序章
「ここはどこなんだ?」
気がつくと 小さな火山岩で一杯のなだらかな斜面に俺は居た
にたような場所だと富士登山駅伝の名所”大砂走”みたいな感じで
火山灰と火山礫のミックスされた なだらかな場所で俺は気が付いた・・・
旅をしたくなった それもバイクで・・・
以前からやりたかった 日本中できるだけ
林道を走り継いで半分山篭りみたいな旅でもしようかと
サバイバルでもできるような大荷物をバイクに積んで・・・!?
「俺のバイクはどこだ!?」
とりあえず 周りを見渡すと ちょっと登ったあたりにバイクが刺さってた
そう 刺さってる 地面に どっかの探偵小説の墓の村な感じで
とにかく俺はバイクの所まで登る 足元が火山灰で沈み歩きづらい
なんとかついて 刺さったバイクを1m位掘り出すのには手を焼いた
折りたたみのスコップがあったからなんとかなったのだけど
腕時計を見ると まだ3時前
ここ2~3日 富士山周辺の林道を走ってはいたが
ここが富士山の大砂走ないし 似た場所の 砂払いは
大砂走が御殿場口の下り 砂払いが須走り口の下りにある場所だ
そもそも バイクでこんな場所走るつもりは無いし
ここで気が付くまでいたのは愛鷹山あたりを走ってたハズだ
バイクの状態は刺さっていたわりにはなんともない
火山灰だったからだろうか でも どこからここへ??
もっと上から滑り落ちたのかと思ったが
バイクの跡は刺さっていたこの位置で 俺がここから転がって下まで
転がった跡しかない
気が付く前の記憶は・・・ あぁ 土砂崩れだよ
俺は愛鷹林道から一般道へ戻り 給油と昼飯すませ 富士愛鷹線へ入って十里木方面へ走ってた
そして昼前に飯休憩を取って 出発しようかと荷物をまとめた時だった・・・
「ウーッ ワン!」 突然 離れた場所から 犬の吠える声が聞こえた
野犬 それも 一匹ではなく5,6匹はいるその集団は
こんな山の中で遭遇する危険生物では結構ヤバイ奴だ
「マジかよ・・・」
即座にバックパックを背負い直し ヘルメットを被り エンジンを掛ける
アクセルを開けて急発進
だが 犬は勢いそのまま加速するバイクの横へ追いついてくる
集団の野生生物の顔を横目に見つつ スキーブーツより革製だけあって
ガチガチではないものかなり頑丈なオフロードブーツで手近な犬の
顔を蹴り掛ける
多少なりとも怯んだ奴らをさらに加速して引き離す
「あぶねー! こんな所でいきなりGameoverするかと思った」
だが 犬は多少離れつつもまだあきらめない
ここは林道 ジャリ道だ 道もまっすぐじゃないし 出せる速度にも
限界がある 対して 犬は犬種にもよるが 時速60km以上出せるのもいたハズだ
カーブで減速する度 鳴き声は近くなる
と その時 鳴き声がやむ
「やっとあきらめたか 助かった」 と呟く次の瞬間 前方の山側から石が落ちてくる
「!?」 ブレーキを掛ける ただブレーキを掛ければいいわけでなく
そんな事をすれば バイクは転んでどこへいくかも分からないから
左右へズルズル滑り出すリヤタイヤを体で押さえながら何とか止まる
「犬がまた来たりしないだろうな!?」
後ろを振り返りそこに居ない犬に安堵する
だが 次の瞬間 周りの木々が風で揺れるような いや揺れまくる音が
ザザーーーーっと始まり それは音だけでなく 体でも感じ始めた
「地震!?」 立っていても いやバイクに乗っていてもわかる揺れが
体を揺らす 思わず身構えるが 揺れは次第に収まり 何事もなかったように
木々は静寂を・・・・・戻さなかった
突然地面が凹み そのまま谷側へ滑り込む アクセルを開けて道なりに
逃げようとするが フロントタイヤから滑るように谷側へ降りる格好になり
迫る木々をなんとか避けたつもりが ハンドルの端が木にあたり
タイヤは横を向く
よくわからんがこれが最後の記憶なんだが
その場所と現在地が結びつかない
「とにかく場所は何処なのか調べないと・・・」
スマホのマップ機能を呼び出してみたが 現在地の捕捉が出来ない
見た目には壊れてなさそうだけど どっか壊れちゃったのか
GPS衛星をいくつ捕捉できているかの診断ソフトを呼び出すが
まったく捕捉できない 空は曇天ではあるけど それで捕捉できないようなもんじゃない
アンテナ表示は圏外 まぁ ここが富士山の麓だろうが気を失う前の林道内でも
圏外の可能性はあるからこっちは不思議ではないが・・・
「俺 遭難なう」とか呟いてみたかったんだけどな
あらためて回りを確認する 今いる場所から目視で2~3Kmは火山灰の
なだらかな斜面ではあるが 所々緑色が見える その先は森があるようだ
とにかく下山して水場でも見つけたい・・・
エアクリーナーに火山灰でも入り込んでいたら
エンジン掛かっても壊れる可能性があるので エアクリーナーを開けて
火山灰が入っていないか確認してエンジンを掛けてみる
あっさり始動した・・・
問題はここからだ なだらかでも下りを走るとハンドルを取られたら
転倒してそのまま転がって大怪我したら目も当てられない
ハンドルを真っ直ぐにして ソロソロと走り出す フカフカの砂浜よりも
発進するのも気を使う程だ とにかく途中の所々にある草の生えてる場所
を中継地点にする感じで走り出す
草が生えていれば そこだけは 多少フカフカなのも草の根で納まるハズだし。
そんなこんなで1時間程で火山灰の斜面から草や低木の斜面へと下りてきた
もうちょっと先は森なのだが 時間はもう午後4時を過ぎてしまった
道がないのでこれ以上は草や木で地面が見えない場所にある窪みなんかに
引っかかって危険が危ないという奴だ
斜面ではあるが 草の生えてる比較的平な所でキャンプを張る事にした
携帯食料をかじりながら持ち物を確認する
林道を走りついでキャンプツーリングするつもりだった俺の荷物は
かなりの量がある 車が入ってこれないような林道も走るつもりだったので
パンク修理キットだけでなく もし万が一 林道から滑り落ちても
窪地にバイクが落ちた時用に ロープや滑車なんて物まである
林道=山であり 運が悪けりゃ遭難という状態も考えて
キャンプ用の炊事道具と別に携帯食料等 すぐに口に入れてエネルギーに
出来るものも入れていたりする
ちゃんとした食事を取ることも考えたが 現在位置もわからない遭難なうなので
携帯食料を選ぶ 水筒の水を固形燃料で沸かしコーヒーを入て一息
おもむろに荷物の中から 携帯ラジオを取り出し電源を入れる
災害用の手回し発電可能なライトやサイレンまでついてる奴だ
ハンドルを回し5分程充電してラジオのスイッチを入れる
何も入らない AMならそこらじゅうの雑音を拾うハズなのに
試しにバイクのエンジンを掛けると プラグの点火ノイズが
ラジオに入った ラジオは壊れていない?
土砂崩れに遭う前 地震があった 木々が揺れるだけでなく
体で体感できる程となると体感的には最低でも震度4以上
情報が無いからあそこが震源地じゃない可能性を考えると・・・
「東海地震」 子供の頃から散々脅されていた奴が来たのかもしれないな
今年で28になる俺がこの”山篭りツーリング”に出たのは地震が切欠だ
勤めていた建設会社の社長夫妻が海外旅行先で大地震で被災
行方不明となってしまった為に 残りの従業員ですでに受けていた仕事を
必死に片付けて 夫妻の帰還を待ったのだが そのまま半年経ってしまう
会社としても 社長が行方不明のままでは存続できるはずもなく
社長の親戚と相談の結果 それまで受けてしまっていた仕事を片付けて
得た金に会社の機材などを売り払った金で 残った社員の
退職金と社長夫妻の葬式代とした
同業他社からの助けもあり 残った社員の就職先も見つかった
ただ 俺はなんというか 仕事に対する意欲を失い 再就職する気にもなれず
気分転換に林道ツーリングする事にした
したのだが 早々地震が原因でこんな事になっているかと思うと・・・
次の日
俺は早朝に目を覚ました
さすがに昨日は色々ありすぎて 疲れていたのもあって
普段よりはだいぶ早めに寝たのだった・・・
「寒ぃ・・・」
季節は7月 山の麓とはいえ あたりは薄く霧が掛かっている上に
日が上がりきらないのでかなり暗い
腕時計のライトをつけて時刻を確認すると5時前だった
朝飯の用意をする前にテントに付いた露を拭き バイクの上にかけて
干しておく それから 朝飯の準備をはじめる。
温かい物が食べたくなる位に寒いので ガソリンコンロに火を点ける
荷物の中からインスタントラーメンとペットボトルの水を取り出して
水は節約も兼ねて少なめの400cc程を鍋に入れる
ドライソーセージを薄く切って鍋に落として沸騰したらラーメンを入れて
乾燥ネギをパラパラと落とした所でコンロの火をけしてしばし待つ
ラーメンが柔らかくなった所で スープの素を入れたらフォークで混ぜて
「イタダキマス」と食事を始める
周りの草に食べられる物でもあれば入れたかったが知識にない草な上に
固そうで諦めた
それでも 寒いと感じる程の体には十分においしかった
鍋をティッシュペーパーで拭いて取りあえず洗ったつもりにして片付ける。
食事中に日も昇ったので テントが乾くまでスマホを見ると
電池切れで起動しない・・・ バイクに改造して取り付けたUSB充電ケーブルを
スマホに刺して充電する
試しにラジオをつけてみたが いつもならいらない程よく聞こえる
隣の某国の放送さえ聞こえない いくら地震が酷くてもまったく入らないのは
おかしい 知らない間に核戦争でもおきたのか?
まぁ それなら EMP効果でこのラジオも壊れているだろうし スマホも動かないはずだ。
バックパックに付けているキーホルダーのコンパスを確認する
一応 一定の方角を刺している まぁ 進むべき方角がわからないのだけど
なんて間にスマホも少しは充電できただろうと考えて
電源を入れてみる
起動画面に防水キャップがどうたらと いつもと同じ画面がでる
完全に壊れたわけじゃなさそうだ
だが待ち受け画面になった所でおかしな事にきづく
『はじめましてご主人様!』
スマホに挨拶された。