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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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35/63

見学って言ったのに! 6

 すやすやと赤ちゃんみたいな寝顔で眠るルークの背中から、まるで手のような黒い炎が2本生えている。ルークの首を抱きしめるように巻きついている。

 炎の魔力以外に感じるのは、私の知らない種類のもの。

 火、炎、水、氷、熱風、冷風、砂、岩、石、雷などなど、基礎実習で習った魔力の中には無かったものだ。だから、炎の魔力に混じる別の魔力の感覚はあっても、それが何か分からない。

 今、私が見える範囲には核は見当たらない。鳥肌と震えで動けない。視線も逸らせない。


——……シノ……ヤ……。……ナイ。


 シューというようなガス漏れみたいな音に混じる嗄れた声に、耳の奥が痛くなった。思わず耳を塞ぎ、目を閉じる。


「キヨイ嬢?」


 ブレイドが私の肩に労るような優しい手つきでそっと触れた。


「気持ち……悪い……」


 込み上げてくる吐き気を堪えようと、唾を飲む。奥歯を噛み、唇を強く結ぶ。

 その時だった。急に手首を掴まれ、私は悲鳴を上げた。


「きゃああああ!」

「うおっ! 溺れ死ぬかと思った! ぷはっ! はー、ん?」


 目を見開いたので、ルークと目が合った。彼は突然起きたらしい。頬が痙攣する。怖い。恐ろしくてならない。初めてルークと会った時と同じ感覚に襲われていて、体が竦んで動かない。


「悪いキヨイ! 俺の悪魔が見えたんだろう? いや、俺が悪魔なのか? とりあえずこの件は後だ。まず……」


 ルークにガシッと頭を抑えられ、髪をぐしゃぐしゃにされて、私は小さな悲鳴を漏らした。


「最悪な状況らしいな!」


 瞬間、掴まれていた手首を引っ張られて宙にブンッと投げられた。


「きゃあああ!」


 投げ出されたのも束の間、体をガシッと掴まれる。ルークが小脇に私とアンナを抱えて、地面に着地。


お姫様(プリンセス)王子様(プリンス)は式典中。魔女の偽物三体にアンナが寝ていて、ロイさんが炎の外で交戦中で、内側に俺達。新種悪魔にルサールカの群れ。援軍が来るとしてもヤベェな」

「えっ? に、偽物⁉︎」

「幻覚で溺れさせられてたけど、お前らの会話は聞こえてた。救出劇はキヨイを絶望させる演出の序章ってところだろう。よく見ろ。俺も含めてな」


 ルークが助走前の準備というように、地面をトントンと蹴るので体が揺れる。

 見上げたルークからは、もう黒炎が消えている。眼前の渋い顔のブレイドは……。


「端……マントの端がペリペリ……剥がれそう……」


 ペリッと剥がれていったのは三つ葉のクローバーの魔法紙。つまり、あのブレイドは偽物だ。

 更に目を細めてグッと眉間に力を入れて凝視すると、偽物魔女と同じで炭で出来た人形のように見えた。


「パストゥムが三体で、おまけにそのパストゥムでヴェスタにバジリスコスを作り出すとかホント化物だな。キヨイ、俺にしがみつけ!」


 パストゥムにヴェスタ、バジリスコスって何⁈ パストゥムは確か……。


「キヨイ! 引き離されるなよ!」


 グンッと急上昇。その次からは何が起こっているか不明。私はルークの胴にしがみつき、抱えられたまま上下左右動く状態に必死に耐えた。

 うえっ。遊園地のジェットコースターなら楽しいけど、この状況だと嫌だ。

 ルークが止まる。巨木のかなり高い枝の上にいる。眼下の遠さに軽い目眩。私、自分で飛行以外だと、高いところは苦手かも。


「炎の壁が高過ぎる上に、どいつもこいつも邪魔だな。いやあ、それにしても呪いが変化する体で助かった。キヨイ、また動き回って脱出を試みるがかなり難しい状況だ。アンナを解呪出来るか? こいつが起きたら転送術で抜け出せる。俺達の天才弟子なら出来る! 守ってやるから任せたぞ!」

「えっ? ちょっ、待って! 色々……」


 色々と現状把握が出来ていない! と言い終わる前に、再びルーク・ジェットコースター開始。

 急降下、急上昇かと思ったら横に揺らされて回転。この状態でアンナを解呪⁈ ちょっと落ち着いた時間をくれたりしないの⁈

 動きが遅くなった時に声を出そうとしたら、ルークは大きくのけぞり、すぅーっと大量の息を吸った。ここは空中。目の前には巨大な炎の蛇。


「ウガァ!」


 八重歯を剥き出しにして大口を開けたルークが吐いたのは、猛吹雪を閉じ込めたような風の玉。

 突っ込んできていた炎の大蛇とぶつかり、両方とも弾け、白煙を撒き散らした。木々が次々倒れ、あちこちで巨大な音が鳴る。私の体のあちこちに氷の粒がぶつかってきた。


「いたっ! いたたたたた!」

「悪いキヨイ。ヴェスタは逃げやがったか! くそっ! 壁は変わらねえのかよ!」


 チッと舌打ちをすると、ルークは近くの枝にストンと降りた。


「どうだキヨイ? アンナは起き……てねぇじゃねえか! やる気あんのか!」


 ずいっと顔を覗き込まれる。ルークは不機嫌そうな怒り顔。


「む、む、無理……」

「やる気の問題だ!」


 コツンと小さな頭突きをされ、涙が滲む。


「だってこんなの聞いてない! せめてゆっくりぃぃぃ!」

「好きなところ連れてってやるから、頑張れ! 俺達をこの窮地から助けてくれキヨイ! 成功するまで俺がずっと守ってやるからよ!」


 ルークは私の目をまっすぐ見据えて、優しい微笑みを浮かべてから、ニッっと歯を見せて笑った。屈託ない笑顔。信頼している。大丈夫。そういう笑い方。


「言っただろ。極悪級な悪魔が現れても、俺が守ってやる。俺達のお姫様(プリンセス)

 

 茶化すような明るい声に、パチンという華麗なウインクが飛んできた。胸が急にドキドキバクバクして、恐怖がフワッと消え去る。

 ルークジェットコースター再度始動。私は今夜何度目かの「見学って言ったのに!」と心の中で叫びながら、反対側のルークの腕の中で眠るアンナを必死に見つめた。

 

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