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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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32/63

見学って言ったのに! 3

「ルーク!」


 吹き飛んだルークを視線で追う。何十メートルも飛ばされ、いくつもの木にぶつかり、ぶつかった木がへし折れる。


「危ないからジッとしてなさい!」


 私を横抱きにするアンナに怒鳴られ、体を竦める。


「あいつなら、あのくらいでは怪我一つしないから。それより曝露よ。根性入れて見なさい!」


 怪我一つしない、とアンナに言われたルークは土埃と倒木の向こうで姿が見えない。

 新種の魚型悪魔はギョエエエエという不気味な叫び声を出して、同じ場所でグルグルと縦回転している。


「アンナの魅了術で悪魔はルーク以外を意識しない。キヲイ、曝露に集中しなさい!」

「ロイさん後ろ!」

「うおっと!」


 アンナが叫ぶと同時に、ロイが魚型悪魔の素早い体当たりを避けた。


「魅了術?」

「私のウェヌスタは一級品。防御壁に霧隠れも合わせて、安全地帯よ」


 アンナが私にウインクしてきた。言葉から想像して、悪魔がロイとルークに注目するようにして、こちらの姿を隠して、更に防御壁とやらで守っていると解釈。

 

「見学って言ったのに? ええ、見学よ。少々実習付きの。ほら、しっかり目を開いて曝露しなさい!」


 ニッコリと微笑まれて、動揺が減った。そうか、ここは安全……。


「私達が安全でもルークが……」

「ルーク? あー、魔人がお怒りね」


 アンナが呟いた時、ルークが吹き飛ばされた方角に巨大な火柱が出現。熱風が吹き荒れた。


「あっつ。シュプリュレゲン!」

「熱っ」


 熱いと思ったのも束の間、霧雨のカーテンが私達を覆った。


「ルーク! 火は悪手だとっ! あーあ」


 ロイが跳ねて、私達の乗る枝へ移動してきた。

 徐々に消えた炎と煙の中から、ゆらりと揺れる大きな黒い影。そこに満月のように丸いギラつく黄金が二つ。

 私の全身に鳥肌が立った。怒り顔のルークの背後に、彼の倍はある人型の黒い炎が揺れている。おまけにルークを抱きしめる手のように伸びる二つの太い線のような黒炎。

 悪魔だ。何せ高密度の魔力の核がチラリと見えた。形は不明。無数の刺が確認出来ただけ。魔力の種類は炎と……。何……あれ……。

 

「いってーな! このアホ悪魔!」


 拳を握り、吠えるように叫ぶと、ルークの背後の黒い炎はルークの背中に吸い込まれるように消えた。

 服は綺麗で、かすり傷一つないように見える。無事で良かったと安堵。


「ルーク! 滅魔させるなよ! 新種なら曝露、研究が必要だ!」


 ルークはロイに返事をせず、地を蹴った。


「わ、かっ、て、ますよ!」


 かかと落とし、次は回し蹴り、巨木にぶつかった魚型悪魔にすかさずパンチ。ルークの独壇場。

 そうだった。ルークは上級悪魔のグイベルをフルボッコにする実力の持ち主。

 あの時と同じでとても安心ということだ。大きく深呼吸をして、恐ろしい魚型悪魔を見据える。


「核……。核……」


 ルークの両手で尻尾部分を掴まれ、振り回されながら地面に叩きつけられている魚型悪魔を目で追う。目で追えない。


「無理! そんなに動かさないでルーク!」

「曝露開始したのか。偉いぞキヨイ! そろそろロイさんがニールとか、何かで停止させるから待っとけ!」


 ニッコリ笑ったルークの周りに、いきなり水の渦が出現。その中をチャポンチャポンと飛び跳ねるのは……。


「人魚⁈」

「ルサールカ!」


 長い半透明の水色の髪に、色白で痩せ細った皮と骨のような体。目は魚型悪魔とそっくりで落ち窪んでいて丸い。

 ほぼ骸骨みたいな顔で鼻は削ぎ落とされたようにない。

 尾は虹色ががった銀色だが、美しいというより、油の浮いた海のような汚さで、気色悪いと感じる。


「悪魔を産む悪魔って、特殊個体⁈ それなら結社内特任案件よ!」

「全員一度撤収! 調査本部へ戻り……」


 ルサールカが三体、こちらに向かって泳いでくる。空なのに泳げるのは何故⁈ 水飛沫も飛び散っている。

 睡眠の呪いをかけてくることが多い。放つ気泡や水に触れないように……。

 ポポポポポポ! とルサールカの口から水鉄砲が飛んできた。


「きゃああああ!」

「煩いキヨイ!」


 アンナにしがみついて悲鳴を上げたら怒鳴られた。

 あっと思ったら、ルサールカを炎が燃やした。ルサールカが弾けて裂魂に戻る。

 退魔されて霧散した裂魂はさらに密度を失い、空気に溶けるように消えていくというが、消えずに燃えた。辺り一面火の玉。


「何、これ……」

「滅魔よ。ルークの魔力はやり過ぎると退魔後裂魂を燃やしてしまうの。理由は不明。本来葬送されるべき退魔後裂魂が燃えるとどうなるかも研究中」


 見上げるとアンナはしかめっ面だった。


「あの破壊魔人。新種まで滅魔してしまったらどうする」


 アンナの隣に立つロイが、ため息を吐いて額に手を当てた。

 ルークが私達の足元に立ち、こちらを見上げて歯を見せて笑った。


「俺がいるから大丈夫だって言っただろうキヨイ!」


 握った拳を私に向かって突き出してウインクしたルークは、かなり格好良く見える。ちょっとドキリとしてしまった。


「アンナ、余計な話をするな。研究中というのは機密事項だぞ。ほぼ9割がた本部研究員とはいえ、まだ学生で本人の進路希望……」

「ちょっとまずそうですね」

「ああ、話は後。軽く戦闘だな」

「えっ、戦……闘……?」

「キヨイ、曝露継続。アンナは引き続き護衛」

「はい、ロイさん」


 炎の海の中を跳ね回る新種悪魔。その上には輪状の水流。その中を何体ものルサールカが泳ぎ、跳ね回っている。どう見ても数が増えている。

 

「戦闘って……逃げようよ!」


 アンナの首に腕を回してしがみつく。自然に体が震える。十以上に見えるルサールカに、悪魔を呼ぶ新種の悪魔。こんなの恐怖以外の何ものでもない。

 ルークが口から火を吹き、ルサールカを燃やす。霧散した裂魂に新種悪魔が突っ込んで行くと、再びルサールカが現れる。その繰り返し。


「増援を呼んでるから安心しなさい」


 怒鳴られるかと思ったけれど、アンナは優しい声を出した。

 ロイが飛行機型の魔法紙をいくつも放った。遠ざかっていく魔法紙にルサールカが飛びかかる。ロイが移動せずにその場で手を振り下ろした。火の矢がルサールカに降り注ぐ。

 霧散した裂魂の海に新種悪魔が突進。水飛沫とともにルサールカが出現。


「推定中上級の特殊悪魔。それも異種属増産疑惑。かなり厄介だ。時間稼ぎをするにも、2人でこの数は骨が折れるな」

「ルサールカに炎は効果的ですけれど、それであの特殊悪魔からルサールカが増産される。面倒な組み合わせですね」


 ロイとアンナが顔を見合わせる。


「厄介、面倒なら逃げようよ!」


 私が叫んだ瞬間、新種悪魔が気味の悪い大絶叫。するとルサールカ達が顎が外れるのではないかというほど口を開けた。全ルサールカ、ルークを取り囲んでいる。


「ルーク!」


 ルサールカ達の口から一斉に、勢い良く、水鉄砲のように透明な液体が飛び出す。四方八方からの攻撃。それをルークはヒラヒラと回避していく。


「凄い……」

「安心しろってキヨ……っ! あぶね!」


 私に向かって手を振ったルークが思いっきりのけぞった。間一髪、ルサールカの攻撃をかわす。


「ルーク! よそ見や油断をしない! 曝露、観察の為の時間稼ぎっ……頭上!」

「うおっと!」


 ルークの頭の上へ、新種悪魔が飛びかかる。ルークは素早く移動し、跳ねて、新種悪魔の横に回り、新種悪魔に殴りかかった。


「助かったアンナ!」

「アンナ、引き続きルークのサポートも頼む。ルーク! 引き続き時間稼ぎだ!」


 そう言い残して、ロイは別の枝へと移った。


「キヨイ、いつまでもしがみついてないで、あの新種を曝露することに集中しなさい」


 逃げないというのはもう分かった。時間稼ぎというのは、私が曝露をする為の時間。黙って小さく頷く。

 3人とも余裕たっぷりなので怖くない、怖くないと自分に言い聞かせる。


「カナしい、かなシイ」


 小さいのに耳にはっきりと届いた、抑揚のない女性の声。瞬間、私の身の毛がよだった。声がした方角にバッと顔を向ける。


 飛び込んできたのは白。


 白髪に白い帽子、白いドレス。虚無の瞳。ほぼ無表情だが、唇だけはちいさく笑っている。


「私のハート、見イつけた」

 

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