禁断の図書室? 覗き見は悪趣味だけど……1
秘密の地下室は今のところ割と普通。石造りの階段をひたすら降りている。帰りは登りだから疲れそう。
天井に光苔がびっしり生えているから明るい。光苔も国中で見るからもう見飽きてる。
ヘクセライは古い言葉で「高密度魔力の目」らしい。ペルは「暴く」でリザは「聖なるもの」だ。
アンスロポスは「人間」でバテムは「洗礼」だった。リオが「バテムすると食べられるのね。裂魂になって異界へ行くだけだと思っていたわ」とビックリしていた。バテムは協会での儀式や葬送儀式で行うものらしい。
つまり、私は暴きの目、リオは聖なる目を持っているって事。ノノンヘクセライは何の目でもないって意味。他のヘクセライは何だろう?
覚えきれないから今日はもういいや。
「キヨイはバカだけどリオは物知りなのね。私達の言葉をちゃんと知ってる。ベン・ニーアが羨ましい」
「そのベン・ニーアは加護精霊がいるからつまらないって、リオとずっと会ってないよ」
「そうなの? もったいない。まあ、ベン・ニーアはとっても怖がりだから加護精霊が怖いのね。私と違って。私は勇敢なの」
メッソルは非常に自信家というのは分かってきた。
「本当、メッソルって勇気ある」
「そうでしょう?」
メッソルはおだてにも弱い。
「着いたわ。まずはそうね。アイザックはいつもクウァエレで本を探していたから皆クウァエレに触ると良いわ」
着いた、の先は広い部屋。扉のないアーチ状の出入り口の目の前に台座と地球儀。地球儀といっても地図はない白と黒のマーブル状の球だ。白い花が連なる月のような形の装飾がついている。ついているといってもくっついてなくて、球は宙に浮いている。
その他は降りてきた分くらいありそうな高さの天井に、その天井まで埋まる本棚がぎっしり。梯子はない。
本棚は全部黒。白い薔薇の装飾がされている。つまり、神聖な場ってこと。白と黒のみは神聖という常識はもう覚えた。
「リオ、クウァエレって何?」
「探索って意味だけど、何かしら」
メッソルが早くと言って地球儀もどきの上を泳ぐ。
「キヨイ、クウァエレはこれよ。必要な本を光らせてくれるわ。って言っても私はペルヘクセライがいないと使えないけど。光らない本はその人には読めない、使えない、危険の可能性ありよ。キヨイ、動いたらフェイナ花を触ってみて」
そう言うと、メッソルは地球儀もどき—— クウァエレ——の中に沈んだ。クウァエレがゆっくりクルクルと回り出す。
「ああ、クウァエレって探索儀。でも不思議な感じ。こんな探索儀は見たことないし、属性も分からない不思議な魔力」
確かにリオの言う通り。私にもこの変な魔力が何だか分からない。
「秘密の地下室に特別な探索儀とか面白い!」
よっしゃあ! 私に必要な本よ光れ! とクウァエレのフェイナ……フィオナ花?
この国に伝わる聖なる花。フィオナの名前の元。レストニアで1番多い女性の名前。白い6枚の花びらに虹色に輝く花心の花。
月のような装飾の花はフィオナ花を模しているのか。とりあえず近い左手をペタッと置いてみた。
次の瞬間、部屋中が光り輝いた。見える限りの本棚のほとんどの本が虹色に輝いている。
「キヨイ、あなた何を考えて触ったの?」
メッソルがクウァエレから顔を出した。体は球に埋もれたまま。
「私に必要な本」
「うわああ、すごい数。アイザックはいつももっと少なかったわ。毎回違うところが光ったけど。あなた、バカだけど天才なのね。この数だし、高度禁書まで光るってことは、高度禁書を開ける能力があるってことだもの」
でた禁書! しかも高度だって! 秘密の地下室や図書室といえば禁じられた本でしょ!
怖そうだからメッソルやリオ達に聞きながら本を探そう。触ったら呪われるとか、噛みついてくる生きている本とか、そういうものはノーサンキュー。
「うん。バカだけど大天才なの。どんどん読んで、覚えて、知恵をつけてバカじゃなくなるよ」
私はやっぱり大天才。実に気分が良い。
「アイザックみたい! 親友候補の段階を1から3にしてあげるわ! でもこれじゃあ本を選べないわね。もっと細かく何が必要なのか考えないと。1日1回だからもう無理ね。今日本を借りていくなら自分で探して。ほとんど光ってたし、バカだから何でも必要そうだし、ペルヘクセライは自分に危険な本は分かるもの」
「細かくって先に言ってよ。自分で探せって、間違えて危険な本を取ったら嫌。それならまた明日くる。1日って24時間経ったら?」
「アイザックと違って怖がりなのね。親友候補の段階をマイナスして2にするわ。24時間? なにそれ。月が沈んでまた月が登ったらよ」
「教えてくれてありがとう」
自分で探せか。
まあ、リオもフィオナもブレイドもいるから本のタイトルを見ながら気になる本を選べば良い。
いや、怖いからやめよう。うっかり触ったら危険なものだったとか、創作話あるある展開になりたくない。
明日もう1度チャレンジだ。
「次は? 誰にする? キヨイがこのまま手を離さないで触ったまま、その手の上に別の人が手を重ねると使えるわ」
「次だって。細かく何の本が必要なのか考えながら私の手の上に手を重ねると使えるって」
リオ、フィオナ、ブレイドの順に見てみる。まあ、最初は格上のリオだろう。
「フィオナさん、どうぞ」
「いえリオ様! 私が先になど畏れ多いです。どうぞお先にお触れ下さい」
「フィオナ嬢、リオ先生だ」
ブレイドがフィオナを睨んだ。怖い。
「はい、失礼致しました」
「畏れ多くなんてありません。遠慮せずにどうぞ」
リオがさあ、と微笑むとフィオナは「ありがとうございます。失礼致します」と私の隣に並んだ。非常に申し訳なさそうに。
フィオナがリオの友達になる道は険しそう。リオは少し寂しげに見える。こういうのがリオに女友達が全然いない原因なのだろう。
フィオナが目を閉じて、深呼吸をして、私の手の上に手を乗せた。
瞬間、目が回り、一気に眠くなってまぶたが勝手に閉じた。
☆☆☆
ここはどこ? 私はぐるぐる回っている。白しか見えない。
「あいつに破られたリボンの代わりを買ってやるよ。もうすぐ誕生日だろう? 寄り道しようぜ」
この声、聞いたことがある。クレイヤだ。子どもクレイヤ。魔女が作った偽物と同じ声。
回らなくなった視界の先は真っ白な世界で、私の少し前に黒い髪の男の子と栗毛色の巻髪の女の子が歩いている。
2人の背は同じくらいで手を繋いでいる。後ろ姿で顔は分からない。
えっ? また魔女?
私の体は動かないというか体が見当たらない。まるで自分を認識しない夢を見ている感じ。
急に眠くなったから夢? 魔女? リオがいるから守ってくれる?
助けてと叫んだつもりだけど、私の声は何も聞こえない。これ、どうしたらいいの?
「クレイヤ、いいの?」
女の子の声はフィオナに似ている。少女がクレイヤと呼んだから男の子はクレイヤだ。
同名なのか、私が知っているクレイヤの子どもの頃なのかは分からない。なにせ顔が見えない。
「誕生日プレゼントなんだから当たり前だろう?」
白い世界が雑貨屋の中に変わった。男の子と女の子の顔が見える。クレイヤ似の子どもと、フィオナ似の女の子。クレイヤの目は金色ではなく深い青色。別人?
この2人、まだ手を繋いでる。
「赤にしようぜ。俺、赤が好き。フィオナもだろう? それに赤は母さんの色だ」
「私も好きだけど……」
「これとかフィオナに似合うよ!」
女の子の名前はフィオナなのか。
クレイヤとフィオナ。本人達の子どもの頃?
魔女の幻覚にしては変な感じ。漫画でよくある過去回想? 過去なの?
これが本当なら、クレイヤとフィオナってめっちゃ仲良しじゃん。というより可愛いおチビカップル。ませてる。
これ、とクレイヤがフィオナの髪に当てたのは深紅のリボン。銀色の飾りと白いレース付き。色味が違うけどフィオナが毎日使っているリボンだ。つまり、どういうこと?
クレイヤはフィオナの髪にリボンを飾った。買う前に使って良いの?
フィオナはすごく嬉しそうに笑っていて、しかも白いほっぺたをりんご色にしている。可愛い。めちゃくちゃ可愛い笑顔だ。
「おっ、これ同じ色じゃん。髪につけるだって。フィオナとおそろいだ」
そう言ってクレイヤが手に取ったのは丸いビーズみたいな玉。
クレイヤがいつもいくつも髪につけている髪玉飾りと似たもの。というか同じに見える。
クレイヤは深い青色の髪玉飾りばかりだけど、そういえば1つだけくすんだ赤色もつけている。
あれって元々くすんでいるんじゃなくて、もしかして古いの?
ぐわんぐわんと目眩がして、また真っ白な世界になった。今度現れたのは今より少し若いクレイヤと、同じく今より若く見えるフィオナの2人。
クレイヤの髪はほとんど黒で。前髪以外の右半分は銀髪。目は今と同じで金色だ。髪玉飾りは今と一緒。
「誰?」
「誰ってフィオナよ。最後に会ったの……」
「知らねえ。ファン? 悪いけど俺、急いでるから」
冷めた顔をしたクレイヤが、フィオナに背を向ける。それで遠ざかっていく。
「待って」
フィオナが声を掛けてもクレイヤは振り返らない。
「でも玉髪飾り、してるじゃない……」
フィオナの小さな呟きとともに、またしても視界が回った。
今度はまたどこかの部屋だ。白と黒と灰色ばかりの調度品なので黒白結社? それとも似たようなところ?
ソファに向かい合って座る子どもクレイヤと、子どもフィオナがいる。テーブルの上にはバスケットが置かれていた。
「毎日ね、会いに来て受付の人にうんと頼んだの。ようやく会えて良かった。痩せたままだけどご飯は食べられてる? 隈があるけどまだ眠れない? あのね色々持って……」
「来んなよ。もう来るな!」
怒鳴ったクレイヤが勢い良く立ち上がった。
「俺、すげえ美味い飯食って、ふかふかの布団で寝て、才能豊かな友達とめっちゃ楽しくやってるから。お前みたいなロクに魔法も使えないつまらない奴とはもう遊ばねえ。色々知った今だと、どんくさくてイライラするし、同じ落ちこぼれじゃないから」
「クレイヤ? どうしたの? クレイヤが落ちこぼれだったことなんてないよ? そんな顔をして、楽しくやってるようには見えないよ。ねえ、頼んでうちに帰……」
困惑顔の子どもフィオナの言葉を、子どもクレイヤが遮る。さらに彼はテーブル上のバスケットを手で払った。
バスケットの中身、パンや野菜に豆料理やクッキーなどが床に散らばる。
「あそこは俺の家じゃねえ! ここに来るまでお世話になっただけ。もう2度と面会許可は出ないから来るなよ。黒白結社内に入れるのは俺達特別生と職員と許可を得た業者だけだ。だからこれが最初で最後。俺、ここに来てからお前のことちょっと忘れてた。新しい生活で、きっとどんどん忘れる。じゃあな」
そう言うと子どもクレイヤは部屋を飛び出した。子どもフィオナは茫然としている。
そこでまた視界が歪み、くらくらした。今度は白ではなくて黒い世界。何も見えない暗闇。
「フィオナ、黒白結社には入れないの。クレイヤ君は元気だって。だからね、お弁当を持っていっても無駄なの。会えないの。ね?」
誰の声? 優しくて少し涙声みたい。女性だ。
「黒白結社に就職したい? コネはまああるけど、お前の実力じゃまだまだ無理だ。国立病院は憧れるだろうけど狭き門。試験を受けるのは自由だが推薦は無理。フィオナもこの園を盛り立ててくれ。この園だって先祖代々続く、国立病院並みか、それ以上に誉れ高い施設だぞ」
誰の声? 先祖代々続く園だから家族? 園は薬草園だ。フィオナは大薬草園のお嬢様。男の人の声だからフィオナの父親や祖父?
「聞いた? この塗り薬を大量に使っている特別室に入院中の祓士。上の命令で匿名になってる患者。何の呪いか分からないらしいけど、前回入院の時より悪化しているから致死性の呪いじゃないかって。若いらしいよ。可哀想」
誰の声?
「俺は名門一家の血を引く。才能が眠っていただけだ」
この声はクレイヤだ。私はこのセリフを知っている。
☆☆☆
ハッとしたら、起きていた。立っている。それで、フィオナが隣にいて、目の前にはクウァエレがあって、メッソルが球から顔を出している。
つまり……何?
魔女じゃなくて過去回想が正解?
今のはフィオナの記憶ってこと?
「あなた、ゴットフリートにも似ているのね。クウァエレでアニムスをペルするなんて。親友候補の段階を2から4にしてあげる」
「アニムス? ゴットフリート? 誰?」
「魂よ。ゴットフリートはゴットフリートよ」
魂をペル、魂を暴露だ。ゴットフリートはゴットフリートと言われても……誰だよ。
クウァエレで魂を暴露って何? と聞こうと思ったけど他人の過去を覗き見したとは言いづらい。
そして、少し気になるリオやブレイドの過去。
覗き見は悪趣味だけど、気になってしまう。
「あそこ、1冊だけ光ってる。ノノンヘクセライだけど見つかるって珍しい。リオとフィオナで取りに行くといいわ。無理ならキヨイも必要だけど、そうしたら今日は本探しはこれで終わり」
メッソルの言葉を伝えて、本をリオとフィオナ、それからブレイドが取りに行った。
特に問題なかったようで、次は私の手の上にリオが手を重ねた。




