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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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49/63

禁断の図書室? 覗き見は悪趣味だけど……7

  ★★★


 またしてもここはどこ? 私はぐるぐる回っている。初めて黒しか見えない。

 と思ったら黒だらけの部屋の中。あらゆる調度品が黒くて、1部にだけ白が使われている。

 部屋の中央にフィオナ花が咲き誇り、虹色が煌めいて女の子と男の子を照らす。

 赤い髪の女の子はリオだろう。面影ばっちり。ただ、髪はショートヘアー。長い三つ編みもない。

 男の子は……整った顔に青みがかった黒髪とエメラルドグリーンの瞳はまずブレイド。彼は片膝をついてリオに左手薬指を伸ばしている。リオは涙目でそれを見つめていた。

 ブレイドは魔女関係、クレイヤ関係の本を探さずに昨日の私との会話通りにしたっぽい。


「リオ、俺がいる。ずっといる。何があっても離れない。心臓に誓う。だから泣くな」

「無理だよ。私、もうすぐ修行だって」

「ついていく。どうにかする。絶対に1人にしない。なっ? だから寂しくない。一生寂しくないから泣くなよ」

「うん……。気持ちは受け取っておく。いつもありがとうブレイド。私、一生友達がブレイドだけでも良い。お別れになっても、この世で唯一無二の宝物よ」


 そう言うと、リオはブレイドの薬指に薬指を絡めた。リオの薬指から黒いイバラが伸びてブレイドの薬指に絡まり、そこに白い花が咲く。

 私の時と少し違うけどヴィアンカ十字の誓いだ。


「何これ……」

「ん? リオ、どうした?」

「やだ、止まって! ブレイド!」


 黒いイバラはどんどん伸びてブレイドの薬指から手、手首、腕に絡まり、胸に突き刺さった。ブレイドには何も見えてないみたい。キョトンとしている。

 2人の足元に虹色の正円十字が輝いた。ブレイドが気絶して倒れる。リオが彼に縋りついて何度も名前を呼ぶうちに、足元がガラガラと崩れて真っ暗闇に吸い込まれた。


「リオ様には言えないが、ここまで強い誓いはもはや呪いだ。彼の心臓、一生はリオ様に捧げられた。物理的な距離が離れれば離れるほど死に近づく。近くても高熱や発疹に嘔吐が起こるなど、何か原因があるのだろう。彼をリオ様の従者か何かにして保護しよう。リオ様も彼に何が起こったのかうすうす感じている」


 ゆったりとした低い男の声。黒の世界なのでどんな人なのか分からない。


「盗み聞きして良かったな。リオ、俺達これで離れなくて済むぜ。従者だって。いや、騎士だな。俺、騎士になる。護衛なら四六時中一緒でも自然だ。なっ? 俺考えただろう?」

「今考えたって感じじゃない。ブレイド、協王陛下の今の話を聞いていたの? あなた、私のせいで突然死ぬかもしれないのよ。原因不明で」

「そんなことよりさ、やったじゃん。リオは一生寂しくないぜ。俺がいるって約束して良かった」

「それはそうだけど……。ブレイドとずっと仲良く友達でいられるのは嬉しいけど……。でも原因が分からないやつはどう避けるの?」

「どうにかなるって。リオが俺を殺すわけないじゃん。熱とか、そんくらい平気平気」


 暗闇の中で聞こえたリオとブレイドの声。そこにヴィアンカ鎮魂歌(レクイエム)が響いた。

 美しい声だけどリオに似ているけれど違う女の人。曲が変わっていく。


——心臓を預けるほどの愛の誓い


——私はその愛を守り続けましょう


 ハッと起きて衝撃を受けた。愛? 何歳か分からないけど小学生くらいの時にブレイドはリオに愛を誓ったの?

 しかも心臓を預けて……守り続ける? 私って誰? 歌の主?


「キヨイ嬢? どうだ?」

「あー……。メッソル。本は光った?」

「また0冊よ」


 この後、フィオナも試したら昨日と同じ過去回想だった。ただ、短かった。クレイヤとフィオナで買い物をしたところだけ。フィオナも0冊。

 それで秘密の図書室から特別閲覧室に戻った。


 ***


【職員会議室】


 今夜気になる人は3人。クレイヤ、ブレイド、リオ。とりあえず1人ずつと話すことにした。ブレイドとリオは職員室内のリオの机とその隣の机に座って談笑している。

 私とクレイヤは会議室の椅子の隣同士に座っている。顔を見ると話しづらいから隣同士にしてみた。


「その顔、俺のどんな過去を見たんだ?」


 クレイヤに言いたいのはこれだけだ。他の事は聞けば教えてくれそうだから、魂を暴いて知ったと言わなくても良い。


「フィオナを殴った時のこと」

「えっ……」


 私はクレイヤの顔を見ずに俯いている。反応を確認するのは気の毒というか可哀想。


「最低最悪極悪」

「最低最悪極悪って……まさか……」


 ゆらゆら前後に揺れるとクレイヤはゴンッと机に頭をぶつけた。耳が真っ赤。


「嫌われようとしたのもあるけど、フィオナとキスしたかったんだね。フィオナのファーストキスを奪っておきたかったんだね」


 クレイヤは動かない。ほんの小さく頭が縦に揺れた。


「10年前?」

「11年前……」


 小さい返事。


「フィオナ。あんなことされて、その後11年も何でクレイヤのこと好きなんだろうね。ほとんど会ってないし、喋ってなかったんでしょう? クレイヤが何しようが、離れようが、たまに会って憎まれ口叩こうが、名前をわざと呼ばなかろうが、もう無駄だと思う」


 クレイヤの顔はまた少し縦に揺れた。昨日、私がフィオナのリボンのことを指摘して自覚したのだろう。


「私、話すから。クレイヤの呪いが解けたらフィオナに教える。過剰にフィオナを無視するのも虐めるのも禁止。昔程は無理でも、私とかリオに対する感じも無理だろうけど、たまには優しくしてあげて」


 このセリフに対して、クレイヤは首を横に振った。けっこう力強く。


「無駄なんだから、優しくしなさい!」


 クレイヤの頭を叩いたらペシンッと良い音。私達の歳の差11歳とは思えない。私、お姉さん気分。これはこれで楽しいかも。


「努力する……」

「あと少しだけ見たの。吐いたり痛そうだったりして、誰か助けてって。私がいるから。痛む時に何かヒントがあるかもしれないし、思い出してね」


 体を起こすとクレイヤは私の顔を覗き込んだ。困り笑いをしている。


「今後お前に虚勢は無駄ってことだな」

「私、怖いのも痛いのも嫌だけど見るのも嫌だからね。極悪級の悪魔だろうが魔女だろうが基本は逃亡。クレイヤに必要なのは私が成長するまでの時間。私は命を守ってもらって、これからも守ってもらう。クレイヤは私に呪いを解いてもらう。フィフティーフィフティー。対等ね」


 そうしたかったから、歯を見せて笑った。クレイヤは昨日とは違って笑ってくれた。


「他に話は?」

「今のところないというか、リオとブレイドに聞きたいことがある」

「そうか。じゃあまた明日。おやすみ。ありがとよ。ちょっと、まあ、うん。……するわ」


 小さいけど「優しくする」と聞こえた気がした。

 ヒラヒラ手を振って職員会議室から出て行くクレイヤに手を振り返す。多分見えてないけどエールを込めて、見えなくなるまで手を振り続けた。


 次の話し相手はリオ。今度も席は隣同士にした。


「話って何かしら? メッソルさんに色々教わってそれについてとか?」

「あー、あのね、その……前にラビゴで色々買ってもらったでしょう? 惚れ薬でキャアキャアしてたから忘れてたんだけど、思い出して」


 私の顔を覗き込んでいたリオがキョトンと首を傾げた。


「キャアキャア?」

「クレイヤから、好きな人からアクセサリーを貰える! って。今は全然好きじゃないんだけど、それは置いといて。その時ね、ブレイドの左手の薬指に変わったものを見たの」

「刺青? 正円十字の。キヨイなら私と同じで虹色に光って見える?」


 リオの表情はそんなに変化ない。


「うん。それに黒いイバラとフィオナ花。あれ、ヴィアンカ十字の誓いだよね? 似てる」

「ええ。彼は私の護衛騎士だから。守秘義務とか色々あるのよ」


 しれっと嘘をつかれた。リオってぽやんって顔をして飄々と嘘をつけるみたい。ニコニコして全然嘘くさくない表情。


「私の指にはあんな刺青ないし、他の護衛騎士では見たことないのに、ブレイドのイバラは心臓に食い込んでるけど」


 瞬間、リオの顔色が悪くなった。それで目を丸めている。


「それ本当?」


 嘘です。リオが嘘をつくから嘘をついてみた。


「昨日の夜、リオが探していた本ってそれ? 私は役に立たないの? 相談されたことないけど」

「あなたは自分の身を守る勉強とクレイヤのことでいっぱいいっぱいだろうし、ブレイドも嫌がるだろうから……」


 ブレイドが嫌がるって自覚はあるんだ。リオは俯いた。


「どうせ無いだろうと思って……。それで無かったんだけど……。ブレイドには悪いけど、このままの方が良いの……。でも悪いから……今も解く方法を探していますよってアピールしておきたくて……」


 リオは両目を瞑ると太腿の上の服をギュッと握りしめた。これは演技? 本心?

 本心な気がする。リオは涙目。今にも泣きそう。心底解きたくないのか。それで過去回想の時と同じで、ブレイドに引け目がある。


「昨日の話なんだけど、ブレイドに絶対解きたくない。何でもするし全財産を払うからリオに協力しないでって頼まれたよ」

「そうなの⁈」


 リオが顔を上げた。めちゃくちゃ近い。鼻と鼻が擦れる。異色の瞳がジイッと私を見据えている。瞬きすらしない。


「何で?」

「何でって知らないよ。そんな話をしたことないし。何を誓ったのかも教えてくれないし。とにかく解きたくないって」

「まあ……。そんなに私と友達でいたいのね。ちょっと喧嘩するだけで熱発したり、原因不明で吐いたりするのに」


 私から離れるとリオは頬に手を当てて首を傾けた。

 喧嘩しただけで熱が出るの? それでも良いってブレイドはマゾ?


「友達?」

「そうよ。ブレイドは一生私の近くにいて、友達でいてくれるの」


 ブレイドは話したくなさそうなのに、リオはしれっと教えてくれた。


「はあ……。キヨイ、私の初恋は一生叶わないの。私とブレイドはずーっと友達だから。こんなの神聖な誓いじゃなくて呪いよ呪い」

「えっ……えええええええ! リオ、リオ、リオはブレイドが好きだったの⁈」


 なんかまたシレッと超重要な打ち明け話をされた!

 そして何かスルッと解決した!


「解いたら口実が無くなるから離れ離れ。解かなかったらずっと友達。口説いて惚れてもらえたらその瞬間にブレイドは死ぬかもしれない。八方塞がりよ。まあ四六時中一緒にいても惚れないみたいで安心してるけど、絶対に解きたくないかあ……。まあ、昔からずっと毎日失恋中だし、そんなものか。一生友達でいたいっていうのも、誓いがあるからそばにいられるのも嬉しいし」


 ふふっと笑って肩を揺らすとリオは「女の子の友達なんていなかったから、誰にも言えなくて。嬉しい」と口にした。


「いや、惚れられたら死ぬなら、ブレイドはとっくに死んでない?」


 私はチラッとブレイドを見た。だってあの人、ずっと友達じゃなくて永遠の愛を誓っている。

 そもそも初対面から今日までリオへの大好きオーラだだ漏れ。

 クレイヤもルークも万年片想いって言っている。リオの推測通りならブレイドはとっくに棺桶の中。


「どういう意味?」

「こ、声! 声もしたの! すごく綺麗な声で心臓を預けるほどの愛の誓いって! 誓いの内容だと思う! 友情なんて言葉は聞こえなかった! その愛を守るとも言っていたよ!」


 カチンと音が聞こえるくらい、リオは固まった。しばらくしてクスクス笑いはじめた。


「まさか」

「本当だよ!」

「まさか」

「私はアイザックとゴットフリートのハイブリッドだよ! 本当なの!」

「そうだとしても、まさか」


 リオはニコニコしている。


「本当だって! 2人が誓い合う時のことまで少し見えて、声も聞こえたの!」

「まさ……」


 リオはボッと音が鳴るくらい急に燃えたように真っ赤になった。真っ白な肌が炭が燃えたところみたいに赤い。

 私は大天才にして縁結びの神様だ。これで長年の片想いを2組も解決。私、恋愛マスターになれるかも。

 これはきっと、いつか自分にも素敵な大ロマンスが訪れるな。


「ま、ま、ま、ま、まさか。だって寝て、寝てるのよ! いつも一緒の部屋で寝てるの! 別々の部屋で寝るとたまにブレイドが入院したりしたから! 毎日しれっとしているわ! 昼間は割と遠くても平気なのに色々訳の分からない変な誓いなのよ! あ、あい、愛なんてまさか違うわよ!」

「それはまあすごい威力の誓いだね。しれっとしてるのはリオでしょ。ちっとも分からなかった。ブレイドの矢印は初日から分かったけど。ブレイドの知り合いは全員知ってると思う」


 物理的に離れたらって、そんなレベルなんだ。そりゃあブレイドは解きたくないわな。

 これがブレイドが聖人リオの隣に居座れる理由か。

 女性の護衛もいるのに常に男のブレイドがリオの隣にいるのは変だと思ったけど、こういうこと。

 リオは石になったように動かない。


「あー……これからはキスとか出来るね」

「キ、キ、キスなんて出来るわけないじゃない! 私は婚約中で……。護衛が沢山で……。愛……」


 ゆらゆら前後に揺れるとリオはゴンッと机に頭をぶつけた。デジャヴ。


「あー、友情を誓われたと思っていたからブレイドの恋心に気がつかなかったんだね。あんな分かりやすいのに。ブレイドはわざと無視されてるって思ってるんじゃない?」


 リオは動かない。


「なんかブレイドは大変そうだけど、本人が良いなら良いんじゃない? 解きたくなったら私に頼んで来るよ。私が解けるかも分からないけど」


 動かないリオの耳は真っ赤なまま。この姿、デジャヴ2回目。

 振り返って窓越しにブレイドを確認と思ったら、鬼のような形相で睨まれた。何もしてない! この状態の原因はあなただよ!

 私はブレイドを手招きした。脱兎のごどく来て、職員会議室に飛び込んできた。


「婚約破棄したいらしいよ。いつも同じ部屋で寝てる人とずっといたいから。相思相愛の誓いは2人の守護でもあるみたいだから解かなくて良いと思う。私に解けるかは知らない」

「相思相愛の誓い? キヨイ嬢?」


 ブレイドも真っ赤になってオロオロし始めた。突っ伏しているリオと私を交互に見る。

 お邪魔虫だから全力ダッシュ!

 私は職員会議室を出てから自分の部屋まで走り続けた。

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