禁断の図書室? 私と可愛いマーメイド1
【寮】
「フィオナーー。散々だったよ。こんなの安いよね⁈ 休みの日に働かされて、それもものすごーく気持ち悪い思いをしたのに、アップルパイだけなんだよ!」
寮部屋の中央には、2人で共通で使うダイニングテーブルがある。そこに私はリオ——正確にはブレイド——が買ったアップルパイを箱から出しながら、今日何をしてきたかフィオナに愚痴る。
彼女は私が帰宅するとダイニングテーブルに本を何冊も並べて、重ねて、何やら難しい顔でノートを取っていた。本が多過ぎて勉強机では狭かったみたい。
フィオナは寮の部屋泊まっていったり、泊まっていかなかったり色々。入学した頃は長い間不在だった。仕事や研究の関係らしい。
寮費は高いらしいので、贅沢というか稼いでいるのかもしれない。そして、そこまでして祓士になりたいっぽい。フィオナ曰く「普通の人が最も名声を得られるのは黒白結社の祓士だから」らしい。なんか、フィオナの性格からして腑に落ちない。
今日は泊まるそうなので、お土産のアップルパイで息抜き。私も息抜き。
朝から地下研究施設に缶詰めだったから疲れてる。新種悪魔の暴露を延々とさせられ、地下研究施設内の食堂で昼食。昼食後少ししてリオは急な仕事で呼び出し。
リオに残されたブレイドに見張られながら延々と暴露の続き。ヘビーな1日だった。
「アップルパイだけって、これ、雑誌で大人気の現界料理よね? 超高級品のお菓子」
「超高級品? 現界料理?」
確かに、帰りにブレイドが連れて行ってくれたお店は敷居の高そうなお店だった。しかし、特に並んだりしていない。
ブレイドが入店して予約だと名前を告げたら箱が出てきた。それでお会計。ブレイドは小切手みたいなもので支払ったけど、数字は見えなかったからいくらだったか知らない。
「げん……私の世界?」
「待ってて」
フィオナはそういうと自分の勉強机へ行って戻ってきた。手に薄い本——ファッション雑誌!——を待っている。
フィオナが私の方に雑誌を向けて、パラパラめくる。途中、切り抜きされているページがあった。早くて見えなかった。フィオナの好みはなんだろう?
いつも似たようなワンピースを着ている。オランダ? スペイン? だっけ? ヨーロッパのどこかの民族衣装みたいな可愛いワンピースが3種類で他の服は見たことない。それにいつも同じ髪型。ハーフアップで毎日同じ深紅のリボンをしている。なのにファッション雑誌?
「ほらここ」
これから人気爆発! 話題の新作スイーツ、というタイトル。第1位がアップルパイ。なぜアップルパ……。
「た、た、た、高い!」
「そりゃあそうよ。輸入品の貴重な果物をふんだんに使ったお菓子よ」
「こ、こ、これ! アップル、アップルパイのホールが買えるよ!」
8等分1切れは、この国で食べたことのあるケーキの値段から推測して日本円換算だと……4000円。
つまり、今日買ってもらったアップルパイのホールは3万円オーバー。
『えーアップルパイだけ? こんなに頑張ったのに? 暴露できなかったから? 嫌いじゃないけど』と言ったらブレイドは無表情で『今日は他のものは予約出来ていない。リオに伝えておく』と口にした。
「あー、やらかした。こんな高いもの貰って不満言っちゃった。日本の10倍もするなんて思わなかった」
「10倍? そんなに違うの?」
「まあ食べよう。懐かしい、のかな? 私、食に関してはまだ全然ホームシックじゃない。この国って美味しいものばっかりだし」
レストニア料理は和風系、洋風系、中華系まで色々ある。食堂で色々出てくる。全部レストニア料理。見た目も材料も違うの微妙に肉じゃがに似てるとか、本当に色々あって日々驚いている。
「あなたと同じ部屋で得をしたわ」
ふふっと笑うとフィオナは箱の中に入っていた紙を私の前に配った。魔法紙と思ったら、お皿とフォークに早変わり。
「特殊食器付きなんて初めて。おすそわけありがとう」
「食べて食べて。私の故郷の……故郷? アップルパイはどこ料理? まあ現界は現界か」
食べてみたら、アップルパイそのものだった。高いアップルパイなんて食べたことないけど、おそらく少し高いケーキ屋、デパ地下とかで買えそうなもの。それでも1切れ4000円はしないだろう。
「んー、美味しい。これ、アピの実に似てるわ。でもアピの実も高いから気軽に作れないわね」
「ああ、そうかも。アピの実……」
梨に似た緑色で楕円形の果物。ティトゥス街でルークが「魔力枯渇を治す貴重な果物」と言っていた。
「フィオナ、アピの実っていくら?」
「収穫数で変わるけど、平均して1つ5ガリルくらいね」
1ガリルは1000円くらい。つまり……。
「5000円もするの⁈ 私、美味しい美味しいって3つも食べた!」
「そうなの?」
「ひええええ、ルークってお金持ち。お金が無い無い言ってるのに」
「まさか。結晶放送に出たり、広告や雑誌に出たり、お金が無いわけ無いじゃない」
フィオナがパラパラと雑誌のページをめくった。前の方に戻る。
特集! イケメン祓士ルーク・ミラルダの素顔。読者が聞きたい質問100選、というタイトル。イケメン? まあ、イケメンか?
片膝立てた気取ったポーズだけど、気さくなお兄さんみたいな屈託のない笑顔を浮かべている写真——ポート——がデカデカと載っている。
「うわあ。こんなことしてたんだ。知らなかった」
ルークは163センチでまだ成長中。成長中?
雷月21日生まれの26歳。ふむふむ。26歳だったのか。クレイヤより年下だ。それから……フィオナが雑誌を閉じた。それで机にしまってしまった。
「フィオナ、まだ見たい。むしろ全ページ読みたい」
惚れ薬効果が消えた私は、どんどん色々な事に興味を持てている気がする。
「嫌よ。私、雑誌ってこう印をつけたりするから恥ずかしいの。本屋で色々見てみるか、貸し借りを気にしない人から借りて」
「えー……。まあ、そうだよね。私は気にしないけど、お弁当箱の中身を見せたくない子だっているしね。不在だったから後で持って行こうと思ってたし、マールに何か借りて良いか聞いてみる」
印ではなくて切り抜きのことだろう。切り抜いてスクラップか何か作るほど好きな何かや人がいるってこと。それで恥ずかしいから隠しておきたい。
フィオナってすまし顔が多いけど中身は可愛いのか。面白い。もっと仲良くなったら教えてくれるかも。
「新種悪魔の暴露といえば、図書室で何かヒントを得られるかもよ? 噂でね、かつての曝露の大魔道士には優秀な秘密の司書がついていたって伝説があるって聞いたの」
「アイザック・ライプニッツの司書?」
「多分。もしかしたら、もっと前かもしれない」
暴露の大魔導士は200年くらい不在。大魔道士までいかない優秀な人はポツポツいるけど、大魔道士は不在。
暴露の大魔道士アイザック・ライプニッツは未暴露の特級上級悪魔を生涯で何種類か暴露したらしい。
未暴露の特級上級悪魔は超絶優秀な魔術士が何十人、下手すると数百人も束になってゴリ押しで退魔するけど、暴露解析済みなら一気に人出が減らせるという。
ルークがボコボコにしたグイベルも、未暴露ならあのまま行動停止が精一杯。ルークなら滅魔したかも? とは言っていたけど、難しいかも? とも言っていた。
グイベルの暴露は150年前に終わり、そこそこ優秀な魔術士が誰でも退魔出来るように解析されたのは約100年前。
アイザック・ライプニッツでさえグイベルの「第十五特殊鱗の後方二枚目の核」を見つけても「高熱源」とは分からず。彼の孫弟子を含めた何十人がかりで「高熱源」なのと「核の詳細」と暴露。
つまり、私はアイザックに並ぶ逸材ってこと。
本来グイベルは何体も一緒に現れる。周りにも色々な悪魔が現れる。災害時に出現する悪魔災というやつだ。
そんな中暴露したアイザックと、単体で現れたグイベルを暴露した私だと格が違う。アイザックは暴露に非常に秀でていたけど、他の魔法も天下一品だったという。つまり、私の未来の姿。
リオは特殊というか化物——聖人——なので活動中のグイベルを1人で葬送出来るけど、彼女こそ500年来の超天才。クレイヤからそう教わった。
つまり、私は常にリオにひっついていれば良いのだろう。リオには護衛騎士がたくさんついて、最強の師匠のルークとクレイヤもつく。危険な時はリオの護衛の転送術で逃亡。
ルークだけとかクレイヤだけとか、それこそロイやアンナとかノーサンキュー。といっても私にはもう拒否権なさそう。リオとの誓いのせいで。とりあえず転生術を覚えるまでは、誰かがいない限り嫌だと頼みまくってある。
「キヨイ、アップルパイを食べたら図書室に行ってみない?」
「行く。あんな気持ち悪い悪魔もう見たくない。来週また行くんだよ。窓越しだと難しいのかも? って言われて、中に入れって言われたけど絶対嫌だって拒否した。嫌だよ、あんな恐ろしい悪魔に近寄るの」
研究員、とくにジャックやゴリアテは不満そうだったけどリオが「なるべく怖くないようにって約束したものね」と庇ってくれた。
1年無理なら近寄って暴露ね、とも言われたけど。
「クレイヤが知識は宝だって言ってた。伝説の司書とか……なんかお約束じゃん! 大天才には超強力な味方や不思議がつきもの!」
「お約束?」
「ない? 小説や映画の主役には奇跡的なことがあるやつ」
「小説は分かるけど映画? ああ、結晶大映像?」
「多分それ! 秘密の秘書は私を助けて楽させてくれる! 絶対いる! お約束だもん!」
「そうね。あるわ。そういう話」
いよっしゃあ! 秘密の秘書をゲットして楽な人生を歩むぞ!
私は張り切ってアップルパイを食べた。急がず、ゆっくり、噛み締めて。ホームシックはないけど普通に美味しいし懐かしい。
フィオナが「あなたのその前向きなところ好きだわ」と笑ってくれた。




