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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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29/63

二人の関係は秘密

 ティトュス街に呪疫が蔓延し、更には魔女と悪魔の襲撃した事件は、連日報道された。その中で、私についても記事になっている。


【天才留学生、偉大なる解呪士への道】


 私が大胆な解呪をした話と、クレイヤのインタビュー記事などから構成された特別記事である。


 ノートをバシンッと叩く音。私は目を見開き、瞬きを繰り返す。ここは……図書室か。何していたんだっけ? 目の前に、しかめっ面のフィオナがいる。


「起きて、キヨイ」

「フィオナ、私……寝てた?」

「寝ていたわね」


 冷めた目線のフィオナに、私は苦笑いを投げた。


「あはは、ほら、フィオナの声って子守唄みたいだから」

「希代の天才が落第したいの?」

「いやー、んー……」


 正直、卒業したいという気持ちはない。クレイヤの協力はしたいけど、恐ろしい悪魔や呪いと対決させられる人生は困る。私は背中を丸め、机に顎を乗せた。フィオナを見上げる。


「ねえ、フィオナって何で入学したの? もう仕事があるのに」


 惚れ薬のせいか、クレイヤ、クレイヤ、クレイヤ、だった私の脳みそは、薬の効果を消してもらったのでもうすっかり沈静化。

 寮で同室、面倒見の良いフィオナについて、ようやく興味を持てた。フィオナは私の問いかけに対して、少し目を細めた。


「叶えたい夢があるからよ」

「夢? 今の仕事は、薬士は夢じゃなかったの?」


 リオに聞いた話だけど、黒白結社に入社するのは、どの分野でも超難関らしい。そして、この国ではとても名誉なことでもあるという。

 その国立病院の薬士——黒白結社の薬士——よりも、黒白結社の祓士の方が良いってこと?


「ええ」

「祓士になるのが夢?」

「違うわ」

「違うの? だってここは祓士の養成学校……」


 目を伏せて視線を逸らすと、フィオナはトントンと指で机をつっついた。


「悪魔学、頭に叩き込まないと寝かせないわよ」


 教科書とノートを目の前に提示され、今度は私がそっぽを向いた。


「えええええ……徹夜で勉強は勘弁して……」

「違うわよ。2時間以内に終わらせて、私の実技練習に付き合うのよ」


 図書室の時計はもう21時を示している。


「うええええ? 練習? 練習なら夕方した……」

「劣等生は反復練習……」

「それは違うな。劣等生は永遠に劣等生だ。とっとと落第して、退学処分になれボナパルタ」


 この声はクレイヤ。体を起こし、振り返る。今日はあまり変な格好をしていないクレイヤが、不機嫌そうな表情で立っていた。


「落ちこぼれの貴方が、今や英雄。自ら実証しているじゃない」


 フィオナがクレイヤを睨みつけた。あれ、この二人って知り合い? 教師と生徒ってことではなくて、別の意味で。そういう雰囲気。


「俺は名門一家の血を引く。才能が眠っていただけだ」

「そう? それなら、私にもその眠れる才能があるかもね」


 やはり、二人は知人らしい。フィオナの猫のような目がますますつり上がった。一方、クレイヤは冷笑を浮かべている。フィオナへ冷めた目を向けていたけれど、急に笑顔を作り、私の方へ顔を向けた。


「キヨイ。付き合う相手は選べ。ってことで、任務だ。行くぞ」


 手を差し出されて、躊躇う。怖いところは嫌だし、フィオナが怒っているのも気になる。困惑していたら、クレイヤに腕を掴まれ、引っ張られ、立たされた。おまけに肩に担がれる。


「ちょっと、待って、クレイヤ! 人攫い!」

「人聞きが悪いことを言うなキヨイ。ルークを待たせている。落ちて怪我するから暴れるな」


 それは、嫌だ。私は大人しく力を抜いた。クレイヤが私を担いだまま歩き出す。フィオナは唇を噛んで、教科書やノートをしまい始めた。私達を追うつもりは無いらしい。

 図書室を出ると、クレイヤは私を下ろした。手を繋がれて、私を引きずるように歩き出す。


「ねえ、クレイヤとフィオナって知り合い?」

「生徒の名前は全員覚えている」


 予想と違う返答。


「そうじゃなくて、ほら、フィオナはさっき、昔のクレイヤを知っているような口振りだったじゃない?」

「母親同士が親友だった。そのエミリア・ボナパルタの娘は姉とかと遊んでいた。だから、まあ顔見知り」


 えらく不機嫌そうなので、思わず沈黙。歯切れの悪い回答。噂の魔女フレイヤとフィオナのお母さんが親友……。姉とかと遊んでいた?


「クレイヤとフィオナって同い年じゃなかった?」

「さあ、忘れた。彼女に興味無い」


 興味の無い相手に、先程みたいに突っかかる? 答えはノーだ。


「何、クレイヤの初恋の人とか? 興味無いって、めちゃくちゃ構ってたよね」

「はあああああ?」


 ずんずん歩いていたクレイヤが、勢い良く振り返った。益々、機嫌が悪くなったような表情。


「そうなんだ!」

「違う!」


 大きめの声が返ってくる。クレイヤは前を向き、足を動かし、先程よりも歩く速度を上げた。私が小走りになるくらいの速度。


「ねえねえ、今も好きってこと?」

「だから、違う!」


 ツンデレか。いや、ツンツンか。クレイヤの性格を一つ理解した。


「おい、だから違うって言っているだろう?」


 チラリ、と振り返ったクレイヤに睨まれる。次の瞬間、クレイヤは廊下の角を上手く曲がれず、壁に激突した。顔の側面をぶつける。


「っ痛!」


 壁にぶつけた所を抑えながら、クレイヤのはフラフラ歩き続けた。私は尚もひっぱられている。


「痛そう……。大丈夫? それに、すっごい動揺してるね」

「だから、違う。俺に恋愛とか、恋人とか、そういう暇はない。それに、こんな体だ。そもそも、あのボナパルタの娘は見合い予定だ」


 クレイヤはまた歩く速度を上げた。繋いでいる手に力が入れられる。


「へえ、そんな事まで知ってるって、やっぱり……」

「だから、違う。あんな女、大嫌いだ」


 これ、小学生男子が好きな人のことで揶揄われた時の返しじゃない? この反応に回答は、30歳近いのに、子供っぽ過ぎる気がする。


「ツンツンしてると、嫌われるよ」

「俺が嫌っているんだ。俺は力も無いのにしゃしゃり出ようとする人間は全員嫌いだ」

「ふーん、要は心配ってこと?」


 無言。もう反応しないらしい。沈黙は肯定、ということにしておこう。それで、クレイヤとフィオナと実際の関係性をルークかリオに聞いてみよう。

 廊下を進み、階段を降り、また廊下を歩き、そうして玄関ホールへ来ると、端っこのソファにルークが座っていた。クレイヤはまだ私から手を離さない。


「よっ、キヨイ! 逃げないとは偉いな!」


 手を挙げたルークに、私は首を横に振った。それから、クレイヤに握られている手を持ち上げる。


「捕まった」

「なら、今度は俺が捕まえるか!」


 あはは、と笑うとルークは私に左手を差し出してきた。クレイヤが私の手をルークに渡す。


「クレイヤは謹慎中なので、俺とちょっとした狩りだ」

「狩り⁈」

「目慣らしだってよ」


 さあ、行くぞとルークが歩き出す。私はまたしても引っ張られる。


「ルーク、分かってるな?」

「護衛も付くから大丈夫! お姫様はちゃんと守……姫ってガラじゃないな、キヨイは」

「それ、どういう意味!」

「そのまんまの意味だ。姫っていうのは生粋のお嬢様リオとか、本物の姫君プリンセス・ステラみたいな人をいう。ほら、行くぞ」


 ルークは閉じられている大きな玄関扉を片手で開いた。重そうなのに軽々と。流石、馬鹿力。風が吹き抜ける。

 外に出た途端、ルークは床を蹴った。あっという間に急上昇。今夜は快晴。雲一つ見当たらない。星がうんと綺麗。しかし、悲しいかな、こんな素敵な光景の先は、怖い所らしい。


「飛ぶなら飛ぶって言ってよ!」


 怒鳴った時、ルークにお姫様抱っこをされた。


「その必要なんてあったかい? お姫様」


 不器用なリオとは違う、華麗なウインクが飛んできた。


「気持ち悪いっ! キザ!」

「おい、和ませてやろうって思ったのに、何て言い草だ!」


 ケラケラ笑うルークに、何だか力が抜けた。


「噴水広場で護衛チームと合流する」

「狩りって悪魔……?」

「護衛に囲まれて、見てれば良いだけ。見学だけだ。別に怖いことはない。それに、俺の強さは知っているだろう?」

「うん……私、人が怪我するのを見るのも怖い……」


 思わず俯いてしまった。


「なら、お前の前で俺は怪我しないし、誰も怪我させない。約束だ」


 牙みたいな八重歯を見せて、大きく笑うルークは自信満々。……今のは、ちょっと格好良かった。


「ねえ、ルークって恋人はいる?」

「ん? 何だ、急に。一昨日振られたのを誰かに聞いたのか? 寂しいって、ぶん殴られた」


 有名人らしいし、見た目も悪くないし、普通に恋人とかいるのか。いや「いた」か。

 あっけらかんと笑うルークは、まるで傷ついていなさそう。ぶん殴られたって、強いルークを殴るなんて、怖いもの知らず?


「クレイヤは?」

「そっちが本題か。俺への質問は全く興味無さそうだったもんな。なあ、キヨイ。クレイヤが気になるって、惚れ薬の効果がまだ残っているのか?」

「ううん全然。あのね……」


 私は先程のクレイヤとフィオナのやり取りを話した。


「フィオナ? 知らない名だな。ふーん、あのクレイヤが……」

「子供みたいだよね? 止めた方が良いってルークから言ったげて」

「時間があったらな」

「ねえ」

「遅刻気味だから、速く飛ぶ。舌を噛むから黙ってろよ」


 珍しく神妙な顔になると、ルークは唇を結んだ。そのまま、ルークは満天の星空を無言のまま飛び、綺麗な夜空で、あまり楽しく無い時間を過ごした。

 

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