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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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38/63

見学って言ったのに! 9


「ルーク!」


 バキバキバキと幾つもの木が倒れていく。土埃でルークの姿が見えない。


「鋼鉄のように硬いから平気だ。それより続きを!」


 ルークが心配で立ち上がろうとしたら、ロイが体をずらして行くな、というように立ち塞がった。


「鋼鉄……?」


 それは信じそう。何せ今のルークはまるで悪魔のような状態だ。いわゆる覚醒モードってやつ。漫画とかだと、だけど。あれ、何なんだろう? 俺は悪魔だって言っていたことと関係ある?


「そうだ。長くは続かない」


 その時、大咆哮が耳に飛び込んできた。まるでライオンの雄叫びのような声に身が竦む。声の方向を見ると黒い稲妻のような光が新種悪魔に向かっていった。


「あんの馬鹿。滅魔する気か⁉︎ おいルーク! 手加減しろ!」


 新種悪魔にルークが張り付いている。右腕を振り上げ、大きな赤黒い爪が新種悪魔を引っ掻こうとしていた。


「その滅魔ってやつをしてもらおうよ!」

「新種悪魔の場合、可能な限り解析調査が優先だ」


 ロイに言い返されて首を横に振った。


「優先って大ピンチなのにですか⁈」

「もう少しで他の調査隊が合流する。魔女討伐部隊も時期に到着だ。それよりキヨイ、続きだ」


 睨まれて、睨み返す。不服だ不服! 目を離していた間にまた爆音。今度は新種悪魔が吹き飛ばされて木々を倒している。


「帰りたければ早くしろキヨイ」

「早くってそもそも分裂とか針様攻撃とか……」


 分かんない! と叫びそうになったときに思い出す。私は天才。それも大天才。目を瞑って杖を振ったら解呪出来た。魔力の混合ができた今、イける気がする。アンナを起こしたら帰れる! やってやろうじゃないの!


「後で復習、練習するから今は起きてアンナさん!」


 目を閉じて、ザワザワ探し。無数のギラつきが瞼の裏にやきついている。そこに、いやそれらに向かって魔法紙を使って混ざった魔力を叩き込もうと、紙を掴む両手を振り上げた。

 振り下ろそうとして気がつく。もしや、雨を降らす感覚じゃない? 魔法紙から雨の様に降り注げ、と念じる。注射器、で思い浮かんだ。ところてんの器具のように押し出すイメージ。イメージが大事とは、誰が言っていたんだっけ? 教科書? いや、確かクレイヤだ。


「それだキヨイ。上手いぞ」

「話しかけないで下さい!」


 集中と根性! 魔法紙から魔力が中々出て行かない。飛び出せ、飛び出せ、と考えていた時にふと思いつく。風の魔力を上から叩き込んだら押し出されたりするかも?

 突風吹け! 上から下に吹きつけろ! と周囲の風っぽい魔力を集めて命じる。


「きゃあああっ!」


 パァァァン! と魔力が弾ける音がして、悲鳴を上げたアンナが起き上がる。起きた……。起きた!


「起きたあああぁ!」

「っ痛!」


 思わずアンナに抱きつく。たわわな胸に顔が沈んだ。これは素晴らしい柔らかさ。ちくしょう、私も欲しい。


「ルーク! 戻ってこい! 全員で戦線離脱だ!」

「頭いたぁ……。この感覚、私、眠らされていたの?」


 おえええ、とアンナが突然吐いた。最悪。私の頭、ゲロまみれ。臭い。活躍したのにこの扱いって酷い。


「っしゃあ! 時間ギリギリ! アンナ、結社へ戻れ!」


 アンナから離れたとき、上の方からルークが勢い良く降りてきた。隣に立つルークを半泣きで見上げる。


「あー、キヨイ。大惨事だな」


 バッと上着とシャツを脱ぐと、ルークがシャツで頭の吐瀉物を大雑把に拭ってくれた。まるでアスリートのように鍛え上げられた筋肉質な体にギョッとする。どちらかというと可愛い系の顔立ちなのに、ムキムキマッチョとはギャップ大。

 ルークは汚れたシャツを新種悪魔に向かってぶん投げた。しかしシャツはヴェスタに襲われて焼かれてしまった。


「ごめんなさいキヨイ。っ……おえええ……」


 アンナがまたしても吐いた。今度は誰もいないところに。すかさずルークがアンナの背中をさする。


「魔女の登場じゃ仕方ねえ。あのロイさんもズタボロだ。アンナ、転送術いけるか?」

「ええ」


 アンナの顔は真っ青。けれども彼女はふらふらと立ち上がり、右手を真上へ掲げた。いつの間にか魔法紙を持っている。反対側の手には指揮棒のような杖。アンナの魔法紙はハート型。ヒラリ、と魔法紙が舞うと同時にアンナは杖を宙に向けてぐるりと回した。

 人生2度目の転送術。やっぱり魔法って便利。やっぱりこれは、いざという時のために覚えよう。高難易度で許可制らしいけど、絶対覚えてやる。だってまたこんな目に合ったら困る。そう考えた時にふわりと体が浮いた。


「悪りぃなお姫様。無理させちまって」


 転送で体が浮上したんだと思ったらルークだった。お姫様抱っこをされて、笑顔を向けられて、おまけにウインクまで飛んできたので少しばかり胸がドキドキしてしまった。ふざけて言われたって分かっているのに、何でかつい。

 光った、と思って眩しくて目を閉じる。徐々に明るさが減っていって、瞼を開くと少し前にも訪れた黒白結社の玄関ホール。職員らしき人がチラホラいる。

 ルークは私を床に立たせると、サッとアンナを抱き上げた。


「ロイさん、アンナを運びがてら救護室から人を呼んできます。俺とアンナは前線復帰ですよね?」

「頼む。アンナ、行けるか?」

「薬を飲めば大丈夫です。上層部に報告して、準備が出来次第出発します」


 私は耳を疑ってしまった。前線復帰?


「えっ? あの、ロイさん……?」

「すまないなアンナ、ルーク。支援要請に手間取ってヴェスタにやられた。多分、しばらくは腕が使えない。キヨイ、今夜はご苦労様。大活躍だったな」

「いえ、あの炎の壁を越えて良くキヨイの指導に来てくれました。俺、教えるとか苦手で勉強しときます」


 一礼するとルークは駆け足になった。アンナを抱き上げたまま、トンッと跳ねて上層階へと飛んでいく。


「すまなかったなキヨイ。少し見学のはずが……」


 職員達が集まってくる中、ロイはふらふらと倒れ込んでしまった。両膝をつき、蹲るようになったあとに床に転がる。

 茫然としているうちに倒れてしまったので何も出来ず、その前に集まってきた人達がロイに次々と声を掛けた。ロイが事情を説明していく。私にも質問が飛びかう。

 こうして、私の予想外の見学会は幕を閉じた。

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