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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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キヨイとクレイヤ 5

【黒白結社 軽症者用医務室】


 リリーが頭痛薬だという、謎の青い液体をくれた。もう、頭は痛くないけど、味が気になるので飲んでみた。爽やかな、ハーブティーのような味。美味しい。これで薬なのか。不思議。


 眠り続けるクレイヤを、私はぼんやり眺めている。このまま、祓士学校に通っていると、怖い仕事に就くことになる。私は後方支援に立つような人材らしいけど、私を守る為に人が傷つくのを見ないといけない可能性大。


 日本の大学に行っていない私は、高卒扱い。


 就職、結婚、どうするの⁈ 惚れ薬を飲まされ、無理矢理留学させられて……。いや、能天気で漫画や映画が好きな私は、惚れ薬を飲まなくても魔法の世界に来た気がする。


 それに、私は命の恩人を見捨てられる? ノーだ。その答えはノー。イエスって酷いと思う。惚れ薬を使ったクレイヤも酷いけど……。


 クレイヤは色々な人に慕われているみたいだし、それに英雄って呼ばれている。そういう人に背中を向ける気にはなれない。


「地位も名誉に金、何でも手に入るぞ……か……。怖くないなら良いんだけど……」


 ピピピンッと思いついた。


——結社の建物内で仕事をすることが大半だろう


 クレイヤはそう言っていた。建物から出ません、宣言をすれば良い。目指すのは研究者の道だ。この国にいる限りは地位、名誉、お金に困らなそう。黒白結社は、大きな組織みたいだから、人と出会いそう。恋愛や結婚も出来る気がする。


 我ながら、前向きな自分が誇らしい。楽観的なのは私の長所である。


 一通りクレイヤの治療は終わっているのか、リリーは戻って来ない。代わりに現れたのは、ブレイドだった。丸椅子を手に持っている。


「魔力枯渇が主症状だから、目が覚めたら声を掛けてくれって」


「あ、うん……」


 ブレイドは私の隣に椅子を置き、腰を下ろした。それにしても、こうして近くでマジマジと見ると、本当にイケメン。っていうか、この人は何歳?


 整い過ぎていて、隣に並びたくないかも。まあ、今はドキドキしない。クレイヤが心配。


「あのー……。クレイヤと魔女って親子だって聞いたんだけど……。魔女ってそもそもどういう存在? 指名手配ってことは、犯罪者なんだよね……」


 私はおずおずとブレイドを見上げた。チラリと見ると、クレイヤは寝ながら泣いている。


「クレイヤさんから聞いていないなら、俺からはあまり……」


「直接本人に聞けってこと? 聞き辛いよ」


「キヨイ嬢、リオかルークさんに聞くと良い」


 ブレイドはしかめっ面になった。非常に不機嫌そう。私は名前を聞いて、リオとルークは、まだあの怖い街にいる事を思い出した。


「あのー……。そのリオとルークはそろそろ戻ってくる?」


「ああ、戻ってくる。俺が連れ戻すからな」


 返事をしたのは、ブレイドではなくてクレイヤだった。目を覚ましたらしい。クレイヤが辛そうに体を起こす。


「クレイヤさん、入院です。起きないで下さい」


 ブレイドがクレイヤの体を抑えつけた。


「離せブレイド」


 クレイヤはブレイドを軽く突き飛ばし、よろめきながらベッドから降りた。シャーッと勢いよくカーテンを開けて、歩きだす。


「魔力枯渇回復薬をください」


 そう言いながら、クレイヤは一番近くにいた白衣のおじさんの肩を掴んだ。


「クレイヤ君。知っての通り、緊急事態の時のみだ。君は入院。検査数値が悪かった」


「聖人リオの護衛に行きます。それでも?」


「え? リ、リオ様の護衛?」


「最前線にいます。人手が必要です。魔力が枯渇したので一旦戻ってきただけなんです」


「お、お、おかしいと思ったんだ! 君程の祓士が魔力枯渇だなんて……。リオ様が前線って何事なんです?」


「今のところ機密です」


 医者だろうおじさんが、真っ青になった。慌てた様子で、棚に駆け寄っていく。周りの白衣の人達もバタバタし出した。青っぽい金髪の割と若い男性が、おじさんに鍵を渡す。医者のおじさんが棚の鍵を開け、中から赤い瓶を出した。


 医者があれこれ紙を出して、次々と何か記入していく。クレイヤもサインらしきものをしている。そんな危険な薬なの?


 検査? クレイヤって検査したの? いつ? おろおろしていて、ちゃんと見てなかった。


 クレイヤは椅子に座らされた。医者が見守る中、薬を飲み干す。医者は即座にクレイヤの診察を始めた。目を見て、指を目の前に立てて、脈を確認して、聴診に……あの薬、普通の飲み薬じゃないらしい。


 医者が「良いです」と告げると、クレイヤは立ち上がった。ブレイドが駆け寄っていく。


「ブレイド、リオはこれ幸いにと本気だった。頑なに帰ってこなそう。そうなると、聖騎士団と魔女討伐部隊が合同で出征する筈。俺も帯同する」


「俺も行きます。シュナイダーさんが先に戻って、ガーベラさんは協会総本部へ報告に行っています」


「いや、ブレイド。お前はまた狙われる。来るな。あとキヨイを頼みたい。寮には返すなよ。市内警備が薄くなるから、結社が一番安全だ」


 嫌です。残れ。クレイヤとブレイドは押し問答を始めた。え? ブレイドって魔女に狙われているの?


「クレイヤ!」


 この声、リオ! 医務室の入り口に、リオが立っている。隣には聖騎士のゴリアテ。ルークは見当たらない。


「ごめんなさい。連れ戻された。これでしばらく謹慎か行動制限だわ。好機だと思ったのに……。あら、貴方、何で立てるの⁈ 中程度の魔力枯渇だったのに!」


 クレイヤに近寄ると、リオは眉を釣り上げて、クレイヤを睨んだ。クレイヤがリオを睨み返す。けれども、クレイヤは無言。


「貴方には魔女と接触禁止令が出ているわ。 貴方の気持ちを汲んで、譲歩したのに自制してくれなかった。更になのね」


 冷めた視線をクレイヤに投げると、リオはブレイドを見た。クレイヤは苦い物を食べたような表情をしている。


「ブレイド! 襲われたのは仕方ないです。しかし、見張りなのに何故、クレイヤがまた戻る準備をするのを止めなかったの!」


 温厚なリオが、大声を出して怒ったことに驚く。腰に手を当てて仁王立ちは、中々迫力がある。


「大変、すみませんでした」


 ブレイドは即座に謝り、萎れた。捨てられた犬みたいな瞳している。言い訳一つしないらしい。この二人の関係性に、私は今更興味を持った。他の聖騎士と扱いが違うし、よく考えたら二人はいつも一緒にいる。惚れ薬が切れると、色々と気になる事だらけ。


 リオは再度クレイヤの方へ体の向きを戻した。


「クレイヤ・デーヴァ。命令違反について全て報告します。この医務室での脅迫行為もです」


「脅迫なんてしていない」


 不満そうなクレイヤが、リオに手を伸ばした。ブレイドがリオとクレイヤの間に入る。リオは医務室中を見渡した。


「なら、虚偽による詐欺行為ということですね。どちらも違うのなら、この部署の職員を全員査問委員会にかけないとなりません。薬品管理についての調査もです」


 ニコリ、とリオが笑う。医務室中が静まり返った。


「クレイヤ、貴方が何を言って、劇薬使用許可を得たのか予想くらいつきます。貴方も、返事次第で私が何をするか分かりますね?」


 笑顔なのに、リオの雰囲気は怖い。強い威圧感。クレイヤは悔しそうな表情で、すみませんでした、という小さな声を出した。


「絶対安静および謹慎を命じます。ブレイド、任せました。私の信頼を裏切らないで」


 あっと思ったら、クレイヤの体が白っぽい、キラキラ虹色に光る紐でグルグル巻き。太腿から鼻の下まで紐が巻きついたクレイヤは、まるでミノムシ。魔法の紐?


「当然です。何もかもお任せ下さい」


 そう言うと、ブレイドは紐で巻かれたクレイヤの体を担ぎあげた。ベッドの方へ運んでいく。


「キヨイ、行くわよ」


 へ? 私? リオに呼ばれたので行くしかない。友達気分だったけど、リオはとても偉い人だと聞いている。


 私が隣に並ぶと、リオは私の腰に手を回して、歩き出した。リオの横顔は曇って見える。私とリオ、それからゴリアテは医務室を後にした。

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