キヨイとクレイヤ3
私はルークの耳を疑って放心した。今、何て言った?
「悪魔になる……? こ、ころ……」
「俺は詳しく知らねえけど、そうなんだろう? 」
ルークに問いかけられたクレイヤは肩を竦めただけだった。
「お前は極秘話をあけっぴろげもなく……」
「だって誠意を込めて頼むなら、嘘なんてついてもさ。よく分かんないけど、こいつは実の母親にとんでもない呪いをかけられて、ヤバイって話。呪われた心臓を食べさせられ続けると極悪級の悪魔になる呪い。だったっけ?」
あっけらかんとしているルーク。眉間に皺を作って、渋い顔になったクレイヤ。神妙な面持ちのリオ。ルークがチラッとクレイヤを見ると、クレイヤが口を開いた。
「古い時代の高度な呪いだから謎に包まれている。呪われた心臓を食わされて、かつてこの国と悪魔を大戦争させた覇魔になる可能性があるらしい」
髪を掻きながら、クレイヤが俯いた。かなり小さい声で辛そうな響き。
「まっ! クレイヤは自己防衛の為にここまで強くなったし、呪いを解けそうな天才的な弟子も出来た。未来は明るいってやつだ。良かった、良かった。腹減ったし、何か食いに行かね? キヨイ、そのアピの実は食べておけ。魔力枯渇を治す貴重な果物。高かったんだぞ」
あはは、と歯を見せて笑うとルークはクレイヤの背中をバシバシ叩いた。
「いやあ、良かったなクレイヤ。無理矢理留学させたって罪悪感で潰されそうだったもんなお前。あー、許せない? キヨイ?」
問いかけに私は口を閉ざした。はっきり言って、状況が飲み込めない。
とりあえず、手に握るアピの実という緑色で楕円形の果物を齧った。
「何これ、美味しい! 甘い! 梨に似ているけど、もっと甘くて瑞々しい!」
「だろ! 味わって食え。俺達3人はお前を甘やかしてやる。特にクレイヤだ。自国に帰るより贅沢三昧。危険な仕事も安心安全。知っての通り俺とクレイヤはかなり強い」
うんうん、と私は首を縦に振った。学校は楽しいし、私はこの国だと超天才的でチヤホヤされる。友達や師も出来た。帰る理由なんてない。クレイヤも助けてあげたい。
惚れ薬の件は謝ってくれたし、解毒剤を使ったということは良心の呵責に潰されたってこと。
「記憶が曖昧っていうか、ぐちゃぐちゃだし、よく分かんないから終わったことは良いよ。私、怖いのと痛いのは嫌だからよろしく。あー、しかも私には多分クレイヤの呪いは解けないみたいだよ。それこそぐちゃぐちゃだもん」
ポカンと目を丸めたクレイヤ。私、何か変なこと言った?
「あー、キヨイ? 終わったことは良いって……」
「うん。というか、よく分からないし。何度も言うけど、怖いのと痛いのは嫌だからね。それにしても、惚れ薬って本当にあるんだね。好き! 結婚して! って感じだったのに、今はうわあオジさんって気分。私、爬虫類系の顔の人タイプじゃないし」
益々目を丸めたクレイヤ。ゲラゲラ大笑いしだしたルーク。ブレイドが「ぷっ」と噴き出した。で、リオはクレイヤと似た驚き顔。
「お前、おじさんだって!! タイプじゃない! あははははは!」
ルークら笑いながら、クレイヤの背中をバシバシ叩いた。
「キヨイ、すまなかった」
大笑いしているルークを無視して、クレイヤは私に会釈をした。
「極悪級の悪魔からも、俺の母親からも必ず守る。それは約束する。改めて、弟子としてよろしくお願いします」
私はクレイヤに差し出された握手の要求に応えた。
「私の権限が及ぶことなら何でも支援する。困ったら何でも頼ってね」
私とクレイヤの手の上に、リオが手を重ねた。
「魔女に狙われているらしいし、このルークもキヨイとリオとついでにクレイヤも守ってやろう。俺はそのうち特等祓士になって大英雄と呼ばれる男だからな!」
待って。今、何て言った? 魔女に狙われている? 魔女ってクレイヤのお母さんだよね。
「魔女に狙われてるって何で⁈」
「俺とエルヴィー様で色々ともう一度説明する。キヨイの家族が留学許可したのは、身の安全の保証があるからだ。キヨイの国にいたら、また襲われたり呪われて殺される」
ええええええ!
「超天才って……得だと思ったのにそんな……。あれだ。こういうのって、お約束的なやつ……」
人生良いことだらけなんて、甘かった。主人公的な立ち位置になると、不幸にピンチや危険が降りかかってくるってやつ……。
っていうか、私って平凡女子だったのに何てこと。
「えー……私、これから何を楽しみにして頑張れば良いの? 惚れ薬の効果があった時の方が良かったよ!」
「何だって? あー、そうだな。黒白結社の祓士で、キヨイの才能なら金も名誉も男も何もかも手に入るぞ」
困り顔のクレイヤ。リオはポカンとしている。ルークは笑いっぱなし。ブレイドは鉄仮面みたいな無表情。この男、私にちっとも興味無さそう。
「なんか、想像がつかなくてワクワクしない……。こう、目的とか目標というか……」
やる気スイッチ行方不明。クレイヤの呪いは解いてあげたいけど、道のりは遠そう。今は見えないけど、クレイヤの呪いは複雑怪奇でサッパリ訳が分からなかった。
「腹減ったから食べながら考えようぜキヨイ」
ルークが私の背中を押した。
「本屋さん、まだやっているかしら。欲しいものとか、行きたい場所とか探しましょう」
それだ! 私はこの魔法の国について知らな過ぎる。娯楽施設とか、旅行先なんかの楽しい場所があるはず。私はリオに同意した。
飯! とゴネるルークを無視して私達は本屋に向かうことにした。
クレイヤとは微妙な距離感だけと、そのうちまた戻ると思う。そんな気がする。




