禁断の図書室? 覗き見は悪趣味だけど……3
リオが今日明日中にクレイヤとルークに話しておく、というので私とフィオナは寮の部屋に戻った。
惚れ薬が効いていた頃なら「私も行く!」だっただろうけど、今はフィオナに興味深々。
ロモモのタルトとマコロはブレイドが用意してくれることになった。
フィオナはずっと勉強机で借りてきた本を読んでいる。
私はベッドに寝っ転がりながら、部屋に戻る前にマールに借りた雑誌——アップルパイと交換——それもフィオナが見せてくれたものを持っていたので、それを前から順に読んでいる。
雑誌をめくり続けていると、「特集! イケメン祓士クレイヤ・デーヴァの素顔。読者が聞きたい質問100選」というタイトル。
読む前にパラパラめくり、クレイヤとルークの2人の特集だと確認。
クレイヤがイケメン? イケメンか。でも私は爬虫類顔は好みじゃない。
ブレイドより格好良い! 大好き! お嫁さんになる! って気持ちはもう消えている。
それより気になる、フィオナとクレイヤの関係。
「ねえフィオナ、クレイヤと幼馴染なんだよね?」
「突然なに?」
私の問いかけにフィオナは振り向かない。なので、私もほんの世間話、というように雑誌に視線を落とした。
「今読んでる雑誌にクレイヤが出てきたから」
「そういえば、魔人ルークとの特集だったかも」
「クレイヤと昔は仲良かったの?」
「小さい頃はそこそこ。親同士が仲が良くてたまに遊ぶくらいには」
「ふーん」
やはり隠すわけ。クレイヤと一緒。
クレイヤは雑誌の中で2、3人掛けの焦げ茶色の皮張りソファに座る写真——ポート——で髪をかき上げている。表情はルークと違って微笑み。
玉髪飾りは全部深い青色。ん? 何で? いつも1つだけ赤いのに。
服は全部ラビゴ。全身ラビレリア・ゴルテット。奇抜ではなくて落ち着いた感じでこれは良いと思ったら、私服と書いてあった。
ルークはどうだっけ? と少しページをめくって確認すると、ルークの服はそれぞれ販売店と値段が書いてあり、コーディネートした人の名前も載っていた。
ページを戻す。クレイヤの身長は184センチ。太陽の月6日生まれ。
「あっ。クレイヤ、来月誕生日だ。何か買わないと。小さい頃はそこそこ仲が良かったってことは、何かあげたりもらったりした?」
「そうね。お菓子とか、親が選んだ靴下とか、そういうものくらいは」
フィオナは私に背を向けたまま。
「フィオナっていつも同じリボンを使っているけど大事なもの?」
「ええ。気に入っているの」
「そうなんだ。どこで買ったの?」
「何年か前だから忘れたわ。私、なかなか物を買えないし、捨てられないの」
「残念。可愛いから、そのお店に行ってみたかったのに」
「似たようなものや、もっと可愛いものは溢れてるわよ」
「そうかな」
「そうよ」
また嘘。
クレイヤの出身校はレストニア国立祓士学校。知ってる。16歳の時に入学、17歳で卒業、黒白結社に正祓士として入社。
これ、超エリート? 16歳は最年少のはず。
ルークは? と確認したらルークは14歳で入学、15歳で卒業、準祓士として黒白結社に入社して19歳で正祓士昇格。
16歳から入学可能なのに14歳で入学出来るの? ルークって何者? 卒業後はクレイヤと格差がある。同期のリオはどうなの?
「なんでクレイヤと仲良くなくなったの? 喧嘩? あとさ、関係ないんだけどリオっていくつ?」
「クレイヤが引っ越して会えなくなったから。リオ様は25歳よ。知らなかったの?」
ルークの1つ下。クレイヤもルークも1年しかこの学校に通っていないから、リオは13歳で入学?
「クレイヤとルークとリオって同期って聞いたんだけど、クレイヤが16歳でこの学校に入学して1年で卒業だとルークは14歳で入学でリオは13歳で入学なんだけど、そんなことあるの? 試験って16歳からだよね」
「ごく稀にあるみたい。試験なしの推薦入学で」
「リオは分かるけどルークもかあ」
「黒白結社の入社試験で盛大にやらかしたり、入社後も次々と同期や後輩、他の学校の生徒や社会人枠の人にも抜かれたけど、結局今は全員抜いて大出世よ」
へえ、ルークって凄いのか凄くないのかイマイチ謎。実力はもの凄いって知ってるけど。
「リオやクレイヤは?」
「リオ様とクレイヤはストレートで出世街道まっしぐら。リオ様は史上最年少タイの特等祓士よ。聖人なので特殊枠みたいだけど」
「クレイヤは何祓士?」
瞬間、視界の端でフィオナの顔がこっちを向くのが見えた。雑誌から顔を上げる。
「本人達に聞けば良いじゃない。弟子なんだから」
フィオナは思いっきりしかめっ面。
「今さら聞きづらいっていうか、いつも違う話になるから。特にリオ。お菓子の話とかさ」
「クレイヤは上等4級祓士。同年代トップよ。次点はルークさんで中等1級祓士。黒白結社内の序列は階級だけじゃないけど、20代で特任派遣はあなたの師匠達だけ。中等祓士なのに特任派遣されるのはルークさんが史上初」
フィオナは私から顔を背けた。また後ろ姿になる。やはり気になるあのリボン。本当に数年前に自分で買ったの?
昔クレイヤに買ってもらったものと同じ物を買ったとか?
等は特上中下。級は何級から何級?
そこまで聞くとクレイヤとフィオナの話からどんどん逸れるから、また別の機会かクレイヤ達に聞こう。
とりあえず3人が凄いのは改めて分かった。
だからクレイヤもルークも英雄なのか。それで好みはどうであれ、顔も良ければ雑誌で特集されるし、街であちこちから声を掛けられる。
クレイヤって昔は落ちこぼれみたいな話がなかったっけ?
よし。話を戻すぞ。
「そこまですごいんだ。フィオナさあ。クレイヤを落ちこぼれって言ってなかった?」
「あれは皮肉よ。滅多に会話しないのに、たまに少し話すと酷いから。デーヴァ家は名門一族。その中でというか、昔、本人が気にしていたから」
「クレイヤ、小さい頃落ちこぼれって気にしてたんだ」
「自信家のようで自信がないの。毎日色々な魔法を見せてくれて、下手くそな私にあれこれ優しく教えて……」
フィオナは喋らなくなった。
「フィオナ?」
「ねえキヨイ。彼、私のことを何か話したことある?」
これ、どうしよう。フィオナの背中が小さく見える。さっきはたまにって言ったのに、毎日色々魔法を見せてくれてって言った。毎日会っていたんだ。
それでクレイヤが引っ越して会えなくなって……過去回想だか幻覚によれば、クレイヤは黒白結社内の学生になった?
ダメだ。情報が少な過ぎる。あの過去回想、フィオナは何を望んで本を探した結果現れたの?
「あー……。うん。少し」
「なんて?」
「えーっと、初恋的な? 引っ越して忘れていったって。今はすごく忙しいし仕事命でしかも危険な仕事だからそういうの興味ないみたい」
「そう。そうかもね。昔はそこそこ、その程度は親しかったし、私って小さい頃から美人だから」
ほんの少し、フィオナの背筋が伸びた気がする。強気な発言だけど弱々しい声。でも嬉しそうな雰囲気。
フィオナもきっとクレイヤが初恋だ。
いや、むしろなんかこれって両想いじゃない?
フィオナってクレイヤを追いかけて黒白結社の祓士になろうとしてる?
でもフィオナは国立病院、黒白結社と連結する病院に勤務する薬士だ。黒白結社の特殊医療部にも籍を置いている。なんで祓士になりたいの? 何で?
「その本、役に立ちそう? フィオナの研究って何?」
「分からないわ。神話に見せかけた研究書かもしれない。今はとりあえず翻訳中。私の研究は薬学補助による魔法操作増強。よくある、そして期待されている研究」
「えーっと、魔法薬草とかを使って強い魔法を使うってこと?」
「そう。盛んよ。誰だって才能がなくても活躍したいもの」
何でその本を望んで、あの過去回想が出てくる?
謎が深まってしまった。
それにしても歩み寄るべきなのはクレイヤだけど、こんな体だって言っていた。
下手するとクレイヤはリオやルークに殺される。誰かとお見合いして結婚するのがフィオナの幸せだと思っている?
私ならそう思う。自分のヘビーな人生に付き合わせようとは考えない。恋愛とか、恋人とか、そういう暇はないって言っていたけど、暇がないんじゃなくて捨ててるんだ。
クレイヤはフィオナに歩み寄れないじゃん!
フィオナはきっとそれを知らない。呪いのことは極秘の話だから。きっとじゃなくて絶対知らない。
私の背中に2人の初恋成就がかかってる!
なんか、ちょっと気合入った。記憶がまだあやふやだけど魔女から救ってくれたクレイヤと、私に毎日親切なフィオナの初恋成就。
そのうちクレイヤを助ける! じゃなくて、気合いを入れてなるべく早くしないとダメじゃない?
フィオナ、お見合いさせられちゃう。しなくてもずっとこのまま30代、40代……あの雰囲気でそんなに片想いは続くの?
でも続いたら子どもとか無理じゃん。特にクレイヤ。
フィオナは初恋を諦めれば良いけど、クレイヤはずーっと独身。恋人も作らない。家族が魔女だけなのに、新しい家族も心の支えの恋人も作れないじゃん!
うわあああああ! やっぱりクレイヤの人生って超ヘビー!
私って今さらそんなことに気がつくって……惚れ薬のせい?
「私、この雑誌の内容が本当か聞いてこよう。クレイヤ、まだいるかな」
「さあ? 行ってらっしゃい」
私は雑誌を閉じて、何も考えてませんというように部屋から出た。
「切ない、切ない、切ない! とりあえずクレイヤを励まさないと。秘密の司書と地下の図書室がクレイヤを救える道になるって教えないと。リオが教えたはずけど、もっと教えないと」
とりあえず職員室へ向かおう。
「いつから離れたのか知らないけど……呪われてからだ。クレイヤが呪われたのいつ? 魔女は18年前まで英雄って言ってなかった? 18年前? クレイヤは……10歳? えっ? お互い18年間も好きなの? あの雰囲気で? 初恋だから? あのリボンがクレイヤが買ったもので、あの髪玉飾りがその時おそろいで買ったやつなら、それを目印に希望を捨てられないとか?」
寮から職員室は遠くない。生徒監視のためだろう。とくに見回りはないけど、教員は順番で泊まる。特別講師は本来泊まらないけどクレイヤは謹慎を言い渡された結果、泊まりにも参加している。
「よお、キヨイ」
会いに行くところだったのに、クレイヤが廊下の角を曲がってきて現れた。爽やか笑顔だ。
髪玉飾りは……やっぱりいつものところだけ赤い! 左側サイドの手前側、2連のうち1つだけくすんだ赤!
「リオに聞いたんだけど……」
「クレイヤ! ちょうど良かった。私はやっぱり大天才だった! アイザックとゴットフリートに似てるって! だから安心して……隠れて? 魔女からとにかく隠れて逃げよう。私が解呪するまで隠れたり逃げて。最速最短になるように毎日本を読んでヒントを探すから。とりあえず明日本を探すから!」
「お、おう。いきなりどうした。それは心底嬉しいけど……急にどうした?」
クレイヤは目を丸めた。
「だってヘビーじゃん! 私がモタモタしていたら、クレイヤは独身のままヨボヨボのおじいちゃんになるんだよ!」
クレイヤの目がさらに丸まった。その後困り笑いを浮かべた。
「独身のまま? ああ、この間の話でか。別にいいさ。そんなヨボヨボになれるまで生きられるなら」
「えっ? 何? 時間制限あるの? 聞いてないけど」
「いや、ないというか不明だけど……一応防音術かけたけど、そういう話なら応接室にでも行くか?」
私はコクコク頷いた。




