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キミにコイをした。  作者: なち
彩日十題
49/52

三回目の喧嘩で学んだこと



 お互い、移動教室だった。

 廊下ですれ違った時、理子はちらりともこちらを見ずに、完全無視だった。


「また喧嘩したの?」

 一緒に移動した陸上部が興味津々で聞いてくるのを、「放っとけ」と言っていなすけど、それでは肯定しているようなものだ。

 仲間内だけで無く『また』といわれる程度に、俺と理子は喧嘩が多い、のだと思う。大体しょうもない事で、俺が暴言を吐き、理子が拗ねるというパターン。

 ――理子は、拗ねる。

 大人びた容姿や性格からはそんな風に見受けられないのだが。

 三回目の喧嘩でそうと分かった時、何時までもそっぽを向いている理子に苛立ちながらも不覚にも可愛いと思ってしまった。

 だが、拗ねる、というのは以外に厄介だ。

 今回の――喧嘩と言っていいのかも分からないが――喧嘩は、俺が原因とは言え、不可抗力。先日俺のマンションに泊まっていった理子を抱きしめて眠りながら、俺は寝言でこう言ったらしい。

「理子、太り過ぎ」

 ――全く記憶に無いし、実際理子を太った等と思った事は無い。ただその日受験のストレスで暴食し二キロ太ったという事を愚痴られ、慰めたばかりだった。むしろ後数キロ太れ、なんて事を言った矢先の、この寝言。

 そんな事思っていない、と弁明したものの、

「寝言って深層心理の表れとか言うよね」

 と冷ややかな視線を向けられ、その日から不機嫌が続いているというわけである。

 しょうも無さ過ぎて誰にも話していないのだが、

「さっさと謝っちまえよ」

と、明らかに俺が悪いと非難されるのは、どうなんだ。

「うるせぇ」

 先を歩く陸上部に蹴りを入れながら、大袈裟に悲鳴を上げるそいつを追い抜いてため息をつく。

 謝ってすまないから、厄介だ。理子は怒っているのではなく拗ねているので、謝ってどう、という問題ではない。理子が自分の中で消化出来るまで、俺に出来る事と言ったらご機嫌伺いくらいのものだ。

 放置し過ぎず、構い過ぎずの兼ね合いが難しい。

 そんな所が面倒だと正直思う事もあるが、彼女をよく知る羽田に言わせると、普段姉御肌で通している理子が俺にだけは甘えている、という事らしく――そう聞けば、誇らしくもあるのが真実で。

 そんな事が理由で嫌いになるだとか別れる、という気は沸いてもこない。

 ただ憂鬱になるのは、何時まで理子を抱けないんだろうな、とかそんな事を考えてしまうからだったりする。県内の大学への進学が確実な理子と、県外の大学への進学が決まっている俺。卒業しちまえば、会う機会が格段に減る。その分今側にいる間は、出来れば毎日抱いていたいんだ、とか。

 これも言えば呆れられるだろうから、誰にも言えない。


 冬になり、卒業を数ヵ月後に控えた今。


 付き合う前は考えもしなかった事が頭を過ぎる。


「喧嘩なんてしてる場合じゃねぇんだけどな」

 独り言のつもりで呟いた言葉は、いつの間にかまた隣に並んでいた陸上部に突っ込まれる。

「だから謝っちまえって」

 何とも簡単に、軽く。笑い混じりに。

 今度は拳を振り上げれば、

「暴力反対ー!」

と頭を庇いながら、走っていく。踵を踏み潰した上履きの音をぺたぺた鳴らしながら、お調子者が去っていく。


 同じ様なことを何度も何度も繰り返し。

 そんな事をしている間にも、日々は過ぎていく。


 伝えたい言葉を置き去りに。





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