初めての狩り
準備ができた所で馬車に乗る
幌もないただの荷馬車だ
人族の男性が御者役になり 残りは荷台に乗る
村人4人にローさんに俺の計6人
内訳は ドワーフ族の ガットさん、ナナルさん
人族のケインさん タイランさん
ローさんも含め ドワーフ族は斧と ボーラと呼ばれるY字になった ロープの
其々の先に金属の錘が付いている物を持っている
人族側は ケインさんが弓とブーメラン タイランさんは槍を持っている。
道中でチリカさんに渡されたお弁当を食べる
中身は朝と同じ物だが 外で食べるのはやはり旨さも格別だった
弁当を食べてから作戦の指示をされる ローさん達 ドワーフの皆さんで森に入り
獲物を見つけてから 3方から仕掛けつつ追い立てる
逃げ道は 森の外に俺とケインさんが 両側で タイランさんが真ん中で待ち構える
タイランさんが正面から左右どちらかに逃げた獲物を 俺とケインさんの射線が
タイランさんに被らない位置になった所で弓を撃つ
但し 俺の弓に関して ど素人である事を考えて
俺はタイランさんに近い場所で獲物の逃げ道をケインさんの方向へ向けるのがメインになる
正直に言ってしまえば 俺の後ろに味方が来ない限りは弓を撃つのはやめておけ
という事らしい まぁ、当然といえば当然だが
ミナ曰く 『弓を撃つなとは言ってないですけど・・・ かなり怖がってます』
と気持ちまで伝えられてしまったので 素直に従う事にした。
ついでに 緊急時に困るので 簡単な言語を教えてもらう
ヒロキはイントネーションの違いはあるが 聞き分けられるので
「動くな」 「逃げろ」 「撃て」 の3つだけを教えて貰う
細かい発音は兎も角 なんとか判別できる3つだが
「逃げろ」だけは 何回も繰り返して聞き分けられるようにはなった。
どちらに逃げるべきかはミナが判断する事にして
最初にバックパックにスマホを固定したのと同じようにケースに入れる
液晶画面からも前が見れるので スマホを横向きにして ケースの液晶部分も
多少見れるように加工する
やりすぎるとケースの意味がないので上下よりは左右を重点的に細めに開けた。
「頼むぞミナ」
『が・・・がんばりましょう』
ミナも緊張しているようだ
「まぁ俺も頑張るから お前は少し緊張を解いたほうがいいと思うよ」
『私・・・も 見て・・・る』
ブランの話片はも緊張しているようだ
「ブランも緊張しないでくれ 頼む」
場所は馬車で半日程と聞いていたより若干早く 11時位には森の前に着いた
作戦を確認しつつ ドワーフの3人が森へ入る
人族の二人と俺は それぞれ 作戦通りに離れて森を窺う
森は鬱蒼という程ではないが 50mも離れると 3人は見えなくなる
時々 木々の間から見える草が揺れる様子で 何かがいるのがわかる
こちらの季節は俺の世界と同じく初夏であり
湿度は少なく 気温も普段なら問題にならない
森のすぐ横なので 風も心地いいのだが
今朝初めて着た皮鎧のせいで 顔位しか
風を感じられない 素肌に着ると 動く内に擦り傷になって
汗でもかこうものなら じわじわと傷口に入る汗に
着ていられなくなるという忠告もあって 薄手の長袖を選んだが
首周りは皮鎧まで汗を吸って色がかわっている
俺も緊張しているようだ・・・
△△△△△△△△△△△
「ロー よかったのか? あいつを森につれてこないで」
「なんだガット 後ろから刺されるのが怖いのか?」
「そりゃ怖いさ すげー音がする馬より早い”ばいく”だったっけ? そいつに乗って
いきなり現れて 見たこともない格好で 極めつけは昨日の馬鹿力だ
あんなのが後ろにいるんだぞ?」
一昨日爆音と共に現れた ヒロキという名の青年は 本人は言葉が通じないが
魔道具と自分の事を名乗った箱を間に挟んで会話してようやく言葉は通じたものの
持ってる道具は見たことないし 甲虫の革でできたような薄いカードには
奴の顔が描いてあるわ ペラペラの羊皮紙には 蟻が描いたような
細かさで絵がかいてあるときた
あの日前日 起きてきた村長が 「大妖精のお告げを聞いた」なんて
言い出さなきゃ 荷物を渡した所で縛り上げるところだ
まぁ 途中で 腰に武器を持ってるのを見逃した事に気が付いて
それとなく武器を見てたら こっちに武器を渡して来たんで
受け取ったものの 今度は武器の重さに驚いた
武器というより道具といった刃物だが あんなに重くちゃ作業もできねぇだろうに
あいつが荷物の中身を見せてきた時にも驚いた
全部が重い テーブルが潰れちまうかと思うほどだ
だいたい お告げには 揺れる方はでてこなかった どういう事だ
麦を集めていた倉庫が崩れて出火 男手集めて なんとか持ち出せたのは
秋の収穫までギリギリ足りない
昨日の修復作業で 奴が言ったとおり 大工の仕事は知ってるようだったが
あんまり役に立たないんで 大した事はやらせなかった
奴の乗り物をトーガスに調べさせていたが どう間違ったのか
転がして起こせなくなったとかで ヒロキに起こさせた時の様子もおかしかった
奴は 自分の力が 普通じゃないのを知らない
トーガスにそう伝えられてその考えにいきついた。
思い切ってヒロキに確かめれば 本人が驚く始末
その後で 力を使って 奴が言うところの応急処置を済ませた
家の修理をあっさり済ませやがった あっという間にだ。
「仕事をきっちり終わらせる奴に悪い奴はいない」
人を褒める事をしないトーガスがそんな事を言った
自分が他人より力があるのを知って
それを欲望のままに使わないで 修理のために使い出す奴は珍しい
お告げってのを信じてもいいのかもしれん
そんなわけで 昨日 狩りに誘った
念の為 ケインとタイランにはヒロキの見張りも兼ねて外で待たせている
「タイランはともかく ケインの弓は村でもずば抜けてる 何かやればケインが対処するさ」
「なんでこっちにつれてこなかったんです?」
「食料が厳しいのは確かだ 確実に仕留めて帰りたい それに
昨日の奴の行動をみる限り 悪い奴には見えん」
「わしの家を直してくれたしな わしも 悪い奴だとは思わん 母ちゃんもそう言っておったしな」
初老のナナル爺が声を挟んだ
「最初の修理が終わった段階じゃ まだ歩くたびにギシギシ言っておった
夕方近くなって また直すと言い出したのには驚いたが あっさり直してしまうし
壊れる前よりしっかり直したのには驚いた 腕も確かで責任感もありそうじゃないか」
昨日修理したのはナナル爺の家だった 応急修理がおわったものの
もうしばらくして落ち着いたら別の家でも建てて引っ越す算段だったが
ヒロキ主導で修理が終わったら その必要も無くなった 感謝するのも当然だろう
その時 先頭のガットが手を上げる
「話はここまでにしよう 気配がする」
俺達の気配を殺して辺りを伺う
ナナル爺が前方を見つめて合図をする
遠く木々の向こうに大角鹿のメスが見える
俺達は慎重に木々に隠れながら大回りし 大角鹿の向こうへ回ろうとした
だが 途中で向こう側からライドックが3匹 大角鹿を狙っているのが見える
いっそライドックを狩ろうかと考えているうちに ライドックが
大角鹿へと移動を開始した
後ろから追い立てる俺達より先にライドックが大角鹿へと近づくが
大角鹿がそれに気づき ヒロキ達が待機する外へと逃げ出した
ライドックを追うが奴らは速い
口笛でヒロキ達へ合図をした・・・
△△△△△△△△△△△
タイランさんが近づいて水筒を何事か 声をかける
『水を飲んだほうがいいと・・・ 汗のかき方が尋常じゃない・・・ って大丈夫ですか?』
俺は荷馬車の上で渡された水筒から水を少し飲んだ
革製で しっとりと水に濡れている 砂漠に住む人が そういう水筒を使うとは
聞いた事があるが そういう物なのかもしれない
「緊張しっぱなしで立ちっぱなしがこれほど辛いとは思わなかった」
ミナが通訳すると タイランさんが頷く
『大工の方が役にたったかもしれんな と・・・』
恥ずかしい話だが その通りだと思った
狩りに来てくれと言われて 経験は無かったが 剣や槍やらがでてくる所で
どんな方法で狩りをするのかは興味もあった
この世界で生きていくには 食い物が取れなきゃ飢え死にしてしまうし
その方法をはやめに知っておきたかったのだ。
『いくら汗をかいてもいいが 矢羽は濡らすなよ だそうです。」
「はい」
矢の矢羽を濡らしてしまうと矢が思った方向に飛ばなくなる
それ以前に 狙った方向に飛ばせるかが心配な位だ。
「動くな」
タイランさんが言った言葉は確かにそう言った
到着前の打ち合わせで教えてもらった単語だ
動かないでいると タイランさんが喋りだした
『合図が来た そうです』
俺は頷く それを確認して タイランさんはケインさんに手を挙げた
離れた位置にいるケインさんも手を挙げる
タイランさんが森を伺いながらすこし進んでいく
俺とケインさんは 予め打ち合わせたとおり 森から離れて待機する
森のほうから ガサガサという音が聞こえてきた
手にかいた汗を何度も拭きながら出番を待つ
その時 森の向こうで大きな角を持った鹿が現れた
さらに その後ろから3匹の犬が現れる 何も知らなきゃ猟犬に
追い立てられているように見えるが 俺達は猟犬なんて連れて来ていない
『大角鹿に ライドックです!』
あれがそうかと思っている間に森を駆け抜けて来る
ライドックが見えた所で タイランさんは 木に隠れた
正面から相手にするのは分が悪い
だが 4匹を3人(実質2人)で相手にするのはもっと悪い
4匹がタイランさんの横を抜ける時 槍を振りかぶり
通り過ぎようとする獲物の足元を掬った
大角鹿は避けられず槍に足を掬われ前方に転がる
ライドックは大角鹿に飛び掛る
一匹は大角鹿の後ろ足で蹴られタイランさんの方へ飛ばされる
地面に転がって起き上がろうとする所に タイランさんの槍が刺さる
次の瞬間 大角鹿の頭が横へ揺れる
「撃て! 撃て! 撃て!」
俺は大急ぎで矢を番え大角鹿の胴体に狙いをつけて矢を放つ
狙いはずれなかったが 射線にライドックが入り
ライドックの背中に当たる だがライドックは構わず大角鹿の
首に噛み付いた
俺は次の矢を番えようとする間に そのライドックが吹っ飛んだ
「は?」
と驚く間もなく 今度はもう一匹のライドックが槍で地面に縫い付けられる
「動くな! 動くな! 動くな!」
と続けた所で タイランさんが手り振りながら 何事か叫ぶ
『終わったようです 戻って来くるように言ってます ふぅ・・・』
ミナに言われて動かなくなった4匹の所へ戻る
わずかな間に タイランさんが 大角鹿の首と胸の辺りを槍とナイフで刺している
よく見ると大角鹿の目に槍が突き刺さって反対側の目が飛び出している
タイランさんに「撃て」と言われる前に ケインさんの矢が当たったようだ
傍らには絶命したライドックが3匹 血を流している
俺の撃った矢がどうなっているのかというと
ライドックの背中には刺さっている 皮は刺したがそこで
止まっていた 致命傷にもなっていない
その一匹の胴体には別の矢が貫いている
単純に言うと タイランさんがライドックを2匹槍で仕留め
ケインさんが大角鹿の頭とライドック1匹を仕留めた
俺のは数に入らない
がっくりしている所に声がかかる みればケインさんがロープを持ってきて
大角鹿の足に括っている所だった。