見学って言ったのに! 8
ルークジェットコースターに乗りながら解呪しないとならない。私は天才、天才! と自分に言い聞かせて、グワングワン回る視界の中必死にアンナを見据える。
「……叩いたら起きたり……しないの?」
「あるかバカ! 睡眠の呪いは餓死するような状況でも目覚めないような呪いのことだぞ!」
こう叫んだ後、ルークはヴェスタに向かって吹雪の風玉を吐いた。ヴェスタは消えるも、その体を形成していた炎が無数の槍のようになってこちらに向かってくる。
「あつっ! 熱い熱い熱い!」
「分裂させやがった! くそっ! またヴェスタに戻りる!」
熱風を手で払いながらアンナを必死に見る。彼女は気持ちよさそうに眠っている。顔や髪に火の粉が降り注いだというのに。
その時、チラリと何かが見えた。目を細めて黒いモヤモヤに集中する。
「ルーク! 鼻から頭の後ろにかけてモヤモヤして見える!」
「さすが天才弟子! その調子で頼……うおっ!」
間一髪。ルークが体を捻ったので先程までアンナの体があった空間を、バジリスコスの顎が噛み砕く。あそこにアンナの体があったままなら……と想像して背筋がゾッとする。
「いやあああああ!」
「うるせえキヨイ! 集中しろ集中!」
「分かってる……あああああ!」
ルークの体がまた反転したと思ったら、自分のすぐ脇をバジリスコスの口が噛んだ。ギギギギギッ! っと牙が擦れる嫌な音が耳を劈く。
目はアンナ、見るのはアンナと言い聞かせて必死にアンナを見つめているが、両眼からぶわっと涙が溢れる。
黒いモヤモヤのなかにガラスの破片のようなキラキラを発見。まるで小さな夜空だ。
「キラキラしてる!」
「はあ⁈ キラキッ……そうだ、同時核破壊だ! 睡眠の呪いには針様攻撃で無数核の同時破壊だキヨイ! 睡眠の呪いは基本的に無属性!」
ズザアアアと地面を滑る様に着陸すると、ルークはポイポイッと私とアンナを放り投げた。雑な投げ方するな! っと思ったけれど、アンナはフワッと地に置かれたし、私は自分の両足で簡単に立てた。
「っしゃあ! 5分稼ぐからどうにかしろよ、天才弟子!」
両手をパンッと合わせると、ルークは四つん這いになった。途端に彼の体を黒炎が覆う。
地面を抉る大きな爪、黒煙が立ち昇る昆虫のような二枚の羽、そしてまるで狐のような尻尾。
「まずはバジリスコス! 死にさらせ!」
突風、と思ったらバジリスコスは輪切り。バラバラになった体が火の玉になって地面に落ちる。
その向こうの木の幹に張り付くルークの姿。いつ移動したのか全く見えなかった。
瞳は爛々と輝く黄金で、猫目のように瞳孔が鋭い。大きく開いた口からはドリルのような形状の2本の牙。ルークの背後にドクロのような黒い炎が揺らめいている。
「嘘……」
私には分かる。ルークは人じゃない。胸に2つのハート型の核がある。ビッシリとトゲが生えていて、青い炎で燃える悪魔の核。
「次はヴェスタ! キヨイ! 時間稼ぎなだけだ! アンナを任せたぞ!」
ルークの四肢が木の幹を蹴る。また見えなくなった。ルークが張り付いていた木が後方に倒れていく。
パッと現れたかと思うとルークの足がヴェスタを蹴り飛ばした。
「す、凄い……」
アクション映画みたいな戦闘に呆然としてしまう。すると足元にバシュッと何かが飛んできた。
「きゃあ!」
「だから頼んだって! 見惚れんな、よっ!」
ルークの叫びで我に返る。足元を見たら小石が地面にめり込んでいた。ルークが両手を組んで上から下にヴェスタを叩き落とす。
指示された通り「自分がやるべきことはアンナを起こすこと」と自分に言い聞かせる。アンナの横に立ち、しゃがみ、深呼吸。ルークは鬼のように強いらしいから大丈夫。私はアンナに集中! と心の中で叫ぶ。
「無属性ってことは、何の属性でも良いって事。無属……って、水7に氷1、雷1.5に土が0.5だよコレ!」
ルークの嘘つき! とアンナの鼻周りから後頭部を取り囲む黒い霧を凝視。キラキラ、キラキラ、いやギラギラ、ギラギラと光り輝く小さくて不気味な小宇宙。
「針様攻撃って……魔力を的確に混ぜて、単にぶつけるじゃダメってこと?」
針様攻撃なんてしたことがないし、聞いたこともない。両手を上に向けて、混ざれーっと魔力に命令するも、そもそも水7、氷1、雷1.5、土0.5が混ざらない。
雷の魔力が水の魔力の中で大スパーク! ゴロゴロ言いながら、白煙を出して稲光を発生させる。
「な、何これ! なんで混ざらないの! 私は天才なんだ……か……ぎゃああああ!」
シェイキングしたら混ざるかと思って両手を向かい合わせて振ったらボンッと爆発。慌てて炎の壁を作って防御。
「キ、キヨイ……まず魔法紙を出せ……」
後ろから声がしたので振り返る。服が焼け焦げて、あちこち火傷で爛れているロイが右腕を押さえて立っていた。
「ひっ!」
本物⁈ 偽物⁈
「ヴェスタに腕をやられた。指示を出すからトライしてくれ」
ロイははあはあと息を荒げながら、私の隣に移動し、両膝をついた。
「あ、あの……」
「すまない。治癒魔法が追いつかない。魔女とは……。アンナを起こして撤退する。キヨイ、魔法紙を出せ」
「は、はい……」
どうやら偽物ではなさそう。私は言われた通り、ポケットから魔法紙を出した。私の魔法紙は蝶々の形。理由は可愛いから。それからリオに勧められたから。
実習ではまだ魔法紙に色々な属性の魔力を込めて、ふわふわ飛ばすということしかしていない。
「氷、水、土、雷の順に魔力を注げ。全体量からそれぞれの量を想像しながらだ。初心者の場合、片方の掌の上に魔法紙を置いて、反対の指で、注射のイメージだ。注射は知っているか?」
「はい知っています」
ロイの指示は分かりやすい。ロイの体はボロボロ。ルークは新種悪魔とヴェスタをボコボコに攻撃中。私がやるしかないぞ、と自分に言い聞かせる。しかし、はて? と首を傾げる。
「あのー……全体量から想像って……」
「そうだよな。1年生だから未経験だよな。俺が良しと言ったら注ぐのをやめろ」
「はい先生!」
まずは氷! 気合いだ気合い。根性だ根性。
「よし次」
「はい!」
次は水。注ぐだけなら簡単。指先を魔法紙にくっつけて、入れ、入れ、と念じる。やはり容易い。
「よし次! そこで最後!」
「はい!」
魔法紙って魔力を合わせる為に使うものだったのか。何に使うものなんだろう? って疑問だった。
魔力の増幅作用があることは知っていたけれど、増幅なんてしなくたって私はあちこちから魔力をかき集められるもんって軽んじていた。反省。
「で、後は必要数に分裂させる。針様攻撃に変化させて全部同時に叩き壊せ! ある程度雑でも大丈夫だ!」
「……? 分……裂……? 針様攻撃に……変化?」
ロイと目が合う。彼の表情が強張った。ロイの瞳の中に映る私の顔も怯え顔。人生とは前途多難。
爆音がして振り返る。吹き飛ばされたルークがいくつもの木を倒していた。




