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キミにコイをした。  作者: なち
彩日十題
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お手上げです、きみには敵いません 後編



 理子の腕が、しっかりと俺の首に絡みついていた。

 ふわり、冷たい髪の毛の感触が顎に辺り、奇妙に火照った身体を急速に醒ましていく気がした。冷静になった頭で考えるのは、玄関先で何をやっているんだろう、って事。

 玄関でのキスは二度目だ、と――回数ではたったの三回目だが、不意打ちで奪った二回目のキスを思い出して、笑えた。

 俺にはどうやら、ロマンの欠片も無いらしい。

 喉で微かに笑みがくぐもった。近くに居た理子には聞こえてしまったのだろう、少し身を離した理子が怪訝そうな顔で俺を見上げている。

 唇についていたリップグロスは全て舐め取ってしまった。今は二人の唾液で湿った唇が、微かな外の明かりで光っている。仄かに開いたそれに誘われるようにして、俺はまた唇を押し付ける。

 吸い寄せられるっていう表現が正しいのだろう。

 考えるよりも早く、俺の舌は理子の口内を荒らす。

 何時までだってそうしていたいけれど、身体に篭った熱は上昇を続け、欲望は頭をもたげ始めている。

 小さな声を漏らす理子を胸に抱きしめながらも、俺は何とか唇を離した。

「……上がれよ」

 促せば理子は素直にブーツを脱ぎ出す。紐の緩いスニーカーの俺と違って、理子のそれはひどく脱ぎ辛そうで、悴んだ指のせいなのか遅々として進まないように見える動きに、舌打ちが漏れそうになる。靴なんてそのままで、部屋に抱えていってしまいたい。

 ――それはがっつき過ぎか。

 理子の動きを目で追っていると、自然に理子の身体のラインを這い出す。思考が怪しくなってきた所で、俺は理子に背を向けた。

「先行って、部屋温めてるから」

 返事を待たずに最奥の自室へ向かって、言った通り暖房を入れる。部屋の中から理子を窺えば、理子は調度片足を脱ぎ終わった所だ。

 俺はダウンを脱ぎながらチェストの一番上の引き出しを開ける。畳んでいれられた下着の中に無造作に手を突っ込めば、布とは違う感触に行き着く。俺はそれを取り出すと、廊下に神経を注ぎつつも買ったままになっていたパッケージを剥がす。

 買ったのは先月で、その時は使う機会があるのだろうか、と疑問にも思ったのだが。

 迷った上で二つ程、小袋を枕の下に隠し、起きた時のままだったベッドを申し訳程度に整えてみる。

 まあ、何ていうか……逸り過ぎていて、滑稽にも感じるけれど。

 とりあえずのセッティングを終えて満足そうに腕を組んだ所に、理子がやって来た。理子も脱いだコートを腕に抱えて、おずおずと室内に入って来た。

 制服以外ではパンツ系のボトムを好む理子のスカート姿というのは、滅多に拝めない。首周りが大きく開いたピンクのニットワンピースには、中央にボタン代わりに黒いリボンが三つ。首からはパールのネックレスをかけていて、何ていうか可愛らしい雰囲気を持っている。

 鎖骨の窪みがくっきりと浮き出て、心なしか紅潮して見えるのは先程の名残なのか。

 物珍しそうに室内に目を走らせる理子を見て、そういえば自分の部屋に招待するのは初めてだったのだと思い出す。家には常に誰も居ないから、俺の家へ来る時はリビングで過ごしていたのだ。夕飯を食った後にテレビを見るか勉強をするかのコースだから、自室より広いリビングの方がよっぽど居心地がいい。

 理子のコートを受け取って俺のダウンと一緒にハンガーで壁にかけると、理子は「ありがとう」と呟いた。

「ん」

俺も短く返すだけ。

 奇妙な緊張感を保ったまま、理子を促してベッドに腰掛ける。

 そのまま気まずそうな理子の横顔を凝視してしまう。

 ――緊張の取り除き方なんて知らない。ただ、「何か飲むか」とか「音楽でもかける?」とか聞いてしまった瞬間に、タイミングを逸する事だけは分かっていた。その後にまた雰囲気を取り戻すスキルなんて俺には無い。

 だから。

「理子」

 感情を押し殺すような自分の声を聞きながら、理子の頬に指を這わす。身体ごと強引にこちらにむければ、身体を支える為の手が俺の太股に乗った。その頃には俺は理子の唇にキスを落としている。

 理子の頬を両手で包み込んで、深く深く、口内を漁る。厚みのある理子の舌を自分のそれと絡ませながら、片頬の手は首筋を伝い下り、もう片方の指先で理子の髪の毛を弄ぶ。どこに触れても、それが理子のものだと思うと、胸の内が歓喜に震える気がした。

 自分のものなのだ。

 甘い唇も、滑らかな肌も、細い指も、形の良い爪も、毛の一本まで全部。

 全部全部、余す所無く自分のものだ。

 今、この身体を味わう権利は自分にしかない。

 そこからはもう、理性なんて焼き切れて。


 密着した肌と、荒い息遣いと、理子の喘ぎ声。そして俺を包み込む中に、欲望の火は際限なくて。

 溺れる、っていうのはこういう事かと、絶頂を迎える瞬間に思った。


 ――お手上げだ。


 腕の中で小刻みに震える小さな身体を強く抱きしめて、思う。

 付き合いだした当初は、自分にどれだけの熱情があるのか、些か不安だった。

 理子に対する気持ちは確かだったけれど、その重さを量ったら、どうなのだろうと。好きという気持ちがどれ程のものなのか、分からなかった。

 でも今は身体の欲望以上に、理子という人間を求めている自分がいる。

 独占欲、ってのが、自分にも確かにあるのだ。

 理子を誰にも渡したくないという気持ち。

 理子が言ったように――隣にいるだけで、心が満たされる、幸福感。


 胸の中でまどろみかける理子の頭を撫でながら、その温もりを何よりも失いたくない、と。

 ガラにも無くそんな事を思った自分を、はっきりと自覚した。





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