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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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クレイヤと魔女 2

 風で広がる銀色にも見える白髪。純白のワンピースに、同じく白い帽子。そして、帽子を飾る血のように赤いリボン。


 憂いを帯びた瞳は虚で何も映っていないよう。


 まだ、かなり遠いがクレイヤにはフレイヤの無表情が見える。この世の何にも興味が無いという様子の、感情のない顔。


「クレイヤ、捕縛第1よ。陽動するから氷牢で捕らえて」


 飛び出そうとした時、リオの魔法紙に取り囲まれた。無数の白い蝶に足を固められて動けない。


「生死問わずだぜ、リオ」


「貴方のお母様よ。家族を目の前で失って、心を壊してしまった。彼女に必要なのは……」


「同じ条件の俺は英雄だけどな! 離せリオ。さもないと……そういう顔をするな。同情なんて真っ平だ」


 本音を抉り出すような視線を止めて欲しい。リオの異色の瞳が悲しみに揺れながらクレイヤを見ている。


「ええ、そうね。クレイヤ、貴方は立派だわ。だから、今以上の悲しみを背負う必要は無いのよ」


「説教は止め……」


 首を横に振ったリオが、労わるように微笑んだ。同情の目なんて真っ平御免。リオの魔法紙がクレイヤの体を地上波と引っ張って行く。


「おい、止めろ!」


「友人として、上司として、そういう目をしている貴方を自由にさせる訳にはいかないわ。ブレイド、クレイヤを見張っておいて」


 ブレイド? いつ戻ってきやがった。このリオバカ男め。ブレイドは渋々という様子で、魔縄(ニール)を作った。クレイヤの体を縛っていく。


「かしこまりました」


「ブレイド、お前はリオの護衛が最優先だろう?」


「いえ、リオの命令第1主義です。俺より強くて頼り甲斐のあるゴリアテさんもいますし……」


 悔しい。腹が立つという表情でゴリアテを見たブレイド。しかし、クレイヤを縛った魔縄(ニール)を引いて下へと移動し始めた。

 

「クレイヤ無しで氷牢は骨が折れるけど……ゴリアテ、背中は任せます」


 魔弓(フェイフノト)が再びリオの手の中に現れる。凛々しく、険しい顔で前方を見据えるリオ。遠ざかっていく。


 魔法が苦手な癖に、魔縄(ニール)使いは妙に上手いブレイドが小憎たらしい。踠いても無駄。


 いつも、この世は思い通りにならないことばかりだ。


 地面まで引っ張っていかれた。地面の上にそっと寝かされる。


「おい、せめて座らせろ」


「座れるような緩んだ縄だと、ほどかれるかもしれないので却下します」


 横たわるクレイヤの隣に、ブレイドが腰を下ろした。


「愛しのお姫様が怪我したらどうするんだ?」


「ゴリアテさんに、ルークさん、大人数の聖騎士と祓士がいるので俺はリオの願いを叶えるだけです」


 またも、悔しそうな表情をしたブレイド。


「リオの願い? そんな顔するなら戻れよ。で、強い俺も必要だろう?」


「友人に母親殺しをさせたくない。捕縛、調査、自白、必要なら拷問。それで良いではないですか。悪魔憑きの可能性も高いですし」


 淡々とした声色。遠い目のブレイドの発言に、ピクリと頬が痙攣した。口内が乾く。手にじんわりと汗が滲んだ。


「悪魔憑きなんかじゃない。あの女は狂っている。死なせてやるのが本人や世の為だ」


 ゆっくりと首を動かしてクレイヤを見下ろすと、ブレイドは眉根を寄せた。


「隠し事があるなら、せめてリオには話しをして下さい」


「話してある。上層部も知っている。あの女は俺を悪魔にして、その見返りに家族を蘇らせるつもりだ。特に夫。あの女は悪魔憑きではなく、自己満足の為に人としての良心を捨てただけだ」


 目を瞑ると、フレイヤに首を絞められた事を思い出した。


——大丈夫よ。貴方の代わりはまた産むから……。1番要らない子だったもの……


 くそっ。最悪。忘れようと、封じようとしている過去が勝手に出てくる。


「死者蘇生……? そんなこと出来るわけ……。その話、俺にして良かったんですか?」


「リオがお前に話しをしていない方が驚き」


 ぐしゃりと髪を掻くと、ブレイドはクレイヤから目を背けた。


「驚きって、今のはワザとですね。聞いたこと、黒白結社やリオに報告します。それで、秘密を暴露して俺に何を聞いて欲しいんです?」


 何を?


 同情なんて真っ平。しかし、ここのところ焦燥感や恐怖が増している。つい、零してしまっただけだ。リオやルークよりも、背負っているものが少ない後輩ブレイドへついうっかり吐露。これは、マズイ。クレイヤは奥歯を噛んだ。


 ブレイドが問いかけた際に、左前方からカサリという音がした。何かが木の葉を踏んだ音。木陰からゆらりと白い影が現れる。


 ブレイドが立ち上がり、クレイヤの前に躍り出た。


「——カナシイ——……」


 弱々しく儚いこの声は——……。


 魔女。


 純白のロングドレスが目の前でフワリと広がった。魔女の両腕が地面と水平に伸びる。


「ブレイド! 魔縄(ニール)をほどけ!」


 叫んだ瞬間、爆炎の襲撃。ほぼ同時に魔縄(ニール)から解放された。


 杖錫杖を振り上げ、氷の壁を作る。熱風が両脇を通り抜けた。氷壁の向こうに見える、虚ろな瞳の魔女。クレイヤが魔女に飛びかかろうとしたら、ブレイドがクレイヤを担いで、魔女と反対方向へと走り出した。


「防御は頼みます!」


「悪魔を引き連れてきたり、偽物で敵を集めたり、えらく本気だな!」


 飛んでくる火の玉を、氷壁で受ける。


「偽物⁈ こっちが本物ですか⁈」


「さあな! 何を考えているか是非教えて貰いたいものだ!」


 無表情で、まるで引っ張られるようにこちらへ向かってくる魔女。いくつもの火の玉が飛んでくるので、隙を見せたら丸焼けにされそう。


 しかし妙。まるで、手加減されているような攻撃だ。


 魔女の目的は「クレイヤに嘆きの心臓を食らわせること」である。こんな風に、クレイヤを殺しにきたことはない。


 クレイヤの前に現れる時は、必ず生贄そのものがいるか生贄の心臓を手にしている。


 魔女が使うのは、巨大な魔力を有する者。ブレイドでは役不足。


 この魔女が本物で、ブレイドが狙いなら——……。


「……全力で逃げろブレイド! あの女! リオ狙いかもしれない! リオと合流して結社に帰すぞ!」


「リオ狙い⁈」


 全速力で走るブレイドが叫ぶ。クレイヤは向かってくる魔女を無数の氷柱針(ヨクル)で攻撃した。魔女の周りに結界があるように、氷柱針(ヨクル)は当たる前に次々と蒸発。


 反撃というように、火の玉が3つ飛んでくる。やはり魔女の実力からして加減しているとしか思えない。


「悪趣味女め。騎士(ナイト)お姫様(プリンセス)の前で殺したいってか!」


 再度、氷柱針(ヨクル)で魔女を襲撃。氷柱の太さを細くして、代わりに長さと数を増やした。ブレイドの肩の上に担がれていて、集中し難い。


 魔女の体に触れると思った氷柱針(ヨクル)は、やはり魔女の体に触れる前に消滅した。同時に熱風に襲われる。


「ブレイド! 俺を下ろせ!」


「リオがクレイヤさんと母上を争わせたくないと!」


「こんなんじゃ立ち回れない! 共倒れする気か!」


 ブレイドの背中を軽く殴った時、周囲に火柱が上がった。


 柱と柱を炎の壁が取り囲む。火は落葉に燃え移り、枝ばかりの木にも発火。肌が熱で痛い。何羽もの炎烏(ヴェスタ)が飛び交い、炎の壁が蛇のようにうねる。


 これだけ火を自在に操る魔術師は、今のこの国では魔女くらい。


 ブレイドが諦めたというようにクレイヤを地面に下ろした。ブレイドが抜剣し、クレイヤを庇うように前へと出た。逆だ逆。クレイヤは杖錫杖を槍にしてブレイドの横に並んだ。


「私のハート、見イつけた」


 虚無の瞳でほぼ無表情なのに、魔女は小さく唇だけ笑った。心底嬉しいというような甘い声。


 どう見ても狂っている母親から、クレイヤは目を背けたかった。



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