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大天才キヨイと白と黒の悪魔  作者: 彩ぺん


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13/63

間も無く分かる私と貴方の関係

【教室】


 毎日恒例、フィオナの放課後補講。魔法が得意な私、マール、ビルの三人は座学落ちこぼれ。マールとビルの二人が入学試験に二度不合格したのはこのせい。


 そういえば私、こんなに座学が悲惨な状態なのに入学出来た。手配された講師と朝から晩まで語学を勉強させられ、お金とか生活とかそういう文化についてある程度教わったけど、魔法関連は入学してから学んでいる。そもそも入学試験を受けてない。はて? 私はそこまで特別扱い?


 聖人と国の英雄二人、豪華な師が三人もいるから、そうなのだろう。祓士(はらいし)の師弟制度自体、大変厳しい基準があって、弟子になるような人は大抵この学校を一年で卒業するという。つまり、私もそうなるらしい。学校が楽しいから、三年間通いたいと言ったら、クレイヤは「頼めば可能だから希望を伝えておく」と返事をくれた。ふむ、誰に頼むのだろう? 校長? あの禿げた丸いおじさん?


「呆れた。貴女って本当に色々と無頓着よね」


 私の疑問を聞いたフィオナが、本当に呆れたという顔をした。能天気は私の長所であり欠点。私は誤魔化し笑いを浮かべた。フィオナが私のノートに説明書きを追加して、マールとビルに見せる。悪魔学の講師ババル先生の板書は、分かりにくい。でもフィオナの説明がつくと、とっても分かりやすくなる。


「キヨイはおおらかなんだよー」


 割と辛辣めなフィオナの言葉を、マールはいつも擁護してくれる。有り難や。可愛いのに性格も良いってズルい。対するフィオナ、美人だが顔も性格もキツイ。しかし、面倒見が大変良い。私はちょこちょこっと実技練習に付き合うだけしかしてないのに、学内にいる時はあれこれ教えてくれる。


「いけない。そろそろ出勤だから、行くわ。ビル、明日までに基礎解呪(かいじゅ)のノートを写して返してね」


 フィオナが立ち上がって、鞄を肩に掛けた。じゃあ、と教室を去っていく。


「偉いよな。働きながら学生とか」


 頬杖をつきながら、ビルがフィオナの居なくなった場所を、赤い顔で眺める。因みに、フィオナはこの矢印に気がついていない。


「国立病院の調薬士ってー、既にエリートなのに更に上を目指すなんて、格好良いよねー」


 マールが首を縦に振って、ビルに同意した。大人びているなと思っていたフィオナはクレイヤと同い年の28歳だった。クラスの半分が20歳を越えている。私とマールは同い年。ビルは一つ上。そういう意味でも私達は才能に溢れている。


 高難易度の入学試験。この学校は敷居が高く、学費も高い。だから一度就職して入学を目指す人、更には働きながら通学する人が多い。


 マールとビルが入学試験に二度も落ちたのは、座学のこともあるが「学費免除優待生枠」の試験を受けていたから。学年約100人に対して5枠しかない。私もこれ。私って本当に特別扱い。


「また君達か。感心、感心。先生が食堂でお茶でもご馳走してやろう」


 教室の出入り口から顔を出したのは、担任のヴァルだった。今日も綺麗な金髪は少し癖っ毛。若い頃はさぞモテただろうという、王子様のような容姿。マールがどことなく嬉しそうな顔をしている。まあ、私はクレイヤの方が好きだけど。


「ありがとうございます! 先生、クレイヤとリオも誘って下さい!」


 私は勢い良く右手を挙げた。昨日、解呪の実習で会ったきりで、今日はクレイヤと会えてない。


「クレイヤ()()と、リオ()()だキヨイ。学内ではしっかり先生とつけなさい。クレイヤは今日から三日間休み。明日から泊まり掛けの任務だ。今日は準備や細々した仕事らしい」


 ヴァルは礼儀にうるさい。気をつけていたのに叱られて少し凹んだのと、クレイヤに三日も会えないと知ってガッカリ。弟子なのに、泊まりの任務というスケジュールは聞いてない。これは文句案件だ。


「キヨイ! いたいた。俺の感知って中々優秀。というかキヨイ、お前はそろそろ気配消しを覚えるべきだな」


 ひょっこりと教室に顔を出したのはルークだった。


「ルーク、面会者の札は?」


 ヴァルがルークを咎めた。


「忘れた。まあ、俺なら顔パスだろう? キヨイ、許可が降りたから泊まりの任務にお前も連れていく。一泊だ。ヴァル、他に四名特別演習に連れていく。マール、ビル、ハリル、ロナルド。ヴァル、手配よろしく。学校長に結社から連絡があるだろう」


 ルークの台詞に、私とマールとビルは顔を見合わせた。マールとビルがパァァァァと明るい笑顔になる。多分、私も同じ。好きな人と、泊まり! お泊り会! これってビッグチャンスじゃない⁈ クレイヤと年の差11歳の私は、子供扱いされているのでここは夜という、女の魅力が増す時間にアピールだ!


「マールは私ですー」


「ルークさん。ビルは俺です。よ、よろしくお願いします」


 マールはとっても誇らしげ。国を代表して留学してきているので、この指名が嬉しくてならないのだろう。ビルは信じられないというように、大きく目を丸めている。爽やか笑顔で、ルークが拳を握った右腕を前に伸ばした。


「弟子の友達の名前と顔くらい知ってる。お前らは別の班が世話役だけど、何でも頼れ。世話役に嫌なことをされたら俺にチクるといい。折角揃ってるから、飯に連れてってやろう。リオとキヨイと飯でもって思って来たんだ。職員室にリオはいなかったから、お前の友達を誘おうかと」


 万年貧乏、らしいのにルークは良くご飯に連れてってくれる。多分、お金が無いってのは嘘だ。新聞記事に、良く活躍が出ていて、街中にもルークが主役の広告がチラホラある。庶民とは金銭感覚が違うのだろう。私は「出世払い」の決意を固めているので、甘えることにしている。あと、いつか自分が後輩の世話をするときに同じように優しくしろというルークの言葉に胸を打たれたのもある。


 ルークは破壊魔人らしいが、まだそんな話は耳にしたことがない。


 不意に、ルークがヴァルを見つめた。ヴァルが首を傾げる。


「俺、ラスさんの飯が食いたい。三つ子ちゃんとも遊びたい。っつう訳でお前の家にしようヴァル」


 ルークがヴァルの背中を押して、私達には「行こうぜ」と声を掛けた。三つ子⁈ ヴァルが妻帯者で子持ちとは知らなかった。


「いつも突然なんだよなルークは。ラスに連絡しないと」


 ヴァルは迷惑そうではなく、むしろ嬉しそう。ヴァルがクルリと手首を回すと、蜂のようなものがブーンと教室から出て行った。ヴァルの魔法紙は蜂型だったのか。知らなかった。


 程なくして、荷物をまとめた私達はヴァルの家へ招かれた。飛行訓練と称して、空を飛びながら南東にある住宅地へ移動。途中、ビルがヘロヘロになったので、歩きに変わった。閑静な住宅街、ホルフ街は緑が多くて素敵。青い屋根に白と赤の煉瓦の壁のお家がヴァルの自宅だった。ただいま、と玄関扉を開いたヴァルを迎えたのは可愛らしい奥さんだった。家の中に招かれ、リビングで自己紹介される。


「いらっしゃいませ。初めましてラスです。ルークさん、お久しぶりです」


 ヴァルの奥さんは、茶色い巻き髪にエメラルドグリーン色の目をした美人。ヴァルと並ぶと似合いの美男美女。マールは少し悔しそうにしている。ビルはラスさんに見惚れているのか、赤い顔でぼーっとしていた。


「あー! ルークだ、ルーク!」


 元気一杯な声。振り返ると、リビングと玄関扉を繋ぐ廊下に黒い短髪の男の子か立っていた。ラスと同じ色の目。左目尻下に黒子がある。顔はヴァルに良く似ていた。小学生の低学年くらいだろうか。彼はルークを指差して、満面の笑顔。


「エリニス、人を指差してはいけない。それからお客様にまず挨拶をしなさい」


 ヴァルが割と怖い声を出して叱った。エリニスが慌てて拳を握る。エリニスの隣に、良く似た顔の男の子がひょっこりと顔を出した。エリニスより黒い髪は少し長くて、癖っ毛。それから右側に泣き黒子がある。エリニスと正反対の位置。彼はエリニスの隣に並ぶと、屈託無い笑顔でお辞儀をした。


「初めましてレクスです。父上の生徒さん方、ようこそいらっしゃいました。どうぞくつろいでください。お久しぶりですルークさん。ご活躍、沢山聞いてます!」


 レクスは何て礼儀正しい息子。私は思わず感心してしまった。それにしても、ヴァルの子供は3つ子と聞いているのであともう一人いるはず。もう一人、似たような男の子がいるのだろうか?


「おいレクス! お前、俺の失敗から学んで卑怯だぞ!」

「僕はいつも励んでいる。エリニスは関係ないよ」

「お前は兄を敬え!」

「それはエリニスじゃないか。先に生まれたのは僕だぞ」


 睨み合って、むすっとする2人。その間に、お人形みたいに可愛い女の子が現れた。金色の巻き髪に、ヴァルとは違う空色の目をしたその子は、エリニスとレクスの手を取った。


「お兄ちゃん達、お客様の前で見っともないわ。ティアの自己紹介もまだなのに、邪魔をしないで……」


 パチリ。私と女の子の目が合った。恥ずかしそうにエリニスとレクスの後ろに隠れるティア。


「あ、あの、ティ、ティアです。初めまして」


 赤い顔でもじもじするティア。これはとても愛くるしい。私と視線がぶつかった、ではなくティアはルークを熱視線で見つめている。


「ルー、ルークさんもお久しぶりです」


 嬉し恥ずかし、というようなティア。これは、そういうことだろう。初々しくて、応援したくなる。しかし、年の差いくつだ? 私とクレイヤより離れている。私とマール、ビルをルークが紹介してくれた。その後ルークは3つ子の頭を順番に撫でた。


「大きくなったなお前ら! 半年振りか? もうすぐ誕生日だろうから、お祝いしなきゃな。次で7つだっけか?」


 ルークがエリニスとレクスの髪の毛をぐしゃぐしゃにした。ティアだけは優しく頭を撫でる。益々、もじもじと可愛くなったティア。そのティアを見て、エリニスは愉快そうに笑い、レクスは膨れっ面。


「俺、剣が欲しい! おもちゃじゃなくて本物!」

「僕は本が欲しいです!」

「いつものやつ、やってよルーク! それから稽古! 俺、剣術教室で1番になりたいんだ!」

「ずるいぞエリニス! ルークさん! また僕の魔法の練習に付き合って下さい」


 エリニスとレクスに腕を引っ張られて、楽しそうなルーク。夕飯まで庭で遊んでる、そう告げてリビングから庭へと出ていった。


「何やってるんだ、ティア。来いよ。いつも3人一緒だろう?」


 振り返ったルークの笑顔に、ティアがぱぁぁぁぁぁっと花が咲くように笑った。


「はい! 」


 白いレース付きの赤いワンピースをひらひらさせて、ティアがルーク達を追いかける。いいなあ、子供。私もこんな綺麗なお家で一家団欒したい。私とクレイヤの子供はどんなだろう? 白い髪の女の子とか?


「ヴァル先生、クレイヤって元々白い髪なんです?」


 ラスと何やら談笑していたヴァルが、私を見下ろした。


「突然どうした」


「若白髪って大変だなって」


 クレイヤとの子供を想像していました。なんて、とてもじゃないけど恥ずかしくて言えない。


「まあ、クレイヤは苦労してるからな」


「苦労?」


 私がヴァルの顔を覗き込んだ時、ルークに呼ばれた。ヴァルは困り笑いをしていた。気になるけど、呼ばれたのでルークの方に顔を向ける。


「おいお前ら! 俺が練習を見てやるから、こいつらに魔法を見せてやれ!」


 ルークに手招きされて、私とマールとビルは庭へと出た。私達は魔法で蝶々を出したり、氷の城を作ってみたりと、3つ子達が尊敬の目でキラキラするのを楽しんだ。

 その後、いただいたラスの手料理はほっぺが落ちるほど美味しくて、大勢で会話しながらの食事も楽しかった。

 明日からはクレイヤとリオが加わる。多分、リオの護衛のブレイドも。仲良しのマールとビルがいて、旅行みたい。そんな予感。

 ヴァル一家が居ないのは残念だが、お土産を持ってまた遊びに来たい。ティアとこっそり、大人の男に片思い同盟だと打ち明けたので、作戦会議もしたい。

 私は明日からの「クレイヤとの泊まり任務♡」に胸をときめかせながら、ラス手製の、なんとかキノコが美味しい野菜たっぷりシチューをおかわりした。食べているうちに、私は少し変な気持ちになっていた。


 なんだろう。胸の奥がザワザワする。



◆◆◆黒白結社◆◆◆



 クレイヤは手元の資料を読み終えて、机に置いた。


「フェルターエルザの流行。よくもこんなになるまで放置しましたね」


 ヨハネが大きくため息を吐いた。魔女騒動であちこちから呼び出されたり、会議が多いので疲れているのだろう。目の下にうっすら隈が出来ている。


「おそらく新型か別の呪疫だクレイヤ。フェルターエルザはこんなに早い感染をする呪疫(じゅえき)じゃない。お前はよく知っているだろう?」


 感染して広がっていく呪い。悪質な腕のある魔術士や、数年に一度現れる上級悪魔ザリチによるものが多い。報告書に記載されている、被害者の症状はフェルターエルザ呪疫。人的な呪い。確証なんて一つもないが、魔女かもしれない。街中へグイベルが現れた次はこれ。ヨハネはお前ならどうにかしてくれる、そういう期待の眼差しを向けてくれている。クレイヤは小さく頷くと、胸を張った。


「期待に添えてみせます。この呪疫事件を見事に解決したら、上級任務にキヨイを帯同させる許可を下ろしてください」


 ヨハネが渋々というように、首を縦に振った。クレイヤはヨハネに背を向けて、部屋を後にした。腕時計を確認すると、夕餉の時間だった。


「今頃、ルークとヴァルのやつキヨイに解毒剤を……。まあ、なるようにしかならないよな」


 惚れ薬と記憶消去の解毒剤。腕の良い調薬士のヴァルなら、上手くやってくれているだろう。


「責められて、嫌われて、見捨てられるかもな」


 ため息混じりで廊下を歩く。ずっと胸の奥がザワザワしていた。

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