スパルタ生活へようこそ2
約5億6000万のS級魔道具ゲット!
扇は古い言葉で「リピス」らしいので私の相棒は蝶扇。綺麗だし役立つし素晴らしい魔道具。
暴露の大魔道士キヨイが使うんだから、後世に伝説の魔道具と呼ばれて博物館に飾られたり、使えるなら次の大魔道士に受け継がれるだろう。
アイザックやゴットフリートの魔道具が欲しかったな。それなら無料だし。何だったの? どこいったの?
同じ約5億6000万ならプロポーズでもらう指輪の方がいいんですけどー!
有名祓士は有名祓士や芸能人に聖騎士、暴露の大魔道士なら王子様にだってモテるかも、と聞いたので私は主人公——どう考えても主人公級才能——に相応しいラブロマンスが訪れることを期待することにした。
あっ、クレイヤみたいな主人公級才能にあるある不幸とか悲劇はお断り!
その前に超成長してコネも作りまくってやるもんね。
***
6時半起床。食後に動くと気持ち悪くなると分かったので、あまり身支度しないでブレイドと訓練。朝の訓練は基礎体力作り。
「おはようブレイド」
「よしキヨイ、今日も走るぞ」
「はい……」
眠い。超イケメンはもう見慣れて嬉しくない。どうなってるかサッパリだけど、人のものだし。
しかもキヨイ嬢からキヨイと呼ばれるようになったのでお嬢様、お姫様扱い感も消えてしまった。
「筋肉と血管と神経への強化バランスが悪い。もう少し血管に集中」
「してるよ! そこそこ早いじゃん!」
「肺にも集中!」
「してるって!」
「呼吸が荒い!」
「それくらい許そうよ!」
学校を囲む壁際を早く走る訓練。
テニス部だったから走るのは得意と言いたいけど、ゆるゆるテニス部だったし、この基礎体力は「魔法を使った」体力作り。
少ない裂魂を使って身体強化を行う技術は戦うにしろ逃げるにしろ祓士には必須。簡単なものは子どもの護身術、難しいものはスポーツと幅広く使われている。
私はこの国で育ってないから基礎の基礎の基礎からはじめたけど大天才だから成長スピードは早い。
授業でもそのうちやるらしいけど、その難しい版。今しているのはブレイド曰く基礎中の基礎。
一定速度以上で長く走る訓練。最後に跳ねる練習で池——もはや湖——を10回飛び越える。
「昨日より良いな。あー……」
「跳ぶ瞬間にバランス変えるのも距離を出すのもやっぱり難しいよ!」
ジャンプに失敗すると11月末——太陽の月——の冷たい池にボシャン。この瞬間に防護壁を使う訓練も兼ねている。
この訓練レベルだと防護壁は私には楽勝ですぐ課題クリア。なので火、氷、土、風の鎧で濡れない訓練中。私はどうやら水氷系は少し苦手っぽい。そして今日はその氷の鎧で訓練。
「寒い! 冷たい!」
あちこちから池の水が侵入。即座に得意の風の鎧に変えて池から飛び出す。
「ムカつく! 絶対この課題クリアしてやる!」
「氷の鎧はクレイヤさんにコツを聞いてくれ。そんなにムキになって複数覚えなくてもというか、普通そんなの無理だ」
ブレイドは1つも使えない。使えるけど実戦レベルではない。代わりに防護壁の硬度や範囲を上げているという。
でも防護壁で対応出来ない高難度魔術は多々あるし、防護壁は自分を中心とした円状の防御技。
魔術鎧は優れた魔術師なら複数人に同時発動させられる。クレイヤが魔女の偽物が使った極炎から自分とブレイドを守ったように。
祓士には魔術鎧士認定がある。後方支援にピッタリの魔法だ。ブレイド並の凡人——魔術師としてはフィオナよりマシくらいの劣等生——には難しいレベルが認定基準。
黒白結社に入社する祓士は、特別な能力や一芸がなければ最低1種類の高難度魔術鎧を使えるレベルの才能があるという。
動き回って他の魔法を使いながら最低2人に使えるレベル。
才能があれば努力がものをいうらしく、入社1年目に基礎魔術鎧士認定を1つ取得出来ない祓士は基本的に黒白結社を強制退職。
でもルークは使えない。頑丈なので免除という例外。
「私はアイザックとゴッドフリートのハイブリッドだから使えるだけ魔術鎧を覚えるんだよ! 私は戦闘系は興味ないけど逃亡、生き残り、人助け系は超磨くの!」
動きながら、戦いながら魔術鎧を使うのは高難易度魔術。私はまだ池ポチャ時、そして短時間使えるだけという基礎状態。なのに氷の鎧はそれすら無理。腹が立つ。
万が一また魔女と遭遇したら氷の鎧が必要なのに!
ムキー!
「そうだ、筋が良いぞ」
「今のが1番高く遠くへ跳べました!」
「ビル、すごいねー」
「俺も負けねえ!」
近くでゴリアテに指導を受けているのはマール、ビル、ハリル、ロナルド、メルルの5人。
今年入学の1年生——つまり留年生以外——の成績優秀者。
ゴリアテがリオに「学校内の護衛は気楽なので仕事を下さい」と言ったらしく、リオが校長と相談して早朝特別訓練に参加する生徒を推薦。全員推薦を断らなかった。
ちなみにゴリアテの部下、私とリオの護衛も朝から校庭で素振り、決闘訓練などをしている——ゴリアテ曰く気楽だから訓練させられている?——ので朝から賑やか。
首席卒業を争う好敵手達。私と違って座学に強い。とくに同い年、17歳のハリルは今年の入学試験の筆記試験1位。絶対負けられない!
でも早朝特別訓練で、ブレイドのいう基礎中の基礎の訓練をしているのは私だけなので、実技系はやはり私の独壇場。
10回中10回池ポチャして氷の鎧も全失敗。10回好き勝手に池を素早く飛び越える訓練をして終了。
飛行術に蝶扇で増幅した風魔法を組み合わせれば超楽勝。
でもこれに頼ると防御魔法や解呪、逃げるための攻撃魔法や他の術を扱うのが難しくなる。その為の身体強化技術訓練。
「はああああ。見学の時にロイさんもアンナさんもルークもひょいひょい動いていたけど、身体強化技術って難しすぎ」
「ルークさんは自己筋力か本能任せらしい」
「そうなの⁉︎」
ブレイドがこくりと頷く。謎だ。ルークは謎人間。悪魔の子らしいし、特に本人が私に「悪魔の子だから〇〇してくれ」もないし、クレイヤやリオも何も言わないから放置中。
昔は暴走? したっぽいけど今はリオとバラけて活動しているし黒白結社で立派に働いているから何も問題がないのかもしれない。
しかしクレイヤは「お前はお前の本を探せ」と言っていた。でもルークは本を探さない。
「ブレイドはルークの事を何か知ってる? 秘密的な」
「気になるならルークさん本人に聞いたらどうだ? キヨイには話すだろう」
「そんな気がする。でも毎日疲れてヘロヘロだから忘れちゃうんだよね」
マール達に合流。これから皆で食堂で朝食。全員汗をかかない術の訓練中でもあり、順調なので朝のシャワーは使わない。
汗をかかない術でなくても良いけど、身体強化技術の訓練中に何か術を使い続けるのは、集中力と魔力操作力の向上が目的。
「マール、見てたけど昨日より遠くに跳べてたね」
「相変わらず低いところでだけどねー」
「マールは高さを出すのが苦手みたい」
私とマールとメルルで女子3人。ビル、ハリル、ロナルドの男子3人は私達の後ろを歩く。いつの間にかこれが習慣になった。
ブレイドは私達生徒と一緒ではなく、クレイヤ達と黒白結社の職員食堂で朝食をとる。
「今のところ5人ではビルが1番?」
「一応」
「キヨイは何をやらせても凄いよな」
「いや、鎮魂はからきしじゃん」
ビル、ハリル、ロナルドがクスクス笑い出した。
「鎮魂学のおかげで首席卒業をゲット出来るかもな」
私はハリルに満面の笑みを投げた。
「16歳入学でもないから、1年卒業出来るかも怪しいじゃん」
「出来るさ。16歳入学のロナルドより優秀だぜ」
「初めての学期末テスト、私が1位を取るから。実技は圧倒的No.1なのは当然として」
「鎮魂学は?」
「ぐぬっ。リオに教わるもん」
「本当ずるい奴。俺もリオ様とはいわないからクレイヤ先生の弟子になりてえ」
6人全員が自分もと言い出す。圧が凄い。クレイヤに頼めってことだろう。ルークは英雄だけど先生としては人気ない。
特別講師として授業をした時に、教え下手だったから。ルークの身体強化特別授業は結局ブレイドが行った。
ド派手で強い英雄なのでサインや握手を求められたけど、先生としては人気ゼロ。
校長にも「試しに君に頼んだ自分が愚かだった」と呆れられたらしい。
「俺は誰でも良いから弟子入りしたい。優秀者は初年度の年明けに声掛けがあるらしいぜ」
「ハリル、リオ先生って呼ばないとゴリラじゃなかった、ゴリアテさんに睨まれるよ」
「キヨイがゴリラって言っていましたって伝えておくわ」
「ちょっ、やめてよ!」
気がついたら私とハリルは並んで歩く。これも最近気がついたらそんな感じ。
トキメキはまだうんともすんともないけど、学生恋愛に発展しても良いと思う今日この頃。




