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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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見学って言ったのに! 7

 ◆◆◆レストニア国立祓士学校 図書館◆◆◆


 クレイヤは本を閉じて、椅子から立ち上がった。新しい本を探すために歩き出す。見慣れた人影が視界の端に映った気がして、早歩きになった。


「キヨイ、勉強熱心だな。関心関心」


 声を掛けるとキヨイは振り返った。良く着ている現界の制服とかいう服はやはりキヨイ以外の誰ものでもない。


「あっ、クレイヤ。うん、まあ」


 キヨイにしては歯切れの悪い返事。「そうでしょう? 褒めて!」という冗談めかした返答を想像していた。


「何か調べ物か? 授業で困っているのか?」

「うーんと……。ほら、あれ。あの、なんだっけ?」


 あはは、と呑気そうな困り笑いを浮かべると、キヨイは目を彷徨わせた。


「ははーん。アンナさんに見学で何か言われたんだな。で、こうも言われた。クレイヤには頼らないように。自分で調べてきなさいって。あの人、そのうち講師になるって言ってたから練習だろう」


 ちょいちょい、と手招きをするとキヨイはおどおどしながら近寄ってきた。許してくれたというかまるで気にしていないようでいて、本当は気にしているのだろう。

 惚れ薬の効果切れと相まって、まるで別人と話しているみたいな錯覚がする。


「そう。そうなの!」


 パンッと両掌を合わせると、キヨイは苦笑いを浮かべた。


「手伝ってやるよ。アンナさんなら割と難題をふっかけてそうだ」

「えっ? いいよ。バレたら怒られちゃう」


 そう告げたキヨイの強張り方は、見慣れた姿に感じられた。


「まあ、そうだな。でもヒントくらいやるよ。いや、ああ、そうだ! 前から渡そうと思っていたからものをやろう。お前の目があれば安全だし、かつての曝露の魔術師には優秀な秘密の司書がついていたなんて伝説もあるんだ」


 待ってろ、と口にして図書館司書のポピンズの元へと向かった。声を掛け、説明し、教師権限を使用して、特別閲覧室の使用許可証の申請書と契約書にサインもする。

 普段ならキヨイは「何? 何?」と子犬みたいについてくるのに、目を輝かせるのに(そしてきっと怖いと騒ぐのに)今日は静かだ。

 アンナに「天才なのに?」などと相当絞られたのだろう。

 キヨイの元へ戻り特別閲覧室の魔法紙鍵(マギアキー)を手渡す。


「あそこの特別閲覧室の鍵だ失くすと俺が始末書だから気を付けろよ」

「えっ? う、うん。ありがとう……」


 歯切れの悪い返事。やはり今夜のキヨイは大人しい。初見だろう魔法紙鍵(マギアキー)にまるで興味を示さない。特別閲覧室が何かさえ聞いてこない。


「ははっ。濡れた犬みたいに大人しいな。よっぽど怒られたようだな。課題終わったら言えよ。何か旨いものでもご馳走してやる」

「ご馳走? ありがとう!」


 破顔すると「じゃあね」とキヨイは手を振りながら遠ざかっていった。ようやく、らしい姿だ。

 ポピンズ司書の使い魔、監査役のアニーがキヨイに向かってピピー、ピピーと警告笛を鳴らす。


「図書館で走るな、騒ぐなか。よくあのバカのせいで追いかけられたな」


 何? 何? とキョロキョロしながらキヨイは図書館から出ていった。懐かしさと面白さでついクスリという笑いが溢れた。



 *** カラザの森 ***



「ルーク! こんな体制、ジェットコー……きゃああああ!」


 体の横をルサールカが通り過ぎ、瞬間ルークの体が回転したので自然と悲鳴が出る。


「集中しろ! 集中! そのジェトコ? で解呪する日もくるかもしれないぞ!」

「んなわけあるか! むりー! 無理無理!」


 ジェットコースターは幻界にはないらしい。遊園地に行って悪魔と遭遇し、ジェットコースターに乗って華麗なる解呪、なんて未来があってたまるか! 絶対無い!


「アンナを起こさないと帰れないぞ!」

「それはヤダァ!」


 うえっ、うえっ、と私は泣いた。


「泣いたって帰れっ! うおっ! しつけえなぁ! 消えろヴェスタ!」


 ルークが再び吹雪の空気砲を吐いた。向かってきていた炎で出来た大きな鳥が急旋回して逃げていく。

 ヴェスタは炎の鳥で、バジリスコスは炎の蛇。今夜、私はそれを覚えた。

 明日の小テストに出たら良い。というか、こんな過酷な実習に参加したのだからむしろ小テストなしで単位をくれ。

 悪魔学のババル先生にそう直訴しよう。


「消えてないじゃん! パッとやっつけて降ろしてよ! クレイヤなら集中させてくれるよ!」

「無茶言うなよ! クレイヤだってこのレベルにこの数だったら同じような状況だ!」


 グワングワン振り回されているけれど、自分なりに必死にアンナを見ている。けれどもジッと見つめられないので何も見えない。

 すやすや安らかに眠るアンナの姿に少々イラッてする。この状況で寝てるな! 起きろ呪いになんて見えない!

 睡眠の呪いなんてまだ授業で教わっていない。私がクレイヤの授業で聞いたのはまだ家庭、日常レベルで襲われる呪いとその解呪方法。

 数日流さないでいた水道に生まれる迷惑悪魔と嫌な匂いを発する呪いだとか、放置した庭で伸び放題の草から生まれる悪魔とかぶれる呪いとか、そういうやつ。


「じゃあルサールカの睡眠の呪いについて教えてよ!」


 知識は宝、とはクレイヤ談。クレイヤとの2人での実習で私は自分の目と勘で呪いを解いてきたが、クレイヤは実習が終わった後に必ず祓った呪いや悪魔について教えてくれた。

 今は逆。自分の特技が使えないのなら、知識が欲しい。欲しくてならない。

 グイベルの悪魔の核は「腹部と尾の中間よりやや尾寄り。背部側にある、第十五特殊鱗の後方二枚目に高熱源の核」だ。

 ねじ込むべき魔力は高火力で「炎8に風1、土0.5に雷0.5」である。私は2度とグイベルに近寄りたくないので、グイベルが来たと言われたら、一緒にいる人にこれを教えて戦ってもらおうとちゃんと教わったことを覚えた。

 クレイヤと一緒につけている実習復習ノートにもちゃんと書いてある。そこにグイベルについての説明も増やし中。


「俺が睡眠の呪いについて知ってる訳ないだろう! そんな普段使わない知識、テスト時に全部一夜漬けで覚えてすぐ忘れた!」


 この返事に私は「ルークのバカアァァァ!」と絶叫した。その時、ルークが向かってきた新種悪魔を下から上へ蹴り飛ばしたので、舌を噛んだ。

 踏んだり蹴ったり!

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