禁断の図書室? 覗き見は悪趣味だけど……2
リオの時は、何も起こらなかった。それで本も光らない。いや、今いる場所から見えないところで光ったのだろう。ほとんど死角だ。
見える位置で1冊光ったフィオナが珍しかっただけ。ん? 何でメッソルは1冊って分かったの?
「うーん、ヘクセライなのに1冊も光らないってことある? そんなこと1度もないし聞いたこともないわ。ねえ、キヨイ。リオはどんな本を願ったの?」
「1冊も? メッソルはここから全ての本が見えるの?」
「そりゃあアンスロポスと違って優秀なメリュジーヌだもの」
で、メリュジーヌって何なんだ? またバカって言われるからやめとこう。リオも知らないみたいだけど、伝説によれば秘密の司書だから、それでいいや。
「そうなんだ。メッソルはやっぱり凄いんだね。リオ、メッソルがどんな本を願ったの? だって。ヘクセライが本を探して1冊も光らないことってないみたい」
私の隣でリオは大きく目を開けた。
「ヴィアンカ十字の誓いの解き方が載っている本よ」
「……あれって解けないの⁈」
「ええ。私や協会の知る限り」
「そうなの⁈ ねえ大丈夫? 私、死んだりする?」
「しないわよ。もう使い方が分かっているから。秘密について話せないようになっただけ。喋れないんだから誓いを破れない。つまり死にようがないわ」
それって、誓いを破ったら死ぬってことじゃん。怖っ!
「もうって、まさか、前によく分からないうちに使って誰か死んだとか……」
「死んでないわ。そうならないように気をつけているもの」
リオは悲しげに微笑んだ。その後、チラリとブレイドを見て私から離れた。
「次はブレイドね」
リオに促されて、ブレイドは私の隣に並んだ。
「キヨイ嬢の代わりに、新種悪魔の暴露に役立つ本や悪魔になる呪いに関する本を望みます。結社への協力と学校の課題用だったかと。詳細は念じれば良いんでしたっけ?」
「メッソル、念じれば良いんだよね?」
「そうよ。喋らなくても大丈夫」
「ブレイド、念じれば良いって」
「はい」
ブレイドの大きな手が私の手を包む。こんなイケメンの手が触れるなんて、とドキドキしてしまった。
まあ、ブレイドはリオに熱視線なんだけど。
さあ、過去回想は来る? おおっ、また眠い……。
★★★
またしてもここはどこ? 私はぐるぐる回っている。また白しか見えない。
「愛しのお姫様が怪我したらどうするんだ?」
クレイヤの声だ。
「ゴリアテさんに、ルークさん、大人数の聖騎士と祓士がいるので俺はリオの願いを叶えるだけです」
これはブレイド。
「リオの願い? そんな顔するなら戻れよ。で、強い俺も必要だろう?」
「友人に母親殺しをさせたくない。捕縛、調査、自白、必要なら拷問。それで良いではないですか。悪魔憑きの可能性も高いですし」
「悪魔憑きなんかじゃない。あの女は狂っている。死なせてやるのが本人や世の為だ」
「隠し事があるなら、せめてリオには話しをして下さい」
「話してある。上層部も知っている。あの女は俺を悪魔にして、その見返りに家族を蘇らせるつもりだ。特に夫。あの女は悪魔憑きではなく、自己満足の為に人としての良心を捨てただけだ」
視界は白い世界のまま。この話、私はもう知っていることだ。ブレイドも知っているのか。
黒が侵食してきてマーブルになり、世界が黒一色に変化していく。
「キヨイ嬢。リオの弟子なんですから励んで下さい」
「励んでるよ!」
これ、今日の会話だ。
★★★
ハッとしたら、起きていた。立っている。それで、ブレイドが隣にいて、目の前にはクウァエレがあって、メッソルが球から顔を出している。
つまり、どういうこと?
「またゴットフリートと同じね。アイザックは違ったのに。ノノンヘクセライだから0冊でもあるある。そもそも学校の課題用の悪魔になる呪いに関する本なんて簡単なもの、ここにあるわけないじゃない。後は能力不足ね」
「ブレイド、0冊だって。能力不足だって。ありがとう、メッソル。それからまた明日来る」
「そう? 私はなんだかロモモのタルトが食べたい気分。それからマコロだっけ? 色が沢山あるやつ。貸し出しは1ヶ月。持ち出しは本がここに戻ってこないところまでよ。おやすみなさい」
いきなり体が沈んだ。下を見たら渦。吸い込まれたと思ったら、特別閲覧室に戻っていた。
スイカ割りの時に棒でぐるぐるした後みたいに気持ち悪い。
「秘密の司書が本当にいた! 階段を登らなくて済んだ! 超ラッキー!」
私は万歳した。それを見たフィオナとリオ、おまけにブレイドまでクスクス笑い出す。
「すごく不思議な体験だったわ。ありがとう、キヨイ。伝説が本当だなんて胸がドキドキしてる」
フィオナが借りた本を抱えてニッコリと笑った。ここまで笑うフィオナは珍しい。
「貸し出しは1ヶ月。持ち出しは本がここに戻ってこないところまでだって。どういう意味かな?」
「厳重取扱品や盗難防止のように自動保管ってことね」
リオが、一定の場所から持ち出すと強制的に転送される術がかけてあるのだろう、と教えてくれた。
「誰があの図書室を管理しているのかしら?」
「明日メッソルに聞いてみる」
「そうね。それでクレイヤやルークも連れて行きましょう」
「うん。ねえリオ、ゴットフリートって誰? アイザックだけじゃなくてゴットフリートにも似てるって言われたんだけど」
「ゴットフリート? どちらのゴットフリート……ゴットフリート・アルキメデスかしら? アイザック・ライプニッツの前の暴露の大魔道士よ」
「へえ。やっぱり私は暴露の大魔道士になる大天才なのか」
それは良い知らせ。それにしても、あの過去回想は何?
ブレイドの過去回想にはガッカリ。知っていることしか……悪魔の呪いに関する本と新種悪魔の暴露に関する本を探したから、それに関する過去回想?
私の勘がそう言っている。
それなら……フィオナは? フィオナは何の本を望んだの?
フィオナを見て、抱えている本を確認。タイトルは……読めない。
「フィオナ、それ何語? 何の本?」
「ターレス語ね。神話って書いてある」
「ターレス語? 読めるの?」
「少しは」
「さすが薬士の方。小さな異国の言語も学んでいるのね。素晴らしいわ。キヨイ、神話は様々な分野の魔法のヒントや失われた魔法を発掘するための貴重な資料よ」
リオがフィオナを褒めると、フィオナは真っ赤になって頭を下げて「お褒めいただき大変光栄です。仕事で研究中の資料を望みました」と口にした。やっぱりリオの女友達への道は険しそう。
仕事で研究中か。何の研究をしているんだろう。
「キヨイ嬢、少し良いか?」
ブレイドにちょいちょい、と手招きされたのでついていく。リオが一緒懸命フィオナに話しかけ始めた。
リオ命! みたいなブレイドだから2人が仲良くなるアシストかな?
私達はリオ達から離れて、角を曲がった。そこでブレイドに肩を組まれ、顔を耳に寄せられた。ドッキン! と胸が跳ねる。
「ど、どうしたの? ブレイド」
何? いきなり口説かれるの⁈ リオから私に心変わり⁈
めちゃくちゃ心臓がうるさい。ブレイドの顔って本当に綺麗!
「ヴィアンカ十字の誓いの時にトゲや花を見たって聞いた。それで、今は何も見えないと」
「うん。それがどうしたの?」
口説かれるんじゃ無かった。この超イケメンに愛を囁かれてみたかった。でもリオと恋の三角は嫌だなあ。
「これは? 何か見えるか?」
ブレイドは私と肩を組んだまま、左手薬指の指輪を外した。本当に顔が近いんですけど⁈
指輪の下にはバテム——確か洗礼——の時にリオが作った七色に輝く小さな円十字があって、黒いいばらが巻きついている。そして小さな小さなフィオナ花が2つ。指の周りを互いに反対回りでゆっくり動いていた。
「円十字の刺青? 虹色に光ってる。しかもあと黒いイバラ。フィオナ花が2つ、こう、ゆっくり回ってる」
「もしかしてと思ったけど見えるのか。俺以外には黒い円十字に見える。リオでさえ光って見えてもイバラやフィオナ花は知らない」
「そうなの? これ何?」
「死ぬまで解かなくて良い誓い。ヴィアンカ十字の誓いの解き方の本を頼まれたら、了承したフリをして探さないでくれ。あと今のところ何もないから、そんな話は出ないかもしれないが、もしもこれを解けるか聞かれたら無理だと言ってくれ」
ブレイドは私から離れた。深々と頭を下げられる。ブレイドは頭を下げながら指輪を元に戻した。
注意深く見ると、フィオナ花はまだ見える。言われなきゃ気がつかなかった。
「これ、ヴィアンカ十字の誓いなの? 私の指には何もないよ?」
「俺に可能なことなら何でもする。一生何でもする。全財産渡しても構わない。頼む」
えっ? イケメンが奴隷化宣言? 全財産渡すってどんだけ?
「いや、すごくおいしい話だけど何で? リオが解きたいのに嫌なの? 誓いを破ると死ぬから解きたいって……でも安全みたいだよね。リオが解きたいヴィアンカ十字の誓いってこれ? 何を秘密にするって誓ったの? いや、誓ったんだから喋れないか」
誓ったというか、誓わされただ。誓わされて、解きたくないの?
私は……死なないならいっか。うっかりクレイヤの秘密をペラペラ喋って罰とか嫌だし。機密保持なんたらって言っていたから、そっちの方が怖い。
「さっきのリオの様子だとこれだ。俺以外は全部リオの意思で誓いを立てて、いや、立てさせている。これだけは違う」
「そうなの? えー……。私からリオに理由を聞くのはアリ? たまたまブレイドの指輪の下を見たんだけど、あのイバラって何? とか」
ブレイドは頭を下げたまま首を縦に振った。
「俺はとにかく誓いを解かれなければ良い」
「何でもしてくれるのは魅力的だけど、リオとブレイドは仲良しだから、なんか命令とか気軽じゃない頼み事とか無理。お金をもらうとかもっと無理。話を聞いてリオとブレイドのどっちの味方をするか考える」
イケメンが私の恋人とか憧れるけど、気持ちのない恋人とか欲しくない。明らかに他の女が好きな男に演技で付き合ってもらうとか絶対虚しい。
リオにブレイドに貢がせたとか、ブレイドをこき使ったとか知られて喧嘩になったり絶交されるのも嫌だ。
「リオが何か話したら俺も話す。味方してくれ。いや、して下さい。お願いします」
「そうなの? でも先には話したくないの?」
「必要なければ話したくない。誰にも、尊敬するクレイヤさんにすら話してない。リオも多分」
「そう……なんだ。とにかく今どっちの味方をするとは言えない」
ブレイドってクレイヤを尊敬してるんだ。知らなかった。ブレイドが勢い良く顔を上げた。ものすごく辛そうな顔。
「その顔とか、何でもするとか、考慮して決めるね。あとリオに頼まれなければ解き方を調べない。リオが話さなくてブレイドも話さないなら、訳が分けらないから知らんぷりする。なんか、面倒そうだし。私、仕事が山積みだから」
「それって……ありがとう。いや、ありがとうございます」
ブレイドは私の右手を両手で包み、再び頭を下げた。手汗が出るからやめて! でも得?
リオでさえ解き方の本が見つからない魔法なんて、すごく厄介そう。解くために訓練! どこぞの山に神秘の秘宝探し! とかノーサンキュー。
んー、でも2人の関係というか、誓いの内容は気になるな。そうだ。過去回想!
今夜の現象は探す本に関する過去回想疑惑!
「一応、明日の本探しの時に念じてみたら? それで万が一光ったら隠しちゃいなよ。その人には読めない、使えない、危険だと光らないみたいだから見つからないかも? リオでさえ0冊だったし。でも人が変わると光るかも」
「そうか。そうしてみます。本当にありがとうございます」
そう口にすると、ブレイドは私から手を離し、背筋を伸ばして深呼吸した。その後、キリリッとした表情になった。
「リオには生徒と仲良くなって欲しくて少し離れた。秘密の司書との会話をあれこれ聞かれたと伝えて欲しいです」
「オーケー」
ブレイドはまた「ありがとうございます」と言った。それでリオとフィオナのところへ戻ると、2人は少し先生と生徒らしい雰囲気になっていて、ブレイドは私の隣ですごく優しい笑みを浮かべた。
リオってさ、熱視線やこの愛ある眼差しになんでちっとも気がつかないの?




