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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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33/63

見学って言ったのに! 4

 ♣︎  回想?  ♣︎


 畳に正座なんてまるで似合わない、ザ・西洋人という顔立ち。さららと揺れる長い白銀の髪。


「先程貴女を襲ったのは悪魔です。そしてその手は、あらゆるものを腐らせるその右手はあの悪魔による呪いです」


 可哀想に、と形の良い薄い唇が動く。可哀想……。可哀想……。カ……アイ……。

 燃え上がる炎の中に立っている人影。髪の長いその人は両手で何かを掴んでいる。

 それは——……。煤だらけの骸骨。


 ♣︎ 回想? 終了 ♣︎


 名前を呼ばれて、私はハッと目を見開いた。何、今の。幻覚? 夢?


「キヨイ⁈ 苦しいわよ! 離れ……ちょっと貴女、真っ青よ」


 私はしがみついているアンナの顔を見つめ、頬を引きつらせた。


「魔女が来る! クレイヤのお母さんがいる! 骸骨! 骸骨を持って!」

「く、苦しい。首を絞め……ないで……。ま、魔女?」


 私があっち、と指差した方角へアンナが体を向ける。


「フレイヤ……先生……」

「先生?」


 魔女がスッと右手を上げた。彼女の表情は変わらない。瞬間、私とアンナは熱風で吹き飛ばされた。熱さで目を細める。


「キヨイ! アンナ!」


 薄目の向こうでルークが叫ぶ。こちらに向かってくる。その背後には新種悪魔。彼に飛びかかろうとする新種悪魔が大きく口を開ける。


「ルーク後ろ!」


 アンナに抱きしめられている私は、必死に新種悪魔に向かって手を伸ばした。天才魔法使いなら、掌から何か出ろ、出ろ! と目をギュッと強く瞑る。

 しかし、体の内側で魔力がグルグルめちゃくちゃに動き回っただけだった。集中力ゼロの今の私には何も出来ない。


「あぶねっ! 助かったアンナ!」


 近くでルークの声がして、私はそっと目を開いた。ルークの体に魔法の縄——確かニール——が巻きついている。

 私達は新種悪魔から遠い、先程とは別の場所、地面の上にいた。


「っとに危なっかしいわね。あんたまた、炎であの新種悪魔を活性化させようとしたでしょう!」

「あー、つい?」

「ついじゃないわよ!」


 アンナの拳がゴンッとルークの頭頂部を強襲。しかし、ルークは涼しい顔というか、意に介さずという様子。目を見開いて、アンナの姿ではなく、別方向を凝視している。

 ルークの頬が引きつり、顔色がさあっと青白くなった。唇もあっという間に紫色。


「マジ? クレイヤの母ちゃんじゃね?」

「そうなのよルーク! フレイヤ先生よ!」


 ルークの体に巻きついていた魔法の縄が消える。アンナとルークの視線の先を私も薄目で追う。

 うん。いる。確かにいる。炎に囲まれた女性。クレイヤと良く似た顔立ちには微笑みが浮かんでいて、白いワンピースと白い髪が渦巻く炎で翻っている。なのに、何故か帽子は吹き飛ばされない。

 彼女の手には何もない。骸骨なんて持っていない。


「アンナ! ルーク! 作戦変更! 即座に撤収——……うわっ!」


 枝の上からこちらへ飛んだロイに向かって、高速で飛んできた鳥の形をした炎が襲いかかる。


「ロイさん!」

「アンナ! ヴェスタがこっちにもくる!」


 叫んだアンナを、ルークが私ごと抱き上げ、地面を蹴った。ヴェスタって何⁈ あの火の鳥? あれも悪魔?

 ロイの姿が見えない。まさか……燃えた……?

 震えていた体が更に震え、私はますますアンナにしがみついた。アンナは私を叱ったりしなかった。彼女の体も微かに震えている。


「クソッ! 炎に囲まれてる! 上は水だ! 反対属性共存ってどうなってるんだよ!」


 ルークがぐるりと森を見渡す。視界が急に回転して目眩がした。吸い込んだ空気の暑さにむせ返る。

 グラグラする世界には燃え上がる森。あちこちを飛び回る炎の鳥が数羽。

 炎の中をバタフライのように飛び跳ねる新種悪魔に、その上に渦を巻く水流と、まるでマグロの群れみたいに泳ぐ何体もいるルサールカ。


「転送術で——……」

「ロイさんを置いていくのか——……よ……」


 アンナの腕から地面へ投げ出され、彼女とルークがふらふらと倒れていくのが見えた。体が地面にぶつかり、痛みで呻く。

 恐怖と痛さで自然と涙が滲んできて、私は泣きながらルークとアンナの体を揺すった。


「ルーク! アンナ!」


 強く揺さぶっても、体を叩いても、2人は目を覚さない。ルサールカは「睡眠の呪い」をかけてくる、ということを思い出す。


「見学って言ったのに! 誰か助けて!」


 泣き叫んでも、誰も返事をしない。してくれない。


「クレイヤー! 助けて! リオー!」


 もしかしたら、近くにいるかもしれない。影から見守ってくれているかも。そう思って叫んだが、やはり返事はない。

 泣きじゃくりながら、ルークとアンナの体を揺らす。


「起きてよ! 起きて! 守ってくれるんでしょ!」


 大絶叫した時、目の前を白い布がフワリとはためいた。恐る恐る顔を上げる。


「私のはーと、ミいつけタ」


 今夜2度目の台詞。2度目の姿。白髪に白い帽子、白いドレス。虚無の瞳。ほぼ無表情だが、唇だけはちいさく笑っている。


「はートをクダさい」


 魔女は、カラカラと音がなりそうな首の振り方をして、薄笑いを浮かべた。

 白かったはずのその姿は、私の瞳にはドス黒い魔力の渦で、まるで炭で出来た人形のように映った。

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