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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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スパルタ生活へようこそ3

 食堂で食事は学生仲間と喋れる貴重な時間。といっても、私、マール、メルル、ビル、ハリル、ロナルドの6人グループで固定されつつある。でも話しかけられれば話す。今日は特に誰も来ないっぽい。


 9時から15時まで授業。真面目にこれまで通り過ごしている。

 座学は相変わらず大変。でも実技授業はしょぼすぎ。実技授業は課題をクリアすると担当の先生が前倒しで課題を出してくるようになった。元々、そういうカリキュラムらしい。

 最短1年卒業とはどういう風に授業をするのかと思ったらそういう事だった。座学は3年カリキュラムだけど、優秀者は卒業させて就職先——1年卒業時は黒白結社、聖騎士、警務省本庁にしか就職不可能——で不足知識を補ったりフィオナのように働きながら通学。

 私はこの世界に慣れていないし、圧をかけると逃げられると思われていた——前なら逃げてた——ので牛歩だったけどもう違う。


「では本日の鎮魂学の実技授業を始めます。鎮魂士にはなれなくても、鎮魂は退魔技術の1つでもありますし、退魔した悪魔の裂魂を少しでも葬送すれば即時復活予防になります。皆さん、卒業レベルくらいまでは励みましょう」


 今日の午後1の授業はリオの授業。リオの授業開始時の言葉はいつも一緒。

 ブレイドはリオの隣から消え去り、代わりのゴリアテが生徒という生徒を睨みつける。寝たら殺す、オーラがすごい。

 実技授業で寝る人はいないし、聖人リオの座学授業も手に針を刺したりしてまで寝ない生徒ばっかりだよ!


 ブレイドはリオが「恥ずかしい」ということでしばらく隣から隣の隣へ移動になったらしい。

 隣はゴリアテ、隣の隣はブレイド。ブレイドは少し離れたところで主に訓練やリオやクレイヤ関係の雑務をしているとか。

 愛の誓いは昼間は割と自由らしい。

 ただ、高熱が出たのが1回、倒れて他の聖騎士に運ばれてきたのが1回。

 遠くの街へ行っても平気だったり、隣の教室でもダメだったり法則不明。

 

 リオの授業には外部生として鎮魂士見習いも参加する。毎授業ごとに5人。現役鎮魂士が毎回入れ替わり。今日も彼、彼女達は私を睨む。

 私がリオの隣にいるから。羨ましい位置にいるから。


「キヨイは今日も私の隣で基礎の基礎の基礎の練習ね」

「はい」


 私が苦手な実技は鎮魂学。私にはどうやら鎮魂の才能がほぼないっぽい。凡人以下。劣等生以下。幼児並でリオに「私の弟子なのに、伸びるのかしら?」と嘆かれている。


「リオ、今日も異界が分からない」

「私の魔法紙から裂魂が異界へ移動するのを目で追うのは出来るのよね?」

「突然ふっと消えるんだよ! 私が裂魂を集めてそこへ行けって命じても、そこがないんだよ! なんで優秀な暴露の目があるのに、幼児でさえ感じる異界の気配が私には分からないの⁉︎」

「前にも言ったけど、幻界で育ってこそ、なんだと思うわ。だから数年練習したり、練習しなくても暮らしているだけで少しは良くなるかしら。ここまで何も分からない人は初めてで、先生なのにごめんね」

「いや、色々考えてくれてるし、育ちが原因ならそれこそ長く暮らすのが先なのかも」

「そうね。キヨイは裂魂に音を乗せるのも苦手だから授業後半はそっちの練習ね。前回と同じ」

「はい」


 まず何の魔力でも良いから裂魂を適度に集める。沢山は必要ない。手に乗せた魔法紙の上に集める。

 そこに、あーって声を出す。音は振動。振動を魔力で操作して集めた裂魂と混ぜると馴染んで塊になってボール遊びとかが出来るらしい。

 全然ならない。


 首席狙いだから励みたい。だけど音や声を出して「異界へ行って〜」の感覚が分からない。なにせその異界の気配が私には行方不明。

 それに音に魔力を乗せられない。逆も然り。音、つまり振動に関する魔力の感知能力が乏しいっぽい。防音術が苦手な理由が判明。

 盗聴系、防音系、その犯罪的魔術の看破の需要は高いけど実用レベルは高難度魔術。

 リオは聖人だけどクレイヤは何なの⁉︎ 化物だよ! ヘクセライじゃないのに!

 ルークはやはり音系の魔法も鎮魂もからきしらしい。


「火の玉、土や氷の塊、圧縮した風に雷ボール。基礎魔力のボールならどれも簡単に作れるのに音だけなんで⁉︎ 音のボールって何に使うの⁉︎」

「音楽よ。こんな感じ」


 リーン、リーンと音が鳴る。それが曲になる。急にオーケストラ鑑賞みたいになる。

 裂魂が踊るように舞い、ふっとあちこちに消えた。

 どこにどうやって消えたのか相変わらず分からない。

 拍手喝采である。涙ぐんでいる生徒もいる。


「皆さん、黒白結社で私の直属の後輩として働いてくれると嬉しいです」

「リオ様! それでしたら自分が直属の部下になります!」

「自分もなります!」


 鎮魂士見習い5人が全員手を挙げた。


「まあ嬉しい。基礎一般祓士試験に合格しないといけませんから、その気があるなら励んで下さい」


 手を挙げている鎮魂士見習いは手を下ろして会釈をした。彼、彼女達は遠い目をしている。


 祓士は国家資格。年1回の基礎一般祓士試験に合格しないと正規祓士機関に所属出来ない。超難関資格。黒白結社の祓士はその頂点。

 つまりクレイヤは化物達の中の化物ってこと。ルークは規格外化物。リオは聖人という名の大化物。

 惚れ薬の効果が切れて色々分かってきた。

 

「まあまあ、残念です。結社にも一定数の鎮魂士が必要なのに。だからいつも職員教育中心になるんですよね。まあ基礎一般祓士試験は難しいですし、所属の鎮魂士に求められる業務内容も危険ですからね」

 

 リオが悲しそうに微笑むと、鎮魂士達は悔しそうな表情を見せた。励みたいけど自分達には無理、というように。

 黒白結社の鎮魂士と一般的な鎮魂士では求められる能力——主に鎮魂以外——が違うのも最近知った。

 主にお葬式で鎮魂や退魔後にすっかり安全になった場所で鎮魂するのと、悪魔と戦う退魔士の補助や退魔後の即鎮魂や災害危険地域などで活動するのでは雲泥の差。


 次の授業、本日最後の授業は基礎魔法薬草学。ひたすら板書して思考停止。

 私は子どもが知っている、そこらに生えている雑草系魔法薬草もその効果も知らない。魔法薬草とはほんの少しの魔力を与えると様々な効果を発揮する植物のこと。

 なのでコレコレって名前が出てきても分からないし、さらにそれをこうするみたいな話をされても意味不明。

 薬学系は基本的にフィオナにぶん投げることにしている。


 15時からは主に小屋で過ごす。ブレイドと課題、予習、復習。ブレイドはクレイヤ達が学生時代に1年間祓士の勉強をして、クレイヤにあれこれ教わっていたという。


「見たほうが覚えるし、庭散策と校内の薬草園へ行くか?」

「そうしたい。フィオナ、早く帰ってきて……。でも、ブレイドでもいいや」

「でもって何だ」

「ねえ、リオとはどんな感じ?」

「毎日聞くな。昨日と同じ。避けられてる」

「リオは照れ屋だねえ」

「キヨイが俺の気持ちをぶちまけたからだろう?」


 相思相愛と教えてあげたのに、リオが何にも言えなかったみたいでブレイドは片想い気分継続中。私が「誰にも言ってない俺の気持ちをバラした」と少し怒っている。

 誰にも言ってないって、皆知ってるよ。リオとブレイドはバカ娘にバカ青年。愉快なのでしばらく放置。


「ブレイドって何でも出来るよね」

「何でも励んだからな。努力が足りないから全部レベルが低い」

「努力じゃなくて才能ね。その才能を伸ばせない人はごまんといるってクレイヤが自慢の弟子というか友人って褒めてたよ」

「クレイヤさんが? それは嬉しいな」


 イケメンの照れ笑いは美味しいです。


 ブレイドはゴリアテの弟子としてひたすら励んで聖騎士。彼には剣術や武術の才能があった! もないらしい。ゴリアテ曰く才能より努力の男、飛び抜けた特技がない、器用貧乏らしい。

 ブレイドはリオがこの学校で学ぶ間、祓士の勉強もした。クレイヤ曰く、普通に養成学校入学卒業で祓士を目指しても祓士にはなれない、なれても下位組織所属。箸にも棒にも引っかからないタイプ。

 知識、特魔具、魔道具操作、体力増強など工夫して血の滲むような努力をして天才に並ぶか越す系。今のブレイドなら黒白結社に入社希望を出しせば即採用。

 ブレイド系の人は社会人入社枠や引き抜きなどで職員になるとか。

 コツコツ努力してきた人だから、工夫したり失敗してきた人だから、ブレイドは教え方が上手い。知識も豊富。

 クレイヤが教え上手なのも同じ理由なのだろう。

 

「とりあえず今日の授業で出てきた魔法薬草は持ってこれたな」

「うん。ありがと……フィオナ! 仕事は? 今日は終わり?」


 私達が暮らす小屋のリビングは広い。クレイヤとリオはダイニングテーブル——でもこのテーブルで食事をしたことない——の上にも下にも本を積み重ねている。

 高度禁書には関連書籍やら色々必要みたい。

 クレイヤとリオは今日も2人で難しい顔をしている。


 私はそれを無視してローテーブルで勉強。そのローテーブルのところにフィオナが座っていた。


「時間割。午後の最後の授業は基礎魔法薬草学だったでしょう? 特殊治療部はキヨイが欲しいからね」

「そう偉い人に言ったんでしょう?」

「試しに話したら、後輩指導して尊敬されて来いですって」


 フィオナは愉快そうに笑った。この可愛い笑顔を、クレイヤはチラッと見る。それで微笑んでからまた難しい顔で読書。今日も痒い。

 フィオナはそれからあれこれ器材を出した。本を開いたら飛び出してくる。収納系の魔道具だろう。なんか嫌な予感。


「私、今日の授業の復習とこれから課題……」

「魔調剤しながらの方が覚えるわよ。ノート見せて」

「フィオナ嬢、授業で名前が出た魔法薬草を採ってきたところです。足りない分は俺が用意します」

「ありがとうございます」


 ローテーブルの上が理科実験室みたいになった。


「いよお! 皆張り切ってるか? 俺は泊まりの任務が終わって2連休だ! 明日の一面は俺だぜ!」


 ルークが黒白結社と続く扉から飛び込んできた。手土産っぽい紙袋を持っている。


「丁度良いな。ルーク、お前はどうせまだ応急手当ても出来ないだろ」


 クレイヤは動かない。本から目を離さない、という様子。


「えっ、そのテーブルの感じ、魔調剤? いやああ、俺って強いから自己治癒逃亡出来ない祓士と一緒にはならな……」

「この間カラザの森でロイさんが負傷してキヨイに手間かけさせたのは誰だ。ルサールカの睡眠の呪いをキヨイが解呪出来たのはキヨイが素晴らしく優秀だったからだ」

「あはー、ははは。滅魔禁止の新種悪魔にお前の母ちゃんは流石にやべえよ。げえ……いつ来ても勉強か」


 ルークは私の隣に座った。


「おお、このレベルなら流石に出来るぜ」

「アホルーク。お前は器材なし魔調剤と同じ材料で別薬剤作成だ」

「器材なしとか無理だろ! 俺に繊細さなんてない!」

「単位取得済みを復習してどうするんだよ。お前が残したのは上級魔法薬草学や上級魔調剤学だろ」

「いや、中級もだ! 去年再確認されて全部忘れていて単位没収された! 何で俺だけ単位没収なんてされるんだよ! 他の奴等は卒業したら放置なのに!」


 ルークはぶつぶつ文句を言いながらフィオナに課題を要求。ルークは幹部候補生だから特別扱いされているとはリオ談。幹部になるなら一芸タイプでは困るということ。

 ルークはその後「可憐な君と特訓なんてやる気が出る。お礼に今夜何かごちそうするよ」とフィオナに向かって満面の笑顔でウインク。

 こちらを向かないクレイヤに、氷の塊をぶつけられた。


 仕事がない時にルークはこうやって私と勉強。教えてくれるんじゃなくて教わる側。

 ルークは正祓士なのに未だに座学試験を受けさせられているという、英雄のくせしてとんでもない劣等生だった。

 嫌だ嫌だと言いながら勉強する。努力家だ。ただ、すぐ忘れるっぽい。

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