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キミにコイをした。  作者: なち
彩日十題
47/52

記念日には花束をよろしく 前編



 健と付き合ってからの日々はあっという間。

 受験生、という自覚もあったし、部活と勉強でほとんど何事もなく過ごした。元々どこどこへデートしたい、という願望が無いから、特別な事など無い家デート――それもごはんだけ、みたいな内容でも私は一向に構わなかった。

 コンビニでお菓子や、スーパーで食材の買出し、みたいなものでも全然オッケー。バレンタインデーとホワイトデーにちょろっと街へ映画を見に行ったくらいだけど、問題ない。

 要は、健と一緒に居られればいいのだ。

 だから巷で三ヶ月記念デートだとか半年記念デートだとか、誕生日デートだとか、プレゼントだとか、と話題になっても、完全に他人事だった。バイトをしているわけでも無いし自由になるお小遣いは少ないから、しょうがない、というのもあったけれど。

 真知子なんかは「そういう盛り上がるイベントが無いと、彼に飽きちゃうもん」なんて飄々と言ってのけて、貰ったばかりの誕生日プレゼントであったピアスを耳に光らせていた。

「そろそろアンタらも一年経つんだね」

と感慨深げに言うのは、羽田。放課後のマクドナルドは同じ様な高校生で賑わっている。止まる事なくLサイズのポテトを咀嚼し続ける羽田に、菜穂が嬉しそうに頷いている。

「良かったねぇ」

なんて、まるで自分の事のように。そういう菜穂だってもう二ヶ月もすれば、佐久間くんとの付き合いが三年に突入する。

 何となく窓の外に目をやれば、窓には雨粒がへばり付いている。梅雨の時期は毎年くるものだけれど、去年は自分の気分とシンクロさせて憂鬱に思ったものだった。

「高橋は覚えてなさそうだよね」

 真知子は、鏡を片手に切り揃えた前髪を捩りながら。彼女の彼氏は健と付き合ってからの一年弱で三人も変った。今はどこかの大学祭で知り合った大学生と付き合っていて、彼女の持ち物はその彼のプレゼントがほとんどになっていた。

「つーか、そんな感覚持ち合わせてないだろ。四月の理子の誕生日だって、「誕生日デートどうすんの?」って聞いたら、「そんなめでてぇ日でもねぇだろ」って、何処の枯れたおっさんだよって話だし」

「そういう羽田の彼氏は、色々計画立ててくれそうだよね」

 羽田の悪態は確かに、と同意してしまうものだったのであえて反応せず、矛先を変える。

「まあ、ウチのはマメだからね」

 彼氏の存在がバレてからの羽田は、聞けば結構何でも応えてくれる。口調は殺伐としているけれど、彼の事を話す時の羽田の瞳は、優しい。

「梓の彼氏、車も持ってるしね! いいなぁ、学校とかに迎えに来たりしてくんないの?」

「アイツは来たがるけど、ヤだよそんなん。来たら一生口聞かねぇって言ったら、本気にしてくれたから助かるけど」

「ベンツでお迎えは目立つしね」

 大樹さんは一生口聞かないなんて無理な話を本気にしてはいないだろうけど、一度見た限りの彼の態度では、梓の嫌がる事は絶対しないだろうな、とは思える。

「やっぱ車いいなー。マチの彼も車買ってくれないかなぁ」

「真知ちゃん、車乗りたいの?」

「っていうか、やっぱ車ある人って格好良いじゃない? あーでも、車持ってる社会人の彼の方がいいかなぁ」

「また勝手言ってやがる」

「スーツの彼とか、ときめくじゃん!!」

「大体出会いがないだろ」

「そこは梓に紹介してもらって!!」

「ヤだよ」

 夢見る乙女モードに入って妄想に耽る真知子を呆れ顔で見つめながら、健との付き合いももう一年が経過するんだ、としみじみ思う。思えば自分たちはもう高校三年生で、来年の今頃には、受験に成功すれば大学生になっている。

 その頃には羽田は日本にいない。

 菜穂とも、真知子とも、別の大学に通うことになるのだ。

 健の事を考えていた筈なのに、何時の間にかかけがえの無い友人となった彼女達を見ていると、その別れの方が脳裏に過ぎる。

「でも、こんな風にしてられるのも、あと少しなんだよね……」

 卒業の前に受験勉強に負われる日々が始まるのだし。こんな風に馬鹿な話に夢中になれる時間は少ない筈だ。

 感慨深げに私が呟くと、真知子はみるみる顔を歪める。

「やーめーてー。受験生だって事を思い出させないでー」

「逃避するなよ。特にアンタは判定悪いんだからさ」

「もう短大やめて、専門にしようかなぁ」

「まだ迷ってるのかよ」

「どうせみんなみたいに、ちゃんとした将来設計がありませんよーだっ」

「私だってそうだよ。とりあえず大学いっとこ、みたいな感じだし」

「理子みたいに頭良くないから、そういうのも無理」

「日頃から勉強してないからだろ」

 羽田はアメリカの大学へ。菜穂はいずれ実家を継いで医者になる佐久間君のお嫁さん――になる為に、看護学校へ進学予定。佐久間君は医大で、高塚君はサッカーチームに、健はバスケットの名門大学へ推薦予定だし、日向君も大学進学、私も偶然に、というか文系同士なので近場で、と考えると当然のように、日向君と同じ地元の大学を受験予定だ。明確にどこ、と決まっていないのは真知子だけで、真知子は東京に行きたいというだけの理由で、成績に合った所を探している。先日ついにデザイン系の専門学校と短大への二択に絞り、短大を目標にした所だった。

 私も真知子と似たり寄ったり、というより、それより悪いかもしれない。大学に行ければどこでもいいのだから、それなら近いに越した事は無い。一人暮らしをする気など毛頭ない私の進学先、となるのは一校しか考えもつかなかっただけで、それは高校を決めた頃から考えていた進学先だった。

 でも実は、健と付き合うようになって一度だけ迷いはしたのだ。健が進学先に考えていた大学は、地元からは遠い。新幹線を利用しないとならないのだから、実家からは通えない。という事は用意されている寮で暮らすか、一人暮らしをするしかない。

 追いかけようか、と考えもした。

 でも一学年の頃から進学先の決定していた自分の考えは、教師も、友人も、親も知っていた。それを健の為に変更するなんて、気恥ずかしくて出来なかった。

 ――意気地も無かった。

 どうせバスケット漬けの健だ。近くに居ても遠くに居ても、変らないだろう。

 大学生になった自分たちを、その付き合いを想像すら出来なかいのだから、その時の不安や寂しさなんて漠然とし過ぎていた。

 遠距離恋愛になる事は分かりきっていたけれど、それが何だというのか。そう思えていた間は良かった。

 でも何となくそれが現実的になった今だって、進学先を変える勇気は私には無いのだ。

 そんな私の心中を言い当てるかのように、菜穂が口を開く。

「でも、理子ちゃんは本当に良いの?」

 調度自問自答している所だったので菜穂の発言に合点がいってしまった私とは違って、羽田と真知子はきょとんとした顔。

「良いって?」

「何が?」

 既に別の話に夢中になっていた二人には、分からないのだろう。

「高橋君との事。離れちゃうでしょう?」

「ああ、」

 そういう菜穂も佐久間君とは進学先が違うけれど、同県の学校を選んだ二人は同棲を画策している。菜穂の成績が危ういという事はあるけれど、私たちとは随分事情が違う。

 最近、そんな風に揺るがない二人が羨ましくなる事がある。

「別に、離れるのは仕方がないし。良いよ」

「高橋に「ついてこい」とか言われなかったの?」

 私が素っ気無く答えれば、興味津々、真知子が身を乗り出す。

 何だそりゃ。

「言われないよ。大体健のキャラでも無い」

「でも、理子は文系ってだけの選択肢なんだし、ついていくのもアリじゃない?」

「無いよ」

 苦笑。もう、それだけしか出来ない。ここで冗談でも「そうだね」と返せないのが、私の敗因だろうか。

「でも、遠距離恋愛って別れる率高いって言うでしょう?」

「まあ、そうは言うけど。お互いの進路なんて、とうの昔から知ってる事だし。あっちも気にしてないし、どうにかなるんじゃない?」

 他人事風に言ってしまえば、

「別れちゃうの?」

 なんて、菜穂が泣きそうに言うからまた苦笑。

「菜ー穂」

 心配してくれているのは分かるのだけれど、困ったように窘める羽田には感謝してしまう。

 私は進路を変えない。健も、その事に何も言わない。もし言ってくれたら、変更するかもしれない、とは思うのだ。だけれど健は何も言わないし、彼が進路を変えるなんて事は有り得ない。だから私も、余計頑なになってしまうのかもしれない。

 健は良く、ある一人の選手の話をする。その人は私達の三つ上で、高校生の頃からバスケット界では有名選手で、大学生の今もスター選手だ。その彼の通う大学が、健の行きたい大学だ――というのは、友人時代から、本人が言っていた。健がストレートで入学しても、四年生になる彼とは一年しか一緒にプレイ出来ない。でも、それでいいのだという。大学時代に彼の技術を盗むだけ盗んで、その後、恐らく実業団に入る彼とは、別のチームで戦いたい。ポジションもプレースタイルも似たその人と、何年も同じチームでポジションの奪い合いがしたいわけではない。そんな風に明確な未来予想図を語ってきた健は、私と付き合いだしてもその考えを覆さない。

 健の大学選択に、私との付き合いは考慮されない。

 なのに私だけが、自分の大学選びにそれを持ち込むのは――悔しい。

「別れる気なんて、ないよ。あっちもそうだと、思うけど……でも、どっちにしろ、あっちはバスケットに忙しいじゃない? 同じ大学に入っても、近くにしても――一緒に居る時間がそうあるとは思えない。寮に入ったら殊更だし、」

「じゃあ、理子ちゃん達も同棲しちゃえばいいじゃない!!」

「一緒に生活するなんて、考えた事ない」

 名案だ、と言いたげな菜穂にはすぐに返事が出来る。それは本当に、想像もつかないし、考えた事もない。

「今も同じようなもんじゃん」

 羽田の鋭い突っ込み。

 お互いの家を頻繁に行き来して、夕食を作ったり、時々掃除や洗濯もしてみたり。言われればその通り、かもしれないけども。

「……無理」

 頭の中で同棲生活を思い浮かべても、そんな可能性が浮かびもしない。

「何ていうのかな。別れる気なんて毛頭ないんだけど、でも、私の想像力が足りないせいかもしれないけど――なんか、そういうのって健との付き合いに結びつかないっていうか。羽田とか菜穂みたいに、例えば健と結婚するとか――そういうの想像も出来ない」

「マチも、結婚って想像できない! 今の彼氏と結婚って有り得ないし!!」

「真知と菅野を一緒にするなよ」

「この先もずーっと付き合ってたら、わかんないよ。マチだって!!」

「そうそう。先の話、先の話」

「……でも、全然会えなくなっちゃう」

 まだ不満げに唇を突き出す菜穂を微笑ましく見つめながら、そういう事も全然想像できないんだよ、と私は心中で呟くに留める。

 佐久間君と一緒にいたい、役に立ちたい、という理由で、血が苦手なくせに看護師になろうと思い、彼との未来を設計出来る菜穂とは、私は違うのだろう。

「人の心配より、自分の成績の心配をしなさい。浪人しても一緒に暮らそう、なんて言ってくれる優しい彼氏でも、その内愛想尽かされちゃうかもよ?」

「新ちゃんはそんな人じゃないもん!!」

 でも成績はどうにかしなさいね、と菜穂をからかうだけからかって、私達は店を出た。





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