表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/32

聖魔殿堂 2(封印)

 

 聖魔殿堂――

 知識の求道者達である。その知識欲は光と闇にこだわらない。神の真理も、魔の叡智も等しく求道する。ゆえに、聖と魔の名が冠されたが、自らは殿堂と名乗る。

 知識を広めず、秘密主義を貫くが、時に人道と称して、わずかばかりの知識を開示する。

 そのわずかばかりの、おそらくは、殿堂が集めたであろう知識の、塵にも等しいひとかけらでもって、彼らは導師と呼ばれる。

 ヴォルドルーンでさえ、敬語を使った。

 何の真似です?――と。


「ズァイン――」


 ぞわり、とするような声で男が言った。

 ヴォルドルーンは無言で男を見据えた。

「貌色ひとつ変えないか。大した自制心だが。きさまが『それ』であるのは、その『封印』を見れば明らかだぞ」

 男は黄金の腕輪を指差した。

「十八年前、ナム・ヤーマが連れてきた赤子にも、同じような腕輪が嵌められていた」

 額に傷のある赤子であったな、と男が言う。

 ヴォルドルーンは何も言わなかった。

「――この腕輪はズァインを封じる『封印』なり」

 ナム・ヤーマの言葉だ――と男が続ける。

「――これがある限り、この赤子は人としての生を全うする。だから殺す必要は無い、と言っていたが、逆に滅却を命じられ、ナム・ヤーマはその場で赤子を殺害した」

「……」

 ヴォルドルーンは眉ひとつ動かさなかった。

「だが、それは虚構であった。全ての導師に赤子の死体を見せながら、崩れていく肉片を見せつけながら、その実、その腕に、赤子を抱いていたのだ」

 男の眼がヴォルドルーンを見る。

「結果、きさまはそこまで成長した。ズァインの血肉をそこまで肥大化させた。何の真似だ、と問うたな。殿堂は危険因子の存在を認めない。虚構は解かれ、きさまの存在はあばかれた。細胞の、かけらひとつ残さず滅却するのが殿堂の意志と知れ」

「ならば訊こう」

 ヴォルドルーンは言った。

 その声に、動揺の響きはかけらも無い。

「何だ?」

「なぜチャナを狙った」

 最初の攻撃は、チャナに対してされたのだ。ヴォルドルーンにではなく。

 それこそ、何の真似だ――だ。

「女は種を宿すのでな」

 口を、笑いの形に開けて男は言った。

「可能性は潰しておいた方がよいであろう?」

「チャナ。下がっていろ」

 左腕でチャナの背中を抱いていたが、軽く身体から離した。

「……穴があいた」

 チャナが口を開いた。

「――あな?」

 チャナがスカートを持ち上げる。そこに石礫が貫通した痕があった。

「穴があいた。穴があいた。穴があいた――」

 三つ編みが揺れた。

「待て。変身するな――」

 布の裂ける音が響いた。

 細長い首を鳥のように曲げて、チャナが背中を見やる。

 背中から尾の付け根まで、それまで着ていた服が裂けていた。

 頭に生えた幾つもの角が激しく動いた。水晶玉のような眼が男に向く。

 四肢が地面を蹴った。しなやかに伸びる白い身体。

 男の前で、チャナは身体をひねった。男に背中を向ける。遠心力を得た長い尾が鞭のように男を襲う。男の身体を水平に薙いだ。音はしない。残像だった。

 水晶玉のような眼に男の手が映る。

 ぱあん、と破裂するような音が響いた。ぶつかり合った力が弾け、無数の鎌鼬を生んだ。空気が裂け、地面に小さな亀裂が幾つも走る。

 チャナが閉じていた眼を開いた。その眼の前で、男の手を受け止めたのは、ヴォルドルーンの手だった。黄金の腕輪が光を放っている。

「狙いはおれのはずだ」

 右眼を細め、ヴォルドルーンは言った。左眼は閉じたままだ。

 男が、口だけで笑う。

「女も、と言ったであろう。――が、これは女か?」

 男の眼がチャナを見下ろす。

「これなら、あの女の方が可能性が高いか」

「あの女?」

「子供の母親に執心していたであろう?」

「……下衆の勘繰りだな」

「そうか? 初めて表情が動いたぞ。念のためあれも始末しておく――」

 ひゅ、と腕を振ると、男の身体が離れた。

 ムササビのように舞い、着地すると同時に、男の周囲で石畳が宙に浮いた。

 蟷螂のような眼が、剃刀のように尖った光を放っている。

 石畳が砕け、鋭利な石のナイフと化した。

 ぃぃぃぃぃん――と音をたて、ヴォルドルーンに迫る。

 黄金の腕輪が光を放ち、光に触れたナイフが弾かれたように跳ね返った。

 ヴォルドルーンの身体にはひとつとして到達しない。

 だが、男は嘲笑した。

「なるほど。防御にしか使えんと見える。ならば――」

 細長い指でヴォルドルーンを指した。

「その『封印』ごと滅却してくれよう」

 ヴォルドルーンは右腕を前に差し出した。

 光を帯びた腕輪が、細い稲妻を吐き出している。

「聖魔殿堂最高導師の『封印』――」

 黄金の髪が揺れる。金色の眼を光らせて、ヴォルドルーンは口を開いた。


 破れるものなら破ってみるがいい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ