ミナとの出会い
『はじめましてご主人様!』
スマホに挨拶された。
スマホが喋るのは驚かない そういう機能がついているスマホだったし
バッテリーが減っている時に充電すると 「ヒロさん 充電ありがとうございます」だとか
帰宅して そこらにスマホ置けば GPSの位置情報でも裏で取ってるのか
「おかえりなさいませ ヒロさん」とか言ってくる機能があるし 面白半分使ってた
だが 「ご主人様」っていう単語がおかしい
”町 弘樹” それが俺の名前だが スマホには「ヒロさん」という呼び名で
呼ぶように設定していた
たしか初期設定が「ご主人様」だったかもしれない 設定が飛んでるという事は
やはりスマホはどこか壊れた可能性があるのかも
「あぁ~~ 壊れてるのかぁ」
『ご主人様 何が壊れたのでしょう?』
「いや スマホが・・・ !?」
俺は周りをみる 誰かが返事をしたからだ ・・・誰もいない
俺はじっと手元ノスマホを見つめる
『あまり見つめられると・・・』
画面が桜色になる
うん これだ スマホだ スマホが喋ってる つーか 反応してる
俺の記憶に間違いなければ 会話する機能は付いてなかったハズだ
それとも最近のアップデートで付いたのか?
「あのー 恐れ入りますが・・・」
『はいなんでしょう ご主人様』
「会話機能は最近のアップデートで追加されたんでしょうか??」
『何を仰っているのいるのかわかりませんが ご主人様と会話するのは今日が初めてですよ』
なんだろう 追加機能だとしたら 会話の応答におかしな所があっても変ではない
大体 会話機能といいつつ ろくに聞き取れなくて それっぽい反応するような
言葉を喋らせたら案外誤魔化せてしまう
なので とりあえず 俺はとりあえず 現在一番知りたい事でも聞いてみる
「ここは何処?」
『アララト山の麓 静寂の森付近です』
アララト山って トルコだったか? なんか聞いた事あるぞ
そんな場所の地理わからないから 静寂の森とかいわれても 判断できねー!
「ここはトルコ国ですか?」
『いいえ ムヤナト国です』
トルコじゃないって ムヤナト国だってさ HAHAHA!
「どこだそりゃー!」
『怒鳴らないで下さいご主人様、ムヤナト国はヤマナイト大陸 中央付近にある小国です』
うん 全然わかんない事言ってる もうどうしたらいいのかわからん
とにかく落ち着こう・・・
「君は誰?」
スマホに誰? とか かなりやばい人だよな俺 しかも人気のないこんな所で・・・
『私はミナ 私は木の妖精のミナと申します』
「俺のスマホになんで木の妖精が? 電子の妖精とか歌姫とかじゃなくて??」
いや○音ミクとか○シノルリじゃねーけどさ スマホに入りそうな妖精ったら電子の妖精だろ?
『”すまほ”というのはこの箱の名前でしょうか? よくわかりませんが
私は静寂の森で”妖精喰い”に追われてアララト山に逃げてきた時
空から落ちてきたご主人様のこの”すまほ”という箱が居心地よさそうだったので思わず逃げ込みました。』
電子の妖精についてはスルーされた 残念だ
「逃げ込んだ?って事は出られるの?」
『えーっと それが ・・・』
「出られないの?」
『ハイ』
「でも 昨日スマホ見た時は普通だったけど」
『気を失ってたみたいです』
「んで 充電して気が付いた?」
『充電というのは先ほどの気力の流れ込みでしょうか?』
「気じゃなくて電気だぞ 電圧にして5Vだ 表示によるとまだ60%位しかないけど」
画面の基本表示は変わってない 電圧表示は60%と出ている
『よくわかりませんが それで気がついたのです 私はご主人様に助けられたのですよ』
電気が気力ってまぁスマホだからか・・・
「”妖精喰い”ってのは何?」
『”妖精喰い”とは 妖精を主食にする生物です』
「”妖精喰い”ってのは そこらじゅうにいるの?」
『いえ 普段はまず見かけません ご主人様と出会う前 静寂の森で寝ていた私は
突然 地面の揺れで目を覚ましました 何事かと辺りを伺っていると
”妖精喰い”が現れて 思わず隠れたものの 見つかってしまい 逃げ出しました。』
「そして 森を抜けて逃げている時に俺が落っこちて来た・・・ これ幸いとスマホに逃げ込んだ?」
『はい! そういう事になります』
「今も”妖精喰い”って奴はいるの?」
『いえ 辺りにはいないようです』
地面の揺れで目を覚ましたって事はこっちでも地震があった?
でも場所が違うし どうなってんだろう?
俺が気が付いたら 見知らぬ場所にいたのと関係があるのか?
とりあえず 彼女? の危機は去ったようだ
さて どうした物か 彼女を帰したほうがいいのだろうが スマホから出られないってのは
俺にはさっぱりだ 分解でもすりゃ出れるのか?
なんて考え込んでいると・・・
『あのー? 如何なされました? ご主人様』
「んー 君をどうしたらスマホから出してあげられるのか それと君を家に帰す方法とか・・・
それと ご主人様ってのはやめてくれない? 俺は”町 弘樹” ヒロキでもヒロでもいいからさ」
『マチヒロキ様?えーと ではヒロキ様で』
「様ってのもやめてくれ」
『はぁ・・・ ではヒロキさんで』
「うん それでいいよ」
『えーと 私を帰すという話ですが とりあえず 私はヒロキさんについて行こうかと考えています。』
「え? なんで?」
『私がこの”すまほ” の中で目が覚めた時 この”すまほ”から いろんな情報が
私に流れてきて あなたがこの世界の人ではない事も知りました。
妖精として そんな方に助けられたのも 大妖精のお導きです 私が何か助けになれれば・・・と』
ふむ 確かに俺はここがどこかもわからないし 妖精なんて存在も落ちてくる前には
なかった事だ どこか人里を見つけない事には この先 手持ちの食料が
尽きたらそれまでだし しばらく頼りになるのは 今の所彼女だけだものなぁ・・・
・・・あれ? スマホからいろんな情報が流れ込み?・・・
「あのー 妖精さん」
『ヒロキさん 私の事はミナと呼んで下さい』
「じゃあ ミナ スマホから情報を得たと言ったけど・・・」
『はい ヒロキさんのいた場所についての事や 絵が一杯・・・えーと
いろんなご趣味があるようで・・・』
あー スマホに漫画やら小説やらもちろんエロい奴も入れてた やっぱり見られてた
親に見つかるとかってのはこんな感じだったか? つーか 見つかってそこから
親が出てこない状況なんて経験ないよ
あーでも スマホに入らない分は他にUSBメモリに入れてるか
うん 全部じゃない 全部じゃ・・・ orz
『ヒロキさん そのいろいろ衝撃を受けておられるのはわかりました 私も
こんな形で人の思いを知る事ははじめてですので その えーと・・・』
スマホをみると画面が真っ赤だ
彼女も恥ずかしいらしい
はぁ こんなふうに恥ずかしがっていても始まらないし移動するか
俺はラジオを片付け荷物をバイクに取り付けているバックにしまいこんだ
スマホをどうしようかと考えて 走行中に電話が掛かってくる場合用のイヤホンケーブルを刺して
ヘルメットに内蔵しているスピーカー&マイクに接続してヘルメットをかぶってみた
「ミナ 何か喋ってみてくれるか?」
『はい? えーと喋ればいいのですか?』
ヘルメットに内蔵したスピーカーから声が聞こえた
「よし これで問題ないみたいだ」
そしてスマホを何処にしまうかで考える
スマホにはフロントカメラと背面のリヤカメラがついているのだけど
彼女を懐にしまい込むと見えないのではないか?
スマホの正面をみつつ 遠くの景色にリヤカメラを向ける
「今、君には俺と反対側の景色が見えているの?」
『えぇ そうですよ?』
フロントカメラを塞いでみる
「今、俺の顔は見えてる?」
『いいえ』
今度は両方のカメラを手で塞ぐ
「これだと何も見えない?」
『はい』
彼女はカメラで視覚情報を得ているようだ
と、なると バイクを懐にしまいこむと彼女は何も見えなくなる
案内頼むのに見えないのは意味がない
しばし考え スマホにあうサイズのネオプレーン製のケースがあったのを思い出し
前後のカメラのあたる部分に穴をあけて ケースをバックパックの肩紐に
固定する 正面に見えたほうがいいだろうから フロントカメラを
進行方向に向ける
まだバッテリーが満充電でないのも気になってバイクからUSBケーブルを
スマホに接続しておく
「これで俺の前が見えるよね?」
『ええ問題ないですよ』
これで案内は問題なさそうだ。
俺はバイクのエンジンを掛けた
エンジンは調子よく始動し 静かなこの場所に 俺にとっては心地よい
排気音を流し始める
「俺の声聞こえる?」
『はい聞こえますよ』
問題なさそうだ
「これでも聞こえるか?」
アクセルを煽って エンジンを空ぶかししながら 俺は喋ってみる
『凄い音ですが ヒロキさんの声は聞こえますよ』
俺はミナとのやり取りに問題ないのを確認してエンジンを止める
「俺は乗っているのはバイクっていう乗り物だ 移動手段だよ
スマホからの情報ってのはそのへんまでは無かったのか?」
『えぇ ありませんでした』
もしかしたら スマホの中のコミック、小説とかメールとかメモリに入っている
情報しか彼女にはわからないのかもしれない
「とりあえず 人里で近いのはどの位の距離になるかわかる?」
『カト村 というのが一番近いですね 距離は えーと 徒歩で3日位でしょうか?』
徒歩で3日 1日40Kmとして120kmか 道があれば 安全に行くとして
平均時速30Km程で4時間位か
他に気になる事もある
「この辺って安全・・・じゃあないよな? 妖精喰いとかってのもいるんだっけ?
俺 武器とか持ってないんだけど 何か用意したほうがいいのかな?」
『”妖精喰い”は人には大した害になりません 妖精である私たちには天敵ですけどね
安全かといわれると この辺りでは マッドラット ライドッグ とかでしょうか
武器はあった方がいいです ヒロキさんは戦士なのですか?』
「いや 残念ながら戦士じゃないよ 武器になりそうな物はいくつかあるけど
バイクに乗りながら武器なんて持った事も振った事ないな」
昔 バイクに乗りながら鉄パイプを振り回すアニメを思い出した
現実じゃ 暴走族はともかく 俺は経験がない あってたまるか!
『困りましたね マッドラッドはともかくライドッグは人より足は速いですし』
「バイクより速いのかな?」
『そういえば いま乗っている”ばいく”というのは移動手段なのでしたね 馬より
速いのでしょうか?』
「ちょっと走ってみて判断してもらったほうが早いかもしれないな」
俺は荷物から鉈を取り出し ベルトに通して腰に下げてから
バイクで軽く走ってみる事にする。
鉈の他に鉞もナイフもある
山の中でキャンプしたりする場合 下草やら低木を処理して場所を
確保したり 倒木なんか鉞で薪にするのに使える
森にはまだちょっと距離がある 周りは低木と草で見通しも悪くない
エンジンを掛け地形を見ながら走り出した
道ではないが 特にすべるわけでもなさそうだ 加速してみる。
『結構速いですね』
「もっと速く走る事も出来るよ 道があればだけどね」
植物に隠れて窪みとかに気が付かないであっさり転んでしまう できれば
地面が見える道がいい
『それなら ライドッグからでも逃げられると思います』
「よし、とりあえず カト村だっけ? そこへ行こう 人が歩けるような道に出たい 案内できるか?」
『判りました このまま走って森が切れた所で 左へ しばらくすれば道に出ますよ』
「おっけ それでいこう」
道もない草原のような場所を30分程走ると森が林へそして木々がまばらになる
辺りで左方向へ進む
草原のような場所から 木々の間を抜けていく
道ではないが 獣道のような場所に入る。
所々木の根こそ地面から張り出しているが 軽くフロントタイヤを浮かせて体重移動で超えて行く
しばらくして森から草原のような場所に入り 道をみつけた
轍があるが 草も生えていて そんなに頻繁に人通りがあるわけでもないようだが
バイクなら問題なく走れそうだ。
「この道がミナが言ってた道かい?」
『えぇ 左が森へ 右が村へ行く道です』
「森へ様子を見に行かなくてもいいの?」
『えぇ 大丈夫ですよ』
彼女がいいのであれば 村へ行こう 行ってどうにかなるかは兎も角だけど。