俺のスマホ 妖精ホイホイ疑惑 その2
翌日 俺が目覚めると まだ外は薄暗い
スマホを見て時間を確認しようとするが ミナが画面越しに本を読んでいるのが見える
「ミナ・・・ 早起きだな」
ミナが本から顔を上げ こちらを見てニコっと微笑みながら
『良い夢は見られましたか? ヒロキさん』
「夢はみてなかったなー」
『それはいけませんね レムリア様にお祈りなされなかったのですね』
「誰?」
『レムリア様は夢を司る神様ですよ 寝る前にレムリア様に祈りを捧げると
楽しい夢と安らかな睡眠を得られると言われています』
「そういえば 昨夜チリカさんも 良い夢をとか言ってたんだっけ?」
『お休み前の挨拶ですよ ヒロキさんは 「おやすみ」と言っておられましたよね?
ヒロキさんの居られた所ではレムリア様はいらっしゃらないのでしょうか?』
「聞いた事がない」
おやすみという単語は「良い夢を」であるらしい
んで 朝は「良い夢はみられましたか?」となる
「じゃあ 朝はどう返すのが普通なんだ?」
『レムリア様に感謝しております というのが普通ですよ』
「なるほど 勉強になった」
言葉の問題があるが 観念としてはレムリア様に感謝を表すのが朝の挨拶らしい
ただ 「お休み前に・・・」とか言葉に出てくるという事は
おやすみ という単語も 意味自体は通じている・・・という事か?
言語の壁を超えて会話をするミナが相手だと 意味は通じるが
言語の観念が違うのでそこは気になるのかもしれない
あー 自分で考えている内に寝起き早々頭が痛くなりそうだ。
「で 朝から何読んでるの?」
『絵が一杯描いてある本を見てました』
と画面に本を向けて近づけてくる
エロ漫画だった・・・
『いやー 興味深いですねぇ でへへ』
「お前 段々性格が変わってきたんじゃないのか?」
『いえいえ これが地です でへへ』
朝からエロ漫画読んでる妖精もどうかと思うが
そんなデータ入れたのは俺か 入れたっけ?
うーん 無いとは言えない 旅にでる前に 使える最大容量のメモリカード
つっこんだら かなり入れられる事がわかったんで
色々突っ込んだのは覚えてる エロ関係は別のUSBメモリに入れた
つもりだったけど 中にまざったのかもしれん
枕元に置いた腕時計を探してライトをつけてみると5時過ぎ そういえば
昨日も5時過ぎに朝飯作ったりしてる位で明るくなってきた事を思い出す
こっちも時間間隔は変わらないのだと気づく
「なぁ ミナ」
『なんですか?』
「俺がいた場所とこの世界 お前 昨日 門番のローさんに 俺の事を紹介する時
異国の人って紹介してたけど」
『正直に申し上げます あれは方便です 違う世界から来たとか ちょっと信じられない
話ですし』
「まぁ そうだよね」
”異世界” そんな単語が思い浮かぶ
アララト山って山の名前は聞き覚えがあるが トルコにドワーフそっくりの人が
いるのかどうか 俺は知らない
そもそも 電気が無い すっげー田舎なら可能性もあるが
今の時代 斧や槍もった皮鎧の人がいたら ファンタジー好きでなくても
ネットで有名になれるだろう
ミナの存在もある スマホがハックされて AIとしての存在なんて事も考えた
ラジオはノイズを含めてまったく入らないのもここが元の世界とは
違う場所の可能性を高めている
益々頭が痛くなってきた。
窓の外はだいぶ明るい腕時計は6時前になっていた。
「とりあえず 目が覚めたんで 顔を洗いたいのだけど 部屋から外にでたら
声掛けられるかもしれないから 通訳を頼むよ」
『でへへー わっかりましたー」
なんか初めて会った時から大幅に性格が違う こっちが地だとしたら
すげー猫被ってたのかこいつ
つーか どこまで地が酷いのか 心配になってくる
下着のままの格好ではまずいので 外にでても問題なさそうな格好に着替える
スマホにタオルと昨日の桶も持って部屋から出る。
と ここでチリカさんと出会う
厚手のキャミソールを腰で紐を巻いた格好だった
『!?』
驚いた様子だったので 下着姿だったら 見ているのもどうかと思い
後ろを向いて 挨拶する
「良い夢は見られましたか? えーと すいません 通訳頼む」
ミナに通訳して貰うと
『レムリア様に感謝を 朝からこんな格好ですいません だそうです』
やはり下着だったらしい
そして
『羽織る物をとってきてから 井戸をご案内いたしますので少々お待ち下さい だそうです』
トイレに関しては昨日荷物を見せている時間に案内してもらったので判っていたのだが
井戸は判らなかった トイレの外に桶と手ぬぐいが用意してあって
そこで手を洗うのは判ったのだが 飲み水は 生水に警戒してたのも
あって 手持ちの水を飲んでいたのだ。
なので 井戸の場所はしらなかった。
チリカさんが戻ってくるまでの間に歯ブラシセットを持ってくる
部屋を出るとちょうどチリカさんが戻ってきたので
井戸に案内してもらう
裏口から外に出ると離れた所に井戸があった 朝早い為か俺とチリカさんしか居ない
『ここで朝の仕度をして下さい とのことです』
『有難うございます』
ミナが俺の言葉を繰り返して感謝を告げる
井戸はそこそこ深いが 使い方は問題ないが 持ってきた桶の水を
どこに捨てるべきか考えて
近場にある小川っぽい所にすてる
「ここに昨日の桶の水ながしていいんだよな?」
『問題ないとおもいますよ』
ちょっと心配になるがまぁいいだろう
井戸から汲んだ水を先ほど空けた桶と 歯ブラシセットのコップに入れる
井戸の桶で直接顔を洗うのは桶を汚してそれで汲めば井戸水全体を汚すので厳禁だ。
桶に入れた水で顔を洗う 石鹸を使っていいのかわからなかったので使わずに
歯ブラシも歯磨き粉はつけないで洗う 使っても問題ないだろうとは
思うのだが ここの小川が綺麗なのと 下流で洗濯してたら・・・とか
周りに気を使う日本人的に考えて遠慮しておいた。
桶を新たに汲んだ水で軽く濯いで井戸の横においておく
他に同じような桶がおいてあったのでそうじゃないかと考えただけの事だ。
『え! きゃ!!』
ミナな驚いた声をあげる
「ど どうした?」
『・・・』
スマホを見ると ミナが画面に見えない
正確にいうと ミナが見えないだけで 奥に本とか紙は見える
「おい! どうした?」
思わず画面に指を当てて スワイプすると 画面が部屋の違う場所を映す
今まで特に試してなかったのだが ちゃんと指で見える位置はわかるし
2本の指で開くようにすると ピンチアウトで画面が拡大された
そして スワイプすると 倒れたミナと 見知らぬ女の子が見える
「ミナ! 大丈夫か? それと えーと 君・・・誰??」
見知らぬ女の子は 茶色の服にとんがり帽子 部屋の隅で震えているようだった
『いたたぁ・・・』
ミナがフラフラしながらも上半身を起こす 周りを見ながら震えてる女の子を
見つける・・・
『あれ? ブラウニーじゃないの なんで此処にいるの?』
「ブラウニーって 知り合いか?」
『ブラウニーは家に住み着く妖精ですよ』
聞いた事がある もちろん現実の話ではないが
家に住み着いてその家を繁栄させるとか 家の掃除をしたりするとか
そういう伝承を 日本だと座敷童子がそれに近い
「家に住み着く妖精が俺のスマホに?」
『家・・・ 燃えちゃった・・・。 行くとこ無い・・・」
ミナとは違う声がした 画面の中のブラウニーが喋ったのだ
ブラウニーは ミナとこちらを窺うようにしてなおも喋る
『ここに・・・ 居させて・・・ 御願い・・・します。』
「えーと・・・ ミナはどう?」
『こっちに振りますか・・・ 私もここに誘われて入ったから ヒロキさんがいいのなら
私は文句なんか言えるハズないじゃないですか』
「よし なら問題ないな いいよ えーと・・・」
『名前教えて』
画面の中で震えていた女の子がミナに突かれながら名前を聞かれた
『私はまだ名前がないん・・・です』
「は?」
『あー 貴方 まだ生まれて長くないのね』
「そういうことだ?ミナ」
『妖精は生まれたばっかりだと名前は無いの そのうち 自分でつけたり
誰かに名前をつけてもらったりするんだけどね そうでしょ?』
画面の中のブラウニーがコクンと頷く
「んー 名前がないと不便だな・・・ じゃあ 君の名前は今日からブランだ』
『あ・・・安直』
「ほっとけ というわけだ ブラン そこに居ていいぞよろしくな」
『私は木の妖精 ミナよ よろしくね』
ブランと名づけた女の子が 顔をぱっと綻ばせる
『ありがとう 御座います 旦那様・・・』
「俺はヒロキだ」
画面の中では嬉しいのか ミナに抱きついて嬉し泣きをしているブランに対し
ミナはどう反応していいのか困ったような表情をしている
火事の話で思い出し 裏庭から外を歩いて玄関側にいくと
暗くなっても火が見えていた所も 鎮火していた
辺りをみると 昨日 延焼を防いでいた人が桶を枕に眠っている
「ブランはここにいたのか?」
『はい・・・』
「ここに住んでいた人はどうなった?」
『ここは数年前に住んでいた人族の老夫婦が死んじゃってからは無人だった
昨日の地面の揺れで家が崩れて 外の焚き火に 崩れた屋根の藁に燃え移って
あっというまに家が燃え出して 私は何も出来なくて逃げ出したの
燃える家を見てもうどうしたらいいか 判らなくなって・・・」
言葉少なかった彼女が 火事の場面を話しはじめると 衝撃的な記憶が流れ出すように
どんどんその時の場面を語り始める
『いつのまにか寝ちゃってて これからどうしようか 辺りをウロウロしてたら
旦那様の首からぶら下がってたこの箱から 懐かしい感じがして飛び込んだの』
やっぱり俺のスマホは妖精ホイホイらしい
スマホを見ていた俺の肩が誰かに叩かれた
振り向くと チリカさんが息を弾ませて 何事か喋りだした
『ごめんなさい ちょっと散歩してて』
「え?」
俺は何事かわからずにスマホに映るミナを見る
『井戸に案内してから 中々戻ってこないから どこかへ行ってしまったのか
心配して探してたそうです』
「あ・・・ えーと ごめんなさい」
頭をさげて謝罪する チリカさんも俺が謝罪している事を察したのか ほっと息を付いて
笑顔になる。
『すぐに朝御飯を用意するので 部屋に戻って欲しいそうです』
ミナは自分で俺に通訳した内容に 『わかりました』と返事をした
部屋に戻る途中 ブランがミナと何か会話しているのが聞こえる
よく聞くと 俺がここの言葉が判らない事を説明していた。
「ついでに 色々説明しておいてくれ」
『そのつもりよ』
部屋に戻ってからも ミナの解説は続いていた