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# 1 「中華そば イマジン」

今回ご紹介するのは、西武池袋線江古田駅前にある、「中華そば イマジン」。


店の外観、内装共に別段変わった所も無く、失礼な言い方をすれば、何の変哲も無い昔ながらのラーメン屋というのが正直な印象。先ずは一つだけどうしても妙な違和感を感じてしまう店名について、ご主人の川口重徳さん(63)に聞いてみた。




○ お店の名前「イマジン」というのはどこから?

「昔、ビートルズって外国のグループの人達がいたでしょ? その人らの歌の題名からね。 頂いたというか、なんというか。」


○ ご主人がビートルズのファンでいらっしゃった?


「うーん、ファンというかね。まあ有名な歌がいくつかあるでしょ? そのくらいは知ってますよね。 ただ、英語の歌なんでね、カラオケなんかじゃ唄えませんよね。 まあ、私なんかが唄ったところでねぇ(笑)。」


○ では何故、ビートルズの曲名をお店の名前に?


「4、5年くらい前からですかねぇ、正直経営が苦しくなってきましてね。 何か、新しいお客を捕まえる方法はないものか? とね。友達に相談してみた訳です。 そしたらね、『若い人達が一杯集まる様なさ、何かそういうイメージチェンジしてみたら?』なんて言われましてね。 そこでピーン!ときた訳です。 若い人は音楽とか好きでしょう? ロックとか? ねぇ?」


○ 最近、変えられたという事ですか?


「ふた月くらい前ですかねぇ?」


○ 一見したところ、そのビートルズ感というのか、ロック感というのか、は感じられませんが?


「それは、ねぇ? うちはほら、ラーメン屋ですからねえ。あんまりギンギラギンにケバケバしいのもねぇ。落ち着かないでしょ?」


○ ケバケバしいのは問題あるでしょうが、せっかく名前を変えての再出発。若者の心を掴むというのであれば、何かその辺りを押し出した方が良いのでは?


「そこはねぇ、私も色々と勉強しましてね。メニューとかサービスは若い人に喜んでもらえると思ってるんですがねえ。」



ここまで話しを聞いた率直な感想は、『そもそもビートルズに対して、あまり関心がない。』『若者に対する認識が大きくズレている。』といったものだが、果たして、肝心の料理やサービスに関してはどうなのだろうか? 続けて話しを聞いた。



「お待たせしました。『ジョンレノン』です!」


○ 『ジョンレノン』? 見た目は普通の醤油ラーメンですね?


「煮卵が二つ乗っかってるでしょ? これが『ジョンレノン』です。」


○ 半分に切った煮卵が二つ並んでいますが。


「それが『ジョンレノン』です。 メガネですよ、メガネ。掛けてるでしょう? メガネ。 ジョンレノンは? ねぇ?」


○ 確かに後期は、そんなイメージがありますが。


「で、煮卵が乗っかってないのが『ポールマッカートニー』です。 掛けてないですよねえ? メガネ。」


○ 煮卵のトッピングが無い、普通の醤油ラーメンが『ポールマッカートニー』という事ですか?


「うちではそう呼んでますよね。 うちはほら、ラーメン屋なんでね。 そりぁ先ずはラーメンを食べてもらいたいですよね。『ポールマッカートニー』が700円、『ジョンレノン』が800円になります。」


○ ジョンとポールがメインという訳ですね?


「それは、ねぇ? ビートルズでは主役な訳でしょう? その二人は? まあ、加トちゃんと志村けんみたいな。 ねぇ?」


○ その例えはどうかと思いますが、ひとまず置いておきましょう。では、その他のトッピングはどうなんですか? チャーシューとか?


「ああ、チャーシューはチャーシューですねぇ。」


○ そこは何もないんですね。


「あとは、炒飯が『リンゴスター』、餃子の6個入りが『ジョージハリソン』になります。


「それでね、これを全部セットにしたのが『ザ・ビートルズ』になる訳ですよ。ね? 面白いでしょう? まぁ、この場合は『リンゴスター』は半炒飯になりますがね。 こちらのセットで1300円になります。」


○ ラーメンが二杯という事ですか?


「いやいや(笑)、煮卵入りラーメン、半炒飯、餃子6個で『ザ・ビートルズ』ですよ。 ラーメン二杯は食べきれないでしょう?」


○ ただ、それだと『ポールマッカートニー』がいない事になるのでは?


「それは・・・ ほら、ラーメンがある訳だから、」


○ 『ジョンレノン』は煮卵だと?


「うーん。 それは、 ねぇ? まあ、ジョンレノンはメガネだしねぇ。 煮卵はメガネで、メガネはジョンレノンという事でどうですかねぇ? 駄目ですかねぇ?」



話しの途中ではあるが、ここまで読んで頂いたビートルズ、またジョン・レノンの熱心なファンの方々へ店主に代わり、心からのお詫びを申し上げたい気持ちで一杯である。

私自身も、特別ビートルズのファンという訳では無いのだが、話しを聞いていると、何とも形容し難い苛立ちを覚えてしまう。

過剰なまでに何かに執着するのは、社会生活を送る上で様々な支障をきたす事になるだろうが、あまりにも物事の上辺だけを掬って、ただそれを並べるだけの態度には、はっきりと嫌悪感を私は抱く。


話が脱線してしまった。 最後に、店の売り物であるらしい各種サービス・デーについて聞いた。



「毎月、第1・3水曜日は、『ジョンレノンデー』になります。」


○ また、メガネですか?


「よく分かりましたねぇ、そうです。 メガネを掛けてらっしゃるお客さんは、全品1割引きになります。

ただ、サングラスの方は一応、 ね? ご遠慮頂くというルールにさせて貰ってるんですがね。」


「本当はね、伊達メガネって言うんですか? あのガラスだけのやつ? それも駄目って事にしたいんですけどね。 お客のメガネ取り上げて調べる訳にもいかないでしょう?」


○ それは、そうでしょうね。


「あと、第2・4水曜日が『ポールの日』になります。左利きのお客さん、全品1割引きです。」


○ なるほど、左利きできましたか。ただ、急に『ポールの日』になるのは、やはり、長くて言いづらいからという事でしょうか?


「うん、まあそういう事ですね。」


○ そうですか。


「最後にとっておきの『リンゴの日』。毎月最終の日曜日に『ザ・ビートルズ』を注文下さった人全員に、デザートのリンゴをサービスしてます。」


「実はこれ、カミさんのアイデアなんですがね。面白いでしょう? ラーメン屋でデザートが出るなんて、ねぇ?」


○ そうですね。


「いやー、うちのカミさんもね、最初の頃は『メニューが覚えられない』とか、『店の名前が恥ずかしい』とか色々と文句言ってたんですけどね。近頃じゃ、私なんかよりも積極的にね、考えてるみたいですよ。色々と。」


「まあそれも、ビートルズ効果って言うんですかね? あの『イマジン』って歌は、『考えてみてごらん』って内容の歌なんでしょう? 何だか不思議な感じですよね。 ビートルズのメッセージが、うちのカミさんに届いたんですかねぇ? ハッハッハ(笑)」


○ そうかも知れませんね。 あと『ジョージの日』が無いのも、この際置いておきましょうか。では、最後に読者の方々に何か一言あればお願いします。


「そうですねぇ。まあ、とにかくロック音楽が好きな、ビートルズが大好きな若い人達が集まれる。そんな店を目指してますんでね。 興味を持たれた方は、是非一度お立ち寄り下さい。 今日はありがとうございました。」


○ ありがとうございました。ただ、最後の最後で申し訳ありません。 一つだけ、大事な事を言い忘れていました。


「なんでしょう?」


○ 「イマジン」は、ビートルズの曲じゃ無いですよ。」




次回も、あまり世に知られていない一風変わったお店を皆様に紹介したいと思っている。それではまた。











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