スパルタ生活へようこそ5
猛吹雪で私達は全員吹き飛ばされた。
「ボサッとしてると焦げるじゃすまねえぞお前ら!」
私達の前でルークがニカッと笑った。
「濡れてるところに氷系はまずかったな。あはは、今溶かすから」
私は咄嗟に火の鎧をまとったけど、他の皆はガチガチ歯を鳴らして震えている。ビルなんて右腕が凍っている。
ルークが軽くふうっと息を吐くと、気温が急に上がった。暑いので火の鎧をやめる。ビルの右腕の氷はルークが強めにフッと息を吐きかけて消えた。
「全員自由飛行はやめて魔法紙にしとけ。それも簡単なやつ。飛行部隊で良く見る羽とかいいぞ。あと更にヒントな。魔法紙を使えば雷から身を守る帽子とか作れるんじゃね? 任務で見たことがある。ひよっこは魔法紙を上手く使え」
ウインクを残してルークは離れていった。超高速で。見直した。ちゃんと指導出来るじゃん。
「魔人ルークすげえ!」
「帽子って……」
「また雷!」
「防御壁ーーー!」
叫ばなくて良いのに叫んでしまった。
間に合ったというか、使い物になった? よしっ! 私のおかげで誰も怪我してない。全員魔法紙で羽をつけた。
「雷の魔力を感じないのに稲妻ってどういうこと⁈」
「言っただろ。暴露解析は比較的近年って。まあ、今の防御はナイス判断だキヨイ」
いつの間にか私の後ろにクレイヤがいた。
「ルークがヒント出しちまったようだから訓練だ。全員魔法紙を出せ。分裂させて5重。得意の魔力を良しと言うまで注げ」
また稲妻と思った時にはもうクレイヤが杖錫杖を振って氷の屋根を作っていた。襲いかかってきたセルヴァとオピオン4体を吹雪で遠くへ飛ばす。
「早くしろ」
「はい!」
「キヨイ、マール、ロナルド良し。ハリル、もう少し。メルルとビルはまだだ」
バラキエルがうなり、無数の氷柱が飛んでくる。あまり早くないし本数も少ない。それをクレイヤは火の混じった風で薙ぎ払った。
「メルル、ビル、よし。全員薄く伸ばして頭上に。稲妻から身を守る屋根。最低限の大きさはイメージつくな?」
「はい」
クレイヤは中々薄く大きく出来ないロナルドとハリルの魔法紙に軽く触れた。
「2人は練習しとけ」
「はい」
「キヨイ、簡易自動追跡保護魔術をマールの魔法紙にかけろ。残りは俺がやる。お前ならゆっくり見せれば出来るだろ。真似しろ」
そういうとクレイヤはクローバーの魔法紙を出して5つに分けた。
「魔縄に似てる」
魔法紙と対象をいくつもの細い糸で繋ぐ。土系の魔力をいじって糸にする。
「その通り。バラキエルの稲妻は上からしか来ない。頭の上に何かが有れば平気ってこと。厄介なのはさっきの氷柱の方だ。頭使って工夫して身を守れ。引き続き頑張れよ」
トンッと跳ねたようにクレイヤが遠ざかっていった。いつもは見ない、小さい魔法紙を蹴って離れていく。
「あれも多分ヒントだ。魔法紙を足場にして身体強化で跳ねるというか素早く移動」
「うおっ! またいなず……平気だ」
私達を襲った稲妻は魔法紙で作った屋根に防がれた。
「まずバラキエルの動きを観察しよう。それで身を守る方法を考える。今の状態じゃ退魔なんて無理だ」
「ビルに賛成。バラキエルの氷柱は遅いし数も少なかったから、キヨイがさっき言った身体強化と魔法紙を上手く使って避けるか。よし。練習しよう」
「セルヴァとオピオンは飛びかかってくるだけかなー?」
「ああマール。さっきはそうだったな」
「キヨイは暴露中心。俺達は避ける練習。それからバラキエル、セルヴァ、オピオンの動きの確認。慣れたらまた集まってどう攻撃するか会議!」
「OK! 最初に決めたペアごとで少し離れよう」
私達は2人ずつに分かれた。そうだ、と思い出す。
「ハリル。私、魔縄を5本作れるかやってみる。危ない時に反応出来たら皆を引っ張る!」
アンナが私を助けてくれた方法。
「無理! 長いのは1本が限界」
「飛行も身体強化も1番苦手なメルルにつけとけ」
「うん」
魔縄をメルルの体めがけて投げて蝶扇で操作して彼女の右足首に巻きつける。
「よし。ハリル。基本的に私を守って。頼むよ」
「任せとけ! とは言えねえな。見るのと立ち向かうじゃ全然怖さが違う。訓練で安全なのに。守ってもらってきたってヒシヒシ感じる」
ハリルはいつもの自信ありげな表情ではなく困り笑いを浮かべた。声も少し震えている。
「そういう時は極悪級の悪魔からも守るぜって言っとけ」
ルークの声がして、私とハリルは急降下。私達の頭上で爆発が起こった。体が右上へ移動。爆発。急降下。爆発。
「魔縄はこういう時は邪魔になるぜ。まっ俺レベルは向こうにも気を配れる。そこの可愛いポニーテールちゃんごめんな! なるべく気をつけたけど気持ち悪かったよな!」
視界の向こうでメルルがふらふらしていた。そこにセルヴァが1匹突っ込んでいく。ビルが跳ねてメルルと一緒に左下へ少し落下。
ルークは動かなかったので、2人なら大丈夫と判断したのだろう。
「おー。いいじゃないか。俺には邪魔だけど、しょぼいやつはああやって魔法紙を使って工夫する。お前ら見習えよ」
「クレイヤがヒントをくれたよ。何も言わなかったけどわざとらしく見せてくれた」
「そうなのか? よし、なら俺もヒント。バラキエルの爆発は規則的。こないだ退治したから覚えてる。3回か5回連続だ。豪雨のたびにうじゃうじゃ出るから面倒」
そう言うとルークはトンッと軽く跳ねてメルルの元へ。笑顔で何か告げて、メルルの頭を撫でて急降下。それから移動してバラキエルの真下。
「凄え移動速度。やっぱ格好良い。俺、昔ルークさんに助けられたんだ」
「そうなの?」
「地震後の悪魔災時に友達何人かと祓士を見に行って。怒られまくったけどルークさんだけは怒らなかった」
「そうなんだ」
「俺達は格好良かっただろう。でも避難所で大人の手伝いをする奴も同じくらい格好良いぜ。小さい子に配ってやりなって飴の袋をくれた」
ハリルの目は熱っぽい。憧れの人に追いつくんだと言わんばかり。この横顔、結構格好良いかも。
「バラキエルの爆発は連続3回か5回! 1回避けただけで油断するな!」
ハリルが叫ぶ。拡声器を使ったように大きく聞こえて、少し耳がキーンとした。
「私の苦手な音系。ハリルに首席卒業の座は譲らないからね!」
集中だ集中!
バラキエルの核探し。私は攻撃禁止だと、ゾワゾワ探しをして蝶扇を扇いだら退魔出来るのかもしれない。
ゴリ押しで退魔されてきた悪魔。暴露解析は比較的近年。暴露解析は退魔より大変だったってこと?
まっ、新種悪魔よりヘナチョコ悪魔ってこと。そしてこれは訓練で大怪我する可能性はゼロ。いや、かすり傷でも怪我なんて嫌だ。とっとと暴露だ!
「キヨイ!」
「わっ!」
ハリルが私の手を掴んで右上空へ跳んだ。爆発。それから更に上。爆発。もう1回上。爆発。そこから急降下というか落下だこれ。飛行術をやめて落下。頭上で2回爆発。
「ありがとう。飛行解除したら急降下の代わりになるとは考えたね」
「工夫しろって言われたから」
ハリルは照れ笑いした。
「で、どう?」
「全然。氷柱が来る!」
クレイヤの真似をして火と風を混ぜて蝶扇を振る。
「きゃあ!」
「うおっ!」
「わあああ!」
「あああ!」
あっ、やり過ぎた。ロナルド、マール、ビル、メルル全員散り散り。しかも氷柱は溶けてない。真似したつもりだけど、火が足りなかったみたい。
ルークがロナルドの片足を掴んでぶら下げていて、氷柱の破片っぽい塊がロナルドの周りにあるからロナルドに氷柱がぶつかるところだったぽい。
「味方まで吹き飛ばしてどうするんだよ!」
「しかも氷柱も吹き飛ばしてロナルドが危なかったっぽい。守るって難しいね」
頭上で大スパーク。屋根があるけどビビる。遅れて雷の音。
「よおキヨイ」
クレイヤの低い声がして振り返る。稲光に照らされる薄ら笑いは怒っているように見えて恐ろしかった。




