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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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30/63

見学って言ったのに! 1

 護衛チームはロイ・ギーンという人がリーダーで、そこにルーク、あとアンナの三人。集合場所の噴水広場で、自己紹介された。

 アンナは既に顔見知り。課外授業の時に、護衛係だった、色気たっぷりのツンツン女。

 今夜もツン、と澄まし顔をしていて、何この小娘、という表情。ムカつく。

 Vネックのグレーのセーターから谷間が丸見え。ベージュのショートパンツから伸びる足はムチムチ。網タイツを履いていて、靴はピンヒールのブーツ。絶対に、狙っている。

 なのに、悔しいけど、絶妙な品の良さ。下品になりそうなのに、素材? 肌の露出量? 背中に背負うショルダーバッグが高そうな革製だから? それもまたムカつく。


 ロイは穏やかそうなおじさん。白いシャツに灰色のセーター。そしてチノパン。地味オブザ地味。お父さんくらいの年齢に見える。

 額に巻いた黒いバンダナで、左目を隠している。格好つけとは思えないので、目の怪我とか、何か魔法の隠し球とか、そういうのだろう。

 ロイが今夜の見学の責任者、と言われた。

 

「キヨイ・スエナガです。今夜はよろしくお願いします」


 挨拶は基本のき。しっかりとお辞儀をした。好きになれなさそうな、ムカつくアンナにも、ちゃんと笑顔で挨拶。


「ねえ、見たわよ、あの記事。素晴らしい才能を持っていて、既に実地訓練なんて偉いわね。ロイさんは信頼の出来る人だから、安心して。私の前は危ないけど、背中側は安全よ。前方のものは蹴散らすから、後ろにいてね」


 笑顔のアンナに頭を撫でられてビックリ。彼女は私を抱きしめて、ルークを睨んだ。


「破壊魔神に近寄ってはダメ。ロイさんの隣か私の背後にいるのよ」

「おい、アンナ。喧嘩売ってるのか? キヨイの護衛は俺の仕事だ」

「貴方にそんな繊細な真似が出来るわけないじゃない」

「なんだと⁈」

「二人ともやめなさい。ルーク、護衛責任者は私だ。早く移動するぞ」


 はい、と二人は素直に口を閉じた。でも、睨み合っている。ロイがズボンのポケットから魔法紙を取り出した。丸形の魔法紙は、みるみる大きくなり、青白い光の絵が浮かび上がった。地図だ。


「目的の場所はここ。カラザの森。二十年前の連続婦女暴行殺人の現場だ」

「カラザの森って、あの皮剥リックの?」

「ひっ!」


 思わず、悲鳴が出た。


「か、皮剥、皮剥リックって誰ですか⁈」


 連続婦女暴行殺人ってことは、シリアルキラーだ。


「あっ、でも二十年前……ですもんね……」

「キヨイ。悪魔学の授業は、今どこまで?」


 ロイに問いかけられた。


「どこまで、ですか? 昨日の授業は悪魔と分類という項目です」


 主な悪魔と、その特徴と属性について、延々とダラダラ講義されている。悪魔学は暗記、とはフィオナ談。


「ルーク、いやアンナ、解説してやりなさい」

「はい、ロイさん。キヨイ、貴女自分で飛べたわよね? 移動しながら説明するわ」


 アンナは、シッシッとルークを手で追い払い、舌まで出してから飛び始めた。犬猿の仲?

 私と手を繋ぐと、アンナはトンッと跳ねた。一気に上昇。


「悪魔の成り立ちは授業の最初にしているわよね?」

「悪意の裂魂が集まって出来る集合体、です」

「その通り。授業を真面目に聞いているようね」


 褒められて、苦笑い。言葉の壁が分厚く、聞き取りと板書が中々難しくて、フィオナからの補習でなんとか補っている。それは黙っておこう。優等生と思われた方が得だ。


「快楽殺人現場には、その際の悦楽や凶暴性の強い思念が残ると言われているわ」


 心霊スポットみたいって事でよいのかな? ふむふむ、と頷く。


「そして漂う、殺された被害者の悲痛や無念に憎悪などの裂魂。そもそも、負の裂魂は引き合う。だから、悲惨な現場には、悪魔が誕生しやすいの」


 ほうほう、分かりやすい解説。


「それが今回はカラザの森で、何かの悪魔を退治するってこと?」

「こと、で、す、か! 生意気!」


 睨まれて頬を抓られた。痛い。


「まっ、大天才? なんだものね」


 怖い。私は少々不服だけど、謝った。確かに、アンナは目上の人。敬語は大事。クレイヤ達が気さくだから、礼節について忘れていた。反省。


「いえ、すみませんでした」

「素直ね。可愛いじゃない」

「あのっ! それで、今夜はどんな悪魔を退治するんです? 強いとか怖かったりします?」


 私が今まで見たことのある悪魔は、クレイヤ曰く、新人が担当する「ザコ」という超低級悪魔達と、リオがパッと祓った本当は怖くて強いらしいグイベルのみ。


「カラザの森は、定期的な討伐地で、成長前に狩るから、大物は滅多に出ないの。だけど、先日、新人の組がルサールカっていう中級悪魔を目撃した。今回はそのルサールカ討伐と調査の予定」

「ルサールカ……。あー、確か、男を中心に狙う……水属性で……。何でしたっけ?」

「そう。男性を中心に襲い、遺体は水辺に捨てる。睡眠の呪いをかけてくることが多い。ルサールカが放つ気泡や水に触れないように!」


 今のウインク、ハートがついていた気がする。というか、見えた? そういえば、彼女は確か「魅了のアンナ」だっけ? ハートは魔法?


「はい、ありがとうございます!」

「元気があって、よろしい! ルサールカに狙われやすいのは、先頭に立つルーク。怖いからとか、驚いたとかで、私とロイから離れないように」


 そう言うと、アンナは私と繋ぐ手を離した。彼女の手首と私の手首に、細い虹色の紐が絡まる。


「ニールよ。ある程度離れても、辿るから」


 魔法の縄はニール。覚えておこう。犬のリードみたいだけど、これは役に立ちそう。大人とはぐれて、悪魔と一人で対決とか、そんな展開は望まない。


「とっても心強いです! 一生懸命見学します!」


 またウインクが飛んできた。今度はさっきよりも、もっとハッキリとハートが見えた。真っ赤で、金平糖サイズ。


「へえ、珍しいなアンナ。そういう世話焼き」


 ルークが私の隣に飛んできた瞬間、アンナは嫌そうに顔を歪め、舌打ちした。


「話しかけてくるな」

「おい、なんでそんなにツンツンしてるんだよ」

「はあ? 自分の胸に聞いてみれば?」


 アンナがルークからプイッと顔を背けた。


「アンナ、ルーク、任務はチームワークだ」


 後ろから、ロイの咎める声が飛んできた。


「目的地に着いたら、仕事モードになりまーす」


 アンナは振り返り、ニッコリ、と笑った。ルークは腕を組んで、背面飛行をしながら「何したっけ?」と唸っている。


「既に調査隊が到着しているので、情報を貰ったら討伐準備だ。二人とも、久々にこの組での任務だ。頼むぞ」

「はい」

「はーい」


 ルークもアンナも、割とおざなりな返事。

 私達は、無言で空を進んだ。灯りの灯る建物が減っていき、徐々に森が見えてくる。その向こうには大きな山。川は見当たらない。ここが何処だか、サッパリ分からない。私、レストニアの地理も、早く覚えないといけないかも。

 この組……大丈夫なのかな? クレイヤ、ルーク、そして聖女リオの組み合わせは最強そうだったけど……ロイとアンナの実力は知らない。

 見学があるって知っていたら、ロイやアンナがどういう祓士か、誰かに聞いておいたのに。


 ☆


【カラザの森】


 森の手前の野原に到着。長方形の屋根のテントが設営されていて、人が多い。パッと見、二十人程度。ルカールサって、そんなに危険な悪魔? それなら帰りたい。

 ロイがアンナを連れて人だかりの中心へ移動。私はテントの外でルークとお留守番。


「ねえ、ルーク。ルカールサってそんなに危険?」

「いや、調査組は三つだった筈。何かあったっぽいな」

「あー、それなら帰れる?」


 そういうハプニングはノーセンキュー。予定された見学をして、スキルアップしたい。突然の苦難や危険を乗り越えて大成長! はお呼びでない。


「はあ? 帰れる訳ないだろう? あのなあ、自分がどれだけ期待されているか分からないのか? クレイヤの為に頑張るって嘘か?」

「嘘じゃないよ。でも、地味にコツコツ成長したいなあって」

「だから、極悪級な悪魔が現れても、俺が守ってやる。俺の強さは知っているだろう?」


 肩に腕を回され、乱暴な手つきで髪の毛をぐちゃぐちゃにされた。確かに、ルークは上級悪魔だというグイベルをフルボッコにしていた。


「ちょっと! 女子に何するの⁈ ルークが強いのを思い出したから、怖いの我慢して見学する」


 もがいて、ルークの腕から逃れる。簡単に抜け出せた。わざとだろう。


「ロイさんはベテラン。おまけに希有な転送術使い。アンナは幻術が得意で、ロイさんと同じく転送術も使えるから逃亡は十八番。何かあっても、俺が戦闘中にキヨイは逃亡だ」


 ニシシッと聞こえそうに、歯を見せて笑うと、ルークは私の肩を叩いた。それは……安心した。


「ルーク、任務変更だ。キヨイの見学は一応続行。危険と判断したら、彼女と私、もしくはアンナと避難させる」


 任務変更とは、ちょっと、嫌な予感。


「まあ、この様子だと何かあったんですよね? 新しい任務内容は?」

「調査班が発見した、新種と思われる推定中級悪魔の曝露とその補佐及び警護だ」


 ルークの問いかけに答えながら、ロイは私を見て微笑んだ。曝露とその補佐及び警護。曝露と……。


「曝露って私⁉︎」

「そうだ。グイベルの件を聞いている。必ず守るので、頼むぞ大天才留学生君」


 ロイが両手を私の肩に乗せて、期待の眼差しと満面の笑顔を見せた。

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