カト村での仕事
ミナの解説はチリカさんのノックで終わる
『はーい 朝御飯の準備ができたみたいですよ
それと 洗濯物があったら全部出して下さいね』
ミナは通訳の役目を忘れず朝御飯と洗濯物に関して教えてくれた。
昨日着替えた物を指示された籠にいれた所でパンツについてちょっと考えるが
まぁ結婚してるなら気にしないだろうと考えて 全部いれておく。
朝御飯は 昨夜と同じ黒パンと 昨夜と同じスープ 大量のサラダだった
サラダは 味と触感から判断するに 蕪か大根 玉ねぎ キャベツのような物
に何の肉かは判らないが ベーコンを刻んで よく焼いてカリカリにした物が
入っていて ドレッシングは 油に塩と胡椒と酢が判別できた
油はなんの油かよくわからなかったが 酢はワインビネガーっぽい
それから ローさんから 今日の予定について 話があった。
まずは 村の人々に紹介してもらってから
俺の本業が大工というか 建築関係全般だったので
先日の地震で壊れた家屋の修理関係を手伝う事になった。
作業するのに問題ない服装はあるか? という質問をされたものの
旅の途中で 動きやすくはあるものの 大して着替えもないので
上は長袖のシャツに 下はGパンの予備を着る事にする
火事が収まった場所に集まっていた村の人々に紹介してもらい
ミナの通訳で自己紹介をする
この村の人口は30人程 半分はドワーフ族だが 女性は男性のように身長は小さいが
恰幅がいいわけではなく ただ 小柄な人族で 髪がウェーブがかかって長髪な人ばかり
残りは 人族だ
子供も数人いるが ドワーフ族と人族で見分けが付かない
年齢で差異があるのかもしれない
それから 俺は一番被害の酷かった家へと村人数人と共に案内される
家は木造、ログハウスなのは 村長宅と変わらないが 屋根材と壁の
作りに多少の違いがあるようで
村長宅が 木の皮を剥いだ物を互い違いに並べ重ねるようにしていた物が
この家の場合は木片を互い違いに並べるようになっている
屋根の作りは 日本で言うところの切妻 屋根を2枚の板を倒して支え合わせた
ような形になっていて その両側を支える壁が屋根の重量の大半を
支えるようになっているので ここは丸太の立柱で間を丸太を重ねて壁にしている
その屋根材がだいぶ抜け落ちているのと 玄関前の地面から50cm程あがった所に
あるウッドデッキが腐食していたのか ウッドデッキを覆う雨避けが
もろとも崩れていた
見た目はそんなに酷くないようにみえたが
屋根から地面の束石(地面と直接柱が触れないようにして 腐食しにくくする為の石)
まで通っている立柱が ウッドデッキの壊れている横の方で 束石から外れている
他の束石から立柱は外れていないので ここの束石が地震で動いてしまったらしい
どうやって直すのか 村の人に聞くと 束石は大きくて動かせないので
付近の床を持ち上げて丸太で地面から床に突っ張るように適当な長さにして
突っ込むしかないという
「また地震がきたら 他の所まで壊れそうだなぁ」
と俺が言ったのをミナがそのまま通訳すると 村人に大笑いした
あんな揺れがまた来るなんてありえない だそうだ。
聞けば 地震は経験がないようで 余震の事など知らないようだった。
応急処置としてならまだいいが そのまま住むのは大いに問題がある
基礎工事で問題があるのだから 束石を一回外してその下の土を固め直したい所だが
その為には 家屋を取っ払う所までしないとてが出せない
モルタルでもあればなんとかなるんだけど 村人に聞く限りそういう材料は
城に使う漆喰(村人はスタッコと呼んでいた)
はあるが 基礎に使えるような固さを持つ物は知らないという。
漆喰は石灰が主成分で セメントは 珪石、石灰、粘土、酸化鉄原料を高温で焼いた物を
細かく砕いて少量の石膏を混ぜるんだっけかな?
前に建築関係の資格取るのに勉強したのを思い出すが
それを現状で再現するのは ちょっと無理だ
うーん 鉄骨でもあればと考えて そんな材料ここに見えないしと
しばし考えるが あくまで 応急処置レベルしか取れない事に
プロの端くれとして現実を見せられた
結局 村人が話した修理方法を行うのに午後までかかる。
作業を終えて休憩していると 村人のドワーフの男性が作業に
使った道具のメンテナンスをはじめた
作業を手伝った関係でノミやノコギリを使ったのだが
どうも 切れ味が悪い ノミを研ぎ始めたドワーフの男性の所へいって
声をかける
ドワーフの男性は鍛冶屋の見習いで トーガスさんと名乗った。
作業を見ていると 刃物の研ぎ方は 日本のような水研ぎではなく
オイルストーンという 西洋等 水をあまり使えない所で多く見られる
道具で研いでいる
ここでは水が豊富に思えるのだが 刃物を使う現場は この世界だと
山とか洞窟とか水の少ない場所のほうが多いわけで それも
理にかなっているのだろう
ただ 切れ味が悪い・・・・ 見習いだけあって腕が未熟なのかもしれないな。
そして刃をみる 日本の鑿や鉋に見られる片刃で
木材に対して食い込み易いが 刃の向きを変えると刃先の角度がによっては
まったく切れなくなる
鑿なら刃先が薄くなって 欠け易くなる事があるが 切れ味は問題ないものの
鉋は角度が決まっているので間違うとまったく削れない物になる。
トーガスさんが作業を終えた一本を手に取る
欠けた部分の修正が終わらないままだ
目視では判り難いものの 手ならわかる程度だが トーガスさんにそれを話すと
なんとも困った顔をする
数ヶ月前 魔物と戦っていた時に 大怪我をして 手先の感触について
支障がある状態なのだとか その時の怪我が元で 武器を扱うのにも
支障があったので 鍛冶屋見習いになったそうだ。
爪を刃に当てる確認方法を取る方法も聞いてみたが やはり判り難いのだとか
とりあえず 刃物がこれではまずいので 村長宅の自分の荷物の中から
手持ちの刃物に使う為の砥石を持ってくる 荒砥の代わりにダイヤモンド砥石と
中砥石と仕上げ砥石がくっついた奴だ
鉈や鉞なんかは 使い方が緊急時に荒っぽくなるので 念の為入れていたのだが
こんな形で使う事になるとは・・・
トーガスさんだけでなく 周りにいた村人にも色々と質問された
まぁ とりあえず 仕上がるまで 黙ってもらう事にして作業をはじめる
ダイヤモンド砥石に水をつけて 欠けが見えなくなるまで 削る
ついで 桶に水入れて突っ込んでおいた中砥、仕上げ砥石に順に研いで行く
仕上がった物を不思議そうな顔で見物してた村人の一人に頼んで
そこらに転がってた木材を削ってもらう
かなり切れ味のあがったそれに驚きつつ トーガスさんに何事か声をかける
トーガスさんがかなり困っている
すると 他の現場から戻ってきたドワーフの男性がその男性に怒鳴りつける
ミナによると トーガスさんの腕が 昨日現れた どこのだれとも知らない
俺より 悪い事を怪我の事を詰ったらしい
先ほど 怒鳴りつけていた男性が 険しい顔のままトーガスさんの所へきて
何事か声をかけた後 今度は俺の所に来た
手には 俺が仕上げた鑿が握られている 刃物沙汰は簡便してほしいなーと
思っていると 何事か喋り始めた
『この鑿の研ぎ方はどこで覚えたのか聞いています』
「俺の国ではこういう研ぎ方が普通で 俺は国では大工だったから
これができないと認めてもらえないんで 自分なりに練習した結果です」
ミナの通訳で伝えてもらう
『こういう水を大量に使う研ぎ方をする大工は知ってるがお前はどこから来たんだ? ・・・と』
「俺の国の名前はニホンという名前ですが ご存知ですか?」
『聞いた事が無い どこにあるんだ? ・・・と』
「正直な話 昨日の揺れがあった後 元いた所で土砂崩れにあって 気が付いたらアララト山
の近所に居ました 俺の国がここからどっちにあるのかさえ判らないんです」
それを通訳してもらった所で ドワーフの男性は 一息つき落ち着いた顔になる。
『すまなかった 俺はスドル 鍛冶屋だ トーガスはまだ見習いをはじめたばかりで
怪我もあって 腕に問題はあるが 真面目でいい奴だ
怪我が無ければ俺の元に来る事も無かっただろうが 俺としては
弟子ができて喜んでいるんだ それを馬鹿にされて怒ってしまった そうです』
今度はミナが一息付きながら通訳する
スマホを見ると ミナがほっとした顔をしている ちょっと緊迫した状況だったしな。
『鑿を見せてもらったが 確かによく研げている 俺がやれればいいんだが
直す所が多くて 鍛冶の仕事も手が回らなくてな トーガスに数こなして
練習になればそれもいいかと考えたが よければ お前がやってくれた方が
トーガスを鍛冶の手伝いさせた方が俺としても助かるんだが』
ミナが通訳しながらも 役者っぽく 発言者の口調まで真似しはじめた
スマホをみると 画面には仁王立ちしているミナがいる
「俺としても ここでできる事があるのであれば 何でもやるつもりなので お受けします」
ミナが通訳する姿が 仁王立ちから 揉み手しながら上司にゴマをする
ダメな手下といった物になった まさか 俺の今の姿か? ありえねぇ
ミナがまた仁王立ちになり通訳を続ける
『そうか 助かる』
スドルさんがトーガスさんの下へ行き会話した後 周りに集まった村人に何事かを告げる
『明日から刃物研ぎに関してはヒロキさんに任せて お二人は鍛冶屋の方に回る事にする
今日は 解散 だそうです』
「物真似はやめたのか? なんか 俺の所に関して気になったんだけど」
『あははは ブランに怒られました』
『旦那様は・・・ あんなそんな動き・・・ してない』
ミナの揉み手は 俺よりも ブランが気になったらしい
「まぁ 通訳が大変なんだろうなとは 俺も思うし ブランもあんまり怒らないでやってくれ
その気持ちは嬉しいけどな」
『はい・・・』
とりあえず部屋に戻ろうかと村長宅に向かって歩いていると 村人に呼び止められる
『ヒロキさんの”ばいく”が倒れてしまって 何か液体が漏れてる 臭いで
馬が不安がってるので すぐに来て欲しいそうです』
俺は昨日バイクを止めた厩舎へ走る 他の村人はそんなに急いでないのか
俺が先頭で倒れたバイクの元へたどり着く
舗装路なら問題ないが 地面が土で柔らかいと スタンドが沈んでしまい
結果バイクが倒れたのだろう 見れば タンクの給油キャップから
燃料が滲み出して燃料の臭いがあたりに漂っている
急いでバイクを起こして 倒れないように 厩舎の壁に立てかける
スタンドを使うだけだと また同じ事になるしな。
バイクが倒れて レバーでも折れてたら面倒なんで 確認していると
周りの村人の視線が気になる
「やっぱ 珍しいのかな」
『そうじゃなくて ヒロキさんが”ばいく”を一人で簡単に起こした事に
驚いている見たいですよ?』
「まぁ バイクを起こすのは コツがいるけど」
『力自慢の男性3人でも起こせなかったそうです』
「は?」
荷物を降ろしたオフロードバイクは 120kg程だろうか まして 持ち上げるのではなく
起こすだけなんで 2人もいれば 起こせるハズなんだけど
初めてみたバイクだけに 対応に困ったんだろうか??
村人の不思議な物をみる眼差しに居た堪れなくなって そそくさと村長宅へ戻る