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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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31/63

見学って言ったのに! 2

【カラザの森】


 颯爽と森の中を飛ぶと思ったら、ひたすら歩く地味な捜索活動。

 魔力温存だそうだ。それに障害物だらけの森の中をスイスイ飛べる魔術師は希少。そういう人はスポーツ選手になっている、らしい。

 足元には草木が生い茂り、木が大きいから根っこも大きいので歩き難い。

 結社から来た人に、靴を借りられたのはラッキーだ。パンプスで歩くのは、しんどかっただろう。


 私達は目撃情報のあった場所を目指している。

 歩きながら、ルークと雑談中。


「スポーツ? そういえば、人気スポーツって何?」

「んー、飛行ならアエーショだな」

「どんなの?」

「説明メンドーだから今度連れてってやるよ。あれだな。今夜のご褒美ってやつだ」


 ルークが笑った時、前方の大きな木の幹がゆらりと揺れた。あれ、目眩? 

 違う。私は揺れていない。でも、前を見ていると揺れているような感覚がする。


「キヨイ?」

「ルーク、なんか、向こうが変……」


 私はルークの背後に移動して、彼のジャケットにしがみついた。


「変? キヨイ、具体的に説明してくれ」


 ロイの問いかけに、私は言葉を探した。


「向こうを見ていると、こう、ゆらあって……」


 場所を指差した時、急に空気がひんやりしてきた。指で示した方角から、寒い微風が流れている。

 ルークにしがみつき、周りを見渡す。やっぱり、変だと思った所だけがおかしい。

 なんて表現するんだろう?


「ルーク。なんか、急に寒くない?」

「寒い?」

「そうだ。蜃気楼! テレビで見た事……。ひっ!」


 蜃気楼みたいなゆらめきの中に、少しだけ気味の悪い物が見えた。蜃気楼って、夏か。寒さとは無関係だ。

 青魚の鱗みたいなもので、茶色く変色しているところや、青カビみたいなところがある。

 数秒見えて消えてしまったけれど、絶対に見た。


「か、帰ろう……」

「はあ? 帰るって何を言ってるんだ。見えねえってことは、幻覚を使う悪魔か」


 ぽんぽんと頭を叩かれる。冷静なルークに尊敬の念を抱いた。


「あんた、悪魔分類なんて覚えてないでしよ」

「いやあ、あっはっは。その通り。アンナ、キヨイの目を頼りに攻撃してみていいか?」


 前言撤回、私はアンナの方へと移動した。ルークは頼りにならなそう。


「ダメに決まってるでしょう! それにリーダーに指示を仰ぎなさいよ。ったく、あんたは成長しないわね」


 ルークとアンナは顔を突き合わせて、睨み合い。

 小声で話しているということは、状況を忘れていないということだけど……不安。この組、大丈夫なのかなあ。


「キヨイ、どんな見た目だ? 先程から君の視点はあまり移動していないから、そんなに動いていないのだろう?」


 ロイが私の隣に来た。アンナ、ロイ、ルークに囲まれて、少し安心。


「えーっと、さ……」


 落ち窪んだ黒い渦のような目——多分——が私を見たので、言葉が行方不明になった。

 恐ろしくて、アンナの腕にしがみつく。瞬間、ぶわっと冷たい風が吹いた。


「きゃあ!」


 体が浮くのと、目の前に土柱が出来るのは同時だった。アンナの腕に抱えられている。

 アンナの腕にお腹を抱えられていなかったら、と考えるとゾッとする。彼女は私を抱えたまま、ニールで木の枝にぶら下がった。別の枝の上に、ロイとルークが着地する。

 アンナも反動をつけて、枝の上に移動。私は枝の上に立たされた。

 高さ数メートル。怖くて木の幹にはりつく。アンナはバランス感覚抜群のようで、枝の上に仁王立ち。

 バラバラと土や石が落下し終わると、辺りはシーンと静かになった。

 

「ロイさん、どうします?」


 冷や汗をかいている私と違って、アンナは涼しい顔。怖い。帰りたい。帰らせて!


「帰りたい。怖いって……」


 アンナを見上げて、小声を出す。彼女は呆れ顔を浮かべた。

 

「キヨイ、幻覚を使う水系の悪魔の代表格は?」

「ロイさんの質問に答えなさい。怖いって、祓士になるのに、何言ってるの」


 アンナに軽く睨まれて、縮こまる。つり目だから怖い。

 ロイは周りを見渡していた。顎に手を当てて、冷静な表情。


「ほら。質問に答える」


 アンナの低い怒声に、私は震えた。


「おぼ、覚えていません……」

「なら、ルーク」

「うええええ、ロイさん。俺はもう学生じゃないですよ!」


 ルークが言い返し、ロイが睨む。


「弟子に教えられないとは、また勉強をサボっているんだろう」

「だから学生じゃ……」

「社会人なのにテスト実施される、規格外だもんね♡」


 三人がのんびり会話しているので、震えが消えていく。

 そんなに危険な状況ではないってことかな。良かった。


「ったく。何で結社はクレイヤを謹慎させたんだ。キヨイ、幻覚を使う水系の悪魔の代表格は……アンナ跳べ!」

「滅魔寸前までボコボコにして、キヨイに曝露させま……アンナ!」


 ロイとルークは途中で言葉を切り、トンッと飛び降りた。アンナに襟を掴まれ、引っ張られる。

 私とアンナがいた枝が、バキリと折れた。上から力を加えた、というように。

 その下にも衝撃がいき、土柱が出来る。まるで加速して、力も入れたような攻撃。

 アンナは別の木の枝に着地して、私を下ろした。アンナにしがみつく。


 破壊された枝の真下で、ぬるり、というように動いたのは、大きな魚。頭が少し人っぽくて、全身に鳥肌が立つ。

 水族館でみた、深海魚のホルマリン漬けを思い出した。生き物ではなく、まるで死骸が動いているようだ。

 頭がやたらデカくて、細くて長い牙が無数にある。暗くて落ち窪んだ丸い目と、視線がぶつかり、私は絶叫した。


「きゃあああああ!」

「暴れないでキヨイ!」

「さか、魚! 魚に似ている! 深海魚! 牙が……」


 一気に涙目。曝露したら、退治してくれるならと、私は懸命に目を開いて、深海魚もどき悪魔を見た。

 深海魚もどき悪魔の周りは、口からぼたぼたと透明な液体が流れて、ぐるぐる囲っている。

 水属性にしては、変な魔力。核だ。核を探さないと、倒してもらえない。


 いきなり、グワッと口を開いて、こちらに飛びかかってくるので、私は再度叫んだ。


「いやあ! こっちに来る! アンナさん逃げて!」

「喧しいわね! ルーク、あんたの案を採用! 近寄ってくると気配が分かるから出来るわね!」


 アンナは私を抱えて、また別の木の枝に飛んだ。

 

「よっしゃあ! 任せろ!」


 息を吸い込んだルークが火を吐いた。深海魚もどき悪魔を含めた、広範囲が火の海。


「おいルーク! 新種かもしれない! 調査が必要だ! やり過ぎるなよ」


 ロイさんが叫ぶと、ルークの吐く火の息の威力が弱まる。

 

「えええええ、怖いから倒して……」

「メソメソしない! 牙が、の続きは?」


 アンナに胸ぐらを掴まれる。怖い。深海魚もどき悪魔よりも、冷静な祓士三人のほうが怖いと思ってきた。


「牙が……沢山あります……。あああっ! ルークの火から逃げた! なんか……」


 元気になっている? というか、大きくなっている?

 ビチビチ、と聞こえそうに暴れながら、火の海を泳ぐように跳ねて火から出た。

 水属性の悪魔って、火に弱いって授業で聞いたのにどうして?

 ギイヤアアアアア、と泣き叫ぶ赤ちゃんのような悲鳴が、森中に響き渡る。耳が痛い。


「確かに、これは新種かも……。私は知らないわ」


 アンナは私の胸元から手を離し、私を横抱きにした。


「アンナ、後方で護衛と曝露補佐! ルーク! 一先ず、火は悪手だ!」

「姿が見えるなら、ボコボコにするだけですよ! 」


 深海魚もどき悪魔はパワーアップしたようで、頭が三つ増えた。恐ろしい事態だけど、三人に慌てた様子がなくて、もう悪魔の姿を認識しているのは安心だ。

 ロイが私達より前の木の枝へと移り、ルークは戦闘意欲満々というように、地面に降りて、深海魚もどき悪魔の前に仁王立ち。


「俺も知らない姿の悪魔だ。新種疑惑濃厚! 調査本部に報告する。返事があるまでキヨイは曝露だ。ルーク、滅魔するなよ。あしらえ!」

「了解隊長!」


 ロイが懐から何か出した。魔法紙だ。飛行機のような形の魔法紙が、ビューンと遠ざかっていく。

 ルークは右手の拳を、左手の掌にバシンと当てた。


「返事があるまで? 滅魔するなよ? してよ! しなよ! っていうか、滅魔って何⁈ 退魔じゃなくて⁈」

「ちょっとそこから? ったく。あんた勉強していないの?」

「してるよ! まだ授業始まって、半年も経ってないの! 見学って言ったのに! 実戦なんて聞いてない!」

「敬語! 下に放り投げるわよ!」


 アンナに怒鳴られ、萎れる。悪魔よりも、アンナが怖い。帰りたい。鬼のような形相だ。怖い、怖すぎる!

 

「俺がいるから大丈夫だキヨイ! 落ち着け!」


 振り返って、歯を見せて笑ったルークが、光り輝いて見えた。ここに、神がいる。

 と思ったのも束の間、ルークは深海魚もどき悪魔に体当たりされて、吹き飛んだ。

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