はどう見ても複雑な魔力操作をしながら、あたあたしながら火を避ける。クレイヤはどこ吹く風。強固な氷の鎧をずっと纏っている。
「キヨイ。近くに行った方が良い時は呼んでくれ。これを鳴らせば良い」
ブレイドは魔法紙製——多分——の鈴を私を守る魔法紙に吊るした。ブレイドって本当色々出来るんだなあ。
ヴィアンカ十字の誓いだけではなくブレイドがリオの近くにいれる理由はこれだろう。ブレイドが剣を抜いて水大蛇へ向かっていく。
「スペンサー! ゼン! お前達は護衛対象のキヨイ嬢を放置して戦闘開始とはなってない! お前達だけ襲う水蛇を追加する!」
ゴリアテのはハリルが使った術より高度みたいで物凄い大きな声。耳がキーンってなるかと思ったのにならない。
スパルタ教育はリオやクレイヤだけじゃないみたい。無視しよ。私は守られる側。暴露の大魔道士になるには暴露の練習あるのみ。
目を閉じてザワザワ探し。1番酷いのはクレイヤ。これは無視。訳が分からない。全身にザワザワを感じるけど中心はおそらく心臓。鼓動しているからそう。
クレイヤの心臓はあらゆる魔力の鎖でがんじがらめ。心臓は悪魔の核様で超高密度というのは最近分かってきた。鎖だけでも厄介なのに、知っている限りの魔力が全部混ざっていそう。今知らない魔力も昨夜複数発見。
分からない種類のものは私がまだ知らない魔力。珍しい魔力は今週の土曜日にクレイヤと黒白結社の地下研究施設で触れる。
黒い炎の手のようなものはルーク。心臓が2つある。1つは悪魔の核。クレイヤ同様に訳が分からないので無視。
もう1つ探し。悪魔の核、ザワザワ探し。動いてる? 嫌な感じの丸がうねうね動きながら上下左右、前後に無秩序に動いている。
核は超高密度。雷ほんの少し、水、火、風、音? 音は苦手。土。密度が濃すぎて割合は全く不明。
「ああっ! だからゴリ押し出来るんだ! 普通は核を守ろうと動くけどそういう感じがない! 悪魔の核は適正な魔力以外でも遥かに上回る高出力魔力を叩き込めば良いから偶然当たるんだ!」
正解か知りたいのでリオを見る。リオが見えるような位置にいるのはそのため? これもブレイドの気遣い?
「まあキヨイ。早いわ。まだ約30分よ」
リオはパチパチと拍手をしてくれた。
「すっごい高密度の核で濃度は全然分からない。水、火、音、風、土に効く高出力魔術で退魔可能。バラキエルって苦労して暴露解析しなくても良かったから近年まで放置されていたの?」
「暴露は昔々だけど解析は放置されていたみたい。他に調べたい悪魔は山程いたし、今未解析でも優先度は低いわね。時間内に終わらないと思うけど、練習の為に完全解析頑張ってみて」
「高密度核の解析って今の私に必要だから頑張る」
よしっ、目を閉じるぞと思ったらヒュンッと乗り物が移動した。私がいた位置に水大蛇が突っ込んで行く。
「リオ様。避難致します」
「キヨイだけど」
聖騎士のゼンと呼ばれた赤毛短髪青年が私を乗り物ごと運んでいく。
「リオ様想定ですので」
「この訓練大変?」
「はい! リオ様が協力され、リオ様のご友人が主催する訓練に参加出来るなんで大変名誉で光栄です!」
「そ、そう。そうなの。怖いのに凄いね」
「怖くなどありません! 恐怖は1つ! 我等の主、リオ様に傷がつくことです!」
もういいや。若そうだから何歳かとか聞きたかったけどリオ扱い、本気かお世辞か分からない言葉を聞くの面倒。
集中力切れた。さっきまで聞こえなかったあらゆる音が聞こえる。魔法と魔法がぶつかりか合う音。
クレイヤが叫びまくっている。誰々はこうしろ、誰々のその操作はこうだとか、退魔士にも解呪士にも指導している。
「手加減してんのに情けねえな!」とルークが掴んでいる祓士をぶん回して何人もの祓士を薙ぎ払った。
それで急に静かになる。ああ、防音術をかけられていたってこと。誰に? 聖騎士の3人の誰かか。
試しに防音術を解除しようと思ったが、魔力の気配感知が大変。次は集まっている裂魂操作。全然無理。音系魔力は感知も操作も何もかも苦手っぽい。
その後バラキエルに集中したけど解析出来ず。




