暴露の大魔道士はキューピッド!
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お邪魔虫は退散と言っても、寝る時間はやってくる。ツンツンへたれクレイヤがフィオナと上手く喋れるとは思えない。きっと時間が必要だろう。
なので、2時間マールとパンジーの部屋で時間を潰して——ウィスの最新号を3人で読んでた——部屋に戻った。
ノックしても返事がないので部屋に入ると机の上にフィオナの勉強道具や本が並んでいた。昨夜借りた本も置いてあるけど、他の本と違って閉じられている。
(居ない)
窓が開いていて、カーテンが風でひらひら揺れている。この学校には強靭な結界が張られていて、私にはリオの聖騎士が24時間護衛についているらしいので窓が開いていたって安全。のはず。
でも窓を閉めよう。よく映画とかであるじゃん。いつもと違う部屋で事件! とか。そういうの嫌だ。
(フィオナ、どこ行ったのかなあ。クレイヤとどうなったんだろう。クレイヤ、ごめんねくらいは言えたかな)
お風呂に入って明日の予習でもして寝よう、とお風呂の準備。大浴場、シャワールームは深夜1時まで使える。練習室は23時までだし、色々規則が緩い。
生徒同士の魔法を使った喧嘩、生物虐待殺害は厳罰や退学だけどそのくらい。遅刻しても怒られない。
遅刻しようがサボろうが寝ようが、本人が卒業出来ないだけだから。代わりに熱心な生徒は補講、練習と色々付き合ってもらえる。
モラルの有無は常に監視されているらしいけど、どうやって評価しているのか不明。
お風呂でまったりして部屋に戻っても、フィオナはまだ居なかった。と、思ったら窓が開いた。鍵もかけてあるのに鍵が開く。何かの魔力を感じた。風でカーテンが翻る。
窓の向こうから滑り込んで来たのはフィオナだった。夜の散歩? フィオナが? へなちょこフィオナは優雅に夜の散歩なんて無理だよね?
あっ、クレイヤ。カーテンで見えにくいけど、あの手袋はクレイヤ。フィオナの名前を呼ぼうとしていたから、慌てて止めた。
そういうこと。2人で夜空散策。仲直り出来たんだ。クレイヤ、ちゃんと謝れたんだ。
窓から身を乗り出すフィオナと、窓の向こうに浮かぶクレイヤが向かい合っている。
フィオナは後ろ姿だし、彼女とカーテンでクレイヤの姿は見えない。フィオナがスッと爪先立ちした。
ふーん、と思ってフィオナの周りの少し風をいじった。カーテンが広がって、窓の向こうに立つクレイヤがフィオナとかなり近いと判明。
あの立ち位置で背伸びして窓から身を乗り出して、目の前に人がいるとはそういうこと。
まじか。そこまでトントン進んだのか。
フィオナが背伸びをやめた。それからゆっくりとこちらを向いた。窓の向こうでクレイヤは急降下。目は合わなかったし、私に気がつかなかったような気がする。
「キ、キヨイ。いつから」
「ついさっき」
フィオナの顔は真っ赤。これ、今さ、キスしてたよね?
目を彷徨わせるとフィオナは両手を後ろに回した。
「ふーん。フィオナ、クレイヤに私のことを何か聞いた? むしろクレイヤのことを何か知った?」
これは楽しそうな予感。フィオナに近寄る。それから彼女の後ろに回ろうとした。フィオナは私に背中を見せない。背中というより手だ。
「し、仕事で厄介な呪いにかかって研究中で……キヨイは協力してくれているって」
どこまで話したか分からないけど、何かしらは話したんだ。クレイヤに聞こう。
「現界に悪魔が現れるって滅多にないけど襲われて。クレイヤが助けてくれたの。お礼に留学。もちろん、異世界なら大天才だひゃっほい! っていうのもあったけど」
「そう、そうらしいわね」
これも話したのか。私の勘は冴えてるぞ。それで魔女の話はしてないはず。それは黙っておく。
悪魔の呪いのことはリオとの契約で私からは喋れない。契約がなくても勝手に教えないけど。うっかりしなくて済む。
「それなら、今夜何があったか教えてくれるよね? クレイヤの未来の恩人。フィオナが毎日毎日同じリボンを使っていることを知らないクレイヤに教えてあげたのも私。役に立ちそうな秘密の図書室を見つけたのも私」
寝不足だって問題無い! だって私はまだ17歳。もうすぐ18歳。若いから恋バナして夜更かししてそのまま授業でもへっちゃら。
フィオナはさらに赤くなった。可愛い反応。美人だから本当に可愛い。
「な、な、何も」
「ふーん。暴露の大魔道士って、自白術の応用も出来るみたいで、そのリボンに宿る思い出を知っちゃったんだよね。偶然なんだけど」
目を丸めたフィオナに追撃。
「わざわざカモフラージュしてる髪玉飾りも同じ。クレイヤをせっついたの誰だろうね? ねえねえ、私に何か言うことない?」
固まっているフィオナに近寄って、頬をツンツンつつく。
「ねえねえ……」
フィオナはそろそろと右手を前に出した。右手の小指に白銀の指輪。ハート型っぽく歪んでいる。ヘタと葉っぱ付き。りんごだ。りんご型。
でもおもちゃとか子どもっぽくない。素材が高級そうで曲線が美しいから?
少し大きめの透明でキラキラ輝く宝石と、少し小ぶりの同じ種類の宝石が並んでる。これダイヤ?
「うわあ可愛い! クレイヤがくれたの? 何て言ってくれたの?」
フィオナはふるふると首を横に振った。それから机の引き出しから雑誌を持ってきた。机の上で雑誌を広げる。
ページをめくり、クレイヤの特集ページ。このページ、さっき読んだな。ついでに見えた。2ページ前のクレイヤのポートが切り抜かれていた。
フィオナ、クレイヤのポートをスクラップしてるんだ!
今開かれているページは、クレイヤとジュエリーショップがコラボして販売する限定品の紹介ページ。
「ここの……その……定番品……」
フィオナの声は消えそう。顔は真っ赤でほぼ無表情。少しだけ眉間に皺。
「マールム・ピュミラってクレイヤが長年愛用していて、それでこのお店がスポンサーになって、今回のコラボだっけ?」
さっきマール達と読んだ。パンジーがそこそこクレイヤファンみたいで色々教えてくれた。
マールム・ピュペラはブライダルアクセサリー及び女性向けアクセサリーの老舗店。シンボルはりんご——マールム・ピュミラ——である。
この国でりんごは運命の果実。クロノスとヴィアンカが結婚式で食べさせ合った愛の実。
クレイヤがピアスやベルトにネクタイピンや腕時計などを使うから男性からの人気も急上昇中らしい。
老舗店だから少し古臭いとか、ド定番過ぎるので人気1位になり損ねていたけど、やはりクレイヤ効果でここ数年は40歳以下の女性人気不動のNo. 1。
コラボは更なる売り上げ増加を狙ったのだろう、とはパンジー談。
ちなみにラビゴも似てるらしい。クレイヤは他にもニータ・ニータ、ラノバース、ゼルディルがお気に入りらしい。彼が一面記事に載った時に使っていたブランドは売り上げが跳ね上がるとか。
無言のフィオナはそろそろと左手も出した。
左手薬指に白銀の指輪。右手のピンキーリングとほぼ同じ形だけどへたと葉っぱはない。
左側の曲線に深い青色の宝石が2つ並んでいる。大小なのは同じだけと右手のピンキーリングの宝石よりも大振り。
右側の曲線には小さなりんご型がうっすら3つ浮かび上がり、それぞれに2つずつダイヤがついている。
これ、雑誌で見た。デザイナーがクレイヤをイメージして作った指輪。青い宝石は「氷槍」の異名と髪玉飾りに因んだもの。
でもあれはピンキーリング。それで宝石は魔合成品で値段を安く抑えましたって雑誌に書いてあった。
「えっ、いきなり婚約指輪?」
フィオナはぶんぶんと首を横に振った。その後さらにぶんぶんぶんと大きく首を横に振った。顔は真っ赤なまま。めちゃくちゃ楽しい。
「迷ったら……宝石を変えたり、サイズを変えて……2つ……。ピンキーリング2つはダサいって……」
「その場で宝石やサイズを変えられるんだ」
「本店だから? 私はそういうの疎くて……」
さすがお金持ち。いや、貯金が空になったって言っていたけど……また稼いだのか。
これはどう見ても婚約指輪。この国でも左手薬指が特別なのは同じ。ヴァル先生の結婚指輪がそれを証明している。
「恋人ってこと。ねえねえ何て告白されたの? 危険な仕事だから、他の男と一緒になる方が君の幸せだと思っていた。でもそのリボンに込められた情熱を知ったら……フィオナ?」
フィオナはパシンッと雑誌を閉じた。
「おふ、お風呂。お風呂に入ってくる。それで寝ないと。明日は朝一の実技授業に参加したら仕事だから」
「えー、なら私もお風呂に行く」
「あな、あなたの髪、濡れてるじゃない!」
えいやっと、風魔法フル活用。私の髪はあっという間に乾いた。
「濡れてないよ」
「今乾かしたでしょ! は、はなさ、話さないわよ!」
「まっ。その指輪を暴露したら分かるかも。今は偶然でしか無理みたいだけど私は大天才。自分で話すのと覗き見されるのどっちが良い?」
「それ禁呪レベルよ! 投獄罪!」
「私は暴露の大魔道士になるんだよ? バレないに決まってるじゃん。直接聞いたらあえて覗き見なんてしないよ。人として当然じゃん」
めちゃくちゃデタラメ発言。しかし効果は抜群のようだ。フィオナは「あー」とか「んー」とか言って、話しそうな気配。
「あし、明日も見えないけど、とな、隣で笑ってくれたら嬉しいって……。終わり! これで終わり!」
フィオナは逃亡。これがきっと脱兎のごとくというやつ。
出来心でフィオナの机周りを確認。カモフラージュしてあるっぽい本を本棚から発見。
フィオナにカモフラージュなんて難しそうだし、隠し本みたいなものが売ってるのかな?
(チラ見だけチラ見だけ……)
盗み見は悪いことなのでやめた。勝手に暴いてしまったのと、自ら盗み見は別。私って良い奴。
楽しいからクレイヤのところにも行こう。秘密の図書室で借りた本を校外に持ち出せるか分からないから泊まって読むって言ってたもんね。




