スパルタ生活へようこそ1
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クレイヤを探したら職員会議室で本を読んでいた。それでリオもいた。なんとブレイド不在。
リオはしれっと「家の用事を頼んだの」と告げた。あの後どうなったんだろう。
クレイヤはフィオナとまったく同じところに同じ指輪をしていた。違うのは左手薬指の宝石の色だけ。クレイヤは赤。
フィオナには元々の自分の目の色。自分は思い出の赤色ってこと。私がガン見してもクレイヤは無視して涼しい顔。
2人同時に揶揄ってやる! と思っていたけど話があると真剣な顔で言われた。
秘密の図書室の本はどこまで持ち出せるか不明。
高度禁書にはページの途中にもトラッパーや呪い——こういう場合は守護術という——がかけられていた。
クレイヤはトラッパーや守護術に気がついても、高度守護術の暴露は難しい。術が分からないと解呪出来ない。
私もトラッパーや守護術に気がつくだろうけど、知識がなくて暴露しても何の術か名称が分からない。
今の私が簡単に暴露、解呪出来るような守護術はかかっていないだろうし、知識技術不足の私が致死術レベルの解呪に今チャレンジするのは危険過ぎる。
となるとクレイヤが本を読み進めるのに必要なのは高度な暴露が出来て術の名称が分かる人。リオとか。
リオは暴露は出来ても致死術レベルの解呪は無理。となると解呪に長けた人が必要となる。クレイヤとか。
クレイヤにはリオのような人、リオにはクレイヤのような人が必要ということになる。
秘密の図書室にある本は、全てを備えている人や、優秀な人材にツテがないと読み進められないということ。
というわけで、リオは学校に小屋を使うという。
見た目は物置小屋で中身は一軒家。
校内の特別閲覧室と職員室と黒白結社に続く扉付きにするという。
リザ家は無理みたい。かなり特殊な空間だかららしい。
「私とクレイヤとリオとブレイドでそこに住むの?」
「仲間外れは可哀想だからルークも呼ぶわ。同じ方法で一緒に暮らした学生の頃みたいになりそうで楽しそう」
「うるせえからルークはやめようぜ。バカだし騒がしいし邪魔」
「学生の時、みんなで一緒に暮らしていたの?」
「今は別の方法を開発出来たけど、学生の頃は俺の呪いの発作時にリオが必要で、時々暴走するルークにもリオが必要だった。それでブレイドと女性聖騎士の当番を含めた5人で暮らしていた」
表向きはクレイヤとルークが同室の寮生。リオは通学生だったという。
入学前、クレイヤとルークは黒白結社内で軟禁生活。クレイヤは10歳の時、ルークも2年遅れて10歳の時から。
リオはクレイヤとルーク、とくにルークの事があったのと本人の強い希望でリザ一族関係の学校から黒白結社内の学校へ転校。
「へえ。そうなんだ。もしかしてそれで年齢が違うのに同期?」
「クレイヤとルークは聖騎士を目標に掲げてこの学校に入学したのよ。色々嘘……コホン。色々示し合わせ……ゴホゴホ。色々あって3人揃って同じ時期に入学出来たの」
リオはめっちゃしれっと嘘をつくのに、しれっと嘘をつけない時もあるみたい。それともわざと?
「痛むだけじゃなくて悪魔を呼び寄せそうとか、色々な」
ニヤリと笑うとリオもクスクスと肩を揺らした。つまり、悪ガキだったってこと。
「今回は護衛は外。必要ないもの。私とキヨイの護衛が合流出来て一石二鳥。弟子が200年振りに伝説の図書室を発見したのであらゆる研究を進める。もちろん貴女を育てることもね。気合入ったって聞いたから、スパル……一緒に張り切っていこうと思って」
リオ、今スパルタって言おうとしたよね。わざと? わざとなの?
「黒白結社に報告して、優秀な暴露士と解呪士と有能な職員を募って、キヨイの協力のもと研究や能力向上を行うとか、今後あれこれ決まるだろう」
「キヨイには色々な人が本を借りれるように協力してもらうわ」
これ、私に拒否権は無さそう。
「俺が月曜夜19時から21時まで学生と結社内の希望者に補講を行うことになったのは知ってるな? キヨイは基本的に毎日参加。その後22時までリオが魔弓などの個別指導」
授業が終わるのは15時。私は朝から15時までずっと授業。つまり……そこから19時まで自由時間?
いやこの間に秘密の図書室へ行かされる。それが1時間とか?
残りは3時間。夕食があって……山のような課題がある。推定の残り時間は0というか赤字。
「その後はブレイドと1時間訓練よ。ニールとか役に立つ事を教えるわ。その後1時間は聖騎士が転送術の指導をする」
クレイヤもフィオナもニコニコ笑っている。
「まっ、待って! 0時までギッシリじゃん!」
「朝は8時からだから6時間は眠れるわよ。毎日1つアピの実も食べられるわ」
食べられるわって、ドーピング、薬漬けみたいじゃん!
「朝8時から1時間ブレイドと訓練な」
9時から授業。休憩無し。せめてシャワーは?
「7時半から1時間にして! 授業前に休ませて! 戦闘避難訓練って動くんだからシャワーくらい! それに授業の予習や復習時間、課題をする時間は⁈」
「7時半からで良いけど、辛けりゃ1限目なんてサボればいいんだ」
「キヨイは真面目なのね。授業もしっかり出たい、課題も全部したいなんて。貴女レベルは卒業後にゆっくり勉強すれば良いのよ。ルークと同じ。ルークは遅過ぎるけど、キヨイなら早いと思うわ」
「まあ、手伝うけど基礎は大切だから確かに授業を疎かにするのは良くないな。朝は7時半からにしよう」
き、気合入ったなんて言ったからだ。絶対そのせい。こいつはもう逃亡しない。絶対的協力者だと認められた。
嫌だと言ったら緩めてくれそうだけど、基本はスパルタ教育するつもりだ!
「卒業後に勉強ってどういうこと⁈」
「優秀な人材は早く現場に欲しいから、全科目落第でも実技が圧倒的だったり一芸に秀でていたら就職後に座学を学ぶんだ。指導者がついて課題を出して試験もする。ルークがその典型」
「クレイヤは私と首席卒業。そういえば首席2人は私達以降はないらしいわ。ルークは一芸タイプ。基本的にどんな悪魔も強引に滅魔出来て頑丈だから、とても重宝されてる」
「つまり、私がこれまで頑張っていた勉強ってそんなに意味無かったの⁈」
強制的に1年卒業コースだったやつ!
私が「3年いたい」と言った時にクレイヤがどこかに相談みたいなことを言っていたのはこれだ。
「基礎はうんと大切よ。キヨイに足りないものね。大天才、未来の暴露の大魔道士は首席卒業の方が見栄えが良いわ。だからエコ贔屓して、スパ……一生懸命協力して1年で首席卒業へ導くわ!」
リオさ、またスパルタって言おうとしたよね。
しかも3年希望がしれっと1年卒業に戻された。これ、黒白結社の偉い人達に1年卒業って言われたやつでしょ。
おまけに目標が「首席卒業」に変更された。
「週休1日は絶対。でも頼まれればいくらでも教育するわ。土曜日は張り切ってくれている新種悪魔の暴露への協力ね」
毎週土曜とは言ってないけど。2日連続で行ったから誤解された!
まあ仕方ない……のか?
私は確かにわりとやる気を出してるぞ。
「こちらから出向いて解呪ではなくて、捕獲檻で捕獲して学校に運んで暴露に変更。呪われた人が出てここへ運ぶ余裕がある場合も同じく。シミュレーションが良いって言っていただろう? リオがあちこちに話をつけてくれた」
「私、キヨイのために結構頑張ったわ。クレイヤも魔女探しはやめて本気で大人しくするって」
「なるべく怖くない痛くないってことだよね? 少しずつコツコツ、地味にステップアップ?」
スパルタだけど。学校内で暴露解呪なら突然魔女が現れるとか、新種悪魔と遭遇とか主人公的お約束事件は起こらない。
「ええ。そうよ。疲れた、具合が悪い、眠いとか、ちゃんと話も聞くわよ」
「早くそうしてよーーー! あっ、根回しが大変だったのか」
「そうね。私は忙しいし、色々縛られているし、クレイヤは優秀で任務に引っ張りだこだもの。最近のゴタゴタと秘密の図書室に新種悪魔の件があったから上手く話をまとめることが出来たわ」
クレイヤはリオに向かって困り笑い。リオは満面の笑顔で私を見て胸を張っている。
勝気リオはどこにどんな権力を振りかざしたのだろう。
「昔なら反対されても、クレイヤはうんと頑張って地位を確立したから。クレイヤは今では時世代の祓士の先頭集団。英雄よ。だから融通が利くの」
「今の俺に死なれると少しは困るようになったからな」
「解呪士は慢性人手不足。氷水系魔術師としても若手ではピカイチ。各施設に多額の寄付に国内での人気に後進指導。あと機密情報で研究実験への協力。色々ね」
本人曰く一族の中では落ちこぼれで、ヘクセライじゃないから大天才でもない。
各施設に多額の寄付。チャラチャラ気分で雑誌の取材を受けたわけじゃないのね。
「分かった。そこで暮らす。週休1日も善処する。こうなったら大魔道士にさっさとなる。お母さんは闇落ちなのに息子は立派に働いて、なのに報われないなんてそんなのおかしいもん」
過去回想で聞いた「クレイヤは立派。だから今以上の悲しみを背負う必要は無い」というリオのセリフはもっともだ。
いい事思いついた。私はニンマリ笑顔を浮かべてクレイヤを見据えた。
「それで、その小屋にフィオナは住まないの?」
照れ臭そうで嬉しそうだったクレイヤは無表情になり、私から顔を背けて目を閉じた。
反抗する気はないだろう。なにせ私はクレイヤの心臓を握っている。未来の命の恩人だ。
「フィオナさん? 同室で離れたくないから? お世話係をしてくれてるのよね?」
「そうなの。それにリオ、そこのクレイヤの指輪に気がついてる?」
「指輪? ええ。クレイヤはしょっちゅうアクセサリーを変えられて羨ましいわ。服も毎日違くて楽しそう」
「指輪だけは明日から変わらないよ。ずーーーーーっと一緒。ねっ、クレイヤ」
「んなわけあるか。もうするなって言われたら外す」
「逆は?」
沈黙は肯定なり。つまり自分は絶対に心変わりしない自信があるわけ。まあ何歳からの恋か知らないけど一途だもんね。
その恋叶えてあげようじゃないの。結婚式でスピーチや子どもの名付け親。そういう見返りこそ燃える!
「キヨイ、クレイヤ、何の話?」
「フィオナも一緒の家にしてくれたら教える。リオの新しい友達になると思うよ」
ピクリ、とリオの耳が跳ねた。顔も嬉しそう。
「そうかしら?」
「一緒に暮らしていたクレイヤとルークと凄く仲良しでしょう? それで私とも友達で、その私と気の合うフィオナと仲良くなれない訳ないじゃん」
フィオナと私って別に気が合う感じはまだないし、特別仲良が良い気はしないけど嘘も方便。
尊敬出来る命の恩人クレイヤの未来の奥さんとは仲良くしないとというか、私は仲良くしたい。
「そうかしら?」
「リオがフィオナを誘いなよ。フィオナの手を見たら私が何でフィオナを誘うのか分かるから。感謝されるよ。仲良くなれるよ。女子3人って絶対楽しいよ〜」
リオのおめめキラキラ。目が痛くなるほど虹色の魔力が溢れている。
前にカフェで見た光景と同じ。リオの背後にぶんぶん振れる犬の尻尾が見える気がする。
絶大な権力者——聖人——なのに、こんなにチョロくて大丈夫?
「フィオナを呼ぶならルークを呼ぶなよ。うるせえし邪魔な上にあの女誑しを近寄らせ……」
目を閉じたままのクレイヤは、しまったというように唇を結んだ。リオが不思議そうに首を傾ける。
それからハッとした顔をした。その後は頬を染めて嬉しそうな顔。クレイヤの左手薬指の指輪をしげしげと眺め始める。
「じゃあそういうことで! 私はとりあえずフィオナが来ないと新しい教育を受けることを拒否する!」
いえーい、とリオにハイタッチしようとしたらキョトンとされた。ハイタッチを教える。すると「してみたかったわ!」と満面の笑顔で私とハイタッチした。
こうして、私のスパルタ生活は開始。
なお、クレイヤのヤキモチを無視して、ルークも「俺もたまに特別講師をすることにした! 仲間外れ反対!」と小屋に乗り込んできた。




