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華麗なる幻界デビュー

 末永(すえなが) (キヨイ)、17歳。身長は160cm。元女子高生。いや現役女子高生?


 生まれは日本。ただいま魔法の国みたいな世界、幻界(まぼろしかい)に留学中。学生だからやっぱり女子高生か。でも高校ではないから、元女子高生?いや女子校生(・・)にすれば問題なし!


 留学の理由は三つ。


 1.天才的な才能があるから


 「呪いを解く特別な才能」それで百年振りの留学生に選ばれた。魔法事件に巻き込まれて発覚したらしい。事故処理で記憶を一回消されたから覚えてない。


 2.命の恩人に一目惚れ


 記憶を消されたのに覚えてるって、運命的!颯爽(さっそう)と現れ、助けてくれた格好良い彼の笑顔だけは覚えてる!


 3.好きな人と公私共にパートナーになりたい


 好きな人、クレイヤは生と死の狭間にある幻界(まぼろしかい)で呪いを解いたり、大暴れする悪魔を退治する祓士(はらいし)という職業らしい。


 つまり1+2=3ってこと。単純明快な方程式!


 命の恩人、そして好きな人に才能を見つけられ、「パートナーになって欲しい」と言われたら「イエス」以外になんて言う?イエスだ。私の留学方程式にノーは存在しない。1+2=3=「イエス」でしょう。


 魔法も恋も、全力で頑張ります!


***入学式***


 魔法の国、生と死の狭間にあるという幻界(まぼろしかい)の学校。そう聞いた時に真っ先に思い浮かんだのは、有名小説。額に傷がある男の子の話。そんな魔法学校を想像してた。


 レストニア国立祓士(はらいし)学校


 地味で、何にも起こらない、普通の建物だった。これはつまらない。しかし煉瓦(れんが)作りで、ランプが並ぶ廊下は異世界感たっぷり。それに西洋人系の顔立ちの生徒たち。ちらほら混じる、私と同じアジア系の子。別の世界にきたってヒシヒシ感じる。


 行ったことないけれど、海外っぽい。でも生徒の服が映画とかで知る、中世時代のヨーロッパ様。そこがこの国は単なる海外とは別、というのを伝えてくる。ただ街中同様、現代洋服って感じの子も結構いた。


 クレイヤと並んで廊下を歩いていると、大注目だった。


「本当だったんだ。あのクレイヤ・デーヴァが講師になったって」


「隣の子が噂の留学生?」


 ヒソヒソ声だけど、丸聞こえ。どうせ注目されると思っていたけど、7:3くらいでクレイヤの方が目立っている。のんべんだらりん、な私でもかなり緊張しているので助かった。


「クレイヤ様よ!」


「きゃー!」


 時折巻き起こる、黄色い声がちょっとうるさい。クレイヤが愉快そうにウインクして女子を(あお)るせいだ。女子達に睨まれるけど、隣を陣取る私はちょっと優越感。それにしても、こんな有名人だったとは。クレイヤって何者?


「俺、大ファンなんだよ。今年入学出来て本当に良かった!」


「最前線の祓士(はらいし)が講師なんて前代未聞だよな⁈」


「噂だとあの……」


 もう一人有名人が講師になったらしいが、ガヤガヤし過ぎて名前が聞き取れなかった。長い廊下を進み、おそらく建物の中心部に当たる場所まで来た。大きな広間。クレイヤが「講堂」だと教えてくれた。


 空から見た時、十字の建物をした学校の中央は円形の塔のようだった。


 その時は見えなかったが、天井は綺麗なステンドグラス。中央には膝をついて、祈りを捧げるような赤い髪の女性の絵になっている。女性の足元を囲う白い花。背景には白い花びらと七色の光が舞っている。


 講堂全体が教会のような、厳かさ。神聖な空間だと感じる。


「キヲイは講堂の壁側で待機。つまり、ここ。俺に名前を呼ばれたら演台に上がるように」


 入口脇にキヨイを残して、クレイヤは前方の方へ移動してしまった。それから、クレイヤは白いローブを身につけた老人と何やら話し始めた。人見知りはしない方だが、ポツリと一人は寂し過ぎる。手にも汗をかいていて、胸がバクバクしているから心細い。


 リン


 小さく、よく澄んだ鈴の音が聞こえた気がして私は音の方向に顔を向けた。人が大勢並び終わった講堂、だから最後の一人かもしれない。大人しそうな女の子が入口に立っている。大きいが質素な銀色の首飾り、そして袖ぐり豊かな真っ黒なロングワンピース。服は地味だが、彼女だけ浮かび上がるような不思議な雰囲気。


 肌が雪のように真っ白いからだろう。少し厚くて、小さな唇に大きな垂れ目。瞳が虹色っぽく見える。


 ボブヘアーの赤い髪のうち、左側の一部だけが腰まで長い三つ編み。地味そうな子なのに、この国って結構奇抜?というか異世界みたいなものだから、センスが違うのか。


 彼女はキョロキョロしながら、困ったように胸に手を添えている。整列している生徒達は、ヒソヒソ彼女を見つめているだけ。不安気なのが、今の私と同じようでいたたまれない。私は彼女の側に移動した。案内出来るとは思わないけど、彼女の代わりに誰かに声を掛けることくらい出来る。


「大丈夫?」


 赤い髪の女の子は驚いたように目を丸め、それからはにかんだ。花が咲く笑顔とはこのことかも。可愛い。近くで見ると、目の色は虹色ではなく普通だった。ただし、右目が深い青で左目が深い緑。魔法の世界にはやっぱりいるのか異色瞳(オッドアイ)


「ありがとう。人が多くて(はぐ)れてしまって。私、いつも人任せで右も左も分からなくて」


 リン。また鈴の音。彼女の声だったのか。キョロキョロした後に、彼女はまた私を見つめた。そして、ワンピースの裾を両手で摘んで軽く会釈。優雅、というのはこのことか。


「名乗らずごめんなさい。(わたくし)はリオ……」


 バリーン!


 突然、天井のステンドグラスが割れた。キヲイは体を(すく)めた。悲鳴が響く。


 割れた天井から、コウモリのような羽ばたく黒い影。それから火の玉みたいな黒い煙が次々と入ってきた。リオが私の手を掴んだ。震えている。


 何が何だか分からないけど逃げないと!


 薄い透明な膜のようなものが天井すぐ下に現れていた。その膜で黒い物体は講堂に入ってこれない。


「よお、キヨイ。俺と華々しいデビューだ」


 いつの間にか隣にクレイヤが立っていた。そしていきなり片腕で両足を抱えられた。反対の腕にリオも。どちらかというと細いのに、女子二人を持ち上げるとは怪力?ふわりと体が浮かんだ。


「キヲイの世界で言う、魔法だ魔法。キヲイもすぐ覚える」


 全部見透かしている、そんな黄金の瞳に胸がドキリとした。クレイヤは演台に私とリオを下ろし、右腕を回した。頭上に大きな杖が現れ、私の前に縦に下りてくる。悲鳴は止まり、講堂が静まり返っていた。私は大注目されている。


杖錫杖(つえしゃくじょう)だ、握って目をつぶる」


 言われている意味が分からず、ポカンとしていると、クレイヤが私の肩を抱いた。


「握って目をつぶる」


 とりあえず、言われた通りにした。杖を使うのか、魔法っぽい。で、私、これから何するの?


「深呼吸」


 深呼吸。


「隣に耳を傾ける」


 隣?人のざわめき。


「深呼吸して隣に耳を傾けるんだ。何が見える?」


 何って何も。いや、白?(まぶた)の裏はさっきまで黒かった。今は白。違う。花だ。花畑。中央が七色の真っ白い花。


「花?」


「それを見ながら、大きく杖錫杖(つえしゃくじょう)を振れ!堂々と目を開けろ!」


 命の恩人がいるし、変な膜で講堂も守られている。言われた通りに、力一杯、大きく杖を横に振った。


 目を開き、足を広げて立つ。体が自然と震えていたが、これなら堂々と見える?


 列の乱れた生徒達の頭上に、虹色の粉が舞った。光るように現れた、白い蝶々。


 ひらひら


 ひらひら


 そしてキラキラ光る


 幻想的な世界。それが自分の力だということに、鳥肌が立った。


「見ての通りだ!天才は天才を作る!今日から講師になったクレイヤ・デーヴァだ!よろしく諸君!未来を守るのは君達だ!天才留学生キヨイ・スエナガと共に学び、大いに励んで欲しい!」


 クレイヤが杖錫杖(つえしゃくじょう)を、高く掲げた。爽やかな満面の笑顔に、ポーッと見惚れた。


「落ちこぼれは退学させるけどな」


 聞こえないくらいの小さな声に、喉の奥がヒュッとなった。クレイヤって腹黒系?呆気にとられていると、突然リオが歌い出した。


 全身の毛が逆立つような、圧倒的な美声。こんな声を、歌を聴いたことがない。


 蝶と七色の光が太陽に向かって伸びていった。光の柱のような道。(きら)めきが遠ざかっていった。吹き抜けになった天井から、優しい風が舞い込む。温かな日差しが、冷えたような講堂を包んだ。


 嬉しそうに、クレイヤに微笑みかけたリオ。そして満足そうな笑顔をリオに向けたクレイヤ。


 女の勘がピピピピピン!っと冴え渡った。リオはもう一人の弟子。そして恋の好敵手(ライバル)に違いない!


「私キヨイ!よろしくリオ!絶対負けないから!」


 翌日、握手を交わした私とリオはレストニア国の新聞の一面記事を飾った。



◆◆◆入学式の翌日◆◆◆


 早朝、クレイヤは部屋の寝台(ベッド)に腰掛けた。新聞記事の一面に、思わず吹き出した。


【100年振りの現界(げんかい)からの留学生キヨイ・スエナガ。特別講師に就任した特等祓士(はらいし)聖リオ・リザに負けないと大宣言】


 好戦的な表情をしたキヨイと、何故か心底嬉しそうなリオの握手写真がデカデカと載っている。


「生徒が講師にってやる気満々だな。挨拶してたようだが、リオのこと知らないのか?それに分野も違うんだけどな。まあいいか、張り切っているのは助かるか」


 コーヒーを(すす)ると、あまり味がしなかった。味覚も少しやられてきたらしい。裏面記事は一昨日(おととい)隣街で起こった悪魔襲撃事件についてだった。報道許可が下りたのか。


 燃え上がる街に、無表情の白髪女性。新聞の間に今回も手配書が挟まれていて、クレイヤの足元にヒラリと落ちた。


【特定指名手配 フレイヤ・()()()()生死問わず】


「ついに生死問わずか……」


 また一口コーヒーを飲むと、今度は味がした。クレイヤはホッと胸を撫で下ろした後に、手配書をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に突っ込んだ。それから、やはりと手配書をゴミ箱から拾う。手配書の(しわ)を手で伸ばして、しばらくぼんやりと眺めた。

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